27:吸血鬼は告白される②

前回のあらすじ。

「はい?」




「だからっ僕はお嬢さんが好きなんです!

 姉からは身分が違うと止められました、けどっ僕はどうしても貴女にこの想いを告げたかったんです!」

 もう一度叫ぶように告白されて、喫茶店の客の注目がさらに集まってしまった。

 弟君……さっきのは聞こえなかった「はい?」じゃなくてね……


 いつの間にか羞恥プレイに晒らされた私だけど収穫はあった。つまりだ、君たち姉弟の喧嘩の原因は完全にこれだと把握出来たよ。

「はぁ……、それで一昨日は喧嘩をしていたのだね」

「す、すみません! 『身分が違う』の一点張りで、姉が全く話を聞いてくれなかったんです」

 お姉さんひょうぃっちの心配ごとと言うか、言葉と言うか、私との『身分違い』と言うのはごもっともな話だ。

 多分だが、弟君は貴族─または姉の主人─と平民と言う意味でひょうぃっちからの忠告を聞いていたのだと思う。だからこそ簡単に納得できるような話ではなかったのだろう。

 しかしそれは的外れな事で、氷ぃっちはもっと別の意味で語りたかったのだ。つまりは人間と異世界人でもあり不老不死の吸血鬼ヴァンパイアと言う意味だね。

 だけど真相が話せないひょうぃっちには説得の言葉が足りなくて、今に至ると言った所だろうか?


 ふむ……

 さて、私は長年、吸血鬼ヴァンパイアなんてものをやっているが、実は人間の子が産めない訳ではない。ぶっちゃけて言えば、人の子だろうが吸血鬼ヴァンパイアの子だろうが自由に産み分け出来るまである。なんなら双子で別々に性別まで選んで産み分けるくらいの芸当も可能だろう。

 やったことないけど。

 さらに不死の者の最大の問題である老化も、魔法が使える吸血鬼わたしには、彼と共に年老いて死にゆくことも可能だ。

 土に還り再び蘇るけどね。

 そう言う意味では、他の眷属かぞくと比べてなんの問題もないのだ。


 しかし私に問題が無い事と、弟君の告白を受け入れることは別だ。


「私のどこが気に入ったのかな?」

 少なくともそれは聞いておかないと~と、私も久しぶりの乙女心にワクワクしながら期待を込めて答えを待った─美少女っぷりに反してそう言った話は実は少ないのだよ─。

 弟君は顔を真っ赤にして俯くと、

「初めて会ったとき、とても可愛い人だなと思いました。

 その後、城を訪ねた時にちょっと偉そうだけど、姉と仲良くしてくれているのが嬉しくて、実は優しい人なんだなと思いました。

 その後は気づけば目で追いかけることが増えてて……、ちょっと前にやっと自分の想いに気付いたんです!」

 まずは顔─絶世の美少女だからね(自慢げ)─、そして続いて姉に接する態度か─さすがはシスコンだね─。

 さらにはにかんだ後、

「姉に相談したんですけど、すっごく反対されちゃって。

 でも想いだけは伝えたくて、こうして呼び出した次第です。今日は本当に、来て頂いて有難うございました」

 まぶしっ、弟君の若さがとても眩しいよ。


 ちなみに私の返事だが……

「いえ、今はまだ要りません。

 いまの僕は貴女に答えを貰えるような身分ではないから。これから自分独りの力で生活出来る様になったら、改めて返事を貰いに来ます!」

「中々に言うじゃないか。

 私が言うのはなんだけどその考え方は大変好ましいと思うよ」

 私がそう告げると、彼は顔を真っ赤にして「そ、そんな好きだなんて」と、慌てふためいた。

「ちょっとは落ち着きなさい。好きじゃないよ、好ましいだからね?」

 しかしトリップした彼の耳には届かないようで、「まぁいいか」と呟いてその話を終えた。


 さて弟君の決意はとても大人びた好ましい物であったが、言うだけなら誰でも出来るよね~と言うことで、

「ところで君は、何で生計を立てるつもりなのかな?」と、問うてみた。

 すると、「僕は冒険者になるつもりです」と、明確な回答が返ってくる。

「それは……、氷ぃっちがきっと許さないと思うんだけど?」

 危険と隣り合わせで常に命を売り買いするのに、身分は根なしの冒険者。これほど不安定で危険な職業も中々無いと思うよね?

 だから氷ぃっちに言えば確実にダメと言われるだろう─彼女は弟の治療費の為に仕方なくやっていたのだ─。


 私の指摘に、弟君は表情を暗くして、

「はい、相談したらすぐに駄目と言われましたよ。

 おまけに姉さんは、ギルドの人たちに手を回して、僕が冒険者登録を出来ない様に妨害してますよ」

 たはははと力なく笑う弟君。

 さすがは『Sランク』冒険者の『氷結の魔女』だね。おまけに最近は、ここらの街のギルドでは城の魔王の仲間と言われて一目置かれてるしね~─暗黙の身バレだ─

 ギルドへの発言力は伊達じゃないね!


「では君が目標通りに冒険者になるのは不可能じゃないかな?」

 もっと別の案を考えてはどうかな? と、助言をしてみたつもりだよ。

 すると、

「実は僕もそう思ってたんですが、昨日無事に登録が終わりました!」

「えっどうやって……?」

 言っちゃぁ悪いが、氷ぃっちのお願い・・・を覆せる様な権力ちからがこの子にあるわけが無いのだ。

 だからこの近辺だと、どこに行こうが登録は出来ないはずだ─さすがに国を変えれば出来そうだが─。

 しかし彼は昨日に登録出来たと言う。本人が昨日と言っているのだから、間違いなくこの街での話だろうしね。

 だったらなんでと聞くしかないでしょ?


「はい、昨日噛みくんさんに送って貰った後、彼が依頼を請けにギルドに行くと言うのでご一緒したんです。

 その時に噛みくんさんに相談したら、『いいっすよ。おいらが後見人になってあげるっす』と言ってくれたんですよ。

 でも姉ちゃんが止めてるからきっと無理だろうな~と思ったんですけどね。

 噛みくんさんがギルドの職員に『この子はおいらの紹介っす』って言ってくれたら、すぐに登録して貰えましたよ。

 噛みくんさんは姉さん以上に凄い人なんですね!」

 噛みくんおまえかーーーー!!


 その後、氷ぃっちと噛みくんが─氷ぃっちから一方的に─仲が悪い状態が続いたのは言うまでもない。



 なお余談だが、弟君は冒険者としてはあまりパッとしない成績だった様だ。

 しかし運だけは良い様で─魔法で治療したので持久力や再生力が高いのだ─、いつも無事に戻ってくることから、いつしか『不死身の~』と言った敬称を付けて呼ばれる存在になっていた。

 でも成績はパッとしないよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る