13:吸血鬼は冒険者ギルドに向かう
『Sランク』冒険者の『氷結の魔女』が単独とは言え、任務に失敗したことが知れると、私の討伐依頼に関しては凍結されることとなった─氷ぃっちが町で調べてきた─
もはや過去の遺物でもある『SSランク』の冒険者が現在は不在となれば、『Sランク』は現状最高のクラスだ。それが単独とは言え負けたのだから次に送り込むのは、『Sランク』のパーティーになる。
しかしレアな『Sランク』をそんな簡単に数が集められる訳はない。
ギルドが対処できないのならば、国が軍隊でも送り込む話になりそうなものだが、幸いなことにギルドはその城に住む
だから、交渉の手筈が整うまでの間、彼らは私に手を出すことを禁じた。
こうして依頼は取り下げられたのだが……
「だめっすね。森にも獲物がいませんよ」
庭師兼狩人の噛みくんが、今日も何も獲れなかったと手ぶらで森から帰ってきたのだ。そう
深い森の中にある小さな城、そこが私が住む場所である。森は道に迷える程度には深くて、マナが滞る
そんな危険な森だからこそ、冒険者への依頼は絶えずあって、噛みくんが狩人生活を送れば悪くない程度の
しかし……それさえも今は居ないと言う。
城に
「我もそろそろ空腹が限界ですぞ」
そう言って飲み物と甘味を貪る魔王やん。
全く栄養は無いのだけど、何も食べていないと口が寂しいから~という理由で頬張っているのだろう。
そんな中一人、空腹だろうがジッと我慢しているのは氷ぃっち。
彼女はまだ人から生命を吸う気になれないようで、その不死性を生かして食べない選択を貫いている。
「純潔なんて贅沢は言わない。血が~新鮮な血が飲みたい」
「我も肉が喰いたいですぞ」
「肉が削げ落ちててもいい、骨がしゃぶりたいっす」
「情けないわね貴方達、もう少し我慢したらどう?」
そんな素っ気ない態度の氷ぃっちに、私は渋々昔話を披露することにした。
「いいかい氷ぃっち。
これは前の世界での話なんだがね、ちょっと羽目を外し過ぎた私は人間たちに追われてね。しばらくの間、
そうだな……、確か一ヶ月半くらいだったかな?
ん、なぜ自分の事なのにうろ覚えなのかって? そりゃそうだよ。
我慢しすぎた私は我を忘れてね、暴れた記憶もなしに近隣の都市を二つほど壊滅させていたんだからね」
いやはやあの時は凄かったね。
お腹は一杯なのに何をどれだけ
そしてその後、人間から目の敵にされて散々追い回されたんだよなー
その時の子孫が恨みをこじらせて、棺桶まで木の杭もって復讐にやってくるまであったよ。
「えっと、都市と言うのは?」
「人口五十~百万人くらいの街のことだね」
「百万人……、そんなのこの国の王都でもそんなにいないわよ!!」
「ありゃりゃこの世界だと国が滅んじゃうかー」
ふぅとこれ見よがしに大きなため息を吐く氷ぃっち。
「分かったわ、すこし案があるから今回はそれで妥協して頂戴」
※
私と他三人は冒険者ギルドにやって来ていた。
ちなみに今回の発端は、城に
氷ぃっちの出した案は簡単だった。
冒険者登録をして、依頼を請けると、ただそれだけ。
それが何の意味があるのかと言えば、
「依頼の中に『野盗討伐』と言うのが結構な頻度であるの。相手は悪党だから生死は問わずの依頼ばかり。
まあそう言う訳よ……」
言葉尻は濁したが言わんとすることは大体分かった。
基本的には人間を護ろうという立場をみせる彼女ではあるが、さすがにその救いの手を悪党まで伸ばすつもりは無いようだ。
「ちなみに冒険者登録しなければいけない理由は何かな?」
「依頼を請ける方が相手を探さなくてよい分楽でしょう?
ついでに報酬も入ってお金が儲かるわ」
「お金って……」
なんと現金な話だろうか。正直私はお金が無くても何とかなるじゃん系の性格をしている。まぁ血はこそっと人から貰えばいいからね、って、あれ? 私だけならそれで良かったんじゃね?
