第4章 ジャイアント・パンダー FINAL OPERATION
まさにスイッチを入れようとしたその時だった、室内に警報音が鳴り響く。
同時に室内の明かりが非常灯へと切り替わり、モニターにもご丁寧に「WARNING」の文字が表示される。
「何事だ?」
司令は驚きを口にする。
「別種の緊急事態ですね。 確認します。」
参謀もささくれ作戦実行を一時止めて端末を操作する。
「こ、これはっ!」
参謀の狼狽する声が室内に響く。
その声に反応し司令は参謀のもとへ駆け寄り、彼女の端末の画面を見る。
そこには「EMERGENCY」とタイトルが入ったメッセージが表示されている。
「全長約30メートルの隕石が急速接近中!?」
「そんな重要なことを、なんで今まで秘匿していたんだ?」
思わず声を上げた司令はそのまま、参謀に詰め寄る。
「いえ、秘匿はしていません。 しようもありませんでしたから。」
司令に気圧されたのか小声で反論する参謀。
「しばらく前から夜に明るい星が出現していましたので、夜空を見上げれば見ることが出来ていました。」
その言葉に司令は先程のモニター映像を思い出した。
確かにGの背景にひときわ明るい星が写っていた。
その時は惑星かどこかの一等星が見えているのかと思ったが、今にして思えばそれにしても明るすぎた。
「存在は隠していないにしても、何故事前に落下警報を出さなかったのだね。」
司令は幾分冷静さを取り戻していたが、まだ口調は厳しい。
その言葉に対し参謀が端末を操作し何かを確認する。 彼女にとっても今の状況がイレギュラーだったのだ。
「隕石の接近自体は以前から観測されており、注意深く監視がされていました。 ただこの隕石は、元々は地球に接近はしても衝突はしないコースで移動していました。」
「しかし、現に落下による緊急避難警報が出ているではないか。」
「はい。 数日前から急速に隕石が加速を始めたのです。」
「隕石が加速? 地球の引力などが関係しているのかね?」
「引力が関係していたなら計測できますが、明らかに不自然な加速をしています。」
そこから先について言いよどむ様に、一度黙る参謀だったが意を決して司令に告げる。
「まるで地球を狙い撃ちする為に、ズレた軌道を修正したかのように動いています。」
司令はにわかには信じられないと思うものの状況の不自然さは理解した。
「では、機構としての対策は? 数日前から確認されているなら何か避難誘導など準備しているのだろう?」
参謀へ確認するが、その声色はどこか「そう有って欲しい」と言う願望がにじみ出ていた。
「機構は衝突の可能性を確認した時点で、衛星軌道上を周回していた航宙機動戦艦に迎撃指示を出しました。」
「こ、う、ちゅ、う、き、ど、う、せ、ん、か、ん!?」
またまた知らない装備が出てきて困惑する司令。
「はい。 昨年建造されたばかりの航宙戦力です。」
「本来の目的は紛争地域への迅速な戦力展開のために用意されていましたが、今回のような大型隕石の到来を想定した装備も搭載しています。 その機動戦艦を隕石破壊のために派遣しました。」
「……改めてうちの組織が『平和を守るため』ではなく『平和を作ること』に執心していることが分かったよ。」
皮肉を込めて司令はつぶやき、「で、結果は?」と投げやり気味に聞く。 緊急避難警報が出るくらいだ結果は見えている。
「数時間前に消息を絶ちました。」
予想どおりとは言え、無力感に襲われた司令は力なく椅子に座り込む。
「……、では落下用地点はどこかね。 避難警報が出るくらいだから、この国の近郊だとは思うが。」
せめて隕石落下の被害を少しでも減らさなければ、それだけを思い司令は確認する。
「落下予想地点は前線司令部の有った基地の辺りです。」
参謀に言われて司令は自分たちの使命を思い出す。
あまりに唐突な自体に忘れてしまうのも仕方ないことだったが、職務怠慢と言われてしまう失態だが、ひとつ思い当たる。
「もしかしたら、パンダーはこの隕石の落着を知っていた?」
「司令。それは状況から想像した希望的観測でしかありません。」
どこか憐れむような口調で諭す参謀。
「いやいや、なにも今の状況だけの話ではないんだ参謀。」
どこか自信に満ちた声色に参謀も話を聞く姿勢を取る。
「そもそも、ヤツは大陸で出現した。 その後は東へと歩を進め海を渡り我が国へと侵入した。」
そこまで言うと司令は参謀に視線を送る。 なにか気がついたところは無いかと。
「はい。 大陸東部の広い平地を縦断した後、海底を歩いて来ました。」
「Gの食料が何か分からん。 いやまあ笹とかなのだろうとは思うがね。 だとしても自由に動き回れる大陸の平野を無視して、厳しい山々と狭い平野で構成されたこの地へと来た理由は何だ?」
司令の問いに参謀も言いよどむ。
「それにだ、我々は隕石の件で既にかなりの時間を浪費したが、ヤツはいまだに前線司令部周辺にいる。 その理由を君は答えられるかね?」
言われて参謀は言いよどむ。 不確定要素が多すぎて確定できない事を断言することは性格的に無理だったから。
「では、司令はこの状況でどうされるつもりですか?」
参謀は司令に指示を仰ぐ。 この場でできる精一杯の抵抗。
「そうだな。 我々に手札が少ない以上、『地球ささむけ作戦』を進めるしか無いだろう。」
力なく笑いながら司令は答える。
「だがな、最後まで抵抗はさせてもらう。 作戦実行のタイミングは自分に任せてくれ。」
一転し力強く言い切るその姿は何かが吹っ切れたのかもしれない。
「……かしこまりました。 では起動キーは両方とも持っていてください。」
参謀は自らが所持していた起動キーを両手に乗せて司令に差し出す。
司令は、一瞬だけ真正面から参謀の目を見ると、無言でキーを受け取った。
「さて、推移を見守るとしよう!」
起動スイッチの前に立ち、2つのキーを差し込むと司令はそのキーを握りながら吠えた。
世界は今、分水嶺に立たされているのだ。
隕石に滅ぼされるか、巨大なパンダを頂点に頂く新世界が始まるのか。
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