第335話 悪逆無道

 都市オレオル。

 聖国ジャーダルク南部に位置する人口14万人ほどの都市である。


「お通りください」


 フードで頭まで覆われた少女がイリガミット教の信徒の証であるアミュレットを見せると、門兵は特に疑うこともせずに通す。

 少女はそびえ立つ城壁の門をくぐり抜け、眼前に拡がる町並みを眺めながらも、頭の中では景色などではなく別のことを考えていた。


(ここにチェーザ・タムハ・ボルジムアがいるのですね)


 少女――――エヴァリーナ・フォッドはヒルフェ収容所の前所長であるチェーザ・タムハ・ボルジムアに話を聞くために、遠く離れた地まで単身で旅をしてきたのだ。


「ここも寒いのは変わらないのね」


 そう呟きながら空を見上げ、次に大地へ目を向ける。雪こそ積もっていないが、ここも凍土と呼ばれるほど大地は冷たく、また硬い。このような場所では作物は十分に育たず、庶民の食料の多くが他国からの輸入に頼っているのが実情である。

 14万人といえば、小国に匹敵するほどの人口であるにもかかわらず、この都市はどこか活気がないようにエヴァリーナは感じる。


 仮にも聖女候補であるエヴァリーナであれば、要望を出さなくても複数の護衛のもとオレオルまで安全に移動することができただろう。だが、エヴァリーナはそうしなかった。個人的なワガママだからと素性を隠し、一般信徒のフリをしてオレオルまで自分の足で来たのだ。

 今回の件、発端は都市カマーのユウとの会話である。ヒルフェ収容所を調べれば聖神薬の真実がわかると。


(どうせつまらない嘘だと思っていたのに……)


 ヒルフェ収容所を調べれば調べるほど、知っている者に話を聞けば聞くほど、エヴァリーナの拠り所である信仰心が揺らいでいく。だが、ここで諦めるほど、この少女の心は不幸にも弱くなかった。また魔物や野盗が彷徨うろつく危険な長旅を単身で難なくこなすほど肉体は強靭であったのだ。


 都市の中心街を避け、人目につかないようにエヴァリーナは足を進めていく。やがて高い塀に囲まれた大きな館が見えてくる。


(このような広大な土地と建物を個人で所有して、恥ずかしくないのかしら)


 イリガミット教の信徒として清貧を貫くエヴァリーナからすれば、この建造物は教義と相反する存在であった。心の中でとはいえ、悪態をつくのも無理はなかろう。


「お待ちしていましたよ。シスターエヴァリーナ」


 門の先、扉の前で待ち構えていたのは光沢のある衣服にガウンコートを羽織り、白髪に髭をたくわえ、体重は優に100キロは超えているだろう恰幅のいい男であった。


(想像よりずっと若い見た目ね)


 男の見た目は40代といったところだろうか。だが、エヴァリーナが事前に調べた情報では実年齢は91歳である。庶民であれば歩くのも覚束おぼつかないはずなのに、髪こそ白髪であるが受け答えも、声も、足取りもしっかりとしていた。


「大手を振ってとはいきませんが、ようこそ我が家へ」


 大仰な振る舞いで――――チェーザ・タムハ・ボルジムアはエヴァリーナへ挨拶し、そのまま館の中へと案内する。


「内密でとのことなので、使用人には今日は暇を出しています」


 当たり障りのない会話をしながら、チェーザは館の奥へと進んでいく。


「チェーザ卿、この先は行き止まりなのでは」

「いいえ、ここで問題ありません」


 通路の突き当り、一見なんの変哲もない壁にチェーザが手を当てると壁の一部がスライドし、ドアノブが現れる。さらに慣れた手つきで鍵を差し込み回すと、今度は壁面全体が横へとスライドする。


「驚きましたかな? 下手に魔法などで隠蔽するよりも、古臭いこの手の手法のほうが意外と上手く物を隠すことができるのですよ」


 隠し部屋に足を踏み入れるなり、エヴァリーナは目を見開く。隠し部屋なのだから、窓がないのは不自然ではない、むしろ当然ともいえるだろう。驚いたのは部屋の壁一面に飾られているモノ・・にである。


