第240話 そっくり

 ウードン王国の王都テンカッシ。

 魔物の脅威から民を護るために王都を取り囲む城壁の高さは、二十メートルを超えている。単純計算でカマーの約五倍である。遠く離れた場所からでも、その巨大な城壁が見えるのだ。

 城壁一つとっても、いかに王都の防衛力が並外れているかが窺えるだろう。

 だが、初めて王都に訪れる者たちが、もっとも驚くべき光景は――


「うわ~。こんな離れた場所からでも、王都を覆う結界がハッキリ見えるよ~」


 王都の四大門の一つ。

 南の朱雀門から伸びる王道の少し離れた場所で、ニーナが額に手を当てながら桁違いの規模で展開されている結界を眺めて感心する。


「信じられないほどの大きさに強大な結界ですね。どれほどの魔導具を設置すれば、広大な王都を覆えるほどの結界を維持できるのでしょうか」


 魔眼を持つマリファは、常人より魔力への視認性が遥かに高い。それゆえに、王都に張り巡らされている結界から感じる馬鹿げた魔力量に、驚きを隠せずにいた。


「……魔導具じゃない」


 マリファの横で同じく結界に見とれていたレナが、マリファの推測を否定する。


「では、大量の『結界士』で――いえ、この場合はさらに上位の『結界師』を、それでも千や二千では足りないでしょう」

「……それも違う。王都の結界は『大賢者』が一人で展開、維持してる」


 レナの言葉に、マリファの目がわずかに見開く。


「たった一人で? いくらなんでも騙されませんからね」

「……本当だよ。お姉ちゃんを信じて」

「ますます信じられませんね」


 訝しむマリファであったが、レナの様子がおかしいことに気づく。こういった魔法の話になると、いつもなら自分の方が凄いと豪語するレナが、悔しそうに結界を凝視しているのだ。


「まあ……レナも十分に凄い魔術師だと思いますよ」

「……それって慰めてるつもり?」


 首を傾げて自分を見つめるレナに、マリファの顔が耳まで真っ赤になる。


「はぁ……」

「ユウ~、どうしたの? さっきからため息ばっかりついて。せっかくの王都だよ~。楽しまなきゃ! でも、なんでこんな離れた場所なのかな? ほら、もっと王都の傍とかなんだったら中に出れば楽だったのに」

「うるさい。田舎もんみたいにはしゃぎやがって」


 お上りさんのように興奮しているニーナたちとは逆に、ユウは憂鬱そうに何度もため息をついていたのだ。


「なあ。今からでもいいから帰れよ。オークションのときは呼びにいくから」

「え~!? やだよ~! 王都だよ、王都っ! きっと食べ物も服もい~っぱい良い物があると思うんだ~」

「……魔導書もカマーにないものがあるはず」

「ご主人様、ニーナさんとレナを帰すのはいい考えだと思います」


 「お前もだよ」とユウは内心で呟いた。


「マリちゃんの好きな家具だって、きっとたくさんあるよ」

「私は別にお買い物が目当てではありません。ご主人様に尽くすためにいるのです」


 そう言いながらも、マリファの耳は期待するかのように小刻みに動いていた。


「嫌な思いをするだけだぞ。あと、絶対に俺の邪魔すんなよ」


 機嫌が直らないまま、ユウは王都へ向かって歩いていく。


「そんなことないよ~。ね? レナもそう思うよね」

「……王都が私を待っている」

「バカなことを言ってないで、ご主人様を追いかけますよ」


 コロとランが「どうしたのかな?」といった表情で、マリファの顔を見上げた。


「わ、わわっ。人だらけだよ~」


 王都テンカッシの玄関口である南の朱雀門。

 その巨大な門前には、通行するために並ぶ者たちで黒山の人集りができていた。近隣の国家やウードン王国内の町や村々から仕事を求めてくる者や、商人たちは仕入れや卸しに訪れているのだ。なかには周囲を威嚇するかのように、鍛え上げた肉体や武器を掲げる冒険者たちの姿もある。


