第45話 ルーキー狩り②

 無事にボスのいる地下10Fまで進むことができた。

 あの3人組が入口を塞いでいたファイアーウォールとアースウォールを破壊したのは『天網恢恢』で把握している。

 ニーナは男性が苦手なので不安な表情をしていたが、レナはステータスが上昇しているからか、やる気? 殺る気? 満々だった。


 ニーナとレナの付与魔法を更新する。本来であれば水晶で転移する前にするのだが、今回はあの3人組のせいでボス部屋ですることになった。

 付与魔法の更新が終わり、暫くするとボスが出現した。



名前 :ゴディボァ

種族 :サイクロプス(亜種)

ランク:4

LV :21

HP :744

MP :167

力  :596

敏捷 :126

体力 :345

知力 :32

魔力 :109

運  :27


パッシブスキル

夜目LV3

棍術LV3


アクティブスキル

棍技LV2

闘技LV3

咆哮LV2


固有スキル

なし




 前回のボスは大魔猿だったのに、今回はサイクロプス(亜種)がボスだった。どうやらボスは固定ではないようだ。

 取り巻きもいないので、スキル『咆哮』に気をつけていれば、ニーナたちだけで十分倒せる相手だろう。


 レナが黒魔法第2位階『アースランス』を放つ。

 サイクロプス(亜種)の弱点の1つ土の魔法だ。

 俺が伝えていたゴルゴの迷宮に出現する、魔物の情報を覚えていたようだ。


 サイクロプス(亜種)は眼が良いので、真っ直ぐ飛んでくるアースランスを簡単に躱すが、その瞬間――足元に潜り込んだニーナが脚を斬りつける。

 激昂したサイクロプス(亜種)が咆哮でニーナの動きを止めようとするが、すでにニーナは距離をとっていた。

 そしてレナが2発目のアースランスを放っていた。

 幾ら眼が良くても見ていなければ意味がない。

 アースランスがサイクロプス(亜種)の左脇腹を貫く。


「ゴォォォォッッギャァッ!!」


 脇腹を貫いているアースランスを抜こうとするが、その度にサイクロプス(亜種)は悲鳴を上げる。

 通常のアースランスは槍状で貫通力を重視しているが、レナのアースランスは返しが複数ついている。

 抜こうとしても返しが引っ掛って、簡単には抜けない。


 アースランスを抜くことを諦めたサイクロプス(亜種)は、レナに向かって走り出すが数メートルで転んでしまった。

 脚を見ると、魔力で創った糸が巻きついていた。ニーナが脚を斬りつけた際に巻きつけていたようだ。

 シーフだけあって手癖が悪い。


「ごめ~んね」


 次の瞬間にはサイクロプスの首は切断されていた。

 単純な力自慢の魔物ではもはやニーナたちの相手にならないようだ。

 出現した宝箱を開けると1冊の本が入っていた。


「ハズレか?」

「ううん、当たりだよ。私も初めて見たけど魔導書だよ」

「……雷の魔導書」


 雷の魔導書(下級):第2位階までの雷の魔法を覚えることができる。


 確かにを見ると魔導書と表示されている。


「これが魔導書か、確か読んだら魔法を覚えるんだよな?」

「そうだよ~最初に読んだ人だけしか覚えられないけど、その代わり誰が読んでも覚えるからすっごい需要があるよ~」


 主に貴族が大枚叩いて購入するらしい。今回の魔導書は下級だが、それでも最低で金貨20枚以上で売れるそうだ。

 横でレナがチラチラこちらを見てくる。


「どうする?」

「今回はニーナとレナが倒したんだ。二人で決めればいい」

「う~ん、う~ん、私は覚えても使いこなせないし、レナ覚える?」

「……いいの?」


 いいの? ってあんだけ俺とニーナにアピールしておいて……まぁレナが覚えたのを見れば、俺も楽して雷の魔法を覚えられるから損はない。

 早速、魔導書を読んでいるレナをほっといて、俺はサイクロプス(亜種)の皮を剥いでいく。ニーナも横で手伝いながら剥ぎ取りのコツを覚えようとしている。


「……覚えた。これでさらに天才になってしまった」


 新しい魔法を覚えて興奮しているのかテンションが高い。

 ついでにレナのレベルが20に上がっていた。これでレナも2ndジョブに就ける。


「このまま進む?」

「いや、今日はもう帰ろう。さっきの奴らがいる可能性が高いし、レナのレベルが20に上がっているからギルドに向かおう」

「ほ~い」


 青い水晶に触れ外に戻る。あの3人組はいなかったので、やはり地下11Fで待ち伏せしていた可能性が高い。

