第307話 似た者同士

「大体の話はわかったが、お前が操られたのはいつだ?」

「操られてはいないわ。上手くは言えないけれど、あれは私の拒絶する考えを消したような――。ちなみにジョゼフの名を出されたときに、私の最強結界がわずかに綻んだ隙を狙われたようね。そう、ジョゼフの名を出されたときに」

「細かいことはいいんだよ」


 ジョゼフの部屋で、テオドーラがこれまでの経緯を説明する。聖女として聖国ジャーダルクから大切に、それこそ純粋培養で育てられたようなテオドーラは、異性の――ジョゼフの部屋に招かれて些か興奮しているようで、先ほどから室内をチラチラと盗み見している。


「そういうところは昔と変わってないのね。でも、うふふっ……異性を自分の部屋に招き入れることが、どういう意味かわかっているのかしら?」

「な~にが、どういう意味かわかっているのかしら、よ。勝手に自分の妄想に浸らないでもらえる。言っとくけど、この部屋にはジョゼフのこ、こん、婚約者の私もいるんだからね!」

「テオの頭の中身はきっと桃色の花で埋め尽くされている」


 この部屋にはジョゼフとテオドーラを二人っきりにさせてなるものかと、クラウディアとララもいるのだ。


「あら? 貧相なエルフに根暗女もいたのね」

「ひっ!? だ、誰が貧相なエルフよっ!!」

「ぷぷっ」


 胸を押さえながらクラウディアがテオドーラに抗議する。その姿を見て、ララが堪えきれず吹き出す。


「そもそも、あんたその胸でよくも私の胸を貧相だなんて言えたものね!」

「私はが貧相だなんて、一言も言っていないわ。あー、自覚でもあるのかしらね。それに聖女である私は、これからゆっくりと時間をかけて成長していくのよね。未来がある私の胸と、絶望しか詰まっていないあなたの貧相な胸を一緒にしないでほしいわ」

「き~っ! やっぱり胸のことを言ってるじゃないの!!」


 掴みかかろうとするクラウディアであったが、テオドーラが展開した黄金の卵型結界に阻まれる。そのテオドーラの傍へララが近づくと。


「なによ?」

「その小さなお胸が成長するまで、ジョゼフが生きているといいね」


 無情なララの言葉に、テオドーラの結界にヒビが入る。


「くだらねえ言い争いをいつまでしてんだ。それより、そのオルブラ――」

「オリヴィエよ」

「名前なんてどうでもいい。で、何者なんだ?」

「さあ。第三次聖魔大戦が終わった頃に名を聞くようになって、あっという間に教国大司教の座に就いたくらいしかしらないわ。もっとも、私はジョゼフ以外の異性になんて興味はないのね」


 結界を解いたテオドーラが、ジョゼフに向かって「決まったわね」といった表情をするのだが、肝心のジョゼフは明後日の方向を見ながら鼻をほじって、なにやら思案顔である。


「そいつって狐面とか被ってるか?」

「狐の……面? そういった話は聞いたことはないわね」

「ちょっとジョゼフっ! あなたの婚約者が貧にゅ……控えめな胸って馬鹿にされたのよ! 怒るところでしょうがっ!!」

「わかったわかった」

「ぎゃーっ!? 鼻をほじった手で触んないでよ!!」


 慌ててクラウディアがジョゼフの手を払い除ける。その慌てようにララはまたもや堪えきれずに吹き出す。一方、テオドーラはどこか羨ましそうな表情で「くぅっ」と悔しそうな声を漏らす。


「テオ、ジャーダルクにはあと・・どれだけ残ってるんだ?」

「ブエルコ盆地の戦いで多くの精兵を失ったとはいえ、私ほどでないにしても、そこそこ強い聖女に『双聖の聖者』、『聖槍』、なにより教王が――ジョゼフ、ダメよ」


 テオドーラが聖国ジャーダルクに残る強者の名を上げるが、すぐにジョゼフがなにを考えているのかを察して諫める。


「ジャーダルクはユウを魔王に仕立て上げるのを諦めたのか?」

「それは…………」


 テオドーラはジョゼフの言葉に即答できなかった。聖国ジャーダルクに蔓延する歪さが。他の宗教を一切認めず、イリガミット教のみが唯一にして絶対の宗教と信じて疑わない。そのため、イリガミット教以外の宗教に対する異常な攻撃性すら容認されている。

