第321話 店舗
「あ~あ~。あ~あぁ……はあぁぁぁ~ああぁぁぁ……」
浜辺に波が寄せては返す。穏やかな海を眺めながら、桟橋に腰掛ける魔落族の男が大げさにため息をついた。魔落族の男性の持つ特徴的な樽体型の大きな腹が、ため息に合わせてゆっくりと動く。
ネームレス王国の港――いつもなら活発に働く者たちで騒がしいのだが、どういうわけか今日は普段より人もまばらで、表情もどこか辛そう――というよりも、つまらなそうであった。
「やめろ。そのいかにも聞いてくださいと言わんばかりの、クッソ鬱陶しいため息をよ」
虎人族のナルモがうんざりした表情を浮かべながら、海面から真っ白な顔を出しているクラウド・スナメリの群れに向かって、魚の切り身をばら撒く。いわゆる餌付けである。あわよくば従魔にしたいと考えてのことであった。
嬉しそうに餌を食べるクラウド・スナメリの様子に、ナルモの機嫌も良くなる。
クラウド・スナメリは成体でも体長二メートルほどで、クジラ系の魔物のなかでも最小の部類である。あまり強い魔物ではないのだが、このネームレス王国の近海はアオの縄張りで海に生息する強い魔物も避けている。安全な場所を求めて海を彷徨うクラウド・スナメリの群れがネームレス港に姿を現したのも、必然と言えるかもしれない。
「お前はいいよな。しょっちゅう王様と飯食ってんだからな」
クラウド・スナメリの一匹が、海に浸かる魔落族の男の足を「どうしたの?」というように
「そんな頻繁にじゃねえよ。まあ、他の連中と比べれば多いかもな。この前も魚介類が山のように入った海鮮鍋を食べさせてもらったんだけどよ。これが美味いのなんのって! 肉もいいが、ネームレス王国はせっかく海に囲まれてんだから、魚や貝なんかの海の幸をもっと食うべきだと思うんだよな」
「酒は出たのか?」
「王様が酒を飲まねえのは知ってるだろ? まあ……でも、俺に酒を出してくれたな。それも普段は飲めないような上等なやつだった」
「ぐぬっ……! あ~あ。きっと今頃はみんなでうまいもんたらふく食って、上等な酒を浴びるように飲んでんだろうなぁ~。ちきしょう……うっ……うぅっ……」
「げっ!? いい歳した大の男が泣きべそかくなよ。それに順番だってお前のとこの長から聞いてるだろ?」
「わかってらあ! 俺だってわかってんだ! でもよう……」
魔落族の男はそう言いながらも、港の後ろに拡がる大森林を見つめる。大森林のその奥には、ここからでは見えないのだが山城があるのだ。
今日はネームレス王国の住人が山城へ詰めかけていた。ことの発端は、子供たちがお手伝いするごとに押してもらえるスタンプカードである。スタンプ十個でおやつ、二十個で昼食、五十個で食器やナイフなど、百個でシルバーアクセサリー、それに――ユウの山城にお泊りできるのだ。この宿泊に対して、大人たちから声が上がった。自分たちも城に宿泊までとは言わないが、行ってみたいと。
別にそのくらいならとユウは思ったのだが、反対する者たちがいた。
「ご主人様、私たちは反対です」
城で働くメイドたちである。マリファが不在のときに、そんな真似をすればあとでお叱りを受けますと。ユウとマリファ、これではどちらが城主なのかわかったものではない。
お試しに隊長たちを先に城へ招いたことも、メイドたちが反対する理由の一つであった。隊長の一人が不届きにも、ユウが入浴中に侵入しようとしたのだ。幸いにもマリファの手によって、その不埒者は捕らえられ厳しいお仕置きを受けたのだが。それもあって、メイドたちは住人を招くのを頑なに反対していた。
「どうかご再考を!」
なおも鼻息が荒いメイドたちが、ユウに考え直すように進言するのだが――
「いや大変だろうけど、せっかくお前らが綺麗に管理してるのに、使わないともったいないからな」
――この言葉であっさりとメイドたちは引き下がったのだった。
「しゅごーい!」
「キレイだね~」
「にいちゃ、あれなに?」