「どうですかな? 私の戦利品トロフィーです」

「これは……尻尾・・ですね」

「ええ、そうです! ここに飾ってあるのは私が所有するモノの中でも、自慢の逸品ばかりなんですよ」


 エヴァリーナが言ったとおり、壁一面に飾られているのは動物のモノと思われる尾であった。それも同種ではなく様々な尾が丁寧な処理を施されている――――とはいえ率直に言えば、異様な部屋だろう。


「ささ、席へどうぞ。聖女候補に酒はさすがに拙いので、紅茶でお許しを」

「気遣いは結構です」


 一瞬、事前に準備していた紅茶をティーカップへ淹れるチェーザの手が止まり目が細まるのだが、すぐに柔和な笑みを浮かべると気にした様子もなく紅茶を注いだティーカップをエヴァリーナの前へ置く。


「まあ、そう言わずに。聖女候補がわざわざオレオルまで単身でお越しになられ、しかも内密にとのことなので、よほどな内容とお見受けしました。こう見えて緊張しているのですよ」


 腹を軽く叩きながらチェーザは「ハハハッ」と快活に笑う。


「それよりどうですか?」


 再度、チェーザは同じ言葉で尋ねる。自慢したくて仕方がない様子であるのは、普段は同じ聖女候補としか話さず他者にあまり関心を抱かないエヴァリーナでもわかる。


「丁寧な仕事かと」


 別に世辞を言ったわけではない。事実、ここに飾られている尾は綺麗な状態で、それを見たまま言葉にしただけであった。

 だが、チェーザはエヴァリーナから称賛されたと受け取ったようで、それは大いに満足そうに、歯を食いしばりながら鼻から堪えきれない鼻息を出す。


「あなたなら理解していただけると思っていましたよ。中には耳などを切り取って飾る者もいるそうですが、私には理解できませんね。あれは悪趣味です」

「耳……ですか?」

「ええ、ええっ」


 語気を強くしながらチェーザは話を続ける。自分の話にもっと耳を傾けろと言わんばかりに。


「私のこれ・・は愛国心の証明なのです。他の者たちのように自慢するために集めているわけではないことをご理解いただきたい。

 いいですか? 他の者たちはやれ長耳がどうたら、色や形がこうだの、ドワーフや小人の少し尖った耳の形が好きだの、それに――――」

「待ちなさい」

「――――どうかしましたか?」

「あなたが先ほどから話していた耳とは……」

エルフ・・・ドワーフ・・・・などの話はお嫌いでしたか? 仮にも聖女候補が種族差別とは感心しませんな」


 小馬鹿にするように鼻で笑うと、チェーザはティーカップを摘み紅茶を一口ほど口に含む。


「なにを言っているのです。まさか……ここにある尻尾はっ」

「獣人のモノですが、それがなにか?」

「あ、あなたはっ」


 不思議そうな顔で問いかけるチェーザの姿に、不気味さに、同じ人とは思えないような異質な気配に、エヴァリーナの腕に鳥肌が立つ。


「しかし、私にも唯一の汚点というか心残りがあるのですよ。今から二十年ほど前のことなのですが、ある森でいつものように獣人の駆除をしていたんですが……ははっ、この私としたことが一匹・・だけ取り逃がしてしまったんです」


