第109話 日記

 ○月X日

 予定通りの場所、時間に災厄の種候補が現れる。

 聖女派の反対も虚しく本国の召喚は成功したようです。

 対象者の名前はユウ・サトウ、黒髪に黒い瞳とこちらの選定したとおりの容姿。

 ユウ・サトウへスキルを使用。レジストされることなく効果は発揮された。過去の召喚者の中には強力なレジストスキルを持っている者もいたが、ユウ・サトウに関しては現在は看破系の魔眼のみしか持っていないようだ。後天的に発現する者もいたと記録には残っているので経過観察が必要。


 ○月X日

 ユウ・サトウは酷い人間不信だ。私に対しても警戒感を隠そうともしていない。

 性格、感情、境遇とこちらも選定どおり。


 ○月X日

 元々閉鎖的な村だが、私のスキルによって拍車をかけるようにユウ・サトウに対して迫害、暴力を振るっている。


 ○月X日

 頭部に傷を負っていた。傷は傷薬で治療した。神聖魔法を使えばすぐに治せるのに……。

 ユウ・サトウが心を少し開いてくれた。名前を名乗らせることに成功。

 この日は一緒のベッドで就寝する。


 ○月X日

 全身泥だらけでユウが帰ってきた。顔も腫らしていた。村の冒険者に絡まれたようだ。

 いつまでこんなことを続けなければいけないのだろう。聖女派はなにをやっている。


 ○月X日

 ユウが手伝いをしてくれるようになった。嬉しい。


 ○月X日

 異界の魔眼を少しずつだが使いこなしているようだ。MPも併せて上昇している。


 ○月X日

 ユウは気づいていないみたいだが、独り言を言う癖があるようだ。


 ○月X日

 恐れていたことが起こる。ユウに新たな固有スキルが発現。強力無比なスキルだ。情報操作を開始する。


 ○月X日

 私の技術をユウの脳へ刻み込む。今は使いこなせないだろうが、いずれユウの役に立つはず。


 ○月X日

 報告と監視を兼ねている行商に偽装した聖国ジャーダルクの連絡員には、スキルで嘘の情報を報告させている。


 ○月X日

 ニーナ・レバと名乗る少女がユウに近づく。スキルを使用するが教王派の諜報員かは判断できず。

 教王派に私と同系統のスキルを持っている者がいる可能性があることから、まだ信用するわけにはいかない。


 ○月X日

 今日もユウは独り言を言っている。ポーション作成で悩んでいるようだ。

 裏の納屋にある装備のことは気づいていない振りをしておこう。


 ○月X日

 ユウとニーナ・レバが仲良くなったようだ。まだ油断できない。


 ○月X日

 私に隠れてなにか造っているようだ。


 ○月X日

 聖女派との連絡が途絶える。


 ○月X日

 ユウがお風呂を造ってくれた。私のために。今日は良い日だ。


 ○月X日

 聖女派の連絡が再開。聖女派内で揉めているようだ。三聖女様の様子がおかしいようだ。嫌な予感がする。


 ○月X日

 行商の連絡員にスキルを使用し内情を探るが、大したことは知っていなかった。


 ○月X日

 体調が思わしくない。ユウが心配そうな顔をしている。不謹慎にも喜んでしまう。


 ○月X日

 体調が一向に良くならない。神聖魔法もまったく効果がない。


 ○月X日

 薬を試すが効果はない。残された時間はわずかかもしれない。


 ○月X日

 寿命が近い。まだ死ぬわけにはいかない。ユウのことが心配だ。


 ○月X日

 義理の息子に助けを求めたが無事に伝わっただろうか。

 このままでは狂った国にユウは利用されてしまう。

 時間がない。


 ○月X日

 まだ死ぬわけにはいかない。死にたくない……。ユウともっと一緒にやりたいことが山ほどある。初めて神に祈る。生きたい。






 これ以降の文字は滲んでいるため、読むことができなかった。

 アンスガーは日記を読み終えると、深い溜息をつく。

 フォッドの姓を持つ者のみが知っている魔法を日記にかける。魔法によって他の者が読んでも当たり障りのないものへと日記が改竄される。


「約束は果たしたがどうしたもんかね。

 それにしても、相変わらず日記だと変な文章なんだな」


 独り言を呟きながら、アンスガーはもう一冊の日記にかけられた魔法を解除し目を通していく。読んでいく内にアンスガーの顔が険しいものへと変わっていく。


「おいおい……本当かよ。近い内に戦争が……大戦が起きるぞ。ジャーダルクは第四次聖魔大戦でも起こす気かっ!?」


 アンスガーは家から出ると家と墓に火を放つ。火が燃え広がるのを確認すると、召喚魔法でロック鳥を召喚し、背に跨がり飛び去っていく。

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