23:吸血鬼は日常を語る

 私は何の娯楽もなしに城でゴロゴロと過ごしている訳では~、ない!

 今回は私の一週間を軽く話してみようと思う。



 まず月曜日、私は街のギルドへ向かう。

 掲示板から一枚の依頼書を剥がして、受付へ持っていく。差し出した依頼書を確認したギルドの職員は、

「またお嬢ちゃんかい、あんたも物好きだね~」と、ポンポンっと判子を依頼書に打ち付けながら書類の処理を終えて返してくる。

 これでこの依頼書は私が受注したことになるのだ。

「ありがとう」と言いながら笑顔─美少女スマイル─を見せると、職員はでれっと表情を崩して、「頑張れよ」と言って手を振り送り出してくれる。


 さて私が請けた依頼は、『本屋の整理』と言う依頼だ。

 必ず週の初めの月曜日だけ依頼があると言う物で、依頼のランクは『D』とすこぶる低い─ついでに値段も安い─。

 依頼書を手に、いつもの本屋を訪ねると、

「いらっしゃい。あぁお嬢ちゃん、またうちの依頼を請けてくれたんだね。ありがとうよ」

 と、丸眼鏡にちょび髭の白髪のお爺さんが、くしゃっと皺くちゃの笑顔で出迎えてくれる。

「「今日もよろしく」」

 お互い挨拶を交わして仕事に入る─手慣れた今では仕事の説明も無しだ─。週初めである月曜日は、特に新刊の搬入が多く、年老いたお爺さん一人では重い本を陳列するのが大変なのだ。それでギルドに依頼を出していると言った次第だね。

 命の危険が無い数少ない貴重な依頼ではあるが、募集が『ランクD』と言う事もありその報酬はゴブリン一匹程度と、とても安かった。あまりに請ける人が居なかったので、気まぐれで私が請けたのが始まりと言う訳だ。


 約二時間ほどで、大方の整理が終わる。すると、

「お嬢ちゃん、今週はこれなんかどうだい?」

 白髪のお爺さんが分厚い本を私に差し出してきた。その冊数はいつも通りの三冊。

 ちなみにこれが私が依頼を継続して受けている理由だ。もちろん新刊ではないが、白髪のお爺さんのお勧めの本だ。これを借りていき読み終えたら返すのだ。

 この世界には市民が気軽に使える図書館の様な施設は無い─識字率が低い─。だからこのように個人的に親しくなった人から本を借りたりするそうだね。

 おっと勘違いしないで貰おうかな。

 私が親しくなったのが偶々本屋のお爺さんだっただけ。

 やだなぁ他意はないよ、あははは。



 さて続いて、火曜日~水曜日だね。

 月曜日に借りた本を城で読んで過ごすよ。

 ちなみに我が家では、眼鏡美女の面目躍如とばかりに氷ぃっちも私が借りてきた本を読むね。



 そして木曜日。

 この日は森の散策が多い。

 噛みくんを連れて─吸血鬼ヴァンパイアの主観です─、森の至るところに腫瘍しゅようを見て回るのだ。

 以前の様に森に頻繁に冒険者が出入りしているのならば、私たちがこんなことをする必要は無かったのだけどね。しかしギルド側がこの森に関わる依頼をなるべく出さない様にしたことで、森の中には必然と退治されなくなった魔物が沸き溢れて、人里へ向かい被害を出すことが増えていた。

 もちろんそれはギルド側が依頼を握りつぶしているのだから自業自得だよ。

 しかしギルドの代表くんが、

「魔物の討伐数に応じて依頼料を支払います。

 是非とも協力して頂けませんか?」と、頭を下げて来たので、彼の事が嫌いではない私は、「まぁ良いだろう」とその提案を請けたのだった。

 ちなみに見返りは、森で育った『魔石』の販売ルートだ。

 魔物狩りついでに腫瘍しゅようで育った『魔石』を収集してギルドに売る。ギルド側は定期的に森の『魔石』が手に入るし、こちらはその販売ルート─つまりは金銭─を得ることが出来たので悪くない取引だろう。


