14:吸血鬼の初仕事
最後の番だった私の冒険者登録がやっと終わった。ランク査定の後は、認証タグを作ると言われて、なんと驚き! タグの認証に使うので血を寄越せと言われたのだ。
私は生まれてこの方、人から血を貰ったことはあっても、渡したことなんて一滴たりともないんだ。
そりゃもう渋ったさ。
「大丈夫だよーお嬢ちゃん痛くない痛くない~」
小さな針を片手に、まるで子供を相手するような笑顔を見せて、にじり寄ってくるギルドの職員。
そーじゃねぇよ!
すったもんだの末、氷ぃっちに押さえ込まれてチクリと刺されました。
「ふえぇぇぇん」
「はいはい痛かったねー」
うるさいバカ、バーカ! 私は泣いてない、泣いてないぞ。
アメちゃんを貰った……ぐす。
さてそんな私を待つ間、魔王やんと噛みくんの二人は我関せずとばかりに大テーブルに座って酒を飲んでいた。
「えっ?」
驚いた声を上げたが、実はこれはなんら珍しい光景ではない。主食が飲み物の私と違って彼らは食いものに合わせて違う酒を嗜むくらいの風情を持っている。
じゃあなんで驚いたかと言えば、
「ねぇなんで君たちは人間たちのお金持ってるんだい?」
針で刺された指を舐めながらそう聞く私。
これは羨ましそうな表情を見せているんじゃなく血をチューチュー吸っているだけ、勘違いしないようーに。
ちなみにこの酒場、場所が場所だけに─根なしの冒険者相手と言う意味で─飲食の代金は先払い制です。
先ほど二杯目の酒を注文する際に、ポッケから当然のようにチャリンと小銭を出した二人を横目で見て驚いたのなんのって。
だってさ、彼らの主人の私が所持金〇なんだよ?
以前からここの世界にいた魔王やんは百歩譲って持っていたとしてもだ、私より後に召喚された噛みくんがお金を持ってるのはおかしいでしょ。
「あれ、お嬢は持ってないんすか!?」
「持ってないよ、当たり前じゃないか」
なに聞いてんだよお前はーと、少々きつめに睨み付ける。
「そりゃあお嬢さまがいつも一番で、用が済んだら庭にポイ捨てするからですぞ」
「あぁそう言えばそうっすね!」
「ほおそれが辞世の句でいいんだな?」
胸の前で片手を拳にそれを包み込むようにもう片方の手を被せて、ポキポキと音を鳴らす。そして座っている二人を上から睨み付けて─立っている私がほんのちょびっとだけ目線が上なのだ─目を細めた。
すると魔王やんは「はぁ」と大げさにため息を吐いて、
「(これは城に来た冒険者の所持金ですぞ。言わなくても察して欲しかったですぞ)」
と、小声で言いじと目でこっちを見つめてきた。
あれ? いつの間にか私が呆れられる風なんだけど、どうしてこうなったのかな。
話が一向に進まないことにしびれを切らした氷ぃっちが、釈然としない表情を見せていた私の首根っこを突然掴んで歩き出した。危うく転びそうになりたたらを踏むが、氷ぃっちは止まらない。
「ちょっと危ないってば」
「いいからこっちに来なさい」
さっきの二人といい、どうしてうちにはこうも主人を敬わない者が多いのだろうか。そんな悩みを抱いているうちに引きずられてきたのは、依頼の貼ってある掲示板の前。
「はい受ける依頼を選んで。
あたしのランクがSだから、Sランクまで請けていいわよ」
普通は最低ランクの人にランクを合わせると思うのだけど、ここでは逆らしい。
「それで本当に大丈夫なのかい?」
「ええ自己責任と言う奴になるわ」
自己責任、自分の責任は自分で取りましょう~とは何とも良い言葉だなーと思うよ。
「自己責任とは言っても、一緒に請けた子が何度も死ぬとペナルティがあるからね。
そうなると自己責任とか言ってられないわ」
過去には低ランク冒険者を誘い無茶をさせて、死体を漁った冒険者もいたそうで、そのような規則が追加されたそうだね。
うわぁ悪い事考える奴も居たもんだなー
「あっその規則って死ななければOKだったりするかい?」
「その先の質問が想像できるから先に答えてあげるけど、血を吸って記憶を消しておくとかやったら、あたしが許さないわよ」
そう言って眼鏡をキラッと光らせてニッコリと笑う氷ぃっち。
「やだなーハハハ、そんなことするわけないじゃん」
賢い女性はどうやら勘も鋭いらしいね。
※
私たちは結局、お試しと言うことでランクC-の野盗狩りを請けた。
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【野盗狩り】
場所:町の東街道~山中
難易度:C-ランク(三~五人相当)
依頼主:町役場
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なぜこんなランクなのか?
その答えは二つある。
一つ目は町から近いから。
これはとっても大事なことだ。
遠ければ疲れるんだよ。主に移動に使われる私だけがね!
きっと私だけが飛び、眷属の彼らは影に潜むに決まってるよ。そんな主人だけを働かせるような理不尽、天が許しても私が許さないぞ。
そして二つ目は、低ランクだから。
なぜ低ランクが理由になるのか?
それはよーく考えてみて欲しい。何がって冒険者のランク比率を考えれば自ずと答えは見えてくるからさ。
そもそもこの依頼はランクC-の時点でほぼ誰でも請けられることになる。そう、それこそ初日に声を掛けてきたあのピンと来ない青年でさえもね。
ってことはこの依頼は他人に請けられて無くなりやすいと言うことだ。
しかし逆にBランクや下手したらSランクなんて言う高難易度の依頼ならば、請けられる人が稀なので、塩漬けされていつまでも残っていることになる。
そう言う依頼を積極的に残しておけば、取られることもなくて、常に喰いっぱぐれないと言う事だ─文字通りの意味です─
あれば低ランク、そして低ランクが無ければ高ランクを請ければ良いのですよ!
「まったく悪知恵が働くと言えば良いかしら……、冒険者のマナーも糞もないわね」
呆れ顔を見せる氷ぃっちは、基本低い依頼は低いランクに譲るのがマナーだという。確かに今後も冒険者として食っていくならそれが必要だけどね。
私らは─文字通り─喰っていくために請けてるから何でもいいのだよ~
さてこの依頼だがランクが低いだけに報酬は安いが、結果は生死問わずと、とてもよい内容でした。
ただし殺害時は、相手の身分を表す何かを持って帰ることが規則だそうだ。具体的に言うと、耳か首だってさ。
なお大抵の人が首は気持ち悪いので耳を持って帰るらしいよ?
首だと受け取るギルド側の職員も嫌な顔するんだってさー
じゃあ持って帰らせるなよ! と思うが、まぁ古い規則だから仕方ないらしい。
しかしうちの場合はどうやら理由が違ったらしい。
「首ですか当然お断りいたしますぞ。
首には食べるべきところが多い。目はプリプリですし、脳しょうは栄養があってとても美味ですぞ」
「じゃあ首は無しだね。
魔王やん耳を削いでくれるかい」
「うむむ耳ですか。
こちらもコリコリとして中々に食感が楽しくて捨てがたいですぞ」
「おぃ?」
依頼は速攻で終わった。
しかしその後の魔王やんの解体作業の方が、文字通り馬鹿みたいに時間を
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