第51話 後始末と戦利品、おっさんとおっさん

「うぅ……」


 泣きそうな顔で正座をしているニーナが俺の顔を窺う。


「なにか言い訳はあるか?」


 ルーキー狩りから装備・アイテムポーチを剥ぎ取り、戦闘中に棒立ちになっていたニーナを説教中だ。


「だってあのドワーフがユウの腕を……」

「戦闘中に棒立ちなんて、殺してくれって言ってるようなもんだ」


 説教しながらニーナの傷をヒールで回復させる。

 あのエルフがどういうつもりだったのかわからないが、棒立ちのニーナを殺せる機会があったにもかかわらず、ニーナの傷は腕や脚などに集中している。


「ごめんな……さい」

「さすがに死んだらどうしようもないからな……」

「あ……」


 俺の言葉と表情から、ばあちゃんのことを思い出したと察したニーナが泣きだした。

 泣き止むまで待っていると、ジョゼフが待ちきれないとばかりに話しかけてくる。


「おい、俺になにか言うことはないのか? ん? んん?」


 ニヤニヤした顔がムカツク。


「お前、ゴリラに似てるな」

「ゴ……ゴリラ? なんだそりゃ! それより助けてやったんだから礼の1つでも言えよ!」

「ゴリラってのはまぁ、お前みたいな動物だな。あと助けてくれなんて俺は言ってないぞ」

「ぐぬぬっ……そ……そのゴリラってのはよっぽどカッコイイ動物なんだろうな」

「うるせぇ奴だな。大体、お前のせいでエルフの装備が奪えなかっただろうが謝れ!」


「なっ!? なんて言い草だ! あっ! そういえばエルフの杖を回収してたな、俺が倒したんだぞ!」


 竜人とドワーフの装備は全て回収したが、エルフの装備はジョゼフの攻撃で消し炭になっていた。

 エルフの装備は魔法耐性や火耐性などもあったにもかかわらず、燃やし尽くしたのだから、ジョゼフの聖剣の威力は尋常じゃない。


「物々交換だ。おっさん、クエストがどうこう言ってたな? どうせルーキー狩りの討伐クエストでも頼まれたんだろう。

 そこで竜人の遺体をおっさんにやるよ。エルフのほうは消し炭になったから討伐した証明ができないだろう」

「誰がおっさんだ! 俺はまだ34歳だ。よし、竜人の遺体とそこのドワーフで手を打ってやる」

「ドワーフのほうはダメだ。聞きたいことがあるからな」


 ユウがそう呟きながらボルのほうを見ると、ボルは切断された四肢の傷口を『闘技』で覆って出血を止めていた。


「ニーナ、レナを背負っておっさんと一緒に先に帰れ」


 ニーナは最初渋っていたが、レナの状態もあり最後は言うことをきいた。おっさんも竜人の首を切断し、頭部だけをアイテムポーチへ入れる。


「おい、そのドワーフにはまだ用があるから殺すなよ」


 ジョゼフは無視してドワーフのほうへ向かう。ジョゼフはシカトとか傷つくわぁ~と言いながら、ニーナたちと一緒に上の階へ戻って行った。




「ぐ……ハァハァ、早く……腕と脚を繋げて……くれ」

「繋げてほしかったら質問に答えてもらおうか。お前らが腕や脚ばかり狙ってたのは、なにか理由があるのか?」 


「ヒ……ヒヒッ、四肢を切断して……動けなくして嬲るためだ」

「なんだ、ただの甘ちゃん共か。次に不死の傭兵団について――――」


 残りのスキルを奪いながら質問をしていく。




 ニーナたちとジョゼフは地下24Fまで戻ると、そこで転移石で地上へ戻る。

 レナは転移石を使う際に一瞬だけ目を覚ましたのだが、迷宮の外へ出ると再び意識を失う。


「嬢ちゃん、今回は災難だったな。まぁ、冒険者をしていれば少なからずこういうことは今後もあるだろうが、気にすんな」


 そう言ってジョゼフはニーナの胸を触ろうとしたが――。


「ジョゼフさんってセブンソードなんだね。確かセブンソードってデリム帝国でも、特に優れた戦士の名称だよね?」

「嬢ちゃん、惚れたか?」

「よかった~。ジョゼフさんがデリム帝国の人で、もし聖国ジャーダルクだったら――――さなくちゃいけなかったもん」

「は……? 嬢ちゃん、今なんて……言った?」 


 よく聞き取れなかったので再度聞き直そうとしたジョゼフだったが、満面の笑みのニーナの表情から、先ほどのセリフは自分の聞き間違いと思うことにした。


「旦那~、なにかあったんですか?」


 そう声をかけてきたのは、ゴルゴの迷宮の入り口で付与魔法をかけている付与士だった。


「おう、ルーキー狩りの噂は知っているか?」

「ああっ、知ってますよ! 最近このゴルゴの迷宮でも何人かの冒険者が犠牲になったそうですね。

 嬢ちゃん達しかいないってことは、まさか坊主のほうは……」

「小僧のほうも無事だ。それにしても今回は運がよかった」

「坊主は無事ですか。そりゃよかったよかった。

 へへ、確かに旦那が偶然来なけりゃ、大変なことになってたかもしれませんね」


 ジョゼフは笑いながら付与士のおっさんに近づいて行く。


「偶然? そうだな、偶々冒険者ギルドに何者かの召喚獣が手紙を運んで来て、手紙にはルーキー狩りの情報が記載されていて、嬢ちゃんたちが迷宮に入るタイミングに合わせるように再度召喚獣から情報が送られて来る。本当に偶然か?」


