第9話 ウルフ狩り

 王都平原ははっきりいってかなり広い。

 ここが今も草原のままなのは一応としてウルフのテリトリーであることがあげられる。

 もちろん初心者冒険者が薬草採取をする城門の周りは別だ。

 人間の目が届かない距離までいくと、そこはウルフたちが集団で生活していて、普段はホーンラビットを狩っている。

 もちろん人間も襲うのだ。


「ということでウルフ狩りにいこう」

「はいですわ」

「ん」


 防御の魔道具も装備したし、剣もある。

 もちろん魔法を中心に使って接近戦はなるべく避けるが、革鎧だって着ている。


「それじゃ出発!」

「えいえいおーですわ」

「おーです」


 私のタウンハウスに集まった三人はいつもの東門に向かう。

 そこから出てしばらく、城門からも離れてきた。

 お城の壁自体はまだ見えているが、だいぶ小さく遠い。


「そろそろかな」

「気を付けてまいりましょう」

「大丈夫」


 三人で剣を構えつつ、周りを警戒する。

 ウルフに囲まれていないか定期的にサーチ魔法を飛ばして、まわりの魔力を探知する。


「もう少し先かな」

「ふむう、ですわ」

「ん」


 それは突然だった。


「ガルルルル」

「おっと、きたきたー」

「ガルル、ガルルルル」

「ファイアアロー」

「キャン」

「「ガルル、ガルルガルガルル」」


 一匹のウルフが出てきたのでファイアアローというファイアよりも矢ように鋭い形状の火を飛ばして一突きにした。

 しかしさらに二匹のウルフが出現して襲ってくる。


「アイスアロー」

「ストーンアロー」

「キャアン」

「ギャンッ」


 エメットの石矢魔法、ミアの氷矢魔法でそれぞれをブスリと攻撃する。

 あっという間に三匹のウルフを倒すことができた。


「あっけなかったですわね」

「あ、うん。まぁ私たち強いしね」


 エメットがなんでもなさそうにコメントをして私が答える。

 確かにウルフは牙を剥いて襲って来るので怖いのだけど、一直線に襲い掛かってくるので、冷静に先にアロー系魔法で突き刺せばだいたい倒せるのだ。


 ウルフの魔石は青くて少しだけ大きい。

 それから亡骸になったウルフは毛皮も使えるし肉も食べられる。


 この前のネックレス。十個分を売ったため、魔道具としては安値にしたものの、十分なお金になった。


「それで、これ。アイテムバッグ」

「おおぉおお。これが冒険者には必須というものですわね」

「便利」


 アイテムバッグに魔石を回収したウルフ三匹を放り込む。

 するとシュンと小さくなって袋の中に消えてしまう。

 重さも感じない。非常に不思議だ。

 このバッグはまだ容量が小さいもので、それほど入らないがそれでも普通のバッグ五個分ぐらいだろうか。

 けっこうなお値段ではあるが、何とか買えた。


「楽しい! お肉!」

「お肉ですわね」

「食べたい」

「だよねぇ」


 ふふっと笑って、再びウルフが襲ってくるまで周辺を歩き回る。

 そして今度は四匹のウルフが攻撃してきたので、三人で仕留める。

 それほど時間は掛からなかった。


「いったん戻ろう」

「はーい」

「ん」


 一度ギルドに戻って七匹のウルフを解体してもらう。


「全部解体して買い取りでいいわ。魔石は先に抜いてありますわ」

「わかりました。今回の実績でDランクへ昇格ですね」

「ありがとうござます」

「ありがとうですわ」

「ありがとう」


 三人ともがお礼を言って、ギルドカードを更新した。

 たしか最初はFランクだったのでEランクは飛ばされたことになる。

 Fというのは本当の本当に薬草採取だけをやっているような子のなるランクで、ウルフと互角に戦えるならDランクなのだった。


「鉄だよね」

「そうですわ。アイアンカードですわね」

「ん、鉄級冒険者」


 Fは木のカード、Eは銅、Dは鉄、Cは銀、Bは金、Aはプラチナ、そしてSはミスリルとなる。


「ミスリル級とか憧れちゃう」

「ですわね」

「ん、同上」


 誰がミスリル級とか知らないけどね。

 噂では今ここオーバル王国のミスリル級はただ一人。


「なんだっけ、ブラッドおじいちゃんだっけ」

「ブラッド卿ですわ」

「強い」

「あれ、ミア知ってるの?」

「ん、去年会った」

「そかそか、どんな人?」

「気が怖い」

「ふーん」


 興味があるような、ないような。

 偏屈爺と噂されている。貴族で冒険者の変人だ。

 私が冒険者を目指そうと思った理由の一端でもある。貴族で冒険者をすれば強いんだなっていう漠然としたイメージのためだ。

 実際上位貴族の私たちではその通りだし、なんでみんなならないのか損だと思うんだよね。


「鉄のカードも悪くないじゃない」


 鈍色に光を反射して光るカードを角度を変えたりして眺めてみる。


「Dクラス以上でも、半分もいないんだっけ」

「そうですわよ。初心者のまま都市世界をする人が半分らしいですわ」

「ピラミッド構造」

「お、ミア先生、難しいこと知ってる」

「えっへん」


 ミアが無い胸を張る。かわいい。

 ギルドカードをそっとしまう。

 なくしても再発行できるが怒られるし実費を取られる。

 一回目は無料進呈なのだ。

 プラチナ級とかミスリル級のカードだと、その材料代だけでも目ん玉飛び出そうだもんね。


「じゅるり……」


 さらに上のクラスを夢見て舌なめずりをした。

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