第61話 マリファの育成③
マリファの育成も10日目を迎えていた。
10日経つ間にユウはウッズから依頼していた防具とアイテムポーチの金具を受け取り。以前に回収していたアイアンゴーレムの破片を売却していた。マゴに売却したポーションも最初は売れ行きがよくなかったのだが、口コミとポーションの効果が徐々に浸透してきているようで、早くも追加納品の依頼がきていた。
一方のマリファだが、連日――それも1日中弓を射っているので、弓術のレベルが2に上がっていた。今使っているショートボウも2張目だ。
「ギャッ」
数十体目のゴブリンがマリファの放った弓矢に貫かれて絶命する。
食事環境が改善されたおかげか、マリファが当初の骨と皮だけのような身体から、若干ではあるが肉がついているように見えるのは気のせいではないだろう。
「ワンワンッ」
「よしよし」
ユウはじゃれてくるブラックウルフたちの腹を撫でる。このブラックウルフたちは、以前マリファが倒した魔物の死体を狙って集まって来ていた群れだったのだが、慣れてきたのかユウたちに近づいて来るようになったので、ビッグボーの肉を切り分けて放り投げると、嬉しそうに尻尾を振りながら群がって来た。それ以来、ユウたちが訓練を始めると自然に集まるようになっていた。
「……ブラックウルフ、野生の誇りはどこにいった……」
「レナもそんなこと言って撫でてるくせに~」
そういうニーナもブラックウルフの頭やお腹を撫でていた。おかげでクロは放ったらかしである。
マリファが最後のゴブリンを倒しユウの傍まで来ると跪く。
「そういうのやめろって言ってるだろ……」
マリファは戸惑いながらも立ち上がる。
「身体もましにはなってきたし弓も問題ないな。そろそろ無詠唱で魔法も使えそうか?」
ユウの問いかけにマリファは首を横に振る。
「前にも言ったけど頭の中で詠唱するだけだからなぁ。魔法はパズルみたいなモノって言えばわかるか?」
「……わかる」
「わかんないな~」
聞いてもいないのにレナとニーナが返事をする。2人を無視しながらユウは話を進める。
「魔言を詠唱することによってパズルが組み上がり、完成すれば魔法が発動する。ここまではわかるか?」
マリファが頷く。マリファの横ではブラックウルフがかまってほしそうに尻尾を振っており、マリファの足に尻尾がビシバシ当たっている。
「自分の発動させたい魔法の完成を頭の中でイメージしながら詠唱し、パズルを組み立てていけば無詠唱の完成だ。
見たことはないが詠唱破棄のスキルを持っている奴は、いきなりパズルが完成した状態で魔法を発動していると思うな」
横でレナがフンフン言いながら頷き、ニーナはつまらなくなったのかブラックウルフと戯れを再開する。クロは『闘技』の練習をしながら聞き耳を立てている。
「で、いつまでその格好でいるんだ?」
ユウの質問にマリファは頭を傾けてスカートの端と端を摘んで持ち上げる。
マリファの格好とは黒のワンピースに白のエプロン、いわゆるメイド服だ。コレットさんオススメの服屋に行った際に、マリファが購入した物がメイド服だったのだ。マリファ自身は、店員から奴隷としてご主人様に仕えるからには絶対に必要な服だと説明されて購入したのだった。
「どう考えても戦闘用の格好じゃないだろうが」
「マリちゃん、かわいいよ~」
「……悔しいが似合ってる」
マリファは無表情を装っているが、褒められて恥ずかしいようで耳はピクピク動いていた。
「今日はこのあとギルドに行って、マリファの冒険者登録をするからな」
冒険者ギルドに着くと、早速マリファの冒険者登録にカウンターのコレットの元へ向かうユウだったが、カウンター内でなにか争っているのが気になった。どういう風に決着が着いたのかコレットがガッツポーズをし、ユウに対して手招きしている。
「マリファさんの冒険者登録ですね」
「はい、あとジョブも併せてお願いします」
「任せてください!」
コレットがいつもどおり満面の笑みで応える。周囲の冒険者から舌打ちが聞こえる。
「あとよかったらこれ皆で食べてください。パンを揚げた物です。片方が粉砂糖と、もう片方はカスタードクリームを入れてます」
コレットの口端から涎が見えていたが、あえて触れずにいたユウは空気が読める男かもしれない。周りのカウンター嬢も他の冒険者への応対を止めてこちらを見ている。
「ッチ、なにが揚げパンだよ! 男のクセに甘ったるい匂いさせやがって恥ずかしくねぇのか」
待たされた冒険者の男がユウたちに聞こえるように愚痴を零す。この男に大きな非はない……相手が悪かっただけだ。
ユウに対して暴言を吐いたと判断したマリファが、弓に手をかけようとするよりも早く、カウンター嬢たちの動きは早かった。
「ユ、ユウさん失礼します!」
コレットは素早くユウの耳を塞ぐ。他のカウンター嬢たちはすでに冒険者の男を取り囲んでいた。
「ちょっと! どういうつもりよ」
「あんたの心ない言葉でユウくんが傷ついたらどうしてくれるのよ」
「そうよ! もしこれでユウちゃんがお菓子を持って来てくれなくなったら、どうなるかわかってるんでしょうね!」
「ど、どうなるってんだ! お、お前ら、受付ごときがなにかできるとでも言うのかよ!」
普段は荒くれ者が集まる冒険者ギルドで受付をしているカウンター嬢たちは、冒険者の男が凄んでもなんのその、逆に睨みを効かして迫っていく。
「ふ~ん、そういう態度とるんだ……」
「なな、なんだってんだ」
「これからあんたのクエスト受理しないからね」
「っ!? ま、待ってくれ!そ、そんなこと許されると思ってんのか」
「ギルドの受付嬢を敵に回したらどうなるか教えてあげるわ」
冒険者の男は受付嬢たちに引きずられながら別の部屋へと消えていった。
その光景を見ていた他の冒険者たちは哀れみの目で連れていかれた男を見送った。そして自分たちは同じ過ちは犯すまいと心に誓った。
ニーナ、レナ、マリファは同性の恐ろしさに口が開いたままだった。繰り返すが連れていかれた男に大きな非はなかった。
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