 なお散策しない場合は、読み残しの本があるときで大人しく城で本を読んでいるね。




 さぁ週末、今度は金曜日だ。

 この日は氷ぃっちに『魔法』を教える日になっている。

 いずれは私を殺して共に死んでくれる存在となるはずの氷ぃっちだが、残念ながら彼女はとても弱い。それは彼女の生まれが純然たるこの世界の人間である事、そして身体的な能力がほとんど変わらない不死人レヴァナントであるからだ。


 幸いなことに、彼女は『魔術』の要素を持っていたので、気まぐれに『魔法』を覚えて見ないかと提案してみたのだ。

「えっ! いいの是非ともお願い!」

 眼鏡をキラキラさせて喰い気味に詰め寄ってくる氷ぃっち。

 これほどにテンションが高い氷ぃっちは弟君関係以外では見たことが無いね。何ともレアモノの表情だね。

 と、言う訳で、たまたま提案した金曜日が週に一度の『魔法』の授業の日となった。


 さて余談だが、『魔法』を教えて一年と少し経った時、『使い魔』なる『魔法』を教えている。

「あたしは持っていないけれど、『使い魔』なら『魔術』にもあるわよ」

「うん、『魔術』の『使い魔』は契約により動物などを使役することだね。

 しかし『魔法』の場合は、無から有を得るんだよ」

 その後、苦心の末に彼女が何とか習得して最初に呼び出した『使い魔』は三体。

 若干高めのテンションで紹介されたソレを見た私は、「だぃそん一号から三号だね」と勝手に名付けたのだった。

「えっと、どういう意味かしら?」

 目の前にいるのは、自らの意思を持ち動く『使い魔』となった、箒、ハタキ、そして雑巾の三体。本当の意味で吸引力の変わらない古き良き掃除道具たちだったよ。

 なお彼女の『使い魔』たちは、お掃除メイドである彼女の仕事を忠実に、末永く助けたそうだよ。




 続いて土曜日。

 週の終わりとなるこの日は、城での問題事や、管理状況─食材にんげんの量などを含めて─について執事の魔王やんから報告を受ける日となっている。

 受けた内容に応じて、解決できることはさっさと解決してしまうのだ。


 ただし最近では食材にんげんの量以外は別段変わった報告は無いので、私が過去にやった事でも話してみようか。

 まず最初に依頼されてやったことは、保冷庫の作成だった。城に棲んだ当初は食べきれないほどの豊富な食材にんげんが手に入ったので、それを保管する場所が早急に必要だった。

 だって食材にんげんは生ものだからね!

 魔王やんのご要望通り、地下にあったワイン貯蔵庫に『時間停止』の『魔法』を掛けている。食材にんげんは一旦すべてここに保管されて、いずれは魔王やんによって調理されることとなるよ。

 なお現在のストックはと言うと、毎日の晩餐を行ったとしても有に二ヶ月は食べられるほどの貯蓄があるそうなので、しばらくは安泰だね。

 他には部屋の灯りだね。

 不死者の棲む城であるからと偏見を持って貰っては困るから、先に言っておこうと思うよ。闇の住人ダークストーカーの私たちは常に暗い場所で過ごしているわけじゃない。夜になれば人間と同じように灯りの下で暮らしているからね?

 とは言えランプの油は使えば減り、それを買うにはお金が必要となる。だからランプには『魔法』で『灯り』を付けたよ。

 あとはコンロを作ったかな?

「薪や炭に比べて火力が出ますからなっ、料理の幅が広がりましたよ!」と、魔王やんはご満悦だったね。

 食材にんげんの幅は頭打ちなので、そちらの方はぜひ頑張って欲しいと思う。



 最後は日曜日。

 この日は朝からだらだらと過ごす日と決めているんだ。

 だから何もしないし、下手をすればベッドから降りたら負けくらいの勢いがあるね。


 大体こんな感じだけど、どうだったかな?

 じゃあまたね。

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