「……気分が悪くなってきた」


 人混みに酔ったレナが口元を押さえる。マリファがアイテムポーチから水が入った水筒を取り出して、レナに飲ませる。


「あれれ? ユウ、並ばないの?」


 ニーナが指差す通行待ちの列へ並ばずに、ユウはどんどん前へと進んでいく。


「貴様、止まれ! なぜ列に並ば――こ、これは失礼を。

 こちらの方たちをお通ししろ」


 そして当然のように衛兵の一人に呼び止められるのだが、ユウが金色の冒険者カードを見せると慌てて言葉遣いを正し、門へとユウたちを誘導するのであった。


「知らなかったのか? Bランク以上の冒険者は、関所なんかの通行に関しては一般とは違って優遇を受けることができるんだぞ。

 あっ、ニーナはまだCランクだったか」

「あーっ! なにその言い方~。

 私だってね。もうすぐBランクになるはずだも~ん」

「……私も近いうちになるはず」

「レナがなれるのなら、私がBランクになる日も近いですね」


 無駄口を叩くニーナたちを放ってユウは進んでいく。巨大な門は高さだけでなく、その厚みも常識はずれであった。

 数十メートルも続く門を通り抜けていくユウたちを、衛兵たちが一瞥する。しかし衛兵たちは、マリファの従魔であるコロとランを見ても動じることはなかった。日頃から多種多様な人種に多くの冒険者を相手にしているからであろう。そのなかにはマリファのような従魔を従える冒険者もいるのだ。


「あそこ。なんかおかしくない?」

「……二つに割れてる」


 朱雀門を抜けた人々が人波となって進んでいくのだが、途中から真っ二つにわかれているのだ。そのせいで不自然な流れが形成され、人波の速度が滞り、朱雀門を抜けた先は渋滞ができていた。


「お前らはここで待ってろ」

「え? ちょっとユウ~。どこに行くの?」


 ユウは人波のど真ん中を進んでいく。すると、渋滞の原因を作っている十人ほどの男たちの姿が見えてくる。


「でよ。その女が言うんだよ。お父さんの前でだけはってよ。そんなこと言われてみろよ? 俺は興奮しちまって、母親と一緒に可愛がっちまったよ!!」

「グハハッ! そりゃいいな。今度、俺にもその女を抱かせろよ」

「おらっ! なにジロジロ見てんだ!! 俺らが誰かわかって睨んでんだろうなっ!!」


 多くの人が行き交う往来でたむろする男たちを、迷惑そうに見た旅人の一人が男たちに絡まれる。


「ひっ。そ、そんなつもりはありません。許してくださいっ」

「ばーかっ。謝んなら最初からケンカ売ってくんじゃねえよ」

「許すわけねえだろうがっ。王都で俺らに逆らうってことが、どういうことになるか、教えてやるからこっちこい!」

「い、嫌だっ。え……衛兵さんっ! 助けてください!! この人たちが――ぎゃっ」


 助けを求めるも、旅人の男の声に反応する衛兵は誰一人としていなかった。いや、実際には衛兵たちも騒ぎには気づいているのだが、見て見ぬふりをしているのだ。

 そして、助けを求めたその態度が気に障ったのだろう。旅人の男が顔を殴られる。折れた鼻から血を噴き出しながら地面に横たわる旅人の男の髪を掴んで、地面を引きずり回しながら男たちは楽しそうに大笑いしているのだ。