 ジョゼフと出会う前のテオドーラもそうであった。俗世と隔離され物心がつく頃より教義を教え込まれてきたテオドーラは、イリガミット教の教えを疑いもせず、他種族やイリガミット教以外のあらゆる宗教に対して排他的であったのだ。

 そのイリガミット教を崇拝する聖国ジャーダルクが、一度の失敗でユウへの魔王認定を取り消すとは考えられない。取り消せば、自らの過ちを認めるようなものである。


「聖国ジャーダルクがいくら大国と言っても、今回の作戦の失敗は大きな痛手となっているわ。国境や最前線の防衛、北と西の魔王の監視に多くの兵を必要とする。少なくとも、今すぐにあのユウって子をどうこうすることはできないはずよ」


 日頃、他者から敬われ、気を使われる存在であるテオドーラが、ジョゼフを気遣う。


「わかった」

「そう。さすがは私のジョゼフなのね」


 ジョゼフの言葉に、テオドーラは安心したかのように小さなため息をつくのだが――


「なんにも解決していないってことがな」


 一瞬であったが、昔の――もっともジョゼフが殺伐としていた頃と同じ眼に、テオドーラは震えを押さえるように己が身体を抱き締めた。


「どこに行く?」


 尻を掻きながら扉へ向かうジョゼフをララが呼び止める。ムスッ、とした表情のジョゼフはしばし考え込むと。


「ちっとお前らに頼みがあるんだが」


 横柄で、しかも尻を掻きながらというとても人にモノを頼む態度ではないが、それでもクラウディアたちは二つ返事で了承するのであった。




 都市カマー冒険者ギルド。

 力を持て余した冒険者たちが集うこの施設では、些細なことから争いや騒ぎになることなど珍しくない。今日もいつものように騒ぎになっている一角があった。


「ダ、ダメですよ! 止まってください~っ!」


 コレットを始めとする受付嬢や職員が、総出で一人の冒険者を押し止めようとするのだが、その者は気にした様子もなく腰にしがみつくコレットたちを引き摺っていく。いつもならこういった騒ぎに喜々として首を突っ込む冒険者たちが、なぜか皆一様に目を逸らして関わらないようにしていた。


「ジョ、ジョゼフ・・・・さんっ、金庫室へは私たちギルド職員でもギルド長の許可がないと入れないんですから、おとなしく戻ってくださいっ」

「だからさっきから言ってるだろうが。俺は預けてあった物を取りに来ただけだって」

「それでもギルド長の許可が――あっ、エッダさん」


 騒ぎを聞きつけたのか。めんどくさそうな顔したエッダが姿を現す。


「いったいこれはなんの騒ぎですか」

「おっ、いいところに現れたじゃねえか。どうせお前が金庫室の結界を担当してんだろ? 解除して通してくれや」

「そんな勝手な真似は――」

「構わん」


 エッダに続いて現れたのはギルド長のモーフィスである。


「よろしいので?」


 エッダの問いかけに「ダメと言っても素直に聞く男ではない」とモーフィスが答える。


「髪が生えてから、話もわかるようになったじゃねえか」

「なんのことやら。儂、前からフサフサじゃし」


 モーフィスの頭をペシペシするジョゼフを見て、エッダの口元がわずかに緩む。


「それでどれを持っていくんじゃ?」


 冒険者たちから買い取った素材や鉱石、貴重な植物や魔導具が所狭しと並ぶ保管庫の奥、地下金庫室へと通じる階段を降りながらモーフィスがジョゼフに尋ねる。

 地下金庫室には冒険者ギルドの運営資金を始め、高位冒険者たちから預かっている金品に武具、王侯貴族といった権力者たちから訳ありゆえ内密に預けられ、厳重に封印を施されているモノなど様々である。その中でもジョゼフが預けている武具は、他と比べても頭一つも二つも抜けている逸品である。しかもジョゼフは第三次聖魔大戦が終わったあとに預けてから、一度も引き出したことがないのだ。モーフィスが面白半分で尋ねるのも無理はないと言えるだろう。先頭を歩くエッダも興味がなさそうにしているが、エルフ族の特徴である長い耳が先ほどからピクピクと動いて、関心があるのを隠しきれていない。


