第6話 秘密のお茶会

 さてほとぼりが冷めた頃。

 昼ご飯を食べてすぐの冒険者ギルド、受付。


「タダのフィーナ」

「エメット」

「ミア」

「はぁ、揃いも揃って、大変なことですね」


 ギルドの受付嬢も大変だね。他人行儀に冒険者登録を済ませた。


 今日は秘密の三人だけの「お茶会」なのだ。

 もちろんフィールドワークをするために冒険者ギルドにすぐに向かったというわけ。


「どうぞ、どうぞ」


 門の兵士もだいぶ慣れてきた。

 私が東門を通過しても、嫌み一つ言わず、いつもニコニコだ。


「魔石見せて」

「いいよ、ミア」


 ミアは殊の外、魔石が好きなようだった。宝石が好きなのか魔石そのものが好きなのかは知らないけれど。

 紫のスライム、赤いホーンラビット、青いウルフ、そして緑のひときわ大きなヒュージイーグルの魔石。

 色がそれぞれ異なり、明るい光を内部で乱反射している。


「綺麗ですわ」

「綺麗」


 二人が中を覗き込んでくる。


「それじゃあ、二人にもスライム狩りを」

「やった! やりますわ」

「やる」


 元気なようでなによりだ。私も何だかうれしくなって笑顔になる。

 そうすると二人もニヤリと笑った。

 今度は三人でとびきりの笑顔を作る。


 なんだか普段は堅苦しいパーティーなんてしているから顔が曇ってしまうのだ。やっぱり女の子は笑顔が一番かわいい。


「ファイア!」


 まずエメットからスライムを倒す。


「これが魔石。私が倒したんですわね」

「そうだよ!」

「私の魔石、やったですわ」


 さて次のスライムを探そう。

 いるいる。よくみるとあちこちにいる。

 普段誰も相手にしないので、ちょっと目を離すと増えているのだ。

 これはいけない。


「次、私」

「どうぞ、ミア」

「やる。ファイア」


 ミアの火魔法がスライムを包み、すぐに形が崩れてべちゃっとなる。

 その潰れたスライムの中から紫の小さな魔石を取り出す。


「できた」

「やったね!やった」

「ん」


 口数は少ないけど、思ったよりもずっと表情豊かだ。


「えい、ファイア」


 こうして三人で平原のスライムを倒して歩いた。


「いっぱい溜まったね」

「いっぱいですわ」

「です」


 三人で両手を広げて、紫の小さな魔石を見比べる。


「なんか、これ、ちょっと黄色いね」

「本当だ」

「変異種かな」

「おおぉお」


 もう倒してしまったので分からないけど、実は違う種類が混じっていたみたいだった。

 そういうこともあるんだ。

 すいぶん攻略も進んだ王都平原だと思ったけど、謎もいっぱいだ。


「黄色も揃いましたわね」

「うん」

「ん」


 城門を通って貴族街へ帰り家へ戻る。

 今度は本当にお茶会だ。


「ふぅ」

「楽しい体験でしたわ」

「ん、よかった」

「そりゃあどうも、どうも」


 みんなでお茶を飲む。うむ、美味しい。

 今日のお茶請けはハニークッキーだ。

 ちょっと奮発して高い蜂蜜入りのものだ。

 普通は砂糖をちょびっとしか使わない。


「銅貨二十枚ってところかしら?」

「そうですね。一個銅貨一枚だから」

「なるほど」

「ん」


 一人でスライムを二十匹前後倒した計算になる。

 これだけ倒しても、また数日すると平原にはスライムがどこからかやってきて住み着いてしまう。


「今日は薬草は採りませんでしたわね」

「うん、まあまた今度かな?」

「そうしましょう、是非に」

「それにしても、綺麗」

「綺麗」



 薬草採取の約束もして、みんなで魔石を眺める。

 なんだか不思議とずっと眺めていても飽きないのだ。

 内部で魔力が循環しているのを感じるし、とても温かい気持ちになる。

 普通の宝石とも違う、それが魔石。


 魔道具の燃料になったり、魔法の杖の材料でもある。

 魔法の杖も魔道具と考えることもできるけど、違いは曖昧だ。


「この魔石、売ってしまってもいいけれど」


 エメットがこくりと首をかしげて思案顔をする。


「そうだね。何かネックレスみたいにするとか」

「そうしよっか?」

「ん、私も」

「そかそか、んじゃ、スライムのネックレスだね。あんまり売ってないよね」

「そうですわね。別に珍しいものでもないのに」


 薄紫の小さな魔石にきりで穴を空けていく。

 実は魔石は石ほど硬くない。

 ゴリゴリすれば削れていく。

 転生者から見れば何の物質でできているか非常に気になる。


 みんなで並んで作業すること数時間。


「できた!」

「はい。できましたわ」

「ん」


 それぞれのスライムネックレスだ。

 ちなみに私のはセンターに青いウルフの魔石がある。少し大きい。

 エメットのはセンターに赤いホーンラビットの魔石を配置した。

 それからミアのセンターは変異種の黄色い魔石だ。この魔石は何の魔石か不明だ。


「いひひ」

「いいですわね」

「やった」


 三人で見せ合う。

 うんうん、いいねいいね。こういうことしたかったんだよ。


 そろそろ日も暮れてきた。


「んじゃ、また今度、秘密のお茶会、しましょうね」

「はいですわ」

「ん」


 こうして三人パーティーのはじめてのスライム狩りは楽しく終わることができた。

 しかしやはりお騒がせな三人。


 翌日、壁の花ことミアはさっそくパーティーへ出かけていくと、例のネックレスを装着して行ったのだ。

 そこでは、何も起きないはずがなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る