第3話 薬草と王都平原
ジロジロ見られながら冒険者ギルドをあとにする。
しかし、解せぬ。
今、やっと広い王都の東門を出て外の平原に辿り着いたところだった。
ずーと、視線が途切れなかった。
いままで王都をとぼとぼ移動したことなんてなかったのだ。
いつもはだいたい馬車で歩くとしてもすぐ近くまでだ。
それが門まで移動する間中、ずっと見世物みたいに視線に晒されたら流石にイラッとしてしまいそうだ。
分かっている。髪の毛のせいだ。でも髪を隠すのはスリの子供くらいのもの。貴族がしていい格好ではない。やましいことがあると言っているようなもの。
だから、この綺麗な髪を晒して歩くしかないのだ。
毎日、堂々と歩いていたら、そのうち「そういうもの」になるだろう。
なるといいな。
スリさえ寄ってこなかった。それくらいストロベリーブロンドが王家の髪だというのは知られている。悔しいが諦める。
門を通る時も「髪パス」で顔や家名さえ確認されなかった。家と王城には衛兵が確認に行ったことだろう。まったく仕事熱心なことだ。
「ストロベリーブロンドの女の子に職質する命知らずの衛兵はいない。通っていいよ」
これである。南無三。
それで晴れて広い青空、広がる緑の絨毯、青々とした木々。王都平原。
ところどころに薬草採取をしている子が点々といる。
私も仲間に入れてもらおう。
「ルンルンルン」
草木を見ながら進んでいく。
何種類かは判別出来た。もちろん知らない草木も生えている。特に有用ではない、なんでもない草花は本などにも載っていないのだった。
「これがアワダチソウね」
私くらいの背丈の双子葉類で、上の方に黄色い花がたくさんついている。
実はこの世界ではこれが、薬草なのだ。
「にしし、ひとつ、ゲット」
周りを見るとあちこちにある。
この時期、黄色い花はよく目立つ。
周りの子も花を目安に次々と収穫していた。
「私も頑張ろう」
アワダチソウを集めていく。
しかしすぐ手にいっぱいになってしまう。
「なるほど……」
周りを見るとみんな草で縛り付けてそれを何束もリュックにぶら下げていた。
「ああやればいいのね」
一つ勉強になった。単純なことだが、こういうことは本にも書いてなかったりする。
こういう文化的な風習こそ、本にしたら意味がありそうなのにな。
心のメモ帳に記録しておく。
何束も私もアワダチソウをぶら下げた。
「よし、今日は終わりにしましょうかね」
一度背伸びをして周りを見る。もうほとんどの子は先に今日の収穫を終えたのか、もう人もまばらだった。
少し先には王都の塀が見える。
塀の上にも兵士たちが何人もいて、こちらを見ていた。
「お〜い」
手を振ると振り返してくれた。
にしし、となんだが満足したので、王都へと戻る。
その途中、下を見るとスライムが一匹、何かを食べていた。
「スライムだ、なんだろ」
よく見ると赤い石を噛っている。
「魔石だ。赤い魔石だから、ホーンラビットね」
スライム自身にも魔石はあり、紫色の小石がそうだった。
「ファイア!!」
私が火の魔法を唱えるとスライムが燃え上がる。
スライムは炎に包まれて直ぐに耐えられなくなり、ぐちゃっと潰れてしまった。
「赤い魔石と紫色の魔石、ゲットっと」
そっと拾う。
普段、弱っちくて相手にもされていないが、スライムはそのへんにあちこち歩き回っている。
なんなら、王都内の王城の裏庭の森にもいた。
こんな小さな魔石でも一ベノン、銅貨一枚の価値はあった。
ちなみにホーンラビットの赤い魔石は銅貨五枚分だ。
スライムはこうやって落ちている様々なモノを食べて暮らしている。
お掃除屋さんなのだ。
その能力を買われて、トイレや下水道にもたくさん飼われてる。
まぁ多くの貴族の知るところではないが、人口と同じくらいの数が実は都市内にはいる。
さいわい、この世界のスライムはほとんどが温厚というか、何も考えていないというか、のほほんと暮らしている。
なんだか、人間よりたくましく裕福なのではないか、とすら思うと感慨深い。
「私もスライムに生まれてのんびりしたい」
まぁ、もう公爵令嬢になってしまったので、これははっきり贅沢な悩みだろう。
誰よりも裕福な王国民の一人だから。
でもその生活はお姉さんたちとの腹の探り合いをする会話ばかりなんて、人生損だと思ってしまうよ。
転生者特有なのかもしれないけど。
せっかくのファンタジー世界、野山を駆け回り、ワイバーンを倒したり、ドラゴンと友達になったり、空を飛んだり、ハーピーと競争したり、したい。
冒険者にならないと冒険できないなら……。
「私はすべて捨てても、冒険者になりたいわ」
手の中のスライムとホーンラビットの魔石を転がして遊ぶ。
これは私の物だ。親から与えられた仮染めではなく、私自身の狩りの結果、その命を頂戴して、私の物になった。
「あはは、魔石綺麗!」
帰りはスキップして帰ったら、みんな振り返って見てくる。
なんだかこの視線さえ、面白くなってきた。
国で一番偉い職業の公爵令嬢が一番低い職業の冒険者なんて、やってんだから。
「私はもう、冒険者だもーん」
通りをスキップして帰る。
私を止められる人はこの国にはいない。
なんとも愉快だ。
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