第320話 さらに高――――

 ネームレス王国の山城の周囲は山脈と樹木が生い茂る森林地帯なのだが、その山城へ通じる森林地帯を草木かき分けながら、道なき道を進む一人の女性の姿があった。


「また同じ場所か」


 木につけた目印を睨みつけ、ネフティは呟く。ラスが山や森へ施した迷いの魔法によって、通常の方法では山城にたどり着くどころか、山に繋がる森林地帯を抜けることすらできないのだ。魔人族であるネフティならば、飛んでいけばいいのにと考えそうなものであるが。どうも魔法の効果なのか、はたまた負けず嫌いの性分ゆえか。そのような気分にならないのだ。


「忌々しいラスアンデッドめっ」


 ネフティはどうしても山城へ行かねばならない理由があった。だが、ユウとの同伴を終え、すぐさま山城へ向かうもすでにこの森林地帯で一時間以上も同じ場所を彷徨っていた。


「で、私になにか用でもあるのか?」

「なんだ。気づいていたのか」


 声とともに木々の間よりぞろぞろと姿を現したのは、先ほどまでユウの護衛をしていた者たち――その中でも最精鋭、ネームレス王国軍の隊長たちである。


「ぺっ。調子に乗んなよ。こっちは別に隠れていたわけじゃねえんだからな。本気なら、お前なんかに気づかれるかっての」


 獣人の男が不快感を隠さず、地面に唾をはきながらネフティを睨む。

「ほう……。獣でも冗談を言うのだな?」

「ああ゛?」

「やめろ。喧嘩しに来たわけじゃねえだろうが」


 剣呑な雰囲気に割って入ったのは、その立派な体格に相応しい重装備を身に着けた獣人の男――壱番隊の隊長を務める猪人族の男である。


「こいつから喧嘩を売ってきたんだろうがっ! 新参のくせによ!」

「新参?」

「あとから俺たちの国・・・・・に来たお前が、新参じゃなけりゃなんだって言うんだよ!!」

「俺たちの国?」


 ネフティは馬鹿にするように獣人の男を鼻で笑う。


「てめえっ……! なにがおかしい!」

「もともと荒れ果てた大地であったこの島を、緑豊かな島へと変えたのはオドノ様であろうが。その手伝いをしたラス殿やヒスイ殿に言われるのならともかく。それをなんの役にも立っていない獣風情が、なにを偉そうに言うか!」


 周囲の者たちは「まーた始まったよ」と、あくびをしながら様子を見守る。


「獣人が役に立っていないだとっ!?」

「そうであろうが。住居に水や食べ物に衣服、農作物、家畜を用意したのは誰だ? 戦う術を授けてくれたのは? この島を囲う岩壁を構築したのは? 唯一の侵入口の東側海岸から町への道へ大森林を、山を、城を築いたのは誰だ? すべてオドノ様であろう! まさか自分たちのおかげとでものたまうつもりか?」


 すべて事実である。なにも言い返せない獣人の男は「ぐうっ……」と唸ることしかできない。


「お、王から武器を授けられたからって調子に乗るなよっ!」

「私が羨ましいのか?」

「はあんっ!? 俺だって貰ったわ!!」


 そう言うと、獣人の男は腰に挿している二本のショートソードを手で叩く。


「お前のはミスリル合金製だが、私のはオドノ様と同じ黒竜の角を使ったモノだからな」


 ネフティはユウから貰った魔槍を皆に見せつけるように撫でる。それだけで魔槍の呪いによって、ネフティの身体から体力が奪われていく。


「ぐううっ! 大体なぁ! お前がいつ隊長になった!! 勝手に作ったおふくろ衆だか知らねえが、ここにいる誰もそんなもん認めてねんだよ!! しかも、王の近衛を自称しやがって!!」

魔母衣衆まほろしゅうだ。このうつけが! それに近衛に不満があるようだが、もっとも強く、もっとも忠誠心のある私が率いる魔母衣衆が、オドノ様の近衛を自称してなにが悪いというのだ」