「あれはシャンデリアってやつだな。貴族とかの家にあるそうだ」
「ふ~ん。すごいねっ!!」
山城の大広間では、初めて訪れる子供たちがあちこち見ては驚きの声を上げていた。
ユウは山城へ招くにあたって、大人だけでなく子供たちも含めたのだ。これはユウの優しさなどではなく、子供を除外すればあとで面倒なことになると容易に想像することができたからである。
「こ、こりゃ……なんともっ」
「ああ……。お前が言わんとすることはわかる」
「こんな格好で俺たちなんかがいていい場所なのか?」
「場違い感が半端ねえぞ」
純粋に楽しんでいる子供たちとは違い、大人たちは緊張で身体が強張っていた。
なにしろ大広間を見渡せば、どこを見ても人、人、人である。にもかかわらず圧迫感がない。優に数千人は超えているのに、部屋にはまだまだ余裕があるのだ。
足元へ視線を向ければ、一面に美しい織の絨毯が敷かれている。天井を見上げれば、宝石と見紛うかのような巨大なシャンデリアの数々が。休憩スペースには、そのまま眠ってしまいたいほど座り心地の良いソファーに、一流の職人が木目の美しさを際立たせるよう加工したテーブルなどの調度品、壁には絵画が並べられている。
持たざる者ゆえに解ることがある。
この場に飾られている花瓶一つですら、自分たちでは容易にどころか、生涯かけても手に入れることができないということに。
ただ、これらは別にユウの趣味で選んでいるわけではない。バリュー・ヴォルィ・ノクス――ウードン王国の財務大臣であった彼の豪邸を解体した際に、使える品々はそのままユウの山城へ移されたのである。家具などの選定はマリファが、城内のデザインに関してはラスが口煩く関わっている。
「今さらなにを言ってんのさ。あんたらが子供みたいに駄々こねて、王様が許可をくれたんじゃないか」
獣人の女性が男たちをバカにした目つきで、会話に加わる。
「ぐっ。誰が子供だ、誰が!」
「おやまあ。自覚がなかったのかい? あたしたちの間じゃ、男はバカばっかりだねって、いつも言い合ってるんだけどね」
「はあっ!? だ、誰がバカだ!」
「そうだそうだ! 俺はこいつらと違って、先生に色々と教わってるんだぞ!!」
「バカ野郎っ! 俺だってもう四則計算くらいはできるわ!」
「それなら俺のほうが先にできるようになってただろうがっ!」
男たちがくだらない言い争いをし始める。
「ほら、いつまでもバカな言い争いをしてないで、せっかく王様のお城に招かれたんだから楽しみなさいよ。あっちの食事コーナーなんか、普段はお目にかかれないような料理ばかりじゃないか」
大広間には立食形式で、テーブルに様々な料理が並べられている。城で働くメイドたちが、次々に料理を追加で並べていく。そのメイドたちに混じって、獣人の兄妹――ヘンデとレテルが一生懸命に手伝っているのが見えると、獣人の女性は微笑ましい姿に目を細めた。
「あなたたち、ここはご主人様のお城――いいえ。お家なんですからね。お行儀よくするのですよ」
別の場所では子供たちのグループに向かって、メイド服に身を包む魔人族の女性が、屈んで子供たちと同じ目線で言い聞かせていた。
「あたし、そんなことしないもーん!」
「インピカは良い子だよー!」
「あたちもー!」
「はいはい! おれだって!!」
「ボクもボクもっ!!」
インピカと手を繋いでいる鬼人族の幼女の言葉が引き金となり。子供たちが一斉に魔人族の女性へ、言葉を浴びせる。子供が元気なことは良いことなのだが、あまりにも大きな声に魔人族の女性は耳がキンキンと耳鳴りするのを手で押さえる。
「ねーねー。これなーに?」
鬼人族の幼女が、耳を揉みほぐす魔人族の女性のスカートを引っ張る。
「これはプリンよ」
インピカたちの目の前にはテーブルがズラッと並んでおり、その上には様々なスイーツが置かれているのだが、鬼人族の幼女が指差したのは、長方形の銀の入れ物に入った真っ白なプリンである。それがいくつも並べられているのだ。
