第52話 レナの分岐点

 都市カマーから1kmほどの道を歩いている二人組がいる。1人はニーナでその背にレナを背負っていた。

 ジョゼフと付与士の男が争ったあとに、ジョゼフから先に帰るよう言われたからだ。 ニーナもその場でユウを待っていたかったが、レナのこともあり先に帰ることにした。


「……ニーナ、ここはどこ?」

「あっ。レナ、目が覚めた?」


 レナにあのあとどうなったかを説明し、家に帰る途中だと説明する。


「……家に帰らずに、このままギルドへ向かってほしい」

「えぇ~、ユウに怒られるよ。それにレナの身体も心配だし」

「……仕方がない」


 レナはそう言うと、徐ろにニーナの胸を握りしめた。

「ひゃっ、なにするの!? 離して~」

「……私の握力は10キロはある。胸を引き千切られたくなければギルドへ向かって」

「10キロ!? よわっ!」


 結局、耳元で延々とギルドへ行ってほしいと囁くレナの圧力にニーナは負けた。




 ベナントスの群れが食事を終えて地面に横たわっている。地面には赤い染みが残るのみで、ボルの存在を示すものは跡形もなくなっていた。

 そんなベナントスを見ながら、ユウは自身のステータスを確認していく。

 『腕力強化』は『豪腕』に、『毒耐性』は『状態異常耐性』に、『半魔眼』は『竜魔眼』へと統合された。状態異常耐性はLV2表示だったが、詳しく見ると毒耐性に関しては元のLV3あるようだ。

 地下24階に戻り転移石で地上へ出ると、そこにはジョゼフが待っていた。


「おっさんがなんでここにいるんだ? ニーナとレナは?」

「嬢ちゃんたちには先に帰ってもらった。それよりドワーフは?」

「死んだ」

「殺したの間違いだろ。俺は用があるって言ったはずだ」

「俺には関係ないな」

「ルーキー狩りに負けそうだったくせに、態度が少しでかいんじゃないか」


 ジョゼフはユウの態度に、少し戒める必要があるかと圧力をかけていく。


「1人だったら、迷宮じゃなかったらあのていど……。まぁ、なにを言っても言い訳だな。丁度いい、おっさん少し相手してくれよ」

「ルーキー狩りを倒して少しレベルが上がったくらいで調子に乗るなよ? 大体、お前の武器は壊さ――――なnのつもりだ?」


「武器ならあるさ」


 ユウの右手には飛竜の槍が、左手には大地の戦斧が握られていた。


「お前な……普段剣を使っている奴が、いきなり槍と斧を使いこなせると思ってんのか? しかもその槍も斧も本来両手で扱うもんだろうが、片手ずつ武器持ってどうすんだよ」

「試してみるか?」


 そう言い放つとユウは槍技『螺旋』を放つ。螺旋の回転を纏った槍を捌きつつ、ジョゼフは『槍技』を使ったことに驚いたのはもちろん、その槍捌きが熟練を思わせる動きに驚愕した。


「どうなってんだ……」

「チッ……」


 簡単に捌きやがって。相手は化物みたいに強いんだ。こっちも遠慮なくいくか。  

 ユウは魔法剣で右手の飛竜の槍に火を、左手の大地の戦斧に水の魔法を纏わせる。さらに右腕と左腕にも同じように魔拳で魔法を纏う。


「おまっ、なんだそりゃ!?」


 ユウはジョゼフの問いかけを無視し突っ込んでいく。斧技『圧壊』を発動、ジョゼフの頭上から破壊の塊が降りかかる。


「ぐぉぉぉぉっ!!」


 ジョゼフが右手の聖剣聖炎で受け止めるが、以前と違いジョゼフに余裕はない。全力で受けて止めていた。


「このゴリラがっ!」


 大地の戦斧には魔力を注ぎ込んでおり、ただでさえ重量のあった戦斧をあり得ない重さにしていた。

 水を纏っていた大地の戦斧と受け止めた聖剣聖炎の間で、水蒸気が吹き溢れる。


「熱っつ!」


 火耐性のあるユウにダメージはなかったが、ジョゼフのほうは水蒸気の熱で一旦距離を取る。


「冗談じゃねぇぞ……」


 ジョゼフの額から冷や汗が流れる。

 魔法剣を使う前衛職とは何度も戦ったことはあるが、両手の武器にそれぞれ違う属性を纏わせる相手などこれまでにいなかった。

 『闘技』を使用していなかったのも剣を交えてわかったが、使用しないんじゃなく体内で『闘技』を循環させてやがる。

 拳にまで魔法を纏っているので、常時MPを消費しているにもかかわらず、平気な顔をしていやがる。

 そして――小僧から放たれる圧力が……。


「ランク6どころじゃねぇな……最低でも7はありやがる」

「今日こそおっさんに全力を出させてやる」

「クソガキが……上には上がいることを思い知らせてやるよ」

「そいつは楽しみだ」




「本当にいいんですか?」


 数度目の問いかけをレナにするコレット。


「……問題ない」


 ニーナに背負われてギルドに着いたレナは、コレットに転職部屋へ案内してもらった。

 

「ですが昨日の今日で……なにかあったんですか? それにユウさんはこのことをご存知なんですか?」


「……みな……しに…………必要」 

「え? 今なんて――」


 レナと目を合わせたコレットは、レナの濁った目に寒気を感じる。


「……蜜に集まる、夜の火に集まる蟲のように」

「レナさん、なんのことですか。ニ、ニーナさん~」


 ちなみにニーナは、先ほどから顔中に汗を流しながらレナと目を合わせないようにしていた。


「……蟲共を鏖にするには力が必要」

「ユウさん~、助けてください~」


 冒険者ギルドの転職部屋から、外にまでコレットの情けない声が響いていた。

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