判断の難しい作品でした。
テーマから考えてみたのですが平和、自死、性差、生き方とざっくり思いつくだけでも複数あります。自死と生き方と平和がくっついていて、性差は割合独立している感じがしました。
加えてどのテーマについても強く結論が書かれているわけではない。かたや「最後の力を振り絞ってそれを考えるよ」と結ばれていて、かたや与えられた名づけによって性別を決定するという締め方がされています。続きが気になります。
設定で言えば近未来、アンドロイド、天才女性科学者、とモリモリです。結果的にめちゃくちゃ特徴的な舞台とキャラクターで読者を呼び込み、複数の問いを与える構造をしています。
率直に言えば最初は少し読み解きづらさがありました。2度目に読んで揺れている良さに気付きました。
答えを出すことが物語の役割とされている共通認識があります。ですがおおよそ人生なんて答えの出ないまま終わっていきます。博士は研究とか自然とか平和とか遺書の中でいろいろ語るのですがあんまり響いてこないです。実際そこには答えが見つからなくてただ揺れているんですよね。
性差について考えてみると主人公の名づけによって決定しています。性別という一番揺れていいものについては名づけによって揺れを止めて固定しています。
で揺れていること、固定することについて考えると主人公は固定したがりですが答えははっきり言いません。物語の構造としては博士とアンドロイドが軸でこちらはよくしゃべるけど揺れたがりです。なのでどちらも不完全に書かれていてどちらとも読めます。
つまり揺れ、というテーマで見ても揺れています。ここがいいです。すべてのテーマについて徹底して揺れています。答えを出す作品ではなくて、揺れたまま生きて死ぬことを肯定する話なのだと私は感じました。不思議な優しさのある話です。