第14話 ディミ・ス・テリオ神話
初め、混沌がありました。何も存在しない暗い底から、光と闇が同時に生まれ出ました。
光には顔があり、二本の腕と二本の足がありました。
闇にもまた顔があり、二本の腕と二本の足がありました。
「わたしたちはよく似た姿をしているようだ」
「いいや、きっとどこかに違いがある」
光と闇はお互いの姿を確認し合い、やがて気づきました。
「わたしには心臓があるが、あなたにはそれがない」
「わたしには頭脳があるが、お前にはそれがない」
違いを見つけると、光と闇は悲しい気分になりました。
「こんなにも似ているのに、違うだなんて」
「違うというのは嬉しいけれど、とても悲しいことなのだな」
「悲しいけれど、違いがあるからこそわたしは光でいられる」
「ああ、わたしも違うからこそ闇でいられる。だけどお前がうらやましくもある」
「わたしが?」
「ああ、光が」
光と闇はしばらくお互いを見つめ合うと、いいことを思いつきました。
「それなら子どもを作ろう。わたしの子にあなたの頭脳を分けてほしい」
「それは素晴らしい。では、わたしの子には心臓を分けておくれ」
光は自分の体から小さな光を生み、闇は自分の体から小さな闇を生みました。
それぞれの子どもへそれぞれの持つ心臓と頭脳を分けました。
すると小さな光は水と風を生み出しました。
小さな闇は火と土を生み出しました。
「わたしたちの世界を作ろう」
「仲間を増やして、にぎやかで楽しい世界を作ろう」
小さな光と小さな闇は子どもたちへ力を分け与えました。土の土台に水を張り、風と火を起こしました。
子どもたちはそれぞれに自分を模した小さな生き物をたくさん生み出し、いたるところに住まわせました。
「増えすぎると狭くなってしまいますね」
小さな光のつぶやきに小さな闇は返します。
「では、終わりを作ろう。終わったものは皆、わたしの元へ来ることにするのだ」
「では、始まりはわたしの元からにしましょう」
始まりと終わりができると、小さな闇は闇の精霊となり、小さな光は光の精霊になりました。火、土、風、水も精霊となりました。
次に彼らは石版へ約束事を記しました。
「火はとても強いけれど、水には弱いことにしよう」
「水もまた火に弱いことにしよう。そうでなければ等しくない」
「では、風と土も同様にお互いに弱いことにしよう」
「それなら光と闇もそうあるべきだ」
四つの精霊たちが光と闇の精霊へ言いました。
光の精霊はうなずきましたが、闇の精霊は言いました。
「わたしたちは終わりと始まり。弱くある必要などないではないか」
「そうでしょうか? では、実際に衝突することがないように、離れたところで暮らしましょう」
「会えなくなるのは寂しいことだ」
「いいえ。顔が見えなくても、わたしはあなたのことをずっと考えています」
「そうか。ではわたしも、ずっとお前のことを考えていよう」
精霊たちは他にもさまざまな約束事を記し、最後に全員の名前を書きました。
「母なる光よ、父なる闇よ。この石版をもって、この世界をディミ・ス・テリオと名づけます」
そして精霊たちは石版を六つに分けて、それぞれ持っていることにしました。
「つまり、あたしたち人間は元をたどると精霊に行き着くの」
「はい」
「中でも強い魔法を使える人を、古代からニュンフ・アップクンフトと呼んできたわ」
そういうことかと合点するオレだが、論文のタイトルを見て不思議に思う。
「現代における、というのは?」
ジークさんはにんまりと笑って説明を開始した。
「ニュンフ・アップクンフトは『精霊の血筋』という意味よ。広義に言えば人間すべてがそうだと言えるのに、強い魔法使いだけがそう呼ばれたのは何故か。それは彼らが血を濃く継いでいるからではないかしら」
「血?」
思わずオレは身を乗り出した。
「魔法は誰もが使えるけれど、それぞれに得意な属性が違うのは分かるわね?」
「はい」
「得意な属性のことを特性と言うの。その特性は両親から遺伝するわ。例えば母親の特性を土として、父親の特性もまた土とすると、その二人から生まれた子どもの特性も土になるの」
それは簡単に想像できる。
「でも両親の特性がバラバラだったら、どちらかの特性になる。あたしの特性は風だけど、父は火だった。だけどあたしの中に彼の血は流れているのだから、あたしの中にも火の特性が受け継がれてるはずでしょ? でもあたしの特性は風。この意味が分かる?」
とっさに頭を働かせて思考した。彼女の特性が風、ということは母親が風だということになる。でも、それなら火はどこに? いや、他の元素もまた彼女の中にある可能性は? もちろんあるだろう。何故なら父にもまた両親と祖父母がいて、そのまた前にも……となれば、出てくる答えは一つだ。
「四つの属性が人の中には存在していて、割合を多く占める属性によって特性が決まるんですね」
「そういうこと! 賢くて助かるわ」
嬉しそうにジークさんが笑い、オレは続きをうながす。
「それで?」
「ええ、ニュンフ・アップクンフトは受け継いできた属性が極端な人のことなの。つまりハインツは他の人にくらべて水の属性の量が多いんだと思うわ。九十パーセントが水で、残りの十パーセントを他の三つが占めていると思ってもいいかも」
なるほど、そうか。オレの中にも四つの属性があるけれど、ほとんどが水なんだ。だから他の人よりも水の属性が得意なわけだ。
「でも、それだけで水属性で攻撃ができるものなんですか?」
と、疑問をぶつけると彼女は腕を組み
「そこが難しいというか、不思議というか……ちょっとまだ、何か足りてない感じがするのよね」
どうやら解明するのに必要な情報が足りないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます