ズレてもどこかでは合っていればいいんだ

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

「一生懸命」

と僕が言うと、響太きょうた

「一所懸命」

と言って、僕がおかしいと訂正をしたんだ。

「一生懸命だろ、なんだよいっしょ懸命って。」

別にバカにした訳ではない。ただ周りのみんなも、うちの両親だってそう言ってたから正しいと思ってたんだ。そしたら響太は僕の方やみんなが間違っていると言った。

「違うよ、調べてごらん。正しいのは一所懸命だから。」

僕はスマホですぐに調べると、確かに元々は一所懸命だったみたいだ。しかし、今では一生懸命と使われることが多いみたいで、どっちでもいいらしい。どっちでもいいけれど、僕は一所懸命というのを知らなかったから響太は物知りで頭がいいんだなと思った。


「固定観念」

と僕が言うと、響太は

「固定概念」

と言って、僕がおかしいと訂正をしたんだ。

「固定観念だと、なんだよ固定概念って。」

「いや、固定観念なんて俺は聞いたことないよ。」

それで結局スマホで調べたら、固定概念という言葉は本来存在せず、辞書にすら載っていないとのことだった。すると響太は少し不満そうに

「別にどっちでもいいよな。」

と流した。前の時と印象が違う。物知りで頭がいいと思っていたが、ただプライドが高いだけだと僕は思った。なんだか少し響太とは距離を置きたくなった。


「あ、ヨッシー一緒にドッチボールしない?」

と僕が言うと響太は

「あ、ダーヨシ俺たちとサッカーしないか?」

と言って、またしても響太とのズレを感じる。そもそも、ダーヨシと呼んでいるのは、響太ぐらいで、他のみんなは僕と同じくヨッシーだ。吉田君も自己紹介の時、ヨッシーと呼んでくださいと言っていた。つまりは公式ではヨッシーとなっている。それなのに響太は頑なにダーヨシと呼んでいる。変な奴だ。この頃僕はあまり響太と遊んだりしなくなってた。


今日、響太が休みだった。理由は先生も話さず、クラスではスル休みかもと言われた。別に響太がいなくても、僕の学校生活は何も変わらない。一人のクラスメイトが休み時間、遊びに行かず席へ座り指をいじっているのを僕は気になって声をかけた。

「何してるの?」

「ああ、ほら指に。」

「ああ、さかむけが出来てるね。」

「え、さかむけ?ささくれじゃなくて?」

確かにささくれともいう事は僕も知ってはいた。でもなんだか僕はささくれよりさかむけの方がしっくりくるからそう呼んでいる。

「へ、変なの~!」

その子は何かツボにはまったらしく笑った。そしてテンションが上がったのか、教室へ戻ってくる生徒一人一人に言いふらす。

「ねぇ、これのことなんて言う?」

「え、ささくれだろ。」

「それが~、アイツさかむけって言うんだよ。」

「え、何さかむけ変なの~。」

僕は今日、みんなからさかむけと呼ばれた。これが明日も続くかは知らない。小学五年にもなってしょうもないと僕は思った。


帰り道、いつもより歩幅が狭かった。すると後ろから声が聞こえる

「おーい!」

響太だった。今日学校を休んだのに元気そうで、本当にズル休みだったのかと思った。しかし、響太の家の方とは反対なので、ここにいるのは珍しかった。

「あれ、響太はなんでここにいるの?」

久しぶりに僕が響太に話しかけた。

「ああ、うちな両親が離婚するんだ。元々喧嘩が絶えなくて、分かってはいたけど、で母親と別で暮らしてさ俺そっちに住むことにしたんだ。」

驚いた。いつも偉そうにプライドが高いから家族から甘やかされていたと思っていた。僕の家では夫婦喧嘩なんて一度も見たことがない、だから響太が今までどれほど辛い目に合ってきたか想像をつかない。それを聞いた時、どこか響太はいつもより大人な顔に見えた。彼はこのことで何か成長したのだろうか。指がむずむすする。指を見ると、人差し指の爪の付け根から白い皮がピンと出ていた。それを後ろから響太は見てこう言った。

「あ、さかむけじゃん。」

そして僕はこう言った。

「そう、さかむけ。」

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ズレてもどこかでは合っていればいいんだ 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615

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