 本当に心の底から絞り出したかのような声であった。


「ですが、あれですな。狼は群れで生活し、仲間を思う心はどの種族よりあると言われていますが、あれは真っ赤な嘘と思い知らされましたよ」


 困ったように頭を掻きながらチェーザは薄ら笑いを浮かべながら話を続ける。


「取り逃がしたのはまだ幼い狼人でしてね。私は逃げていくそいつの母親の顔を持ち上げて、こう言ってやったんですよ。戻ってこなければ、お前の母親を殺すぞ! とね」


 そのときの様子を再現するかのように、チェーザは両腕を使ってエヴァリーナによくわかるよう見せつける。


「母親はなにやら喚いていましたね。逃げなさいとか、自分のことはいいからとか、お前だけでもとか、ね。ハハハッ! 本当に笑かせてくれる」


 狂気じみたチェーザの独白に、エヴァリーナは緊張から喉が乾いていく。


「だから、こうやって首を斬り取ってやりましたよ。それで、その生首を高く掲げて言ってやったんです。お前が戻ってこないから、母親は死んだんだぞおおおおおっ!! てね。ハハッ、ここで普通なら戻ってくると思うでしょう。シスターエヴァリーナ、あなたもそう思うでしょう? でもね。逃げていったんです。遠吠えのような鳴き声を上げながら、私は唖然としましたよ。狼人の誇りはどこへいったのだ? 群れへの思いは? 家族への愛は? ね、獣人なんぞ所詮はこんなモノなんです。ああ、尾を斬り取ったあとは、ちゃんと細かく斬り刻んで大地へと返しましたよ。あんなごみでも多少は役に立つようで、森と大地への糧となるようです」


 チェーザがテーブルへ体重をかけると、ミシリッ……と軋む音が部屋の中に響く。


「さて、少しばかり私の自慢と後悔について話しすぎましたかな」

「あなたはっ……イリガミット教の信徒として恥ずかしくないのですか!」

「恥ずかしい? はて、これは異なことを申される。先ほども申しましたが、これは私の愛国心ゆえの行いなのです」

「これの、どこに愛国心があるというのですかっ!!」


 ついに我慢できなくなったエヴァリーナが声を荒らげてしまう。ヒルフェ収容所のことを知るために感情を上手くコントロールしなければいけないと決めていたのに、チェーザのあまりに非道な行いに心を乱されたのだ。


「シスターエヴァリーナ、誰がこの呪われた地を護っていると思っているのです。他ならぬ我々、尊き血を持つ貴族の末裔でしょう。あなたのような聖職者が己が手を穢すことを忌み嫌い、その結果どうなりました? 聖なる地と称されたこの聖国ジャーダルクが、薄汚い亜人が跋扈する地と化したではありませんか。

 いいですか、この国を千三百年以上前から護り続けてきたのは、繰り返しますが我々なのです。

 この不毛な土地にある極々わずかな作物が育つ地を、獣人やエルフたちから護り、自らの手を血で穢しているのは誰ですか? あなた方のような聖職者が得意げに信徒へ説法して回れるのは誰のおかげなのですか」


 異様な部屋に不気味なチェーザからの圧力に飲まれかけたエヴァリーナであったが、逆にその異質さが冷静さを取り戻すきっかけとなる。


(人と思うから気圧されるんだわ)


 わずかに乱れていた呼吸を整え、イリガミット教の聖典を脳内で朗読することでエヴァリーナは平静を取り戻す。

 しかし、チェーザはエヴァリーナが落ち着きを取り戻したと見るや、すぐに次の手に移る。


「少々、年甲斐もなく興奮してしまいましたな。私はなにもイリガミット教と敵対したいわけでも貶めるつもりもありません。

 そうそう、あなたがここに来た理由も察していますよ」

「では――――」

「これでしょう」


 エヴァリーナの言葉に被せながらチェーザはテーブルの上に小瓶を置く。


「こちらはなんでしょう」


 白々しいと呟きながらチェーザは両手を合わせて揉みほぐす。


「あなたがヒルフェ収容所について調べていたのはわかっています。今さらとぼけなくてもいいじゃないですか。そもそも、あなたは身分を隠して調べていたようですが、どれほどローブで身を隠そうと、うら若き、それも美しい少女が町から町へ独りで旅をしていれば嫌でも目立ちますよ」

「――――なら話は早いですね。私はヒルフェ収容所について調べています」

「ですから、あなたの目的の物をこうしてお見せしているではないですか」


 ここまできて、まだとぼけるのか。この小娘はと、さすがにチェーザも苛立ち始める。


「この小瓶がなんだというのですか」

「あなたが探っていた聖神薬を、こうして見せているのになにがご不満なのですかっ」

「聖……神薬…………この小瓶の中身が……?」


 小瓶に満たされている液体は澄んでわずかに輝いてすらいる。エヴァリーナが知っている聖神薬は赤にも青にも黒色にも見える液体である。いま目の前にあるモノとは似ても似つかない。