「この野郎っ! もう許せ――ぐわぁっ!?」


 獣人の男がショートソードの柄に手をかけようとしたその瞬間、頭にげんこつを落とされる。拳を落としたのは猪人の男だ。全身をミスリル合金で作られた重装備で覆われているので、たかがげんこつでもその威力は凄まじく。獣人の男は頭を抱えて地面の上を転げ回っている。


「な、なにすんだよ~っ!」

「事前にくだらねえ喧嘩はするなって言っただろう」

「だって、こいつがっ!」

「もういい。お前が喋ると話がややこしくなる。少し黙ってろ」


 なおも抗議しようとする獣人の男を猪人の男が睨みつけて黙らせる。


「ネフティ、お前もわかってて煽るな」

「ふんっ。それでなんの用だ? こう見えても私は忙しい身でな。話があるのなら手短にしてほしいものだ」

「お前がナマリと話していた件だ。その詳細を教えてくれ」

「どうして私が、お前たちなんぞに話さねばならんのだ」

「ここにいるのは全員が隊長だ。王様にかかわる情報なら共有をしておくべきだろう?」

「私はそうは思わんな」


 「ちっ」という舌打ちとともに、二人の会話に割って入る者がいた。


「先ほどから黙って聞いていれば、なにをぐだぐだと。さっさと話せばいいだろう!」


 声を発した者へ、皆の視線が集まる。


「このゼノビア、他の者のように甘くはないぞ!」


 なにやらカッコつけた姿勢で木にもたれかかりながら、エルフの女性――ゼノビアは皆を睥睨する。その傍では可憐な少女にしか見えない弟のクリスが、申し訳なさそうに頭をペコペコと下げている。


「なんだその顔は」


 ネフティが訝しがった様子でゼノビアを見る。


「ほう……。お前が隊長だったとは初耳だな」

「偉大なるベイリー氏族の末裔である私が、隊長に選ばれるのは至極当然だ」


 「ふっ」と笑みを浮かべながら「そんなことも知らなかったのか?」と言いたげなゼノビアをよそに、周囲はざわついていた。


「おい。あいつがいつ隊長になったんだ?」

「知らん」

「どういうこと?」

「お前は知ってたか?」

「私だって知らないわよ」

「まさか自分で勝手に隊長だと言い張ってんじゃねえのか?」

「いくらなんでも、そんな恥知らずな真似をするわけ……ないよな?」


 心ない皆の言葉にゼノビアは涙目になって、プルプルと震えだす。皆が猪人の男にどうにかしろよと視線を送れば「仕方がねえなぁ」と頭をかきながら小さなため息をつく。


「ゼノビア。お前が隊長って話なんだが、ほら、なんだ。お前には兵隊がいないだろ?」

「い、いるぞ!」


 猪人の男はちらりと横目でクリスを見る。


「ち、違う! もちろんクリスも私が率いる隊の一人だが、他にも兵はいるんだ!」

「その兵ってのは、まさかヘンデやインピカに鬼人族のちびっ子のことじゃねえだろうな?」

「そうだ! あの者たちは栄えある我がゼノビア弓兵隊の兵だぞ!」

「兵って……ガキ共だぞ。それに弓を扱えるのは、お前だけだろうが」

「なら、あいつだって!」


 ゼノビアがネフティを指差す。


「私の魔母衣衆には百の兵がいる。それもゼノビア殿の率いる幼い子供などではなく、厳選した精鋭がな」


 小馬鹿にしたようなネフティの言い回しに、ゼノビアの顔は真っ赤になる。


「貴様っ! 私を侮辱するのか!!」

「事実を言ったまでだ」

「私は知っているぞ! 貴様がいかがわしい目的で、ユウと一緒に風呂へ入ろうとして、あのダークエルフの小娘にとっちめられたのをな! その程度の腕で、よくも私を差し置いて隊長を名乗れるものだ!」