 人々はとばっちりを恐れてか、足早にその場をあとにする。


「おいおい、自分からケンカ吹っかけておいて弱すぎだろうがっ!」

「ワハハッ! おら、殴り返してこいよ」

「ローレンスにケンカを売ったんだ。徹底的に教え――おっ!? おい、あれ見ろ!!」

「なんだよ? 今からいいところ……あのガキっ! 黒髪だぞ」

「ああ、間違いねえ! 聞いてた特徴どおりだ」

「ぺっ! 邪魔だ。さっさと失せろ!!」


 男たちはもう用はないとばかりに、旅人の尻を蹴り上げて解放する。そして男たちは、ユウに向かって歩いていくのだが。


「こらっ。そこのガキ、ちょっと止ま――がふっ!?」


 声をかけた男の顎をユウが蹴り上げる。手加減しているとはいえ、男の顎は砕け、そのまま後方へ吹き飛んでいく。


「て、てめえっ!! ぎゃああああっ……」


 別の男がユウの胸ぐらを掴むのだが、同時に男の膝がへし折れる。ユウが蹴りを叩き込んだのだ。折れた足の骨が皮膚を突き破って露出する。

 先ほどとは比べ物にならない騒ぎに、人々はユウと男たちを大きく避ける。人波にぽっかりと円状の空間ができあがった。


「な……なんなんだよ! お、俺たちが誰かわかってて……いいのかっ? 大変なことになるんだぞっ」

「さあな。俺は売られたケンカを買ったまでだ」

「ケンカ……? 俺たちが、いつお前にケンカを売ったって言うんだよ!」

「睨んできただろうが」

「バ、バカかっ! 言いがかりにもほどがあるだろうがっ!!」

「じゃあなにか? 俺が嘘ついてるとでも」

「待てっ! そういうわけじゃ――クソがっ!」


 迫るユウに拳を放つ男であったが、その拳はユウにいとも容易く受け止められる。


「ひっ!? ま、待って違う……。お……俺たちはただ――ぐあ゛あ゛あああっ!! いでえよっ! ああぁぁぁっ。俺の手が、手がっ……!!」


 拳を握り潰された男が、激痛で地面の上を転がりまわる。

 その無様な姿に離れて見ていた王都の住人は、内心で「ざまあ見ろ!」と叫び、ユウを応援していた。

 困ったのは衛兵たちである。

 今までローレンスを相手にケンカを売るような者など皆無であったのだ。まれに相手がローレンスと知らずに争ってしまい。のちほど不幸な目に遭う者はいるのだが、ユウは明らかに相手がローレンスと知っていて揉めたように見えたのだ。

 それゆえに困惑した衛兵たちはどうすればいいのかと、自分たちの隊長へ視線を送るのだが。隊長自身もこのようなことは初めてで、指示を出すどころか声を出すことすらできずに固まっていた。


「どけっ! おら、道を開けろっ!!」

「見世物じゃねえぞ!!」


 朱雀門とは反対側の王城方面から、人をかき分けながら向かってくる集団がユウの前で立ち止まる。


「バ、バグジーさんっ。助けてください! このガキ、無茶苦茶なんですよ!!」


 異様に目立つ集団であった。

 男たちの両脇には娼婦と思われる女を侍らせ、身につけている装飾品は金や銀に宝石をあしらった物から、ひと目で魔導具と思われる品まで、それも一つや二つではない。全身にこれでもかと身につけているのだ。