 訝しむエヴァリーナをよそに、チェーザは饒舌に話し続ける。


「あなたが上層部から極秘に、ヒルフェ収容所の所長であった私の横領・・を調査しに来たのはわかっています。いいじゃありませんか。誰もが嫌がる薄汚い亜人を殺処分し、その魂で加工する聖神薬ではなく、イリガミット教の信徒から創られる純粋な聖神薬を少し横流しするくらい当然の権利だと私は思いますよ。そして、それを自身に使ってもなんら問題はありません。誰が私を非難できると言うのです。処分した遺体もちゃんと加工して捌き、その利益であなた方も餓えずに済んでいるではないですか」


 心外ですとばかりに身振りで訴えかけるチェーザであったが、エヴァリーナはそれどころではなかった。


(聖神……薬の材料が…………人の………………魂……なにを言っているの……そんな、そんなはずが……あるわけがないっ。それじゃ私がこれまで………………配り歩いていた聖神……薬は……薬は……――――違う、違う違う違うっ!!)


 せっかく取り戻した落ち着きが乱れに乱れていた。


(それに……この男っ……遺体を、加工…………して捌く? 亡骸をっ……亡骸をっ!!)


 緊張と混乱、さらにチェーザの常軌を逸した言動に主張、十四歳のエヴァリーナには聖国ジャーダルクを運営するうえで必要なことと言われても、なに一つ――――全てが理解できないことだらけであった。とにかく今は無性に喉が乾くので、ティーカップから紅茶を口に含む。二度、三度と紅茶を飲むと、不気味な笑みを浮かべながら自分を見つめるチェーザと目が合う。


「ところでシスターエヴァリーナ、風の噂でステラ大司教がお亡くなりになったと伺ったのですが」

「だ、誰がそのようなことをっ」


 エヴァリーナの反応からステラが亡くなったのだと、チェーザは確信する。


「そうですか……ステラ大司…………ひっ…………ひひっ…………ひゃひゃひゃっ!! とうとうくたばったか!!」

「チェーザ卿、気でも触れたのですか!」

「ひーひっひっ! ひーひー……はぁはぁー、あー……ん? 私は至って正常ですよ。おかしいのはステラのほうでしょう。たかが町の一つや二つを見捨てただけで、己が分もわきまえずに兄へ抗議するなど。いいですか? 高貴な身分の者にはそれ相応の役割があります。己が我欲から『ラインハルトの森』へ兵を差し向けた兄は確かに少しは非があるかもしれません。ですが、そこらの庶民と兄とでは命の価値が違う。そう安々と身を危険に晒していい立場ではないのです。当然、身を護るために家族と信頼できる配下とともに避難するのは、なんらおかしな行為ではなーいっ! それをあの小娘めが、正式な裁判にもかけずに私の兄を断罪したのですよ? いやー、くたばってくれて清々しました」

「人のことよりも、ご自分の心配をされたほうがいいのでは」


 もうこれ以上はチェーザの口から言葉を聞きたくないと、エヴァリーナは威圧を放ちながら椅子から立ち上がる。


「そのお言葉はそっくりお返ししますよ、エヴァリーナ」

「なにを――――ごふっ」


 拘束魔法を放とうとしたエヴァリーナが吐血する。ローブがあっという間に血で真っ赤に染まり、そのまま膝から崩れ落ちていく。


「ひゃーっ!! なーにが聖女候補だあぁぁぁっ!!」


 本性を現したチェーザはきゃっきゃっ、と喜びながら跳びはねる。そしてエヴァリーナの後頭部に足を乗せると体重をかけていく。


「聖女候補だからと、毒など盛られていようが効かないと、ひゃっひゃっ、油断しましたね。この毒はある男から譲り受けたモノで、あのステラにすら効いた毒なんですよ。しかーも、お前には薄めずに原液を使用したあぁぁぁ。どうだ? 苦しいか? だが、これがお前たち薄汚いイリガミット教の罪である。私からすれば亜人もお前たちも変わりない。皆等しく塵だあぁっ。さて、これからどうしてくれようか。このまま死ぬまで苦しませるのもよし。さらに身動きできないようにしてから奴隷商に売り払うのもよし」