「姉さま、敬称をつけないとダメだよ」


 クリスが窘めると、周囲からも「そうだそうだ」とゼノビアを責める声が上がるのだが、ゼノビアは「うるさい、うるさい!」と聞く耳を持たない。


「ゲスな勘ぐりはやめてもらおうか。無知なエルフは知らないだろうが、古来より王族や達人と呼ばれる者たちの多くが、無防備な姿を晒す入浴中や就寝中に暗殺されている。私はオドノ様の身を案じて、お傍に控えようとしたまでのこと」

「それなら、あのダークエルフの小娘がいるだろうがっ! あれは小生意気なダークエルフだが、常に傍で気を張り巡らせておるわ!」


 ゼノビアの言葉に、ネフティは心の底から不快そうな表情を浮かべる。


あれは・・・ダメだ。オドノ様の傍で侍るのに相応しくない」

「ふははっ! 負けたから嫌っているのか? それだけではないぞ! 私は貴様の恥ずかしい秘密を知っているのだからな!!」

「なにを言い出すかと思えば。人に知られてやましいことなどない」


 負け惜しみだろうと、呆れた顔でゼノビアを見るネフティであったが、ゼノビアは「ふふんっ」と鼻息が荒く、勝ち誇った顔をしている。


「スプーン」


 ぼそりとゼノビアが呟くと、なぜかクリスが身体をビクッ、と震わせた。


「スプーン? それがどうした」

「とぼけるな。先日、魔人族の家で会議が行われたそのあとの食事会で、貴様が密かにユウの使っていたスプーンを盗んでいたのを、私はこの眼でしかと見たぞ!」


 ネフティは見たものが寒気するような微笑を浮かべると、高笑いするゼノビアの横を通り過ぎてクリスのもとへ向かっていく。ネフティはクリスの目の前まで近づくと、その華奢な両肩に手をかける。一見、そっと手を添えたようにしか見えないが、クリスはその手を払うことができないと思わせるほどの圧力がかかっていた。


二度目・・・だ」


 クリスの耳元でネフティが囁く。ゼノビアがユウの名を呼び捨てにした回数だと、クリスはすぐに察した。


「本来ならば、この場ですぐにでも八つ裂きにするところだが。残念ながら、オドノ様は君のことを気に入られている」


 クリスの肩にかかる指が徐々に喰い込んでいく。


「君の魔力を小雨状に降らせて空間を把握する技や、自分と他者に魔力を通じて入手した情報を共有する技。私も配下の魔法に長けた者に習得させようと試みているが、いまだに誰も習得することができない」


 先ほどから自分にかけられている不気味な圧力の正体を、クリスは理解する。怒気でも、殺気でもなく――


「妬ましいよ」


 ――嫉妬である。


「貴様っ! クリスから離れろ!」

「おっと」


 ネフティの手首めがけてゼノビアが手刀を放つが、ネフティは軽々と躱して後ろへ飛び退く。


「弟になにかしてみろ。貴様の目を射抜いてやるぞ!」


 ゼノビアが弓に手をかけて、ネフティを威嚇する。だが、ネフティは軽く肩を竦めてゼノビアを小馬鹿にするような態度である。


「お、己っ!!」

「そう怒るな。今、ふと思い出したのだが、私がオドノ様の入浴されている湯殿へ忍び込もうとした際に、もう一人別の場所で捕まった者がいたのをな。誰だと思う? クハハッ。お前の弟だ。さて、お前は先ほど私のことをいかがわしい目的がどうとか罵倒したが、お前の弟はどういうつもりで、湯殿へ忍び込もうとしたのかを確認したんだろうな?」


 突然の暴露にゼノビアは石像のように固まる。ぎこちない動きで背に護るクリスのほうへ振り返ると――


「姉さま、ベイリー氏族の祖であるレラバール・ベイリーは水浴びをしている際に不意を突かれて大怪我を負ったことがあるそうです。これはレラバール・ベイリーに限ったことではありません。偉大なる功績を残してきた偉人や勇者と呼ばれる者の多くが、無防備となる場所で暗殺者に狙われ命を落としているのです。ネフティさんはなにか誤解されているご様子ですが、王様は異性とご一緒に湯浴みするのを避けられているように見受けられたので、同性であるボクがお傍に控えることで微力ながら恩返ししたいという思いだったのです。姉さまなら、ボクの言っていることを理解していただけますよね」

