第49話 ルーキー狩り⑥

「ボルっ! その少女は私の物ですよ!!」

「儂のせいじゃないぞ。小生意気に複数の結界など展開しているから、狙いがそれてしまったわい」


 投げナイフを首に受けたレナはそのまま倒れて動かない。急いで向かうが目の前に、ドワーフが立ち塞がる。


「どこに行く気じゃ?」


 会話している時間も惜しいので、完成していた魔法を放つ。真っ赤な液体のような塊が、ドワーフ目掛けて放たれる。


「馬鹿め! 儂のミスリルの鎧と魔法の盾に生半可な魔法など効くものかっ」


 馬鹿はお前だと心のなかで呟きながら、レナのもとへ向かう。ドワーフは予想どおり盾で受け止めるがそれは失敗だった。

 俺が放った魔法は、黒魔法第1位階の『アースウォール』と『ウォーターショット』を混ぜ合わせ、さらに粘着性を付与しそこに黒魔法第3位階の『轟炎』を合体させた謂わば、溶岩みたいな物だ。


「ぐああああ゛あ゛っっ!?」


 7割ほどは盾で防げたようだが、左腕全体にかかった溶岩の熱に悲鳴を上げる。早く鎧を脱がないと一生脱げなくなるな。

 レナのもとへ辿り着くと、血の気が失せて青くなっているがまだ息はあった。


「すぐに治すから安心しろ」

「……足を、ひ……ごめ…………ゴフッ……さぃ」

「喋るな。このていどなんともない」


 早速ヒールをかけながら投げナイフをゆっくり抜いていく。


「ハァハァ……。く、糞ガキがっ、バラバラにしてやるっ!!」


 目の前に左腕が焼け爛れたボルが立っていた。無理やり左腕の鎧を脱いだために、皮膚がめくれ上がっている。

 相手をしたいところだが、今レナへのヒールを止めるわけにはいかない。


「あとでいくらでも相手をしてやるからあっち行ってろ」


 ボルはアイテムポーチからポーションを取り出し、左腕にかけながら嗤う。


「四肢をバラバラにされても減らず口が叩けるか試してやる」


 次の瞬間、ボルの腕が2倍ほど膨れ上がる。鎧を着けている部位の下でも膨れ上がっているようで鎧が悲鳴を上げる。

 体内の『闘技』を全開にし、盾技『挑発』でこちらに敵意を向かせる。


「喰らえっ! 斧技『轟斧』」


 斧技LV5『轟斧』に『豪腕』『剛力』のスキル、さらには大地の戦斧のスキル『重量操作』が加わり、アースドラゴンの鱗すら容易く切り裂く戦斧が、ユウ目掛けて振り下ろされる。

 ユウの左手はレナへのヒールを継続し、右手で大剣を握り締め受け止めようとするが、黒曜鉄で出来た大剣は甲高い音と共に砕け散り、右腕上腕へボルの大地の戦斧が喰い込んでいく。

 元々、膂力では負けている上に片手で受け止めようとしたために、ユウの右手首は骨折し、折れた骨が皮膚を突き破り露出する。上腕に食い込んだ戦斧は右腕に5割ほど抉り込んでいる。


「……やめ…………て、ユゥにひど……いこと……で」

「グハハハッ!! 剣で受け止めたとはいえ腕が繋がっているとはなぜじゃ?」


 ボルは俺と目を合わせ・・・・・ながら興奮している。興奮しているからなのか、さっきまでと違い視線を逸らさないので遠慮なくスキルを奪うために集中させてもらう。


「お前の腕がしょぼいからじゃないのか?」


 俺の挑発をやせ我慢と受け取ったのか、ボルは口から涎を垂らしながら笑みを浮かべる。


「グハ、グハハハハハハァァァァ~ッ!! 切断してやるぞ! 腕をっ!! 脚をっ!!」


 ボルは興奮のあまり斧技も使わずに、戦斧を振り下ろしてくる。黒曜鉄の大剣は砕けたので黒曜鉄のガントレットで受け止めるが、その度に切り裂かれた上腕部の傷が広がり、傷口から血が飛び散る。

 それにしてもドワーフは本当に馬鹿だな。戦斧がガントレットを削っているが、回数をこなす毎に傷が浅くなっているのに気づいていない。

 すでにボルからスキル『豪腕』『剛力』『斧術』『斧技』『投擲』を奪った。

 ニーナのほうは大丈夫かと窺うと、エルフの精霊魔法の攻撃を避けもせずに棒立ちしている。




「お嬢さん、どうしたんですか? もしかして降参ですか?」


 セーヤは棒立ちのニーナに向かって、精霊魔法第2位階『ウォーターブレード』で少しずつ身体を切り刻んでいた。


「ああああぁぁぁぁあああ゛あ゛ぁぁぁ゛」


 ニーナの視線はエルフではなくこっちを見ている。


「ハハハ、恐怖で頭が可笑しくなったんですか? あちらの少女もあなたも一緒に、少年の前で可愛がってあげますよ」

「ごめ゛~んね゛っ!!」

「なんですか? 謝ってもあなたたちの……!?」


 一瞬にしてニーナの姿はセーヤの前から消え去り、次の瞬間にボルの首元へ刺突をしているニーナがいた。


「なんじゃとっ!?」


 これには流石のボルも焦ったようで慌てて距離を取る。


「小娘めっ! 今のは……スキルか?」


(儂の鎧が首元まで覆われているフルプレートの鎧じゃなければ、儂の首は今頃……許さんぞっ!)


「私は……ステラさんと約束じだ、ユ゛ウを護る……って、許さない……る」


 涙と鼻水でニーナの顔はクシャクシャだ。顔を拭きもせずにドワーフに追撃をかける。

 セーヤに牽制の魔法を放とうとしたが、その必要はなくなった。なぜなら筋肉隆々の大男がセーヤの前に立ち塞がっていたからだ。


「貴様、何者だ?」


 いつの間にか現れていた男に向かって、セーヤは話しかけつつ『解析』で実力を調べようとするが、デタラメな情報しか得ることが出来なかった。


(っち、隠蔽系の魔導具を持っているな)


「見てのとおり私たちは今立て込んでいるんだ。邪魔を――」

「喋んな」


 男はたった一言呟いただけだが、セーヤは男から放たれる圧力に気圧される。


「せっかく面白い小僧を育てて楽しんでたってのに……。糞面白くないクエストを押しつけられて、やっとクエストが終わるかと思って来てみたら、胸糞の悪くなることをしてやがる」


 セーヤは改めて男を観察する。男は右手と左手に剣を持っていた。右手には輝くような真っ赤な剣を、左手には鈍く光る青の剣を。


「まさか――その剣は聖剣聖炎ホーリーフレイム魔剣氷魔アイスデビルっ、聖魔剣の……『セブンソードのジョゼフ』かっ!?」

「喋んなって言ったよな?」

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