第33話 魔猫捕獲作戦
思わず戸惑ってしまい、オレは口を挟まずにいられなかった。
「そんな、でも、魔猫って……」
「ああ、見た目はただの猫と同じだ。だからこうして、街中の猫を捕まえてるんだ」
軍人が忙しくしていたのは魔猫を捕まえるためだったらしい。暗くてよく見えなかったが、言われてみれば、ヘルマンさんのように猫を抱いた人や檻を運んでいる人もいて、魔猫捕獲作戦を決行中であることが分かる。
しかし、イシュドルフにはたくさんの野良猫がいる。家にいた時もよく裏庭に野良猫が入り込んでいたくらいだ。……いや、もしかしたらあれはただの猫ではなくて魔猫だったのではないか。
そう気づいてぴんと来た。
「オレが誘拐されたのも、きっとそれです。よく裏庭に猫が来てて、きっとそれで、オレが一人になる瞬間を狙って」
ヘルマンさんはうなずいた。
「ああ、そういうことだろうな。この街ではどこに猫がいたって不思議じゃない、俺たちはしてやられたってわけだ」
急に恐怖を覚えるオレへ、肩に乗ったリーゼルが頬をぺろぺろと舐めてくる。先生の手を舐めるところは見たことがあったが、オレが舐められるのは初めてだ。彼女なりに愛情を示してくれているのかもしれない。
「すぐに情報を共有しよう。疲れているところを悪いが、お前たちも来てくれ」
「最初からそのつもりです」
と、ジークさんが返し、オレたちはヘルマンさんの後について建物内へ入った。
「サーツァンドを拠点に活動していた組織は一年ほど前に、ウンズィヒバーを名乗る者に多額の金で買収されていた。主な指示はテンジェフ国内の魔法使いを殺害しろというもので、そのために何匹もの魔猫を放って情報収集をしていた」
オレはジークさんとベルナルトさんの間に立っていた。話をしているヘルマンさんからいくつか離れたところに先生がいる。
「その情報を元に現地の奴らに依頼し、実行させていたそうだ。中にはさらに別のやつに依頼した例もあり、おかげで黒幕になかなかたどり着けなかった」
部外者のオレがここにいるのは変な感じだが、ある意味では当事者でもあった。
「とはいえ、つかめたのはウンズィヒバーという名前だけ。組織とは魔猫を通して接触していたらしく、本人に会った者はいなかった」
ヘルマンさんがジークさんへ視線をやり、彼女はうなずいてから口を開いた。
「では、こちらの情報をお話ししますね。あたしは魔法研究所の主任研究員、ジークリット・ブリッツェです。現在はこちらにいるハインツ・ノルデンを対象とした研究を行っており、そのために水の聖地へ向かいました」
オレの苗字を聞いてか、何人かの兵士がこちらを見た。
「ハインツは水の精霊の血を引いた一族の
数人の兵士が
「石板は秩序の証であり、破壊されてしまうと世界秩序が崩壊してしまうそうです」
室内がざわつき、ジークさんは冷静に話を続ける。
「そうならないよう、石板を守るのが純血に与えられた使命だったのです。水の精霊様はハインツへ石板を託しました」
視線を送られてオレは鞄から石板を取り出した。そっとテーブルの上へ置けば、興味深そうにみんながのぞき込む。
「石板が一つでも残っていれば世界はやり直せると、彼女は言っていました。つまり現在、世界の命運はハインツにかかっているということです」
気が重くなるオレの肩を、そっとベルナルトさんが抱いてくれた。
「そして聖地を去ろうとした時、あたしたちは石板を狙う男たちに襲われました。彼らを大金で買収し、指示を出した者の名前がウンズィヒバー。やはり魔猫を通して接触してきたと話していました」
ざわめきがどよめきへと変わる。
「落ち着け、まだ話は終わっていない」
と、ヘルマンさんが兵士たちをなだめ、話を進めた。
「話をまとめると、俺たちが調査していた魔法使い連続殺人事件の黒幕と、彼女たちの聞いた石板を狙う存在は同一人物と見て間違いないだろう。どちらも魔猫を使っているし、金で人間を雇っている点も同じだ」
「ですが、肝心の手がかりが何一つありません。これからどうすればいいんですか?」
と、みんなの疑問を代表するように先生がたずねた。
ヘルマンさんは腕を組んで考え込む。
「そう、そこなんだよな。俺たちが持っている情報は
するとベルナルトさんがおずおずと口を出す。
「ウンズィヒバーはおそらく、ハインツの持つ石板を狙うはずです。彼を
「うーん、囮か。悪くはない案だが、まだ魔猫をすべて捕らえられたわけじゃない。この会話を魔猫に聞かれている可能性もあるぞ」
もし聞かれていたなら、囮作戦は無駄になる。もっといい案を考えなければ。
ベルナルトさんは「そうでしたね」と、苦い顔で視線をそらした。
「水の精霊様はすでに世界に影響が出始めていると話していました。この国にはまだ石版があるから大丈夫でしょうが、他国の状況がどうなっていることか……」
と、ジークさんが言えば、ヘルマンさんはうなる。
「うむ、確認しておきたい情報だな。特に聖地を領土内に持つ国を重点的に調べたい。誰かすぐに将軍へ伝達して、情報部に指示を出すよう言ってきてくれるか?」
ぱっと動いたのは扉近くにいた若い兵士二人だ。
「私が行ってきます!」
「俺も行きます!」
ばたばたと二人が外へ出て行き、ヘルマンさんは息をついた。
「さて、どうしたものか」
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