「お、お……う? そうだ……な?」


 普段は気弱で口数も少ない弟のクリスが、これほどまでに多弁である姿を見たことがなかったので、ゼノビアは追求するどころか動揺し、頭は混乱していた。


「くっく……。そうか。ならば私の勘違いなのであろうな」

「そうです。ネフティさんの勘違いです」

「クリスの言うとおりだ! 私の弟が貴様みたいにいかがわしい真似をするわけがないのだっ!」

「ではフォークやナイフはどうだ?」

「なにを理由わけのわからんことを――」

「私はあの忌々しいダークエルフにスプーンを取り上げられたのだが、あの場で見事にオドノ様の使用したフォークやナイフを盗みだした者がいたのを知っているか?」

「――言っている…………はあ? ク、クリ、クリスススッ……ま、まま、まさか……その盗んだ者というのは」


 生まれたての子鹿のように足を小刻みに震わせながら、ゼノビアは「違う」と言ってくれと言わんばかりの眼で、クリスへ問いかける。クリスはそんな姉であるゼノビアに向かって微笑む。いつもの気弱だが、優しい姉思いの弟の見せる笑みであった。


「姉さま、ボクたちのご先祖様はベイリー氏族の祖であるレラバール・ベイリーの遺髪や、それが無理なら使用されていた衣服などの一部を身に忍ばせていたのはご存知ですよね? これは偉大なるレラバールの力の恩恵に預かるため、またアミュレットなどの御守り代わりにしていたためです。ボクが王様の使用されていたフォークやナイフをお借り・・・していたのも、弱いボクが少しでも強く自信に満ち溢れた王様のようになりたいと、あやかりたいがゆえの行為だったのです」

「う、う~ん……それならば、おかしくはない、のか?」

「よかった。姉さまなら理解していただけると信じていました」

「ほーう。ではクリス、君がフォークやナイフを舐め回していたのも、なにか理由があってのことなのか?」


 意地が悪い笑みを浮かべながら、ネフティは舌を出して下品に動かす。


「クリ――」

「はいっ!!」

「――ス?」

「姉さま、レラバール・ベイリーは、大地の精霊の化身ガイーア・ルルビアルンガが顕現した際に残された肉片の一部を食し、その力を体内に取り込んだと言われています。そう! つまりボクが王様の使用された食器を舐めたのも、そのような理由があったからなんです。姉さまなら、理解していただけますよね?」

「う、うむ。私はクリスの言うことを……理解――するとでも思ったか!! 己っ!! この偉大なる姉を謀ろうとは!! 父と母に代わって、その腐った性根を鍛え直してやる!!」

「わああああ~! 姉さま、許してよ~!!」

「待て、逃げるなっ!」


 森の奥へ逃げていくクリスを、ゼノビアが鬼の形相で追いかけていく。その背を見送りながらネフティは腹を抱えて笑う。


「お前な、あんまりあの姉弟をからかってやるな」


 猪人の男がネフティの頭を小突こうとするが、ネフティはそれを見もせずに躱す。


「それで、そろそろいいか?」

「なにがだ?」

「ナマリの件だ」

「実のところ私もよくわかっていない。なにしろ舌足らずなナマリの言葉ではなにを言っているのか不十分でな。わかったのは、ロイと名乗る偽勇者がオドノ様を騙して罠に嵌めたことと、ジャーダルクの屑どもが大軍を以てオドノ様を攻撃したことくらいだ」