「これはこれは冒険者様。こいつはいったいどういった騒ぎで?」


 痩せ細った男が薄ら笑いを浮かべながら集団の中から出てくる。顔には化粧を、過剰に漂ってくるのは香水の匂いである。


「どうもこうも、こいつらが俺にケンカを売ってきたんだ。だから俺は買ったまでだ」

「ちがっ――ガハァッ……」


 抗議しようとした男の横っ面に、ユウのつま先蹴りが叩き込まれる。砕けた歯が宙に舞上がり、男が数十メートルほど地面を滑りながら吹き飛んでいく。


「この野郎っ!」


 ユウに殴りかかろうとした男をバグジーが手で制す。


「そいつはとんだ失礼を。

 私はローレンスって組織を運営しているバグジーって者です」

「なんだこのゴミどもの飼い主か」


 バグジーの後ろに控える男たちの顔が真っ赤に染まっていく。


「ハハハッ。ゴミってのはあんまりじゃないですか」

「俺は財務大臣から来てくれって言われたから、遠路はるばるカマーから来たってのに、王都に来てそうそうこんな不愉快な目に遭ってる。

 この国の財務大臣は、王族よりも力を持っている凄い貴族って聞いてたんだが、噂ってのはあてにはならないんだな。

 膝下の王都の治安がこんなに悪いんだから。財務大臣も実は大したことないんだろうな」


 顔を真っ赤にしていた男たちの表情が、見る間に血の気が引いて青白くなっていく。


「冒険者様、そんなことはありませんよ。バリュー財務大臣は、そりゃ大した御方ですよ。

 そこらの中小国家の王族より力を持ち、行く行くは五大国の一つ、このウードン王国すら支配するって言われるほどの御方なんですからね」

「だったら、そこのゴミどもはなんなんだよ」

「それは冒険者様の仰るとおりです。この連中はバリュー財務大臣の顔に泥を塗ったんだ」


 そう言うと、バグジーは笑みを浮かべながらユウと揉めた男たちの方へ顔を向ける。


「お前ら、こちらの冒険者様になにをしたのか。私にわかるように教えてくれ」

「ち……違うんです。俺らはただちょっと見ただけなんですよ!」

「そ、そうなんです! それを睨んだのイチャモンつけて、このクソガキがっ!」

「睨んだのか。他にもあるんだろ。ん? ほら、どうだ正直に言ってみろ」


 微笑みながら接するバグジーの姿が怖いのか。興奮する男たちが落ち着きを取り戻していく。


「いきなり蹴られたんで、そいつが胸ぐらを掴みました」

「でもっ! 足をへし折りやがったんです!!」

「うんうん。そっかそっか」


 笑顔で頷くバグジーが後ろへ手を伸ばすと、背後で控えている男の一人がマチェーテと呼ばれる山刀を手渡す。


「手を出せ」

「いでえよぉ……。え? バ……バグジーさん」


 ユウに足をくの字にへし折られた男が、痛む足を押さえながらバグジーを見上げる。


「聞こえなかったのか。手を出せって言ったんだ」

「バグジーさん……か、かっ……勘弁して……ください」

の言うことが聞けないのか?」

「ひっ……! あぁ……バグジーさん、俺は……い、いい……言われた……いやぁだぁ……」


 ユウの胸ぐらを掴んだ男が、泣きべそをかきながら腕を伸ばす。


「迷惑かけちゃダメだろうが?」


 次の瞬間、男の腕がバグジーの振るったマチェーテによって斬り落とされた。


「ぎゃあ゛あああぁぁぁっー!! う、腕が、俺の腕がっー!!」


 すぐに仲間たちが、斬り落とされた男の腕の付け根を紐で縛って止血するのだが、それでも流れ落ちた大量の血で地面は真っ赤である。


「冒険者様、これでどうか許していただけませんか?」


 人の腕を斬り落としておいて、バグジーは悪びれもせずユウに笑みを向ける。並の者であれば、この時点でバグジーに恐怖を感じそうなものだが――


「逆だ」

「は?」


 ユウの言葉に、バグジーの口からマヌケな声が出る。


「だから逆だって言ってんだ。俺の胸ぐらを掴んだのは右腕じゃなく左腕だ」


 ローレンスの者たちは、ユウに恐怖を与えるつもりが逆に恐怖を感じる羽目となった。


「どうした。許してほしくないのか? それともお前ら全員まとめて殺されたいのか」


 ユウの全身から殺気が噴き出す。

 多くの衛兵や離れた場所から見物していた野次馬たちが、どうなるのかと固唾を呑んで見守る。


「左腕を出せ」

「そ、そんなっ! 嫌だ! 嫌だ!! おい、お前ら助けてくれよ! こんなのおかしいだろ!!」


 拒否する男を仲間たちが押さえつけ無理やり腕を引き伸ばすと、バグジーは容赦なく残る左腕を斬り落とした。


「があ゛あ゛ああああぁぁぁぁぁっ……」


 ショックのあまり両腕を失った男はそのまま意識を失う。


「これでいいですよね?」


 返り血を浴びたバグジーが、どうだとユウに問いかけるのだが。当のユウは目も合わせずに、斬り落とした腕を魔法で焼き払っていた。


「なにしやがるっ!」

「こいつ、腕を燃やしやがった!!」


 ユウの行為に激昂したローレンスの男たちが、侍らかせていた女たちを突き飛ばして前に出ようとするが、バグジーがマチェーテを横に振るう。刃についていた血が男たちの顔にかかると、激昂していた男たちは動きを止めてバグジーの顔を窺う。

