第248話 一方その頃

「なあ、レベッカ。仕事が終わったあとにでも――」

「この忙しいときに、わざわざカウンターで口説くとか。ぶっ飛ばされたいのかい?」

「い、いや。別に邪魔するつもりはなかったんだよ」

「いいから用が済んだら行った行った」


 見事に玉砕した冒険者の男が、すごすごと退散していく。


「レベッカさん、もう少し優しくしてあげてもいいと思いますよ」


 取り付く島もないレベッカの態度に、同じくカウンターで冒険者の対応をしているコレットが意見する。


「甘い! コレット、あんたそんな甘い考えだと、ま~たこの前のビヨルンみたいな冒険者に犯されちまうよ」

「ちょ、ちょっと、レベッカさん! 私はおか、おか、犯され……てなんかいませんからね!」

「そうだったかい? ああ、間一髪で純潔は守れたんだっけ」


 顔を真っ赤にして抗議するコレットを軽くあしらいながら、レベッカはカウンター前に並ぶ長蛇の列にうんざりする。

 つい先日、都市カマー冒険者ギルドの二階部分が半壊する騒ぎがあったために、現在は冒険者ギルド一階ですべての冒険者の対応をする羽目になっているのだ。当然、二階担当の受付嬢たちは一階で勤務しているのだが、カウンターをわけ合って使用しているので、どうしても一度に対応できる人数が減ってしまうのだ。


