第4話 ファングの過去

ギルド結成から数日後の早朝、ワタルはギルドで選んだ依頼について考え込んでいた。スノーが実家の宿屋で手伝いをして資金を調達することに決めていたり、ハウンが先陣を切ってEランクの依頼であるフラハイト公園の除草作業に挑戦することを選んでおり、内心焦りを感じていた。

ファングが日課であるランニングを始めるようである。


「おはよう、ワタル。どうだ、依頼のこと考えてるか?悩みなら走りながら聞いてやるよ」


2人は早朝の中を駆け抜ける。


ワタルは少しためらいつつも、「ラグド内戦資料館の警備業務なんかどうかなって思って。」


ファングはしばらく黙って走りながら、ワタルの言葉を聞いた。風が心地よく髪を揺らし、静かな朝の中でファングの表情はやや険しくなる。


ファングは黙ったままワタルの言葉に耳を傾け、風景とともに静寂を保った。やがて、ファングは深いため息をついて立ち止まり、遠くを見つめる。


「ラグド内戦資料館か...」 ファングの瞳には戦慄が宿っていた。彼の心には過去の傷が深く残り、その場所は思い出と共に刻まれた傷跡を抱えていた。


ファングはゆっくりと口を開いて言った。「その場所には、俺の過去が絡んでいる。かねてから獣人と人間の間には深い溝があってな。とうとう両者間の内戦が勃発したってときに、俺は獣人としての覚醒が始まっていた。俺の家族は俺を匿ってくれていた。だが、暴徒に家族が知れ渡り、俺の目の前で殺されたんだ。」


ワタルは言葉に詰まり、驚きと同情の表情を浮かべました。彼はファングの過去に気づいていなかったし、内戦の悲劇について知識もなかった。


「俺はあのとき、家族を守れなかったことをずっと悔いている。内戦資料館は、あの時の記憶が刻まれた場所だ。だが、お前が選ぶのは自由だ。俺の過去に引きずられる必要はない。」


ファングは深いため息をつき、再びランニングを始めた。ワタルはその言葉と表情から、ファングが過去の傷を背負いつつも、他者の選択に尊重の意を示していることを感じ取った。


ワタルは静かにその言葉を受け止め、ファングの過去に対する複雑な感情を理解した。内戦の悲劇とその場所がファングにとってどれほど重かったかを考えると、ワタルの選択には思慮が必要だっあ。


「ファング、君の過去を知らずに、ラグド内戦資料館のことを選んでしまったこと、本当にごめん。思い出させた癖にって思われるかもしれないけれど、自分自身を責めないでほしい。どうして獣人だからと言って目の敵にする人たちがいるのか俺にはわからないよ」


ワタルは言葉を振り絞った。


ファングはワタルの言葉に対して、深い感謝の表情を見せました。「気にするな、ワタル。お前の選択を尊重する。内戦の傷跡を背負う者として、他者がそれに触れることで再び過去がよみがえることもある。それは避けられない現実だ。資料館がどのように歴史を伝えてるかは知らねぇが、俺たちと今後パーティを続けていく上でもやっぱり知っておいて欲しいと思う。依頼が終わったら館内を見せてもらってくれば良い」


ワタルはファングの言葉に救われたような表情を浮かべ、頷き、体力の有り余る男の背中がどんどん小さくなるのであった。

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