第54話 奴隷商人との交渉①
ユウの1日は夜明け前に起きることから始まる。
目を覚ますと、自分を抱枕のようにして寝ているニーナを振りほどき、隅で丸まっているレナをニーナの傍まで移動させ布をかける。
今度、モッコ羊かウードン水鳥でも狩ってきてかけ布団でも造るかと考えながら机へ向かう。
机の上には昨日切り取ったベナントスの胃袋が並べられている。以前購入したアイテムポーチ(6級)の材料が、布袋・ベナントスの胃袋・錬金術LV3だったが、ベナントスの胃袋は大量にあるので布袋を使わずベナントスの胃袋でポーチを作成し、錬金術と時空魔法を組み合わせてついでに魔力も多めに流し込んでみる。
アイテムポーチ(4級):500キロまで物を入れられる。中に入っている物は状態が維持される。
自分で創っておいてなんだが、かなり便利なアイテムポーチができた。それにしても5級のアイテムポーチの材料が丈夫な布袋・ベナントスの上質な胃袋・錬金術LV5なのに、それ以上の物ができたのは全てをベナントスの胃袋で造った影響なのか。それとも時空魔法と魔力を多めに流し込んだ影響なのかが気になるな。
上質な胃袋は量も限られているので、錬金術と時空魔法のレベルがもっと上がった際に使うことにした。
その後、ニーナ用にウェストポーチとレナ用に肩掛けタイプのアイテムポーチを創ろうとしたが、金具のことを忘れていた。
金具は鍛冶屋のおっちゃんに作ってもらうか。
ウェストポーチと肩掛けカバンをあるていど創ってから、朝食の準備に取りかかる。
パンを焼きながら、その横で卵とベーコンをフライパンに投入する。しばらくするとパンの焼けた良い匂いが部屋に充満していき、匂いに釣られたニーナとレナが目を擦りながら現れた。
「おはよぅ~」
「……ょぅ」
2人共まだ寝ぼけているので、顔を洗ってくるように伝える。
その間にパンとベーコンエッグを並べていく。温めていたコーンポタージュも皿に注ぎ並べ終わる頃に、2人が戻ってきた。
「ふわぁ~、今日もおいしそうだね~」
「……いい匂い」
ニーナは焼きたてのパンにイチゴジャムを塗りつけ齧りつく。甘いジャムと焼きたてのパンの相性は言うまでもないが抜群だ。
レナはコーンポタージュの匂いを楽しみながらスプーンで掬うと、息を吹きかけて冷ましながら飲む。
2人共、黙々と食べ続ける。いつもなら朝からでも喧しいのだが、昨日は軽い食事と疲労からすぐ就寝したために腹が減っていた。
「さて、レナ。俺に言うことがあるだろう」
食事が終わり寛いでいるレナに問いかけると、レナはビクッ、と身体を震わして目を合わそうとしない。
「……なにも隠していない」
「2ndジョブが魔女になっている」
ニーナが俺とレナの顔を交互に見ながらオロオロしている。
「……必要だから」
しばらくレナを見つめるが、今度は目を逸らさないのでよっぽどな理由で就いたのだろう。
机の上にアイテムポーチを置く。
「……これは?」
「昨日の奴らから回収した金だ。装備とアイテム類は売却後にわける」
レナはアイテムポーチから金を机に並べていく。白金貨、帝国金貨、金貨、銀貨……総額18,700,000マドカはあった。
レナが入りたがっていた魔法学校の入学費用が金貨100枚、10,000,000マドカなので入学費用を支払っても十分すぎる金額だった。
徐ろにアイテムポーチへ金を戻すと、レナはアイテムポーチを俺のほうに渡してくる。
「……必要ない」
「なに言ってんだ? 魔法学校に行くのに金がいるだろうが。魔法学校に入って賢者になって王都で宮廷魔術師になってこいよ。ついでに家から出てけよ」
ニーナが「あう~あう~」言いながら慌てているが、元々レナの目的は魔法学校の入学費用を貯めることだ。目標額が貯まったのだから、王都の魔法学校に行くのが当然の選択だ。
「……魔法学校には入学しない。だから家も出て行かない。絶対に」
思わず口が開いたまま固まってしまった。こいつはなにを言っているんだ。しかもドヤ顔だ。俺には理解できないが、ニーナは「うんうん」と言いながらレナに抱き着いている。
これ以上話し合っても時間の無駄なので、次に装備を机に並べていく。ニーナには『鬼の腕輪』『妖精のピアス』『竜の腕輪』レナには『ミルドの杖』『ゴルドバのネックレス』『岩石竜の指輪』を。
「取り敢えず渡しておく。残りの装備はおっちゃんのところで売却か、潰して新しい装備に造り直してもらう」
「私たちばっかりでユウの分は?」
「ミラージュの指輪を貰う。俺のシスハのペンダントはニーナに渡すから」
極端な分配にニーナが不満を漏らすが、戦力を平均化するにはこれが良いと考えての判断だ。あとはおっちゃんのところで、ミスリルのフルプレートアーマーを潰して、ミスリルダガーや鋼鉄蜘蛛の糸とミスリルの粉末を混ぜ合わせてミスリルのローブを造るのもいいな。
レナは新しい杖が気に入ったのか、ずっと眺めている。レナは2ndジョブに就いただけあって、新しいスキルも増えてステータスも大幅に向上していた。
「新しい装備を購入するまで狩りには行かないから、各自自由行動な」