 ネフティの言葉に隊長たちが驚きの声を上げる。


「偽勇者のロイっ!? それって、もしかして『パンドラの勇者』のこと?」

「ジャーダルク――五大国のジャーダルクかっ!? 何人だ? 王様を罠に嵌めた連中の数は?」

「なんだそりゃ。そんな話は聞いてねえぞ。誰か知ってるか?」

「いや、初耳だ」


 騒がしい隊長たちに向かって、猪人の男は「黙れっ!」と一喝する。


「それで?」

「ナマリの話によれば、クロ殿たちも戦いに参加していたらしい。本来ならば、クロ殿に仔細を話していただきたいところなのだが、生憎いまはニーナ殿たちと迷宮に潜っている。でだ、甚だ不本意ではあるが、ラス殿に会って話を聞こうと思った次第だ」


 猪人の男は「ううん」と腕を組みながら唸る。


「私もお前に聞きたいことがある。なぜお前がオドノ様のお付きなのだ」

「そうだそうだ!」

「なんであんただけ王様と一緒なのよ」

「ズルいんだよ、この猪野郎がっ!」


 ネフティの言葉に、黙っていた隊長たちがまた騒ぎ出す。


「なんでって言われてもな。大将が不在の際は、壱番隊の俺が王様の護衛しろって言われてるからだな」

「今からでも遅くない。私と代われ」

「そんなことできるか。あとで大将に叱られるだろうが。それよりもだ。お前ら、あんまり王様に甘えるな」

「私はオドノ様に甘えてなどいない。そこの有象無象の蝿共とは違ってな」


 隊長たちから殺気が溢れ出すが、猪人の男が手で制する。


「いいや、言わせてもらうぞ。ネフティ、お前は獣人についてどれくらい知っている?」

「さあな。興味がない。今後も持つことはないだろうな」

「獣人と一言で言っても、昼行性や夜行性、食事や排泄の仕方や場所まで違う」

「なにが言いたい」

「俺はここ数日、王様の傍仕えをやってるから気づいた。いや、多忙なのは知っていたが、改めてその仕事量に驚かされた。王様は各種族の習慣や習性、特定の病気の症状や対処方法、身長や体重なんかの数値をそれは細かく記録して資料を作られている」

「なぜオドノ様がそのようなことをせねばならん! 放っておけばよかろう」


 ネフティは、なぜユウが魔人族を含む他種族のために苦労する必要があるのか理解できずにいた。


「王様は商人に頼んで様々な国から法律や裁判に関する書物を取り寄せている。俺は一度だけ見させてもらったことがあるんだが、なにを書いているのかさっぱりだった。なんのためだと思う?」

「回りくどい言い回しはやめろ」


 段々と苛ついてきたのか。ネフティの言葉遣いも荒くなってくる。


「それもこれも全部、俺たちのためだろう。王様は本気で様々な種族が不満なく暮らせる国を創ろうとしている。それに――」


 猪人の男は言い辛そうに口をもごもごさせる。


「それに、なんだ?」


 続きを言うように促されると、猪人の男は言葉を続ける。


「俺は王様が寝ているところを見たことがない」

「ふんっ。なにを当たり前のことを。お前がオドノ様の寝所に同衾など、この私が赦さん!」

「ば、馬鹿野郎っ! なにを勘違いしてやがる! これは城で働くメイドたちにも確認したことなんだが、王様が寝ているところを誰も見たことがないんだ」

「偶然だろう」

「ナマリに聞いた。王様は寝ない・・・だとよ。そんなことあり得るか? どんな生き物だって睡眠は必要だ。それはお前だってそうだろう? どれだけ身体を休めても、寝なきゃ身体はおかしくなるってもんだ」

「オドノ様は睡眠が必要ないのだろう」

「本気で言ってるのか? ともかく俺が言いたいのは、王様の負担をこれ以上は増やすなってことだ」

「私はむしろ減らすべきだと言っている。オドノ様が私たちのために苦労されるなど、あってはならん。そもそも、お前如きがオドノ様のことを知ったげに話すな。睡眠についても、お前の杞憂にすぎない」

「そうだといいがな」


 猪人の男は言葉とは裏腹に恐ろしい考えが脳裏を過る。ユウは寝なくてもいいのではなく、寝られないのではないか、と。

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