37:吸血鬼はハンターと遭遇する①

 森の中に侵入した半機械のモノはきっと、私を追って時空を超えてきた吸血鬼殺しヴァンパイアハンターだと思われる。

「我らも戦いますぞ」

「おいらも先代人狼の敵を討つッすよ!」

「う~ん、あれは人かしら人じゃないのかしら……」

『もう面倒臭いわね、森を閉じちゃおっかっ?』

 と、まぁ若干一名を除いて何とも心強いことを言ってくれているのだが、

「手だしはしない方がいい。どうやらあの武器は、私がやられてからの数百年でさらに進化しているらしいよ。

 一緒に行って不要な巻き添えを喰らう必要はないさ」

 しかし私が死ねば自分たちも死ぬからと、眷属かれらは戦うことを止めるつもりは無いようだ。

「んー、そうだなぁ。

 私は絶対に負けないからってことで納得してくれないかな?」

 あの程度の兵器に私は負けない、しかし悪い方の予想が上に振れれば眷属かぞく─とどりあん─は危ういかもしれない。

「いいわ、でも無事に戻らなかったら許さないからね」

「はいはい」

「ハイは一回!」

「はぁーい、んじゃ行ってくるね」







 空間が歪み私がひょいと顔をだす。しかし私が空間から現れる前に、その異世界人はその気配を何かの機械で察知したようだ。

 もやんと異空間から現れた私にはピタリと銃口が向けられていた。

「いきなり銃を突き付けてくるとは、何とも非常識な客人だね」

「お前は……」─目の赤い光が左右にヒュンヒュンと動く─「波長確認完了、ターゲットの様だな。(……まさか本当に生きていたとは)」

 呟くように言った小声の部分も、吸血鬼の耳はしっかり拾ってくれた。どうやら何かの装置で私を認識しているようだ。

 それにしても時空を超えて私の存在を察知できるとは、ずいぶんと科学力が発達したものだね。ほんの二~三メートル。この距離で向き合ってみればさすがに分かる。─何世代後かは分からないけれど─彼は私の眷属だった者の子孫だと。