 チェーザは初対面からエヴァリーナのことが気に食わなかった。正当なる聖国ジャーダルクの支配者である、高貴なる血を受け継ぐ自分に対してするような振る舞いではなかったからである。言動から目つき、身振り、全てが気に食わなかったのだ。


「さて、よお~く考えてみたのですが。やはり私の今後の身の安全を考えて、あなたにはここで死んでいただくことにしました。それで――――げはっ!?」


 部屋の隅に隠していた剣を鞘から引き抜こうとしたチェーザの身体が硬直する。否、硬直ではない。身体をなにかが凄まじい力で締めつけているのだ。


「な、なにがっ……お、こ……息がっ…………」


 顔をなんとか下へ向ければ、自身の身体を掴む巨大・・な手が見えた。


(なん……だっ? これ、は?)


 次に無理やり顔だけ振り返ると、そこには――――


「エ、エヴァ、ご、ごいづ、ぐっでいい?」


 ――――巨人がいた。


(馬鹿な゛っ!? ハーフ……い、いや、クオータージャイアントっ!?)


 巨人の大きさは7~8メートルといったところであろう。人類とはかけ離れた体躯に骨格、そしてその巨躯を支えるに相応しい巨大な足に大きな腕が、狭くない室内で窮屈そうにしていた。


(ありえんっ!? どこに隠れていた。そ、そもそもこの巨体では部屋の入口は通れ……い、いかん、息がっ)


 巨人の手がチェーザの胸部を圧迫しており、呼吸をしたくてもできないのだ。できることは息を吐くことだけである。


(意識が……ま、ず、いっ……助け、を)


 なんとか助けを呼ぼうと考えるも、その自分を助けてくれるはずの使用人はチェーザ自身が暇を出していた。


「そこまでよ」


 あと少しで死ぬところで待ったがかけられる。


「ご、ごいづ、悪いやづ。ぐ、ぐっでいい?」

「ダメよ」

「エ、エヴァにひどいごとじだ」

「いいのよ。あなたのおかげで助かったんだから。ね?」


 エヴァリーナの優しい声音に、チェーザを締め上げる巨人の手から力がほんの少しだけ緩められる。


(なぜこの女は生きているっ)


 吐血はすでに治まっており、エヴァリーナは血塗れのローブ以外は最初にあったときと変わらぬ姿で立っていた。


「言うほど大した毒じゃなかったみたいね。それとも経年劣化でもしていたのかしら」

(そ、そんな……馬鹿なっ!? 薄めた状態でもステラに効いた毒だぞ)


 自分に毒の入った瓶を渡した男のことを、薄れゆく意識の中でチェーザは思い出す。その男の一言一言が心地よかった。まるで自分のことを自分以上にわかっているような男であった。兄を殺されたことを訴えても、誰も理解してくれなかったのにその男だけはわかると言ってくれた。


(ま……まさか…………最初に……渡した分だけ……本物だった、のか!? おのれっ、あの男――――『放浪の救世主・・・・・・』などと、私を謀りおって!!)


 巨人がまた手に力を込めながら、エヴァリーナのほうへチェーザを差し出す。


「あなたには色々・・と聞かねばならないことが増えました。まさかあなたも、この場で死んで償えるなどとは口が裂けても言えないでしょう。それだけのことをあなたは仕出かしたのですからね」

「ま、待てっ……わた、しの話を――――」

「少し黙っていてくれないかしら」


 そこでチェーザの意識は途絶える。巨人が手に力を込めたのだ。


「ごれぐっでいい?」

「ダメっ」


 自分に向かって撫でろと要求する巨人の頭を撫でながら、エヴァリーナは今後どの様に動くべきか思案するのであった。

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