「薬草、魔力草、シャッキリ草、ビックボーが丸々一頭に――締めて金貨八枚に銀貨三枚と半銀貨四枚だね。

 次の方どうぞ。次の方ー。ほら、混んでるんだからちゃっちゃと来な」


 次の冒険者が一向に来ないので、レベッカの語気が自然と強くなる。しかし、それでも来ない冒険者へ睨むように目を向けると、男の冒険者は困ったように指を差す。


「いったいなんだっていうのさ」

「レベッカ姉ちゃん、ここだぞー!」


 カウンターの向こうから声はすれど姿は見えず。レベッカが身体を乗り出して覗き込むと、そこにはモモを頭に乗せたナマリの姿があった。

「あら、冒険者ギルドを半壊させたナマリとモモじゃないか」

「うぐっ」


 レベッカの嫌味にナマリとモモが怯む。


「で、今日はなにしに来たのさ。見てのとおり、誰かさんのせいで忙しくて、ナマリと遊んでる暇はないんだけどね」

「あ、あそびにきたんじゃないぞ! 俺は、えっと。どこだったかな」

 オーバーオールに縫いつけられたアイテムポーチに、ナマリは両手を突っ込んで取り出したのは、手紙と綺麗に包装された箱である。


「このたびは、わたしがぼうけんしゃギルドに、ただ? いなるごめいわくをおかけし、も、もうし? ごめんなさいでした!」


 手紙に謝罪文が書いているようだが、途中で読めない字があったのだろう。強引に謝罪を締め括ると、ナマリとモモが勢いよく頭を下げる。

 しばらく頭を下げたままだったナマリは、ちらっと上目遣いでレベッカや他の受付嬢たちの反応を窺う。


「この箱は?」

「パティーアのスイーツだぞ」

「パティーア? 貴族通りにある高級スイーツ店じゃないか。これは迷惑をかけたお詫びの品かい?」

「うん!」


 元気よく返事するナマリをレベッカは横目で見る。


「私はどうせなら、ユウお手製のお菓子がよかったんだけどね」

「だって……オドノ様が、こういうときは手作りのおかしはダメだって……」

「ナ、ナマリちゃん、気にしなくていいからね! レベッカさん!」


 泣きべそをかき始めたナマリを、慌ててコレットが慰める。


「お、俺は、泣かないぞ! 強い魔人族なんだからな!!」


 ナマリの頭の上で寝そべっているモモが、「えらいね」と言うようにナマリの頭を撫でる。


「まあ、反省してるのはわかったわ。けど、ユウはなにしてるのさ」

「オドノ様は悪いやつをやっつけに王とに行ってるんだぞ!」

「悪い奴? 悪者退治もいいけど、ギルドの修理費はユウにも負担してもらうことになるのは、わかってるんだろうね」

「それもだいじょうぶ! い~っぱいお金がもらえるんだって! じゃあ、みんなにあやまってくるから、またね!!」

「はあ? 誰からさって……ナマリ、待ちなって。もう、話は終わってないんだよ」


 呼び止めるレベッカを置いて、ナマリは他の受付嬢たちのもとへ走っていく。


「いいじゃないですか。やっぱりナマリちゃんは元気じゃないと」

「ほんっとにコレットは甘いんだから。悪いことしたときは、ちゃんと叱ってやるのが大人の務めなんだよ。

 まあ、いまだにお子様パンツをはいてるコレットには、わからないだろうけどね」

「レベッカさんっ!!」


 ただでさえCランク『妖樹園の迷宮』の発見後は、貴重な薬草や花などの植物を求めて、都市カマーには多くの冒険者が来訪しているのだが、さらに冒険者ギルドの二階が半壊したために、現在は一階にすべての冒険者たちが集まって、情報交換やパーティー募集にクランへ勧誘する者たちなどでごった返していた。

 その人で溢れるフロアを、受付嬢たちへ謝罪し終えたナマリが縫うように駆け抜けていく。


「おっ。ナマリだど」


 テーブルでラリットたちと談笑していたエッカルトがナマリに気づくと、人懐っこい笑顔で声をかける。


「エッカルト、こんにちは!」


 挨拶するナマリの頭の上で、モモが自分もいるよと両手を振る。


「なんだ。昨日までびーびー泣いてたのに、もう元気になったのか」

「俺は泣いてなんかいないぞ!」

「泣いてたよな?」


 ラリットがエッカルトとノアに確認すると、二人は苦笑して誤魔化した。

 テーブルにいるメンツを見れば、ラリット、エッカルト、ノア、ここまではクランに所属せず、一人で探索することもあれば誘われてパーティーを組むこともある気ままな者たちである。

 その三人に混じって『赤き流星』盟主のトロピの姿もあった。


「みんないて、ちょうどよかった」

「ナマリ、なにか用でもあるのか。困ったことがあるんなら、俺に言ってみろ」


 いつもなら真っ先に膝上に座るナマリが来ないことに、ノアがなにかあるのではと心配する。


「ノア、ラリット、エッカルトは、いつも俺とあそんでくれてるんだから、かんしゃのしなをわたせってオドノ様が言ってたんだ。

 ほんとうならオドノ様もいっしょにっていってたんだけど、いまはちょっと王とに行ってるから、こんどあらため? るんだって」

「ナマリちゃん、ボクの名前がないんだけどー」


 トロピの小言が聞こえていないのか。ナマリはオーバーオールのアイテムポーチに手を突っ込んで、目当ての物を探す。


「それでね。なにをわたせばいいか、オドノ様とネポラにそうだんしたんだ」

「ネポラって、あの目つきの悪い魔人族の女か? ナマリ、イジメられてないだろうな」

「ネポラはすっごくやさしいんだぞ! このまえも――あった」


 テーブルの上に、ナマリは一升瓶と小袋をいくつか並べる。


「こ、こりゃっ!? ま、ま、まさかっ!! 鬼殺し!! それも一番上等な鬼殺し・極じゃねえかっ!!」


 鬼殺しとは、あまりの旨さに鬼すら酔いしれると言われている酒である。値段もさることながら、その旨さと大量生産に向かないために、入手すること自体が困難な品である。


「ノアはおさけが好きだって俺が言ったら、これがいいんじゃないかって」

「くうぅぅっ! わかってるじゃねえか!! これを貰って喜ばない鬼人はいねえぞ!!」

「あとこっちのふくろは、オドノ様がつくったおさけにあうつまみだって。これがジャーキーで、そっちがイカのひもので、火でちょっとやいたらうまいんだって!」

「ナマリ、ありがとよ!!」


 よだれを垂らさんばかりに、ノアは一升瓶を抱えて頬ずりする。その喜びように、ナマリまで嬉しくなる。そのままナマリは次の品を、それも布に包まれた大きな品をテーブルの上に置く。