 ボス部屋で戦闘しているパーティーがいる際は、次に水晶で転移したパーティーはボス部屋を通過し、ボス部屋の次の階へ転移する。

 厄介なボスがいる部屋では召喚士などが魔物を召喚し、魔物だけボス部屋に転移させ、ボス部屋を通過するなどのちょっとした裏技がある。



 都市カマーに戻り大通りを歩いていると、いつも・・・のように声が聞こえてくる。


「そこの冒険者のお兄さんっ! 私は白魔法が使えるよ!!」

「旦那!! 俺はスキル『腕力上昇LV2』があるから荷運びでどうだい?」


 奴隷たちの呼び込みだ。別に珍しいことじゃない。

 どこの国でも奴隷制度は認められている。あの聖国ジャーダルクですら黙認している。

 しかしどの奴隷も痩せ細っているので、碌な食事をさせてもらっていないのだろう。文字どおり買ってもらわなければ死が待っている。

 檻に入っている奴隷と目が合う。またか・・・――この奴隷はダークエルフの少女で、左目と首に傷がある。

 最初は気にならなかったが、大通りを歩くとなぜか目が合う。他の奴隷たちのように呼び込みをしないのは、恐らく首の傷が原因で声が出ないからだろうが、その前に目が死んでいる。

 生きる気力がない奴に待っているのは死だ。都合よく助けてくれる奴なんて現れない。見ているとイライラするので足早に通り過ぎる。




 ギルドに着き、コレットさんの所で剥ぎ取った素材を買い取ってもらう。


「今日は早かったんですね。おぉ、これはサイクロプス(亜種)の皮じゃないですか! 相変わらず状態が良いですね」

「コレットさん、使用したあとなんですがこちらの魔導書は買い取っていただけますか?」


 ダメ元で、使用済みの雷の魔導書をカウンターに置く。


「魔導書ですか!」


 コレットさんが魔導書を鑑定する。

 ちなみにニーナとレナは興味がないのか、テーブルで俺が作ったジャガイモっぽい物をスライスして、油で揚げて塩を振り掛けたお菓子を食べている。まぁポテチだな。

 この世界では、お菓子などの甘味類はなにかのお祝いごとがなければ食べられないそうで、日常的に食べられるのは貴族か大きな商人の子供などの富裕層くらいだ。

 二人共、貪るように食べている。今度ジャイアントビーの巣からハチ蜜でも取ってきて、甘味系のお菓子でも作るか。


「確かに使用済みですね。ですが使用済みでも研究にコレクターと需要はありますよ。金貨5枚でどうでしょうか?」

「それでお願いします。コレットさん、よかったらこれどうぞ」


 余っていたポテチをコレットさんに渡すと、変わった食べ物ですねと1枚食べる。


「ふぁ……」


 ポリ、パリと次々手が伸びていく。


「コレットさん?」


 渡したポテチが一瞬で無くなった。

  

「ハッ!? し……失礼いたしました」


 我に返ったコレットさんが恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になる。

 横にいた2人の受付嬢がこちらをずっと見ていたのが気になった。


「いえ、気に入ったのなら次も持ってきますよ。あとレナがレベル20になったので、転職の部屋に行きたいんですが」

「是非、お願いしますっ!!」


 コレットさんの迫力に若干引いてしまった。

 転職部屋でレナが水晶に手を置くと就けるジョブが表示されていく。

 『魔女』『司祭』『付与士』『教師』『調香師』


「ユウさんもすごかったですが、レナさんも多彩ですね! 5つもジョブが表示されるなんて。ジョブに魔女がありますね。魔女は女性しか就けないジョブですが、魔術師より上位で攻撃魔法に特化しています」


 レナは就けるジョブに『賢者』がなかったので、少なからず落胆しているようだ。


「『賢者』になる条件は最低でも『白魔法LV5』『黒魔法LV5』だろうが、別に今すぐ2ndジョブに就かなくていいんだ。スキルレベルが上がってからまた来ればいい」


 賢者になるのにはもちろん、白魔法LV5と黒魔法LV5だけではなく、ステータスも関係しているだろう。

 現状戦闘で困ってはいないので、レベルを上げていけばいずれなれるだろう。


「ユウさんは貴族みたいな考えなんですね」


 どう言う意味かコレットさんに聞くと、貴族では冒険者を雇ってレベルを上げていき、自分の狙っているジョブに就かせるらしい。そのためにレベルは高いが経験不足の騎士や聖騎士が量産されるそうだ。