冒険者ギルドへ行くと、コレットさんのところは数人並んでいたので待っていると、隣の受付嬢がこちらへどうぞと休憩中の札を退ける。2番目に並んでいた冒険者が向かおうとするが、ビクッ、と硬直しコレットさんのほうへ戻る。
なにかあったのだろうか冒険者の顔は青ざめていた……。受付嬢は満面の笑みでこちらを手招きする。
「あ~あ~ぁ~っ!」
コレットさんはなにやら喚いているが、そんなに忙しいのだろうか。
「ようこそユウ様、今日はどういったご用件でしょうか」
「素材の買い取りをお願いします」
「かしこまりました。それでは冒険者カードをお預かりしますね」
受付嬢は素材の査定をしながら、思い出したかのように話しかけてきた。
「そういえばユウ様、Dランク昇格おめでとうございます」
Dランク? どういうことだ。
「ルーキー狩りを討伐されましたよね」
なるほど、ルーキー狩りには冒険者ギルドから懸賞金がかけられていたのか。
「多くの新人冒険者や中には中堅冒険者も犠牲となっていましたので、ユウ様の功績は計りしれませんよ。こちらが素材の買い取りと懸賞金になります」
いつもの買取額とは別に金貨30枚が手渡された。金貨30枚は俺の分で残りはニーナとレナに渡すそうだ。
「ありがとうございます。あと、これよかったらコレットさんと一緒に食べてください」
前回好評だったポテチと、一口大に切ったパンを揚げて砂糖と蜂蜜をかけた物を渡す。
「まあまあっ! ありがとうございます。
受付嬢の喜び様は凄まじかった。他の受付嬢も鋭い目でこちらを凝視していた。コレットさんは私の~と言いながら涙目で冒険者の相手をしていた。
受付を離れると「よっしゃ~!!」っと叫ぶ声と「私にも!」「返して~」と群がる声が聞こえてきたが、振り返るのは止めておいた。
冒険者ギルドのテーブルで食事中のラリットを見掛けたので、話しかける。
「ダガーにまだスキル付与ができていないなら、最近知り合いになった錬金術師がいるから頼もうか?」
もちろん錬金術師の知り合いなどいないが、ラリットには世話になっているのでスキル付与くらいしてもいいだろう。
「本当かっ!」
よっぽど嬉しかったのか、ラリットは口の中に入っているパンクズをこちらに飛ばしながら大声で反応する。
そしてダマスカスダガーと魔玉を渡してくる。ラリットは付与するスキルを『HP吸収』か『MP吸収』のどちらにするか悩んでいたが最終的にはHP吸収に決めた。
「簡単に自分の武器を渡していいのか? このままトンズラするかもしれないぞ」
「へっへっへ、俺は自分の目とスキルを信じてるんだよ」
スキル? あぁ『お返し袋』か。恩を売れば売るほど返ってくる幸運が増える固有スキルだったか。
「そうだな、3日後には迷宮に潜る予定なんだが、それまでに間に合うか?」
「わかった。明後日のこの時間には持ってくるよ」
2日後、
受け取ったラリットは早速スキルを試してくると飛び出して行った。
冒険者ギルドを出て大通りを進んでいくと、いつもの声が聞こえてくる。
「そこのお兄さん~、俺は狼人の亜人だ! 身体能力には自信があるぜ! なんでもやるから買ってくれ!!」
「そんな亜人より私を買わないかい? うんとサービスするわよっ!」
様々な奴隷が一生懸命自分を売り込んでいる。値段は
売り込んでくる奴隷を無視して進んでいく。
「…………」
檻の中から、片目でこちらを見てくるダークエルフの少女と目が合う。
相変わらず生気のない目をしている。衣服はボロボロで近づいて見ると、左目と首だけではなく鎖骨から左上の乳房にかけても傷がある。
「お前はなんで生きている」
声をかけたのは初めてだ。
ダークエルフの少女の耳が反応しているので聞こえてはいるようだ。
「生きる気力がないのになぜ生きている」
「……ぁ…………ぅ」
「まさか待ってれば親切な奴が助けてくれるなんて、甘いことを考えているんじゃないだろうな」
ダークエルフの少女の瞳に少しだけ感情が戻る。その感情は怒りだ。
「言っておくが誰もお前なんて買わないぞ。このままだと1年もしないうちに、もっと過酷な場所へ二束三文で売り払われるだろうな。ここにどういう経緯で来たのかは知らないが、お前の親はクズだな」
「っ!? ぃぃ…………ぁ゛ぁ゛」
こいつを見ているとイライラする。
ダークエルフの少女は先ほどまで檻の中で座り込んでいたが、今は俺に掴み掛かろうと檻の隙間から手を伸ばしている。
「ハハッ、怒れるんじゃないか。爺さん、この奴隷買った」
「気づかれていましたか、
俺の後ろにいる爺さんは、俺が気づいていたことに驚く素振りも見せずに応対する。
ダークエルフの少女は突然の展開に固まっていた。
その後、爺さんに案内され応接室で待っていると、爺さんが入って来る。その後ろには護衛と思わしき人間と亜人が立っていた。
「この奴隷の値段は?」
「――500枚」
「は?」
「ですから金貨500枚です」
道端沿いに展示していた奴隷の中で高い奴で金貨5枚だ。
爺さんの言葉に俺の目が鋭い物になっていった。
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