「ナマリ、大ぎな物だな」

「これはエッカルトの!」

「オデのか?」

「うん! まえにウードン魔牛のお肉をいっぱいたべたいって言ってたでしょ。これがさーろいんで、こっちはろーす、それはらんぷ、どれもうまいんだぞ! オドノ様がなんかいもじゅくせいっていうのをためして、そのなかでもいっちばんおいしいところのをもってきたんだからな」


 高級食材のウードン魔牛の肉を前に、エッカルトもノアと同じようによだれを垂らしそうになる。


「エッカルトのおうちは、おおきなお肉をやける?」

「そでが、オデの家だどごんだに大ぎな肉を調理するのばむずがじいな」

「それなら、このあと俺がおみせにつれてってあげるぞ!」

「ナマリが、連れでっでぐれるのが?」

「うん! よくオドノ様と行ってるから、俺がたのめばやいてくれるよ」

「そが。んじゃ、頼むがな」


 エッカルトに頭を撫でられると、嬉しそうにナマリは目を細める。そして熟成肉が傷まないように、再度アイテムポーチの中へと仕舞う。


「ノアもエッカルトも、すげえもんを貰ってんな」

「ラリットはこれ!」

「ん? 俺は紙切れか……って、こ、ここ、これはっ!!」


 ナマリから受け取った長方形の紙を凝視しながら、ラリットは身体を震わす。


「なんだありゃ。ナマリ、なにを渡したんだ?」

「俺もよくわかんない。なんかマゴのおジジがやってる夜のお店なんだって。あのかみをもってると、十回くらいはあそべるって言ってた。

 ノア、夜のお店ってなにするとこなの?」

「ナマリ、お前は知らなくていいとこだ。

 見ろ。ラリットのあの情けない顔を!」


 そこには鼻の下を伸ばした。なんともだらしないラリットの姿があった。


「やれやれ。ユウの奴にも困ったもんだな」

「ラリットが行っでみだいっで、言っでだのを覚えでだんだな。要らないなら、オデが貰っでやるど」


 紹介がないと行くことができない。マゴが経営する夜の店へのVIPカードへ、エッカルトが手を伸ばそうとするも、ラリットは軽やかに躱して、そそくさと懐にVIPカードを仕舞う。

 大喜びな三人の姿に、ナマリは一仕事を終えたといつもの定位置であるノアの膝上に座る。


「ナマリちゃん、なんか忘れてないかなー?」

「ないよ」


 頬杖をついたトロピが頬を膨らませる。


「あるでしょ。ほら、ボクには? ユウ兄ちゃんから、なにか預かってるでしょ」

「ないよ」

「えー。あるよ! そんなのおかしいよー!