「全部だ」

「ぜっ!? ほ、ほう…………龍か、古の巨人か、それとも天魔なのか。なにを相手にするのかは知らんが、よほどの相手と見える」

「そんなんじゃねえよ。ただ、ちょっと槍を取りに帰るだけだ」

「ふむ、槍を取りにか。それはまたなんとも……槍…………? 槍じゃとっ!? お前が? ジョゼフ、お前が槍をっ!!」


 興奮したモーフィスがジョゼフに詰め寄って、何度も槍という単語を連呼する。


「きたねえなっ! なに興奮してんだ。見ろ、爺の唾が顔にかかってんじゃねえか」

「誰が爺じゃ! いや今はそれよりも、ジョゼフが再び槍を…………そうか」


 モーフィスはなにを思うのか。感慨深げに目頭を押さえながら、何度も「うむ」と頷く。


「じゃがお前の槍は、デリム帝国の国宝として厳重に保管されとるはずじゃ」

「らしいな。人が捨てた槍を好き勝手しやがって」

「ギルド長、解除しましたよ」


 地下金庫室の扉に施された結界を解除していたエッダが、作業を終えたことを報告する。


「ぬんっ」


 モーフィスが全身に力を込めて重厚な扉に手をかけると、服越しでも、モーフィスの筋肉が隆起しているのがわかる。なぜかその姿にエッダは楽しそうに笑みを浮かべる。

 扉がゆっくりと開いていくと、ずずっ……と重厚な扉に相応しい音と共に地下金庫室内が見えてくる。対物理、対魔法の処理が施されている扉自体が値打ち物であるが、その扉の先には地下とは思えないほど煌びやかな光景が拡がっていた。

 ガラスケースには否が応でも存在感を放つ宝石類が並べられている。目利きのある商人であれば、涎を垂らさんばかりの逸品ばかりである。例えばこのルビーが埋め込まれた首飾り、ある貴族から冒険者ギルドが預かっているモノなのだが、赤ければ赤いほどいいと言われているルビー、その中でも真紅の銀河とも呼ばれる希少なガラッシア・ルビーが埋め込まれた首飾りなのだ。このルビーだけでも数億の価値があるうえに、数百年前の名匠の手によって作られた歴史的な価値だけでも計り知れないものである。

 他の宝石類も今あげたルビーの首飾りに見劣りしない品だというのだから驚くばかりだ。

 天井にまで届かんばかりに箱が積まれている一角がある。その箱の中身は貨幣で、列ごとに白金貨、金貨、銀貨、半銀貨、銅貨、石貨、それにデリム帝国が発行している大金貨などだ。


「ここは商人ギルドの金庫かよ」

「宝石類のほとんどは預かり物じゃよ。対価は頂いてはおるがの」

「あそこの金は違うだろうが」

「運営費じゃ」

「おーおー、物騒なモンが並んでやがる」


 ジョゼフが嬉しそうに武具が飾られている場所で立ち止まる。先ほどの宝石が並べられていたガラスケースには、エッダが結界を施していたのだが、ここはさらに強力な結界が施されていた。


「こりゃエッダの魔導アーマーじゃねえか」


 それは精魔四式魔導鎧と呼ばれる凶悪・・な攻防一体の鎧であった。


「なんのことでしょうか? 私のようなか弱い女性が、このような恐ろしい鎧を身に纏うなど……怖いわ」


 エッダは身振りでか弱い女性を演じるが、エッダの正体を知っているジョゼフやモーフィスは白けた態度である。モーフィスが「ふんっ」と鼻で笑うと、エッダがさり気なくモーフィスの頭髪を引き抜く。