「いーいお嬢ちゃん! お金は大事よ。皿や椅子、それにフォークやナイフだって買い足す必要があるんだからね。
お嬢ちゃんが何気なく使っているタオルや洋服もそうよ! 掃除道具一つでも買い直すにはお金はいるの!」
何かのスイッチが入ったように、私を叱り始める氷ぃっち。
「ああ、うん良くわかったよ。もしかして、いま何か欲しい物でもあるのかな?」
「恥ずかしながら、最近はハタキが古くなってるから新しいものがあると掃除が捗るわね。あとは石鹸が小さくなってきて無くなるのが怖くてちんまり使っているの。お風呂くらい何も考えずにのんびり入りたいわ」
「主婦か!?」
「メイドよ」
少々の問答はあったが私たちは冒険者登録をすることになった。
ちなみに……
「名前は?」
「
「それは実名ですか?」
「そうですぞ」
「そ、そうですか……。えっとその耳の上にある羊の角の様な物は?」
汗をつぅと流す受付くん。
「羊? なんと無礼な、これは羊ではなくて悪魔の角ですぞ!」
「えっ悪魔を討伐したのですか!?」
「討伐? 君はいったい何を言っているのだ」
「……?
まあいいです。それ邪魔ですから取ってくださいね」
「は?」
「仮装の被りでしょ、ほら取って」
「いやこれは我のシンボルともいえる品で決して取れたりはせぬぞ」
「ちょーっと魔王やん、こっちおいで」
ここで私が、いい加減キレそうになっていた魔王やんを呼びつけた。彼は「あ、ちょっとすいません主が呼んでおりますので」と言って受付を離れてこちらへテテテと走り寄ってきた。
流石忠犬。
まあ屈めと手で合図を見せ、彼が軽く屈んだ所で……
ふんぬっ!! ボキッ! おまけにもう一つボキッ!!
「アイダァ!?」
「やだなぁお兄ちゃんったら大げさな声出しちゃて~」
にこにこと笑顔を浮かべて私は羊の角を差し出した。
涙目の魔王やん。
よせよ、そんな目で見ないでくれ……
魔王やんの登録が終わると、一仕事終わったとばかりに深い溜息を吐く受付さん。
うんうん、気持ちは良くわかるよ。
「はぁ~、次の人~」
「はいっす!」
書き終えた書類をスッと差し出す噛みくん。
書類をパパパと確認した受付くんは、顔を上げてジッと噛みくんの顔をみた。
「名前、噛みくんって本名ですか?」
「はいっす!」
曇りなき眼で迷いのない良い返事だ。魔王やんとは違うぜ!
その勢いに気圧されて受付くんは、へぇそっかーくらいの勢いでスルーしたぞ。
慣れて来たのかな?
「えっと頭の上にある耳はなんですかね?」
「狼の耳っす!」
「ちょっとまったー」
と、割って入ったのは『氷結の魔女』こと氷ぃっちだ。
私たちは彼女の言った意味が分からず首を傾げたね。
噛みくんをこっちへ引っ張ってきて、
「ちょっとなんで噛みくんに耳ついてんのよ!?」
ヒソヒソと小声なのにキレ気味と言う何とも器用な声をだす氷ぃっち。
なんだよその生物を真っ向から否定するような発言は!? 耳くらい誰でもついてるだろう?
やっぱり首を傾げる私に、
「だからなんでケモ耳なのよ!?」
「噛みくんが狼男だからさ。氷ぃっちも知ってるだろう」
「いーいお嬢ちゃんが前いた世界がどうかは知らないけど、この世界で頭に獣の耳はえてりゃ魔物なのよ!」
ポンっと、手を打つ私。
「おー、まじかー獣人族って魔物なんだー」
常識が違い過ぎてどうやら誰も気づかなかったようだ。耳を切るわけには行かないからと姿隠しの『魔法』で解決しました!
ちなみに魔王やんが、自分の折れた角と魔法で済んだ噛みくんの耳をチラチラと見比べているのはスルーした。
さて最後は私、存在これすでに常識外の二人を相手し、受付くんは物凄く疲れているようだ。
だが安心したまえ、最後の私には不備なんてない!
スッと一瞬で通って見せようではないか!
と、思っていた時期が私にもありました。
「年齢に永遠の十八歳とあるんですが?」
「えっ、十八歳+一〇〇〇+αの方が良かったですか?」
「あのね。お嬢ちゃんは十四~五歳に見えるんだけど、本当に十八歳なのかい?」
「あっいえ今は十四歳です」
「今は?」
「間違えました十四歳です」
「あとね、特技の欄は得意なことやスキルを書くところなの。誰もここで美少女とか聞いてないからね?」
「でも可愛いでしょ?」
「うーん……」
「オィコラ!?」
「ハイハイ可愛いねー。あ、あとここも書き直してね」
くっ……
こうして受付くんを散々困らせた私たち三人だったが、続く実技の模擬戦では……
「あ、あの『氷結の魔女』さんの推薦なのはもう理解できましたから、もう許してください」
実技担当らは開始五分も経たずに泣きを入れてきた。
どうやら先ほどのうっ憤を晴らすべく、ちょっとハッスルしすぎたらしい。
冒険者の実力には腕だけではなく、経験や知識そして信頼も必要と謳っていたはずなのだが、泣きが入った後は、みんな仲良く登録時の最高ランクである『B+ランク』にされた。
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