第4話 舞踏会
残念ながら、冒険者デビューを果たしたものの、貴族令嬢としてパーティーに出席する機会はある。
あれから私は薬草採取をしつつ、城壁の外のスライムを乱獲してみたり、ホーンラビットも狩ってみせた。
「あら、フィーナ公爵令嬢……最近、おかしくなってしまったって言われていますわよ」
「そんなことないですわ」
「こうしてみると、普通ですわね。私、心配しましたのに」
この子は私たちの派閥の子だから他意はないのだろう。本当に心配したようだった。
私が一番下の職業「ゲスな仕事」こと冒険者を始めたので、頭がおかしくなったとこれ幸いとばかり宰相派のお嬢様たちが噂を流しているのだ。
それを聞いた国王派のお嬢様たちの中にはすでに真に受けて私から距離を取った人もいるし、こうして真意を聞きに来るかわいい素直な子もいる。
この程度で離れていく子は最初から、ウマが合わないタイプだったのだろう。残念ではあるが、しょうがない。
「見てください」
私がポケットから赤い魔石とたくさんの紫の小さな魔石を手に広げると、目を見張る。
「魔石、ですわね」
「ええ、私が取ってきたの」
「まぁ、すごいわ」
一部の上位貴族のご令嬢には、こうして実物を見せると大ウケだった。
火魔法でスライムをやっつけて回ったと話すと、それはもうよろこんだ。
まあ宰相派の女の子たちは面白くなさそうに、悪口を向こう側でさかんにしているが、いいんだ。私はああいうふうに不毛なやりとりに時間を使いたくない。
「一緒に、冒険をしてくれる女の子を探しているの」
「まぁ、大胆ね!」
「でしょ、どう?」
「さすがに、お父様が許してくれないわ」
「ですよね。あはは」
上位貴族のパーティーでは受けはよかったが、さすがに一緒にパーティーを組んでくれる人は見つからなかった。失敗であった。
「こんどこそ」
私はターゲットを変更した。下級貴族の子で、それも次女以下の特に重要度の低いとみなされている女の子に狙いを定めた。
そのために、下級貴族中心のパーティーに場違いにも出席したのだ。ただし、まだ十歳だった私は若い子中心の権力の弱いパーティーでも悪い顔はされなかった。
「こう火魔法でババンとスライムをやっつけて、手に入れるのですよ」
「まぁ、すごいですわ」
「火魔法ってこういうのでしょ」
「そうそう!」
みんなで、指先に火魔法を灯して遊ぶ。
貴族階級はなんだかんだといって、昔の風習の名残で魔法属性に適性がある人が多い。それは昔、魔族や魔物との戦闘が多かった時代の影響なのだけど、そういう意味で公爵家は魔法が強い。
男爵家くらいになると魔法の力も弱い子が多いので、憧れのような視線で見てくる子が多かった。
生活魔法の着火の魔法くらいは貴族であればほぼ全員が使えるようだった。
しかし男爵家であっても、たまにすごく魔法が強い子が生まれることがある。隔世遺伝であるとか難しい話もあるけれど、よくは知らない。
「それで、冒険者として一緒に遊んでくれる子を探しているのですわ」
「まぁまぁ、それはすごいですわ」
「でも私なんかでは、とても」
「公爵令嬢と一緒に冒険者パーティーですかぁ、すごいですねぇ」
「でも私たちくらいじゃあね」
上位貴族は魔法適性があるから最適ではあるが親がハイとは言わない。
下位貴族は親は柔軟であったとしても魔法適性がある子があまりおらず、戦力不足。
なかなかうまくいかないものだ。
そもそも女の子はあまり冒険者にならないのだから、余計パイが少ないと言われてしまう。
まあそうなんだよな。
そんなある日。
また王都平原を探索していると、またスライムが何かを見つけたのか、もぐもぐしているところを目撃した。
「今度は、何を食べているのかな?」
それは何かのモンスターの死骸のようだった。
「まぁ、綺麗な魔石」
緑、エメラルドグリーンの大粒の魔石が目に入った。
「スライムちゃん、ごめんね。ファイア」
スライムをやっつけてしまうと、エメラルドグリーンの魔石を手に入れることができた。
冒険者ギルドの受付で見てもらったところ。
「――これをどこで? ヒュージイーグルの魔石ですね」
「ヒュージイーグル、ふむ」
いつもは王都の上空などを飛んでいる大型の鷲の魔物だ。
「換金しますか?」
受付嬢が興奮気味に聞いてくる。
「金貨二十枚ほどですが」
「うーん。ごめんなさい。ちょっと考えがあるの」
「なるほど?」
受付嬢は疑問に思いつつも、笑顔で提案を引っ込める。
これを男爵令嬢が多い下級貴族のお嬢様のパーティーでお披露目したのだ。
エメラルドグリーンの大粒の魔石。宝石としての価値も十分にあるし、魔道具などの魔石燃料として使用しても大変な価値があった。
女の子たちはそれをうっとりとした目で見つめている。
「ヒュージイーグルの魔石を見つけましたわ。金貨二十枚ほどだそうです」
「おおお、フィーナ様、すごい」
「これを、私と一緒に冒険してくれる女の子に進呈します」
「おおおおお」
場はちょっとした盛り上がりを見せた。
男爵くらいの家ではパーティー費用などを出すと、赤字の家も多い。家計が苦しい貴族も多いのだった。
まだ私が冒険者になって一か月も経っていない。その新人でも金貨二十枚がポンと手に入るのであれば……。
冒険者。一獲千金という話は聞いたことがある。
嘘ではないが、普通は貧乏冒険者がほとんどだろう。しかしこの子は間違っても公爵令嬢。ただの冒険者ではないのだ。
もしかしたら、大金が手に入るのではないか、みんな喉を鳴らしたという。
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