プリンから漂う甘い匂いに、インピカたちは頬に手を当てながら小さな鼻をヒクヒクと動かし「良いにお~い」と呟く。
「じゃあ、こっちは?」
「プリンよ」
「うーん、と……」
「それもプリンよ」
「なんでこんなにプリンばっかりあるのー?」
鬼人族の幼女は頭が混乱してきたのか。頭部から生える二本の角を掴みながら「うーん、うーん」と唸り声を上げる。その後ろからインピカが抱きしめて「大丈夫だよ~」と囁く。
「このプリンがこんなに沢山あるのには理由があります。こちらからそちらに向かって順々に固くなっているのです」
魔人族の女性がプリンについて説明するも、インピカたちはイマイチ理解できないようで小首をかしげる。
「こほん。少し説明が不足していました。ご主人様が仰るには、同じ食べ物でも食感で味に変化があるそうです」
この説明にインピカたちは「そうなんだ」と納得したようで、その様子に魔人族の女性は胸を撫で下ろす。だが、その魔人族の女性の背後より忍び寄る者がいた。
そのまま肩に手をかけようとするのだが――
「なにか御用ですか?」
魔人族の女性が先手を打って声をかける。肩に触れる直前だった手は、驚いたように引いていく。
「あーっ! たいちょうだー!!」
鬼人族の幼女が嬉しそうに指差すその先には、ゼノビアが立っていた。続いてインピカたちも「たいちょう」「隊長」と声を上げて、軍で行われる敬礼のようなポーズをとる。
「ふん。なに、貴様がゼノビア隊の者を虐めていないか心配になってな?」
なにやらカッコつけたポーズをとるゼノビアであったが、口の周りはクリームやらケーキのスポンジのカスがついており、なんとも様になっていない。もっとハッキリ言えば、無様である。ゼノビアの後ろに隠れている弟のクリスは、恥ずかしそうにゼノビアの服を引っ張り「姉さま、恥ずかしいからやめてよ」と呟いている。
「どうした? 私になにか言うことがあるだろう」
「そうですね。さあ、バカ者は放っておいて、プリンを食べましょうか」
魔人族の女性の言葉にインピカたちから「わあっ」と喜びの声が上がる。
「ま、待て……」
放置されたゼノビアが露骨に狼狽える。
「ささ。慌てなくても十分な量がありますからね。小さな子から順番ですよ」
「「「はーい!」」」
魔人族の女性に混じってクリスも、プリンを皿によそって子供たちへ配る手伝いをする。
「おーい、私を無視するなよ~! 私も手伝ってもいいぞ? い、いや。その者たちは私の隊員なんだぞ? わかった、手伝う。私も手伝うから! お前が嫌だって言っても勝手に手伝うからな!!」
と、ゼノビアがアホなやり取りをしてるとき、別の場所ではまた違ったやり取りが行われていた。
大厨房――大広間へ運ばれる料理はここで調理されているのだが。忙しく厨房内を動き回る調理担当のメイドたちから少し離れた場所で、対峙するように二つのグループが向かい合っていた。一つはユウとメイドたち、もう一つは各種族の者たちである。
「王様、本日はお招きにあずかりまして、ありがとうございます」
獣人族の長ルバノフが挨拶する。続いて、堕苦族の長ビャルネ、魔落族の長マウノも同じような挨拶をするのだが。
「なにが、お招きにあずかりまして、だよ」
からかうユウの言葉とは裏腹に、背後のメイドたちがルバノフたちへ向ける眼は驚くほど冷たい。
自分たちがユウのもとへ送り込んだ者たちのこの態度に、ルバノフたちは苦笑いするしかなかった。
種族のなかでも特に有能な女たちを送り込み、ユウに仕えるよう厳命はしたものの。元々は自分たちの種族が他の種族より有能であることを、役に立てることをアピールするのが前提であった。あわよくば、ユウの御手つきになればと、それがマリファの躾によって、今では優先順位の最上位が自分たちの種族からユウとなってしまったのだ。
「いつまで見つめ合ってんだよ。お前らだって早く終わらせて、飯を食べたいだろ」
ユウの「始めろ」という言葉に、待ってましたと皆が動き出す。
