16:吸血鬼は玄関に嘆く
玄関が破壊された翌朝。みんなで庭に出て大きく穴の開いた玄関部分を眺めてため息を吐いていた。扉は完全に吹き飛び、その周囲の壁は半分ほどが崩れて地面にその瓦礫が散乱している。
「お嬢ちゃんそんなに近づくと危ないわよ」
と、まぁ近づけば、常識人の氷ぃっちに注意されるほどの崩れ具合だ。
ちょっと離れて玄関だった部分を眺めつつ、
「玄関どうしようかなー」と、投げやりに呟いた。
その言い方が丸投げっぽく聞こえたのか、
「いくら我が色々仕事を兼任しているとは言え、大工仕事までは兼任できませんぞ」
と、静かに首を振る魔王やん。
「つまり苦手なんだね?」
「─魔族の─貴族たる者が、職人の真似事が出来るわけないですぞ」
そのくせ自分の食べる食事はクソ凝った料理出すよなーとかツッコんであげない。
「噛みくんはどうだい?」
「おいらにそう言う細かい事には向いてないっすよ!」
これは魔王やんよりも潔い言い方で好感が持てるねー
確かに、噛みくんの仕事っぷりと言えば、森から木をぶっこ抜いてきて庭に植えてるだけだもんな。枝の調整も
「あ、うん。向いてなさそうだ。ごめんよ」
しかしあっさりと納得した私に、彼は少々不満があったようで、
「……自分で言ってなんすけど、なんかおいらの扱いがひどいっすよね!?」
ふて腐れている噛みくんを無視して、私は最後の氷ぃっちに視線を向けた。眼鏡黒髪美女は首を左右に振りまくっていた。
あーうん、無理なんだね。
無理アピールが終わると、氷ぃっちは建設的な意見を出し始めた。普段から体を使うよりも頭を使いたがる彼女らしい行動だと思う。
「ねぇお嬢ちゃん。『魔法』で時が止めれるなら時間は戻せないのかしら?」
なんだか私が普段から、ポンポンと時を止めているかのような発言だな。
えーと。
まずは弟君の治療の時~は見てないからノーカンだよね。水筒ならぬ血筒は知ってて、あとは城の一室の
ありゃ結構やってんな。
う~ん時間を戻す『魔法』かぁ~
別に『魔法』ならば出来ないことは無いのだが……
「止めるのは結構簡単なんだけどね、戻すのは因果関係とかパラドックス問題が絡むんで、ちょっと手続きが面倒くさいんだよ。
失敗するとポンってなるけど、まあいいか。試しにやってみようかな」
「ちょっと待って!
そのポンってのは具体的に何?」
彼女は額から冷や汗をツゥーと流しながら、そう聞いてきた。
「最悪、世界が終わる」
「え?」
「まあ言っても、今まで失敗したことはないから大丈夫大丈夫」
「い、いいえ! やっぱり止めましょう!」
玄関の修復に世界は賭けられないとはっきりと拒絶されたよ。
まぁ言い方は大げさだが、巻き戻しによってこの世界が失われると言うことも無いわけではない。まぁその場合は別の
「では職人を呼びますか?」
「えっ仮にも魔王を名乗る者が住む城に、職人が来るわけないでしょ!?」
魔王やんの提案に対して即座に否定を返したのは氷ぃっちだ。
ここで私の名誉の為に言っておきたいことなのだが、私は一切、自分から『魔王』は名乗っていないからね?
そもそも最初にこの城で『魔王』を名乗っていたのは、魔王やんであって、私ではないのだよ。
「でも現魔王はお嬢っすよね!」
「えぇこの城の魔王はお嬢ちゃんだわ」
「我は敗北した身ですからな、現在の魔王はお嬢さまですぞ」
ほら名乗ってないじゃん!
「そんなことより、ここに職人が来てくれると本気で思っているの?」
ええぇそんなこと……なんですか?
「そうですな、金次第ではないでしょうかな」
おい、お前までスルーかよ!?
「報酬が高くて、身の安全を保障すれば或いはと言うことかしら?」
……。
「ええ、そういう事です」
「だったら話は早い。
私は無作為に人を食べたりしない節度ある
早速、呼んじゃおう」
私は我慢できる子だから当然問題なしだよ。
「して、代金はどちらから?」
じっとこちらを見つめる魔王やん。すぐにでも両手を出して代金を要求してきそうな雰囲気だ。
「逆に問おう。
私が来る前、魔王やんが最初にここに居た時はどうやってたんだい?」
つまり金は無い、そしてそれは今も昔も変わらないだろう? と言う質問だ。
「我の使用人の中にそう言った職人がおりましたな」
遠い目でそう語られてしまった。
最初の使用人と言えば、退職金も要求せずに自主退職した方々の事ですね?
とってもエコな使用人だったなーと思いを馳せる。
「その方々を呼び戻すと言うのはどうかしら?」
「OKっす! おいらがひとっ走り呼んでくるっすか!?」
「いや彼らはただの魔族ですからな、もう生きてはおらんでしょう」
ただの魔族って言っても人間数人程度には強いけどな……
とは言ってもバラバラに行動すれば一年もあれば綺麗サッパリ討伐されていることだろう。それが嫌だから、彼らは魔王なんて言う強力な存在に寄生していたのだしね。
今回の悲劇は、彼らの同郷─同じ歪みからは同じ世界の者が来る─である
「あれ。もしかして私が悪いのかな?」
「はっきりと申し上げれば、全面的にそうですな」
「あたしもお嬢ちゃんが全部悪いと思うわよ」
「間違いないっすね!」
「でも私が居なかったら、君たちは色々と不都合があったと思うんだけどね」
例えば魔王やんはもうこの世に居ないかもしれないし、氷ぃっちの弟君もとっくに冥府に旅立っているだろう。そして噛みくん、お前はそもそも呼ばれてない!
「「「うっ……」」」
「これは連帯責任だ、いいね?」
「「「はい分かりましたお嬢!」ちゃん」さま」
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