 予想通り、吸血鬼殺しヴァンパイアハンターだったね。


「お前を生かして連れ帰るように指示を受けている。

 大人しくついてくるなら良し、抵抗するならば無力化して拘束するがどうする?」

 提案する口調とは裏腹に、彼の姿勢は変わらず私に銃を突きつけたままだった。

 言外に従わなければ撃つと言う意味だろうね。


「君はそれで交渉する姿勢を見せているつもりかい?」

「悪いがこれは交渉ではなく、俺の任務遂行の方法を告げているのだ。最初からお前に選択の余地はない。

 抵抗するなら無理やり連れて行くまでだ。ああ、安心しろ洗脳して永遠に生かし続けてやるよ」

「おやおや、そんな口説き文句を聞いて、はいと言う女の子が居るとでも思ってるのかい?」

「お前の意見など最初から聞いてはいない」

「まあいいか。だったら君の任務は失敗すると私が予言してあげよう」

「ふっ三百年も前の兵器にやられたお前が、この兵器を相手に勝てると本気で思っているのか?」

 ここで魂の移動時間はなんと三百年だったのかーと、私は初めての事実を知ったよ。


「本気で思ってるけどね。

 それよりも君たちが、今さら私を呼び戻す理由の方が聞きたいかな?」

「ちっ何を他人事のように……

 知らぬとは言わせんぞ、お前を殺した後、俺たちの世界には大量の巨大な化け物が現れたんだ! 大方お前の残した呪いだろう!!」

「あぁ~そうそう。君たち人類は昔の格言を科学と共に忘れてしまったからねぇ。

 古き時代、先祖代々言われていなかったかな? 得体のしれない闇は恐れろとか、手を出すなってね」

「戯言を!」

「現れた化け物はね、私が体に封印していた古代のモノだよ。

 君たちはその蓋を自ら壊したんだ。だから当然の結果さ」

 正確には先代の『堕天使お姉さま』が封印していたモノたちだが、それを言う必要はあるまい。


 魔力を失い力が衰えていった私とは違い、封印するしかなかったモノの中には、超巨大な超獣の類も混じっていた。

 不死な上に巨大。その質量から生み出される行為は魔法に頼ることない、純然たる力だけの存在だ。さぞかし手を焼いていることだろう。

 だが超獣かれらは魔力が失われたあの世界において、最強の存在だ。封印が解けて三百年経っても、まだ人類が生きているのはきっと超獣かれらの気まぐれのお陰だろうね。


「ならばもう一度、貴様に封印させるまで!」

「悪いがそれは無理だよ」

「は?」

 はっきりと無理だ・・・と言ってやった。あの世界の魔力は既に限界まで失われている。今さら私が行った所で超獣に勝てる見込みはゼロだろう。

「き、きさまが封印していたモノだろう! 出来ないわけが無いじゃないか!」

「なぜそう思うんだい?

 あぁ、一度は出来たからと言う頭の悪い戯言はやめてくれたまえよ。

 よく考えてもみたまえ、君が先ほど自慢したではないか、三百年前の兵器で私を殺すことが出来たのだろう。

 そして今持つ兵器はそれよりも強いと、それで倒せない超獣モノが、なぜ三百年前に滅ぼされた私に封印できると思ってるんだい」

 そう言われてみて、彼も遅まきながら疑問を覚えたらしい。

「た、確かにそうかもしれんが、お前は一度は封印していたのだ。何かあの化け物に対策があるはずだろう!?」

「ないよ」

 だ~か~ら~頭の悪い戯言はやめてくれと言ったじゃないか!


「う、嘘だ!!」

「いいや君たちが倒せないのならば、もう誰も倒せない。つまりあの世界の人類・・・・・・・はいずれ滅びる。

 そして滅びてから一万年ほど経ったら、再び封印することは可能かもしれないな」

 何故ならその頃には人間が作った科学文明は滅び去り、再び自然が溢れ返り、世界は豊潤な魔力に満たされるから……

 であれば新たに生まれるだろう、魔法が使える『神』や『神魔』が、それを使えない超獣ごときに負けるわけが無い。

「一万年……、ば、馬鹿を言うな! 今の人類は俺一人、たった一人を異世界ここに送るのが精一杯なほどの余力しか無いんだ!

 あんな化け物相手に一万年も生き延びられるわけが無い……」

「人間は星にとって害獣だから、こうして何度も滅びる存在なんだよ」

「くっもういい!! 貴様のいう事が戯言かどうか、連れ帰って見届けてやる!!」

「あぁエネルギーが勿体無いから、先に教えて上げようか。

 その兵器では私は殺せないし、それどころか一切の傷も負わせられないだろう。

 だってその武器、超獣に効かないんだろう?」

「お、お前はぁぁさっきから言っていることが滅茶苦茶じゃないか化け物ぉぉ!!

 まずは腕だ、その腕を一本もいでやる!!」

 そして男は引き金を引いた。


ビュン!


 音と共に青いレーザーが私の腕に向かって伸びてくる。

 速度はかなり早い。もちろん反応出来ないほどではないが、こちらも解らせてやるためにあえて避けずに受けることを選択した。


バシュッ


 光は私の腕を貫くことなく、腕の前で白い波紋と共に霧散した。これは最低ランクの防御魔法の一つ。

「えっ?」

 呆けた声と表情を見せる子孫の男。

 次の瞬間、慌てて、今度は銃を乱射し始める。

 避けても良いが森に被害が出れば、どりあんがさぞかし怒るだろう。おまけに小言も言われそうだ。

 仕方ないなと、私はすべてのレーザー光線を手のひらで軽々と受け止めて見せた。

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