「うわっ。ピッカピカだわ」
「ほう、これが王の城で使われている五徳……か。おおっ、このボタンはなんだ?」
「これって窯なのかな? これだけ大きいと、一度にどれだけパンが焼けるんだろうね」
各々が鏡面のように磨き上げられた調理器具を触りながら、好き勝手に動き回る。
「ベタベタ触らないでください!」
「なによ。王様がいいって言ってるんだから、いいでしょうが」
「ああっ! それはダメ! そのボタンを押さないでください!」
「ここならなんでも作れるよな」
制止するメイドたちと、興味津々の者たちとの間でしばらく小競り合いのようなモノが続く。ようやっと落ち着くと、テーブルの上に皆が持参してきた料理が並べられていき、ユウが試食していく。
「このパンは誰が作ったんだ?」
「はい! 俺です!!」
堕苦族の男性が手を挙げる。
「美味いな」
「他にも前に王様が言ってた菓子パンとかも、いつか挑戦したいと思ってます」
「とりあえずパン屋の候補はお前な」
「ありがとうございます!」
なにをやっているのかと言うと、ネームレス王国の住民に十分な量の貨幣が行き渡ったので、本格的に店舗を始めるにあたっての選定である。ユウは手始めに衣食住の食――飲食店から始めることにしたのだ。
「ど、どうでしょうか?」
獣人族の少女が恐る恐るユウに尋ねる。ユウはとても豪華とはいえない煮込み料理を口へ運ぶ。
「悪くない。なんか安心する味だな」
「でしょー! 王様、この子ってお貴族様が食べるような上品な料理は作れないんですけど、こういった庶民的な料理が得意なんですよ!!」
別の獣人族の少女が得意げにアピールする。
「ちょ、ちょっと! 庶民的ってなによ。失礼しちゃうわ」
「定食屋でいいかもな」
「ありがとうございます!」
「もう! なんであなたが返事するのよ」
次々とユウは味見しては店舗を任せる者を決めていくのだが、少し揉める店があった。
「王よ、肉屋はこのネームレス王国で一番肉に詳しい俺に任せてくれないか!」
「な~にが一番だ! あと様をつけろよな、様をっ! それにネームレス王国で一番は兄貴じゃなくて俺だ!! という
「いつ、お前が俺より肉に詳しくなった!!」
「そりゃこっちのセリフだ!!」
「誰がお前に牛の解体を教えてやったと思ってんだ!!」
「ああっ? 俺は独学で覚えたっての!!」
誰が肉屋をするかで、魔落族の兄弟が喧嘩をする。あまりの醜態に魔落族の長であるマウノは頭を抱え込む。
「おい」
魔落族の兄弟がビクッ、と身体を震わす。
「誰がネームレス王国で一番だって?」
ユウが怒っていると、魔落族の兄弟は身を縮こませる。
「いいか? ネームレス王国で一番肉に詳しいのは俺だ!」
「「へ?」」
魔落族の兄弟のみならず、周りにいる皆が呆気にとられた表情でユウを見る。
「俺はステラばあちゃんから鳥や兎の解体を教わってるし、それに牛や猪、豚、羊、鹿、山羊、魚に大型の魔物の解体だって何百匹としてきたんだ。お前らなんてせいぜい牛や鹿に鳥くらいで、その数だって年に百もいかないだろ」
「「ズ、ズリい……っ!」」
魔落族の兄弟は悔しそうに顔を歪める。
「王は好きなだけ自分の国の家畜を解体できるんだ。解体した数で俺が負けるのは当然じゃないか」
「そうだ、兄貴の言うとおりだぜ。そんなのズリいや」
「二度とネームレス王国で肉に関して一番とか嘘つくなよ」
勝ち誇った顔をするユウを前に魔落族の兄弟はなにも言えない。
「ご主人様って変なとこで負けず嫌いだよね?」
「余計なことを言わないの」
ユウの後ろに控えるメイドがヒソヒソと話す。
「ビャルネ、堕苦族から数字に強い奴をつけてやれ」
「かしこまりました」
「今回、選ばれなくてもがっかりする必要はないぞ。まだまだ飲食店は増やす予定だからな。なにしろ人口はどんどん増えてるんだ。
ここまでで、なにか質問はあるか?」
定食屋を任された獣人族の少女――ではなく、その隣の先ほど騒がしかった獣人族の少女が手を挙げる。