「……でも普通はすぐに2ndジョブに就く」

「俺は別に困っていない」

「私も大丈夫だよ~」

「気にしてるのはレナだけだな」

「……わかった……とぅ」


 最後に消え入りそうな声だったが、スキル『聴覚上昇』を持っている俺には聞こえてしまった。




 ゴルゴの迷宮地下11Fにゼペたちの姿があった。ここでボス部屋から転移してくるユウたちを待ち伏せしているのだ。


「予想どおり帰ったみたいだね」 

「焦らずとも時間はある」

「久しぶりに殺りがいのあるルーキーです。楽しんでいきましょう」


 3人が楽しそうに妄想していると、水晶の間からひと組のパーティーが現れた。


「ん? お前らこんな所でなにしてんだって……ちっ、亜人共かよっ」


 5人組パーティーのリーダーらしき男がゼペたちに向かって暴言を吐く。

 亜人とはエルフ・ドワーフ・竜人・巨人など、人間以外の種族に対しての差別用語だ。


「亜人臭いからさっさと道を開けろよ」

「ドース、止めなさいよ!」


 ゼペたちは暴言を吐かれているのに嬉しそうに哂っていた。


「なにを笑ってんだ。気持ち悪い奴らだな……ドース行こうぜ」


 ゼペたちの横を通り過ぎようとしたドースたちだが、ボルが道を塞ぐ。


「あ? どういうつもりだ!」


 ドースたちは武器を構えて戦闘態勢に入る。


「ふふ、ふは……僕たち少々興奮していまして、皆さんにご協力してほしいんですよ」

「あなたたちカスでも、この猛りを沈めるのに役に立つでしょう」

「亜人共がっ!」


 ドースが剣でゼペに斬りかかる。ゼペに当たる瞬間にゼペが動き出す。


(馬鹿がっ! 今さら遅いんだよ!!)


 次の瞬間、ドースの四肢に穴が空いていた。


「な、なんで? お前たち、何者……だっ?」

「セーヤ、こいつらのレベルは?」

「22~26ですね」

「ブハッ、そんなレベルで儂らにケンカを売ったのか?」


 ドースが一瞬で倒され、他のメンバーも次々と倒されていく。誰もが死なないていどに調整されていた。


「か……勘弁…………してくれ……俺が悪かった。もう十分だろう」


 ボルが女性の髪を掴んでドースの前まで引っ張ってくる。意識はあるが身体が動かないようだ。


「やめて……くれ、それ以……上、リムに手を出さないでくれ」

「わかりました。これ以上僕は手は出しません」


 ゼペは嗤いながら応える。


「ところでこの女性はあなたの大切な人ですか?」 

「そ、そうだ……許してくれてありが」

「ボル、大切な人みたいだよ~」


 次の瞬間、ボルがリムの四肢を切断していく。ドースはなにが起こったのかわからず、ポカンとしていた。


「キャアアアアァァァァッッ!!」


 あまりの痛みに動けなかったリムがのたうちまわる。


「ふはは、ボルはひどいな。ドースさんだっけ? 僕は許したんだけどボルは許さないって」

「可哀想にどれどれ」


 セーヤが回復魔法をかけていく。ただし、切断された四肢はほったらかしで傷口だけ塞いでいく。


「なにしやがるっ!? そんなことしたら、ニ度と元通りに治らないだろうがっ!!」


 ドースが絶叫する。ボルはその表情に満足したのか、残りの冒険者たちの四肢を切断していく。逃げようにも身体が動かず次々に切断されていく。そしてセーヤが回復魔法で傷口を塞いでいく。


「いいな~。うんっ! その表情イイよっ!! あぁぁぁぁぁぁ本当にあの二人はひどいよね? 僕は許したんだよ?」


 ゼペは口から涎を垂らしながら近づいて行く。


「ほら? 君がなんとかしないと、もっと大変なことが起きるよ?」

「ッッッアアア゛ア゛ァァやァめァ゛ィィさろ゛ィ゛ィ……っ!!」 


 ドースはもはや言葉をまともに喋れる状態ではなかった。

 長年パーティーを組んできた仲間が無残に傷つけられていく姿に、発狂寸前だった。

 そしてゼペがドースの耳元で囁く。


「ドースさん、セーヤはね。人の女性を奪うのが好きなんだ。だからドースさんが頑張らないと、ね?」

「ッッ!? や゛……め゛ぇ」


 セーヤがリムに跨る。四肢のないリムは抵抗しようがなかった。

 四肢の切断が終わったボルもゼペと一緒にドースの横でその光景を眺める。


「あ~ぁぁぁ~早くあの子たちも同じ目に遭わせてあげたいなぁぁぁ゛ぁ゛」

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