第5話 パーティー
下位貴族の集まりで見せた魔石の話は、人伝てに上位貴族たちにも知られるようにすぐになった。
またパーティーの集まりで拾ってきたエメラルドグリーンの魔石をせがまれて見せる。
「ほら、これがそうですわよ」
「まあ、とても綺麗」
「すごいですわね」
「大粒も大粒。こんなの滅多にないですわね」
自分でアクセサリーの魔道具にでもできれば良いが、まだ剥き出しの魔石だ。
しかし、それが逆に「自分で拾ってきた」という話に真実味を持たせているようで、向こう側の宰相派は余計に悔しいのだろう。
その視線がなんだかんだ痛い。宰相派の中にも目をハートにしてエメラルドグリーンの魔石を遠くから見つめている人までいる。
それで余計、ガチの宰相派の人の眉間のシワが可哀想になっているが、私の知ったことではない。
自分たちの派閥くらいちゃんとまとめて欲しいものだ。まったくもう。
私が首を振ると、ため息が方々から聞こえた。
「それで、どうかしら。金貨二十枚なんて金額では上位貴族にとっては大した額じゃないけど」
「金額ではないのですよ」
「そうなのよね。誰がどうやって手に入れたという物語そのものに価値がありますわ」
「みなさん、お上手なんだから」
「フィーナ様がご自分で拾ったなんて、凄すぎてどうしたらいいか」
「あはは」
金額以上の話に気がついたらなっていたのだ。
私と冒険者をやりたいという話もチラホラ出ているものの、やはり親はいい顔をしないため、みんな様子見をしていた。
派閥の子でもそうなので、中立派や宰相派の子は無理なのだろう。
そんな中、一人の令嬢が私に声を掛けてきた。
「フィーナ様、エメット・フィアデルフィア侯爵令嬢と申します」
「ご丁寧にどうも」
「私、感銘を受けまして、是非にお供の猿をしたいと、思いまして」
「猿ですか」
桃太郎みたいな話がこちらの世界にもあるのだ。
猿獣人かと一瞬見たが、可愛らしいヒューマンに見える。
まぁ、当たり前か。
ちょっと頬を赤くして、これは洒落だと示している。
「うふふ、可愛らしい女の子でしたわ」
「あら、そんなふうに褒めたら、他の子が嫉妬してしまいますよ」
「あらやだ」
みんなで笑う。こちら側は和やかに話にも花が咲く。
冗談なんかも言える子なら、楽しいかもしれない。
それから、もう一人。変わり者がいる。いつも壁の花と名高い、もう一つの公爵家令嬢ミア・バルバトス公爵令嬢だった。
「ミア、会話するのは久しぶり」
「ん」
「一緒に冒険者したい?」
「……する」
この返答に、周りの子たちが一斉に目を見張る。
あの、誰ともほとんど話さず、ただただ隅に立っているだけ。壁の花はマシなあだ名で「木偶の坊」とすら、言われているのに。
実は魔法は公爵令嬢だけあって、並外れているのだ。私と互角くらいのセンスはある。
実践の機会が訪れないので、みんな知らないという。
公爵令嬢同士の一種の秘密であった。
彼女を誘うのは勝算は五分五分だったけど、そうか、一緒に戦ってくれるのか。
向こう側では宰相派の面々が白目を剥いているが、まぁ知ったことではない。
ミアは普段喋らないため、数の上では中立派に加えられていた。
公爵家が動くとなると、情勢に影響が出そうだが、やっぱり私の知るところではない。政治は私たちみたいな女の子のすることじゃないもの。
冒険者のほうが女の子のすることじゃないけどね!
ミアには報酬がないけれど、当たり前だが、彼女がそんな安いもので動くような子ではない。
これは家がどうという話よりも本人の気持ちの話だった。
お互い公爵令嬢。壁に張り付いてイヤというほど、国王派と宰相派の嫌味合戦を長年見てきた。
いい加減にして欲しいというのが、私たちの素直な意見の一致するところなのだ。
「ということで、私たちは失礼しますわ」
逃げるが勝ちとは、よくいう。
パーティーでパーティーメンバーを見つけたので、いつまでもこんなところには用はない。
数日、一週間くらいは周りがうるさいだろう。
一人寂しく、城壁の外でスライム狩りだ。違ったわ。薬草採取だった。
えいさーほいさー、草刈るだ。
また何か落ちてるかもしれないしね。まぁ、こんな幸運そんなにないでしょ。でもダメ元で探すと、ウルフの魔石をもぐもぐしてるスライムくらいは見つかった。
ウルフは群れるためCランクの魔物だけど、単体ではDランク相当なので、ヒュージイーグルに比べれば大したことはない。
ただ、今の私たちが戦って勝てるかは未知数だ。
ここに落ちてる魔石は何か他のモンスターなどに倒されたのだろう。
弱った単体のウルフであれば、ヒュージイーグルにヤラれたのかもしれないね。
上を見ると今もヒュージイーグルが数羽飛んでいるのが見える。
頭がいいので戦闘力が分かりにくい人間を襲うことはほとんどない。
それも小さな赤ちゃんとかなら別かもしれないけれど、王都内ではヒュージイーグルにさらわれたという話は聞いたことがなかった。
いつも飛んでいるが、普段は何を食べているのだろう。
スライムとかちょっとつまんだりするのかもしれない。
「ふふ、今日はウルフの魔石か」
ウルフの魔石は青い綺麗な色をしていた。
こうして新しい魔石を眺めるのはとても楽しい。
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