「はい、はーい! 王様、王様ーっ!!」
「なんだよ、うるさいな」
「私たち、簡単な読み書きや計算くらいできますよ。なんで堕苦族からお手伝いが来るんですか?」
それは皆が思っていても口に出さずにいたことであった。ユウを相手に物怖じしない獣人族の少女に、心の中で称賛を送る。
「店を出す場所や広さは俺が決めるけど、店の外装や内装に調理器具や食器類は自分で決めたいだろ?」
皆が無言で頷く。自分の店を持てるのだ。誰だって自分の好きなように店を造りたい。
「今までで、どれくらいお前らが金を貯めてるのかは知らないが、出店できるほどの金額じゃないだろ。つまり俺に金を借りて店を出すことになるんだ。一人じゃ大変だから人を雇う奴だっているだろうし、商品の値段設定から日にどれくらいの客が来れば利益が出るのか。俺への借金返済に納める税金の計算も考えれば、慣れるまでは数字に強い奴がいたほうが俺はいいと思うけどな」
「そ、そうですね……考えるだけで頭が痛くなってきます」
獣人族の少女は舌を出して「うへぇ」と情けない声を漏らす。
「辛いことばかりじゃないぞ。ほら」
テーブルの上にユウは紙の束を置くと、皆に見えるように並べていく。
「お、おお……っ。これって写眼具とかいう魔道具ですよね?」
紙には写眼具で撮った料理と共にレシピが記載されている。それに店の外観や店内の様子までもが詳細に撮られていた。
「ここにあるのはウードン王国の王都テンカッシやカマーの、人気店の料理のレシピに店の作りだ。これを参考に自分の理想の店を造ればいい。
あと載っている料理に関してはメイドたちが、お前らに徹底的に叩き込むから覚悟しとけよ。まあ、それをそのまま出すのか、それとも工夫するのか、自分のオリジナルで勝負するかは好きにすればいいさ」
「王様、よく人気のある店が料理のレシピなんか教えてくれましたね」
「教えてくれって言って、素直に教えてくれるわけないだろ。全部、俺が店で食事して盗んだんだよ。当然、その店の写真も勝手にバレないように撮ったからな」
「ええーっ!? 王様、わっる! 悪い人だよ!」
なぜか悪い人と言われて、ユウはニヤリと笑みを浮かべる。
「そうだ。知らなかったのか? 俺は悪い奴なんだよ」
「なんで王様、笑ってるんですか!? 怖いよー」
「でもよ。やっぱ王都とかの都会だと店の作りも、なんていうかオシャレだよな」
「私ならもっと可愛い店を作るんだけどなー」
「俺はこっちの店みたいなのがいいぞ」
皆がユウやメイドたちと混じって、店をどう作るかで盛り上がる。
「あの~、王よ」
今まで黙っていた魔落族の長マウノが恐る恐る手を挙げる。
「どうした?」
「酒なんかの店がないように見えるのだが」
「俺は酒を飲まないし、興味がないからな」
「ぬっ。儂は酒が好きなんだが」
「酒屋と飲む場所ならあるだろ。なあ、フラング」
大厨房の隅で、ユウたちのやり取りを肴にワインを飲んでいた人族のフラングが、なんとも厭らしい笑みを浮かべながら髭を指先で摘んで引っ張る。
「吾輩の主が言うとおりであ~る」
「お前は好きに飲ませてくれんではないか!」
酒屋と酒場をフラングは任されているのだが、マナーが悪い者や酒の味のわからない者には、どれほど凄んでも高価な酒を売らないのだ。
「フラングは男女平等に酒を提供してるって聞いてるぞ。それにそんなに酒が好きなら、自分で造ればいいだろ」
「ぬううっ。王はなんにもわかっておらん! 儂ら魔落族は酒を飲むのが好きなんだ! 決して酒を造るのが好きなわけじゃない! そもそも、そんなことに手を出せば鍛冶ができんではないかっ!!」
「ならフラングと交渉するんだな」
「ぐぎぎっ……」
マウノがフラングを睨みつけると、フラングはかかってきなさいとばかりにワインの入ったグラスを掲げるのであった。
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