 あるったらあるでしょ! ボクにもなんかちょうだいよ!!」


 そう言うと、トロピは床の上に寝っ転がって、子供みたいに駄々をこねる。その見事なこねっぷりには、ナマリもモモも感心するほどであった。


「ナ、ナマリ、本当にトロピにはなにもないのか? いや、世話になってないんだから、わかるんだけどな」

「もーう、トロピはワガママなんだから」


 醜態を晒すトロピを哀れに思ったのか。ノアがナマリに尋ねると、ナマリは「仕方がないなー」とアイテムポーチから長方形の箱を取り出す。


「ほら、ほらほら、あるんじゃない」


 途端にトロピは笑顔で椅子に座り直す。


「これはオドノ様が、トロピがワガママを言ったらわたせって」

「ぐぎぎっ。ユウ兄ちゃん、ひどいよ。

 それでこれはなにかな?」

「どらやき! これおいしんだぞー!」


 ナマリの言葉にモモも大きく頷いて同意する。




「ウソだー」


 口の周りにあんこをつけたまま、トロピが大きな声で否定する。


「ほんとだぞ! 俺はウソなんてついてないんだからな」

「だって、ユウ兄ちゃんが? 本当に?」

「ニーナ姉ちゃんがウソついて、オドノ様といっしょにお風呂はいったり、寝たりしてたんだぞ」

「えー。ボク、信じられないなぁ」

「だから、ニーナ姉ちゃんにダマされるなよって言ってたんだからな」

「うーん。ユウ兄ちゃんが、そんなウソに騙されるかな?」


 ナマリとモモの抗議を華麗に聞き流し、トロピは新しいどら焼きを頬張る。


「ユウちゃんが、どうしたのかしら?」

「えっ」


 トロピの背後に、いつの間にかフィーフィが立っていた。冒険者ギルドの受付嬢が『赤き流星』の盟主を務める自分に気づかれずに。

 驚きを隠せないトロピの心情などまったく興味はないとばかりに、フィーフィは話し始める。


「トロピさん。あなた、最近ユウちゃ――ユウ・サトウにつきまとっているそうね。仮にも都市カマー最大クラン『赤き流星』の盟主が、そんなストーカーみたいな真似をして恥ずかしくないのかしら」


 フィーフィが放つ圧力に、ラリットたちが思わずたじろぐ。嫉妬に狂った女性の負の感情に、冒険者として培ってきた危機管理能力が働いたのだ。


「フィーフィさん、誤解だよー」

「なにが誤解なのかしら」

「ボクは、あわよく――ただユウ兄ちゃんと一緒にお風呂で洗いっこしたり、同じベッドで寝たいだけなんだよ。

 純真な欲ぼ――気持ちなんだ。フィーフィさんなら、このボクの気持ちをわかってくれるよね?」


 ラリットたちだけではなく。周囲で聞いていた冒険者たちですら、ドン引きするトロピの性癖と宣言であった。


「どうやら私が勘違いしていたようね。あなたとは良い友達になれそうだわ」


 普通なら嫌悪感を持ってもおかしくないトロピの発言に、フィーフィは共感できると何度も頷く。


「わかってもらえてなによりだよ」


 皆がフィーフィとトロピの会話が理解できないと、心の中でツッコミを入れていた。


「ナマリ、聞くんじゃねえ! こいつらは腐ってやがる!!」


 その後も熱く少年の魅力について語り合う二人の会話を、とてもではないが聞かせられないと、ノアはナマリの耳を手で塞ぐのであった。




「地獄ヨリ湧キ出ル火ヨ集エ、地獄ノ炎トナリ我ガ敵ヲ焼キ尽クセ『獄炎』ッ」


 アークデーモンの放った黒魔法第6位階『獄炎』が、大地を抉り、焦がしながら迫る。


「……望むところ」


 対するレナも同じく『獄炎』を発動させる。互いの炎が衝突すると、膨大な熱量によって周囲に熱風が撒き散らされる。

 本来、魔物は人よりも高い魔力やMPを誇る。それが天魔ともなれば、比べることすらおこがましいほどの差がある。魔物の強さを知っている冒険者ほど、そのことをよく理解している。いや、身をもって知っているのだ。

 だからこそ人は創意工夫する。

 武器や防具、装飾などで強化し、魔法の相性を考慮することもあれば、弱体化の付与魔法で弱らせることもある。同じ魔法でも複数展開することにより、手数で応戦し対応することもある。

 まともに殺り合うことを避けるのだ。それは真正面からぶつかり合うなど、正気の沙汰ではないからである。

 だが、レナはアークデーモンと真正面から魔法をぶつけ合っていた。


「レナ、なにをやっているのです!」


 思わずマリファが叫ぶ。

 それもそのはずだろう。せめぎ合う『獄炎』であったが、明らかにレナの放った『獄炎』が押され始めていたのだ。

 それでもレナは新たな魔法を発動させることもなく。アークデーモンの『獄炎』を押し返そうと、魔力を注ぎ続けていた。


「コロちゃん、ランちゃん、行っくよ~」


 ニーナのかけ声に、コロとランが吠えて応える。

 まずはコロがアークデーモンへ高速で突っ込んでいく。直前でコロが雄叫びを上げると全身から炎が噴き出し、炎を纏ってアークデーモンが纏う瘴気に体当りする。

 触れれば身体を蝕む黒い瘴気を、炎の塊となったコロが蹴散らしていく。

 そのままアークデーモンに当たるかと思った瞬間、結界がコロの進行を阻む。大きな衝突音とともにコロが弾かれ、三百キロを超える巨体が宙に舞う。


 だが、コロの体当たりは無駄ではなかった。アークデーモンの展開する結界には大きな亀裂が走っていたのだ。しかもレナと『獄炎』の押し合いをしているために、アークデーモンは結界を修復するための魔力を回すことができない。