「ぬおっ!? な、なにをするんじゃ!」

「あら? なんのことでしょうか」

「痴話喧嘩はそのくらいにして、先に進もうぜ」

「だ、誰と誰が痴話喧嘩じゃっ!!」

「まあ、そんな風に見えましたか」


 ぎゃーぎゃー喚くモーフィスを置いて、ジョゼフは足を進める。


「待たんか。気になる情報を耳にした」

「なんだ? お前の頭が禿げる呪いでも耳にしたのか」

「それは面白い情報だわ」

「つまらん冗談を言うな。お前にも関係することじゃ」

「俺に?」

「『天下五剣』を目撃した者がいる」

「そりゃ見間違いだろ。俺と殺り合ったとき、すでによぼよぼの爺さんだったんだぞ」

「いいや見間違いなどではない。背に三本のを身に着けておったそうじゃからな」

「三本? 俺の記憶が確かなら十本だったぞ」

「五本じゃバカタレっ! それだけでない。見た目は老人などではなく三十代半ばだったそうじゃ」

「若者じゃねえかっ」

「ふざけておる場合かっ!」

「耳元で大声出すなよ。本人じゃなく息子か孫じゃねえのか?」

「本人なのか、血縁関係なのかは不明じゃが。どちらにせよ、お前を狙ってくる可能性は十分にあるんじゃぞ。なにせ負け知らずじゃった『天下五剣』に唯一の黒星をつけたのはジョゼフ、お前だけなのじゃからな」


 真剣な顔で忠告するモーフィスに向かって、ジョゼフはほじった鼻くそを指で飛ばす。


「ぬおっ!? なにをするんじゃ! わざわざ儂が心配してやっておるというのに! これっ、待たんか!! 勝手に進むでない!!」




 大瀑布を背に、一人の男が座禅を組んでいる。年は三十代半ばだろうか、形がくずれたざんばら髪の人族の男であった。その傍らには三本の刀が置かれている。


「なんの用じゃ?」


 男を除いて、周囲には人っ子一人いないのだが、それでも男は再びなにもない空間に向かって問いかける。


「なんの用だと聞いておる」

「なんでわかったっすか?」


 なにもない空間から姿を現したのは、オリヴィエ・ドゥラランドの配下の一人、フフである。頭頂で結ばれた髪は玉ねぎのような髪型で、片目を塞ぐアイパッチが特徴的な少女であった。


「オリヴィエ様から借りたこの陰龍の皮から作られたマントは、サトウやジョゼフにだって気づかれなかったのにおかしいっす」

「己が身を森羅万象と一体化すれば、どれほど巧妙に身を隠そうとも無駄なことよ」

「じっちゃまの言っていることは、理解できないっす」

「タマネギ娘には、ちと難しかったか」

「むがーっ! タマネギ娘じゃないっす! フフっす!!」

「そうじゃったな。してタマネギ娘よ、見てきたのであろう?」


 全然わかっていないじっちゃまと呼ぶ男に、フフは抗議するのも疲れたのか、それとも呆れ果てたのか大きなため息をつく。


「危うく死ぬとこだったっす」

「ふむ」


 まったく興味のない適当な相槌に、フフは頬を膨らませる。


「そう頬を膨らませるでない。それではますますタマネギのようではないか」

「じっちゃまが悪いっす!」


 男はフフを宥めるように玉ねぎ頭をポンポンと叩く。


「ジョゼフが槍を使ったっす」


 フフの言葉に、男の手が止まる。


「そうか……。やはりあの夜空に穿たれた虚空はジョゼフの仕業であったか」


 先ほどまで水のように静まり返っていた男の身体から、炎のような闘気が溢れ出す。自分に対して向けられていないとわかっていながら、フフの全身の毛は逆立ち、思わず飛び退いて距離を取るほどであった。


「じっちゃま、勘弁してほしいっす」

「む? おー、すまんかったな。それでジョゼフが槍を振るったのを見たのだな?」

「見たっす。あの人おかしいっすよ。槍を振るった瞬間――」


 ブエルコ盆地でユウたちとジャーダルク聖騎士団の戦いを観察していたフフは、そのときのことを思い出し身震いする。


「そこまででよい。ジョゼフが再び槍を手にしたことがわかれば十分。あとは機が熟すのを待つのみ」


 そう言うと、炎のような闘気が男の体内へ吸い込まれるように治まっていく。


「そんなにリベンジしたいっすか?」

「リベンジ? 復讐ではない」

「でも負けたから勝ちたいんっすよね?」

「儂はこう見えても昔は馬鹿ばかりやっておった。人を斬るだけでは飽き足らず、対象が竜や天魔にまで伸びるのもそれほど時間はかからんかったのう。ときには兇獸と呼ばれる魔獣を斬ったこともある。しかしどれだけ斬ろうが、勝とうが、儂の心が満たされることはなかった。虚しい勝利にほとほと飽いておったときに――そう、デリム帝国から誘いが、いやあれは挑戦状と言ったほうがよいのかもしれん」


