ささくれ・おちた

京極 道真  

第1話 梅散りて

梅散り、桃、桜までのわずかな時間。おぼろの曖昧な世界がひらく。

「見たければ来い。」力強い太い声だ。志望校におちた今の僕には強すぎる声だ。

しかしもその声は花が散ったハダカの梅の木から聞こえた。

『おちたショックで幻覚を見ているのか?』

「ばーか、幻覚なんてないさ。現実だ。」目の前の梅の木が話す。

「本当に現実なのか?」

「今、こうして俺様と話していることも現実だ。お前が志望校に落ちたのも現実だ。そして彼女が去って行ったのも現実だ。」

「なんだお前、木のくせに僕の個人情報まで知っているなんて嫌な奴だな。梅の木め。折るぞ。」

ニューっと「暴力反対!」のプラカードが木から出て来た。

「なんだ?お前はマンガか?マンガじゃない。梅だ。」

「何度も言わせるな。これは現実だ。少年名前は?」「つばさ」

「いい名前だ。名前のように翼を広げて俺について来い。」大きな風が吹く。

気づくと「京都?」「そうだ。千年都の古い京都だ。見てみろ。罠にはめられた学者が1人引越し準備をしている。」「おい梅、見つかるぞ。」

「大丈夫だ。時空が違う。奴からは見えない。」

「ひどく、瘦せているな。」「そうだな。大人の罠は手が込み醜い。たぶん、奴は頭がいい。罠を解かずにここを去るのだろう。」

「時空を飛ぶぞ。」

「ここは?畑が多いな。田舎だ。奴だ。また痩せたな。」

「そうだな。昼はああして、宮にこもり文字を書き続けている。取り巻きは、嘘のない良い人たちに見えるが衣服、着物が質素だ。」

「奴の目も取り巻きには優しく、細く微笑んでいるようだ。」

日が落ち「見ろ、つばさ、奴が豹変する。」

「鬼?」「そうだ、奴は鬼だ。そして見てみろ。歌を詠む。」

「鬼が歌?」

「そうだ。ささくれは自尊心が高いほどささくれる。

そして鬼となり極めれば神となる。」

「梅、この世界の月もきれいだな。」

「当たり前だ。時空が違っても月は月だ。」

「梅、元の世界に帰るぞ。

神田川の桜をみる。まだだ。」


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