「ランちゃんっ!」


 続いたのはランである。全身に雷を纏って、亀裂の入った箇所へ体当たりをかます。ガラスが砕け散るように結界に穴が空き、そこへニーナが身体を潜り込ませて、LV3の短剣技『旋回閃せんかいせん』で、アークデーモンの身体を斬り裂いていく。

 たまらずアークデーモンが絶叫する。慌てて『獄炎』に注いでいた魔力を止めると、再生と結界の修復に魔力を注ぐ。


「……もう少しで勝てたのに」

「どこがですか!」


 魔力の負荷に耐えきれず、レナの肘から先の皮膚は張り裂けて血まみれである。


「いったいなにを考えているのです」


 叱りながらもマリファはポーションをレナの腕にかけていく。


「……私は天才。いままではその才だけでやっていけてた」


 頭を叩きたい気持ちを堪えて、マリファはレナの話に耳を傾ける。


「……でも、これからはそれだけじゃダメ」

「それがアークデーモンとの魔法勝負ですか」

「……私には私の考えがある。お姉ちゃんを信じて」

「その結果が、そのざまなんですが」

「……今のままじゃユウに置いてかれる」

「それは……」


 レナの言うことも一理あると、戦闘中であるにもかかわらずマリファは考え込んでしまう。


「レナ~、手伝ってよ~!」


 そのとき、アークデーモンと激闘を繰り広げているニーナから、応援を求める声が聞こえてくる。


「……わかった」

「あっ。私も――」


 レナが箒に跨ってニーナたちのもとへ向かう。そのあとをマリファも追おうとするのだが――


「マリファ殿」


 マリファたちとは違う場所で、アークデーモンと戦っていたクロがマリファを呼び止める。


「クロさん、まさかもう倒されたのですか」


 その全身はアークデーモンや他の魔物の返り血で、紫や緑色に染まっていた。


「一つお聞きしたいことがある」

「なんでしょうか」

「マリファ殿は、これ以上は強くなる気はないでござるか?」

「どういう意味でしょうか」

「某はマリファ殿が主の傍にいるのであれば、それもまたいいのかと思っていたのだが。

 これから主が目指す場所に、マリファ殿がついていけないのであれば――」

「クロさんが私の代わりになるとでも?」

「然り。

 某は、あのアンデッドもニーナ殿も信用しておらん」


 ラスのことを信用できないと言うのはわかるが、なぜニーナの名前までクロが挙げたのかが、マリファには理解できなかった。


「返答はいかに?」

「あまり私を舐めないでください」


 マリファは右手をクロに向かって差し出すと、手のひらの中には黄色に緑色の斑点があるいなごが握られていた。


「確かにクロさんは強くなられました。の強さだけなら、今の私では敵わないでしょう。ですが、クロさんは国を相手に勝てるでしょうか?」

「むぅ……。

 試したことがないので、わからんでござるな」

「私なら相手が大国であろうと勝てます」

「個の力は某のほうが上回っているのに、国を相手にするとマリファ殿のほうが強いと?」

「ええ。間違いなく。

 私とクロさん、どちらがご主人様のお役に立てるでしょうね」


 そう言うと、マリファは手の中の蝗を握り潰した。

 いまだ納得がいかないのか。クロはマリファを見つめ続けるのだが。

「マリちゃんも、クロちゃんも手伝ってよ~」


 血の匂いにグレーターデーモンやレッサーデーモンなど、複数の魔物が引き寄せられたのだろう。アークデーモンと戦っているニーナが助けを求める。


「すぐに行きます」


 駆けていくマリファの背を見ながらクロはなにを思うのか。すぐにそのあとを追いかけていった。

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