 距離を詰めているジョゼフに対して、付与士は焦ることなくいつものように対応する。


「旦那、なにが言いたいんで?」

「お前はどこの誰でどの国に所属しているんだ?」

「へへ、あっしはチンケな元冒険者ですよ」

「お前が付与魔法の商売を始めだしたのはここ数ヶ月前からだよな? なんて名前なんだ? 都市カマーで登録された冒険者じゃないのは間違いないだろう」


 次の瞬間、ジョゼフは横薙ぎに剣を振るった。付与士の首手前で止めるつもりだったのだが――


「旦那~、いきなりなにするんですか?」


 その剣は本気ではなかったとはいえ、付与士の結界によって止められていた。ニーナも突然のジョゼフの行動に驚いたが、レナを背負っているので距離を取る。


「おいおい、本当に何者だ?」

「あっしは頼まれただけですよ」

「誰にだ?」

「へへ、言えませんね」

「怪しいおっさんめ」

「へへ、あっしはこれでもまだ33歳ですよ」

「む、そいつは悪かったな。まだまだ若いな」


 ふざけたやり取りをしながら間合いを詰めようとするジョゼフだが、付与士にのらりくらりと距離を取られる。


「旦那、勘弁してくださいよ。あっしもセブンソード相手にするほど馬鹿じゃないんで……。あっ、今はでしたっけ?」

「自由国家ハーメルンか? それともセット共和国……まさかジャーダルクか?」


 ジャーダルクの名前が出た瞬間、ニーナから殺気が放たれる。その凄まじさにジョゼフが振り返るほどだ。すぐに付与士に視線を戻すが、すでに付与士の姿はなく、鳥の魔物を召喚して空の彼方へ逃げ去っていた。




「儂の知っていることは……全て話した、早く…………治して、くれ」

「亜人で構成された傭兵団か」


 不死の傭兵団、人間から差別された亜人たちが、人間に対抗するために集まってできた傭兵団。

 団長は竜人の女で名前はメリット、武器を持たずに無手で戦う姿から『赤手空拳』のメリットと呼ばれる。

 団員は総勢1000人ほどで上位の者には席次が与えられ、席次が10番以内の者の戦闘力は高位冒険者に匹敵する。


 ユウは情報を整理しながらボルの四肢を集めて、ファイアーボールを放つ。


「あ゛あ゛っ!? なにをする儂のっ! 腕が脚がぁっ!!」

「うるさいな、実験だよ」


 喚くボルにヒールをかけて傷口を塞ぐ。一般的に完治した傷跡や欠損した部位を回復させるには白魔法では効果がなく、高位の神聖魔法の使い手しか治せないとされている。

 ユウは白魔法で治せない理由が使い手にあると考えていた。傷跡や欠損した部位を白魔法の使い手たちは傷とみなせないから、白魔法の効果が現れないのではないか?

 傷口を塞いだボルの右腕つけ根に再度ヒールをかける。込められた魔力は通常のヒールでは考えられない量だ。


「いま゛ざら……なんの、真似だ……儂の腕を、脚を、返ぜ……」


 しばらくするとボルの右肩つけ根から腕が生えてくる。


「なっ! こ、これは儂の腕が!!」


 肘まで回復したところでヒールを止める。

 途中でヒールを止められたことにボルが疑問を浮かべていると、ユウは立ち上がり石を拾い始める。両手一杯の石を拾うと、ボルから10メートルほど距離を取る。


「実験は無事成功だな。あとはレナの借りを返させてもらう。本当はエルフにも仕返しをしたかったんだが、ジョゼフが殺した上に死体は消し炭で死霊魔法も使えやしない」


「な、なにを言って――グギャッ」


 ボルの右胸にユウが投げた石がめり込む。鍛え上げられたボルの胸筋と『闘技』で覆われた肉体を、いとも容易く貫通する威力があった。


「わざわざ『闘技』は残してやったんだ。しっかり纏えよ。最初の頃は石の投擲でよくゴブリンを倒してたんだが、どうだ? 中々の威力だろう」


 石を次々投擲する。ユウの腕力に『剛力』『豪腕』『身体能力強化』『投擲』『闘技』が加わり、ボルがいくら『闘技』を纏って防いでも焼け石に水で、身体は穴だらけになっていく。

 そして――血の匂いに誘われてベナントスが集まって来る。


「グフッ……や゛めで、こん、な…………ぐれ」

「こちらから攻撃をしなければ大人しいベナントスも、食事のときは違うみたいだな」


 ベナントスの群れがボルへ群がる。長い舌が穴だらけの傷口から入り込み血と肉を吸い込むように食べていく。


「ギャア゛ア゛ア゛アアアアッ痛い゛痛い゛、だずけてぐれっ!!」

「お前らに嬲り殺しにされた冒険者たちも、助けてほしかっただろうな」


 ボルがベナントスに食べられるのを見届けると、ユウはその場をあとにした。

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