第5話 ラグド内戦資料館

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転生者の尋ね人〜獣人たちとワタルの冒険譚〜

ep.7 第六話 ラグド内戦資料館

掲載日:2024年02月11日 22時45分

更新日:2024年02月12日 00時37分

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翌朝、ワタルはラグド内戦資料館の警備業務を受ける手続きをするため、ギルドに出かけた。

ハウンやスノーにも話したところ背中を押してもらい、ハウンに至っては「新しい依頼のリストの取得のついでだから」と手続きの手伝いも申し出てくれた。


ハウンの協力で手続きがスムーズに進んだ。ギルド本部の窓口では、依頼の詳細や資料館の場所などについて詳しく教えてもらった。


その後、手続きが終わったワタルはハウンと共にギルド本部の外に出た。晴れ渡った空には朝日が差し込んでいた。


仕事は明日からの四連勤と短期アルバイト。

今日のところは秘密基地へ帰り、文字の学習の続きをしようと考えていたところ、ハウンから誘いがあり、「今日はこれから一緒にラグド内戦資料館の下見をするのはどうかしら」との提案があった。


ありがたい申し出であったが、獣人であるハウンにとって内戦資料館は過去の傷を刺激する場所であるのではと考え、ワタルは躊躇してしまった。


そんな心情を察したのか、「私のことは気にしないで。戦時中は他国の親戚の家に身を寄せてたの。だから2人と違って直接経験したわけじゃないのよ。だからこの目で確かめておきたかったんだけど踏ん切りつかなくてね。」


二人は街道を進み、やがてラグド内戦資料館の建物が見えてきた。その影には過去の出来事が刻まれていることを知りながら、彼らは歩みを進めた。


受付にて、入場料を支払い、ハウンは受付のスタッフは笑顔で挨拶し、資料館の見どころや注意事項を説明してくれた。


パンフレットを手渡され、内戦の勃発の経緯については、このように記載されていた。


かねてより、ラグドでは人間と獣人が同じ社会に共存していたが、社会的な不平等や差別が続いていた。獣人は生まれつきの要因ではなく、確率で後天的に変化する特異な存在であり、その変化に伴って強力な力を得ることができる一方で、社会の中で差別の対象とされていた。


人間社会では、獣人の変化が強力な力をもたらすことから、一部の人々は獣人を嫉妬と警戒の対象とみなし、彼らを排斥する動きが広がった。獣人は力を持つことから、時折は危険視され、異なる存在として孤立させられた。


これに対抗して、一部の獣人たちは自分たちの、共同体を築こうと努力したが、差別と敵対的な態度が続いた。政治や経済においても、獣人に対する差別的な政策が取られ、彼らは社会的に不利な状況に置かれた。


この状況が悪化し、対立がエスカレートする中で、10年前に内戦が勃発した。人間と獣人の対立は武力紛争に発展し、それによって多くの人命が失われ、社会は混乱の中に突入した。内戦の結果、人間と獣人の間に不信感や敵意が根付き、社会全体が分断されたまま長い期間が経過していった。



過去の出来事が刻まれたパンフレットに目を通し、ワタルは当時の厳しい状況を改めて理解した。ハウンもまた、この歴史的な背景に心を痛めているようだった。


内戦中、両勢力が多くの被害を出し、社会が混乱に陥った。外部の国や機関が、この混乱が地域全体に悪影響を及ぼすことを懸念し、停戦を呼びかけるなどの外交努力を行なったこと、内戦に巻き込まれた一般市民や非戦闘員たちが、和平を求める声を上げたことが終戦に結びつき、戦後は偏見を解消するための改革が行われ、人間と獣人の共存が進められたというのが王国政府もとい資料館の見解である。


しかしながら現状は完全に問題は解決したとは言えない。差別的な扱いを彼らが受けることはまだまだ少なくないし、内戦で虐げられた獣人とその力に共鳴した人間が徒党を組み「天泣」のような反社会組織を形成しているという経過もある。


また、兵士団によるギルドの運営も獣人たちへの雇用を生み出す施策であるという名の下行われているが、獣人が力をつけすぎてしまうことを防ぐために、人間をパーティに同行させなければならないという等の制約を受けているようだ。能力面で人間が足枷となり、簡単な依頼を続けていくのみになってしまうという状態に陥っているものも少なくないという。


館内を進んでいくと、壁に掲げられた歴史の写真や戦場の絵が、内戦の悲劇を物語っていました。館内は静かで、時折響く足音が迫力を増していた。

小さな子供が描いたとされる炎に包まれた街の様子にハウンは嗚咽を漏らしていた。


内戦の傷跡にワタルは心を痛めながらも、続き書いてワタルは何かを変える一助となるべく、自分のできることを考えることが必要だと感じた。


「まだ戦争は終わっていないんだな。まだまだ傷ついている人がいる。俺はこのパーティで、みんなと世界を良い方向に変えたい。足引っ張らないように鍛錬もするからさ。」


ハウンはしばらく黙っていたが、ワタルの言葉に応えるようにそっと肩に手を置いた。


「これからたくさん辛い思いをすることもあると思うの。それでも投げ出したりしないって私は貴方を信じるわ」


まっすぐ目を見つめられ、少し照れくさくなりワタルは目を逸らす。


このパーティが高いランクの依頼を達成することが出来るようになればその分人助けにもなるし、獣人への偏見も解消するのではないかとワタルは考えていた。


まずはできることから始めよう。

出口への扉には暖かな光が差し込んでいた。



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