 そこにはいつもと変わらぬ薄ら笑いを浮かべたバグジーの姿があった。


「冒険者様、説明していただけますか?」

「あ? 落とし前で斬り落とした腕を、あとでポーションや白魔法で繋げられたら意味がないからな。俺の方で処分してやったんだ」

「そりゃお手数をおかけしました」

「気にすんな。ゴミの処分は得意なんだ。

 今後はゴミどもの躾は――言っても無駄か。化粧や香水で誤魔化してるが、お前からも腐ったドブネズミの死臭みたいな臭いがするもんな」


 気づけばバグジーの顔から笑みが消えていた。


「なんだよそのツラは? 俺はこれで許してやるって言ってんだぞ。それとも今から俺と殺り合うか?」

「――いえ。滅相もございません。冒険者様にはとんだご迷惑を――」


 腸が煮えくり返るほどの怒りを抑えつけて、ユウに謝罪するバグジーの言葉を最後まで聞かぬまま、ユウはその場をあとにした。


「バグジーさん……いいんですかい? あんな舐めた真似を許して」


 ローレンスの幹部の男が、バグジーの肩に手をかけようとするが、そのバグジーの肩が小刻みに震えていることに気づく。


「あ……あ……あんまりだぁ……。う、うえええ~んっ! あんまりだぁ~!! うわああああぁぁぁ~ん。こんなーことってぇー。許されてぇ、いいのかよ~!!」


 大泣きである。

 人目も憚らずに、バグジーは大声で泣き出したのだ。

 その姿に驚く衛兵や野次馬たちであったが、ローレンスの男たちは違う意味で狼狽する。

 生まれ出たときより自分の思うまま好き放題やってきたバグジーは、稀に思い通りにならないことがあると感情を爆発させるのだ。

 そして、そのストレスはバグジーが持つ残虐性も相まって他者へと向けられる。


「お前らがぁ、役立たずだからぁ。俺がこんな目に遭うんだ」

「そ、そんなっ。待って、バグ――ぎゃっ」


 命令を遵守したにもかかわらず、男の目がバグジーのマチェーテによって斬り裂かれる。


「お前も、お前も! お前ら全員だぁっ!!」

「ぎゃんっ。か、勘弁し……てく……ださいっ」

「あがぁ……俺の指がっ」

「ゆるじで……くだ、ざ……ぃ……」


 顔中を斬り裂かれた者やマチェーテを防ごうとして指を斬り落とされた者など、半数がその場で息絶える。残った半数も部位を欠損して、重傷である。


「あースッキリした」


 一頻り暴れて落ち着いたバグジーが、いつもの薄ら笑いを浮かべながら、事の成り行きを見守っていた衛兵隊長のもとへ向かって歩いていく。


「衛兵さん、あのゴミ・・・・の処理をお願いしますね」


 バグジーはそう言いながら血で汚れたマチェーテをゴミのように放り投げる。


「わ、わかった……」


 これだけの行為をしても、衛兵たちはバグジーを始めとするローレンスの者たちを捕まえることができないのだ。


「バグジーさん、俺にあのクソガキを殺させてくれよ!」

「ダメだ。親父から手を出すなって言われてる」

「クッソ! バグジーさんに対して、あんな舐めた真似をした奴を生かしたままなのかよっ」

「心配するな。

 どうせ、いつもと同じさ。どんな威張った奴だって、最後は親父と俺の前に跪くんだ」


 女たちがバグジーに香水を振りかけ、汗をハンカチで拭う。口元には高揚作用のある草を詰め込んだ煙管きせるを咥えさせる。


「へへっ。そんときには、あのクソガキの尻を俺に掘らせてくれよ」

「ああ、いいぜ。連れの女どもが一緒に来ているはずだ。お前がサトウの尻を可愛がってる目の前で、サトウの女を俺が犯してやる」

「そりゃいい」

「くっく。今から楽しみだぜ」




「だから来ないほうがいいって言っただろ」


 ローレンスとの諍いがあったあと、ユウたちは宿に向かっていた。先ほどからニーナたちは黙ったままである。


「ユウってジョゼフさんに似てきたよね」

「――は?」


 やっと口を開いたニーナの言葉をユウが聞き返す。


「さっきの人たちとの争いを見てて思ったんだけどね。絡み方っていうか、ケンカの売り方が似てるな~って」

「嘘つけよ」

「……そっくり」


 レナもニーナの考えに同意する。


「武器だってジョゼフさんみたいに二刀だし」


 ニーナの言葉に、ユウは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。


「マリファ、俺ってジョゼフに似てないよな?」


 そんなはずはないと、ユウはマリファに助けを求めるように話を振る。


「ご主人様とゴリ――ジョゼフさんが似ているわけがありません」


 マリファの横を歩いていたレナが「……うそつき」と呟いた。

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