第8話 防御の魔道具
パーティーの帰りに、バラバラになったネックレスの部品は預かっていた。
それからエメットのネックレスも。
なぜか?
それはこの際だから、ただのアクセサリーではなく防御の魔道具にしてしまおうという考えだった。
「ちーと血を拝借、なんちって、んっ」
自分の指先から血を採取する。
魔道具の作り方は先生に教わっていて、防御、治療、火魔法、風魔法などの基本的なものは一通り作れる。
まああまり作った経験はないが、前世は手が器用だったし、いけるいける。
触媒としての血とそれから魔石粉を溶かした魔道インクの元を混ぜて、魔道インクを完成させる。
それを筆ペンを使って紋様を描き入れる。といっても防御の魔法陣というのは丸にバツを重ねたいわゆる「駐停車禁止マーク」みたいな形だった。
基本の魔法の紋様はかなりシンプルなのだ。治療の魔法陣は丸にHだ。ヘリポートみたいな感じ。
インクのほうが重要で普通に文字を書いただけでは、通常は発動しない。
もちろんただのペンで書いた魔法陣でも、異常な魔力を流せば発動するけれど、そんなことをやるのはバカな私くらいのものだ。
スライムの魔石は小さいので、紋様がシンプルなのは助かる。
一つずつ、全部に入れていく。
そして十個以上の魔石がワンセットとなり発動するように「魔法のお願い」をイメージして、魔道具の紋様に向かって刻印の魔法を発動させる。
まあイメージできればだいだい大丈夫。神様はなにごとも寛容なようで、ありがたい。
「ほい、完成」
こうして私たち三人分のスライム魔石の防御の魔道具アクセサリーが完成した。
後日、ミアとエメットを呼んで秘密のお茶会をするときに手渡しする。
「はい、防御の魔法陣刻んでおいたから。はいミア」
「ありがとうございます。フィーナ」
「同じやつを。あこれ一回の使い切りタイプだから注意してね。はいエメット」
「ありがとうございますわ、ミア様」
「いいのいいの」
二人と合わせて三人で装備してみる。
魔力の流れを見た感じ、ちゃんと機能はしているようだ。
魔力視くらいはできないと、魔法使いも魔道具師も錬金術師にもなれないからね。
基礎事項なので、先生にばっちり仕込まれた。
「これはちょっと強い衝撃以上用の一回使い切り。もし魔石が灰色になったら賞味期限切れだから」
「わかりましたわ」
「ん」
魔道具の魔石は魔力を放出しきると濁って灰色になる。
使い切りなので、魔石の需要はなくならない。
だから魔力の少ないスライムの魔石ですら、粉にして魔石粉にしたりする。
魔法陣を刻んで魔道具や大規模魔法に使ったりする以外に、魔法契約の書類でも多用されているので、ビジネスに必須なのだ。
ネックレスをした三人でまた草原に行って、スライム狩りをした。
かなりの数を討伐したので、スライム魔石がいっぱい集まっていた。
「じゃあこれ、一個銅貨一枚だけど」
「いいですわ。これくらいあげますわ」
「ん。同上」
「そっか、ありがとう」
二人にお礼を言って私が預かる。
実はせっかくの機会なので、この防御の魔道具を少量ながら量産しようと思ったのだ。
ただ自分の血を使うと威力が強すぎるし、血も足りなくなってしまうので、ニワトリの血を使った劣化版とする。
それから発動の中央のコントロール用の魔石は赤いホーンラビットとする。
「うんしょ、うんしょ」
夜、魔道具のランプを使って部屋を明るくして、作業を進める。
細かい作業も別に嫌いではない。
魔石に筆ペンで魔道インクで描きつけていくと、それがじんわりと染み込んで薄緑色にほんのりと光る。
これは魔力が反応しているかららしい。
すべての魔石に紋様を描いてしまうと糸に通してから、刻印の魔法を掛ける。
「防御発動中威力、一斉発動、一度きりっと。はい、一個できた」
もう流れ作業のようにどんどん作っていく。
最終的に十個の量産型防御の魔道具が完成した。
メイドに見せてみると、うっとりして首にあてて見たりしていた。
「パーティーに持ち込んでもあまり意味がないわね。みんな防御の魔道具くらいは上位貴族なら持っているでしょうし」
「そうですね」
「冒険者ギルドで初心者冒険者向けに格安で売っちゃうと言うのはどうかしら」
「まぁ、面白そうです。お嬢様」
ということで翌日、朝から冒険者ギルドへ一人で向かう。
「あら、ストロベリーブロンドの確かフィーナ様」
「そうです。今日は防御の魔道具を売ろうと思って」
「そうですか。物はありますか?」
「これを」
一個二個と出していき、十個全部見せる。
「全部で十個。確かに紋様は防御の魔法陣ですね。普通はオーク、オーガ、ゴーレムあとこの辺ではヒュージイーグルの魔石クラスのものに刻印するものですが」
「はい。これは小さい魔石を連動させて発動させることで、一つ分の力が出るようにしています」
「珍しいです。こんなこともできるのですね」
この方法は自己流だった。
今までこういうことをした人はいないらしい。
ただしもっと大きな魔法を発動させたり、長時間使用する魔法のために、魔石を何個も使うことはよくあるので、それを小型化しただけだった。
ただ、小さいので刻印するのは難しい。
誰もそれをやってみようと思わなかっただけ、ともいえる。
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