 男のざんばら髪が生き物のように蠢く。


「儂はそこでジョゼフに救われた。ならば今度は儂が救ってやる番と言うものだろう?」

「じっちゃまがなにを言っているのか、フフにはわからないっす。ところで、そこの生首はなんなんっすか? ちょっとグロくてキモイんっすけど」


 フフが「うえっ」と言いながら、三つの生首を指差す。


「ふむ、これか? 十二トマト・・・じゃ」

「十二魔屠・・っす。あいだっ!? なにするっすか!」


 頭を刀の鞘で小突かれたフフが頭を手で押さえながら抗議する。


「話の腰を折るでない。そう十二魔屠だ。第十死徒を倒したと聞いたから、どれほどのものかと思えば……期待外れにもほどがある」

「はあ……。死徒に対抗するために創設された十二魔屠も、じっちゃまの手にかかればその程度っすか。

 死徒と言えば、オリヴィエ様の誘いを断ったそうっすね」

「儂は断っとらん。一の字をくれるのであれば、なってやってもよいと伝えたところ向こうが断った」

「一の字って……第一死徒っすか? それは無理っすよ。ぜ~ったいに殺し合いになるっす」

「それならそれでよいではないか。始まりの勇者の名が泣いておるわ。それとも勇者とは臆病者のことを指しておるのか? ほれ、あのイとかいう勇者だ」

イっす」

「うむ、ロイだ。あれの面倒を見ることになった。なに弟子を取るのは初めてではない。だが、よくもまああれで勇者を名乗れるものだ」

「勇者ロイはダメっすか?」

「なにもかもが弱い。なにより心がな? 見ていて何度斬りそうになったことか」

「ハハ…………」

「どうした? いつもの元気がないではないか」


 フフが少し驚いた顔で自分を指差す。


「フフ、元気がないように見えるっすか?」

「うむ。いつもはもっと小生意気なタマネギ娘だろう」

「誰がタマネギ娘っすか! でも、そうっすか……。ちょっと次の任務のことで沈んでいたっす」

「嫌な仕事であれば断ればよかろう」

「そんなこと口が裂けても言えないっすよ。それに任務自体は嫌じゃないっす。ただ……パートナーが問題あるっす…………」


 心なしか萎びた玉ねぎのように、フフは沈んだ表情を浮かべる。


「斬ってやろうか? これでもタマネギ娘には色々と世話になっておる。なに、そいつがどこにおるのかこそっと儂に教えるだけでよい。あとは儂が上手く斬って終わりだ」

「ぷ…………ぷぷっ」


 思わずフフが吹き出す。


「じっちゃま、な~にが上手く斬って終わりっすか。ぜ~んぜん上手くないっすよ」

「なにっ!? そうか、斬るのはダメか?」

「ダメっす。ダメダメっす! なんでも斬って解決すると思ってるじっちゃまを見てたら、くだらない・・・・・ことで悩んでたフフがバカみたいっす」


 思いっきり笑ってスッキリしたのだろう。いつものフフに戻ったことに男は顎の無精髭を撫でる。


「それに嫌なことだけじゃないっすよ。もうすぐおもしろいことが起きるっす!」

「ほう、おもしろいとな?」

「そうっす! ジャーダルクでおもしろいことが起こるっす」


 フフは楽しそうに「ニシシ」と笑うのであった。




 イリガミット聖光破毀法院はきほういん

 聖国ジャーダルクの最高司法機関である。

 その司法の最高機関の周囲は、物々しい警備が敷かれていた。


「ではただいまより、ブエルコ盆地における作戦名『魔王、捕獲計画』の失敗について審問会を始めます」

「この場に関しては、教王より指名を受けた『三聖女』である私ドロワットと、同じく『三聖女』であるリンクスが務めます」


 同じ顔をした少女たちの言葉に、バタイユ枢機卿やオリヴィエ教国大司教を始めとする重鎮たちが頭を下げるのであった。

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