第44話 ルーキー狩り①
現在地下8Fまで潜っているが、さっきの3人組が一定の距離を維持しながら尾行をしている。
警戒を怠らずに進んでいるが、地下9Fのワープポイントか地下11Fの出口で待ち伏せでもしてきそうだ。
「ごめ~んね」
気の抜けたかけ声と共にポイズングリズリーの懐へ一瞬で移動し、ニーナの短剣技『クリティカルブロー』が発動する。通常片手で使用する技だが、ニーナは短剣二刀のためか同時に2発発動している。ポイズングリズリーは、一瞬で左右の胸を貫かれ絶命する。
「ニーナ、真正面から行く奴がいるか。後ろから攻撃しろ」
「まだ、うまく使いこなせないんだよ~」
やはりあの移動はなんらかのスキルのようだ。
「進むぞ」
「……ついて来てる?」
「私の『索敵』には反応してないよ~」
あいつらはニーナの索敵範囲外を維持しながら尾行をしている。俺らが気づかないうちに『解析』で確認したのか、もしくはルーキーということで『索敵』のレベルに目星をつけているかのどちらかだろう。
地下9Fに降りると早速、魔猿に囲まれた。
レナが黒魔法第1位階『ウインドブレード』を放つ。
放たれた風の刃は3発。3発全てが1匹の魔猿を斬り裂いていく。黒魔法第1位階とはいえ、結界を常時維持しながらなので、レナの成長速度には驚かされる。
1匹の魔猿がニーナに襲いかかるが、敏捷はニーナの方が早いので躱しつつ首を刎ねられていた。
ニーナが魔猿の首を刎ねてできた隙に、もう1匹の魔猿が横から爪を振り下ろしてきた。攻撃を慌てて受け止めるニーナだが、腕力が違い過ぎる。押し切られそうになった瞬間に、一瞬で魔猿の後ろに回り込むと素手で魔猿の首をへし折る。
「ふぅ~。怖かった~」
お前のほうが怖い。多分暗殺技の1つだと思うが、素手で魔猿の太い首をへし折るのだから恐ろしい。
「ギキ~ッ!」
俺のほうに魔猿が雄叫びを上げながら襲いかかって来るが、尽く真っ二つにしておいた。
レナのほうを見ると、2匹の魔猿に殴られまくっていた。と言っても結界があるのでレナにはダメージはなく、結界にヒビが入るていどだ。
カシャンッ。
ガラスが割れるような音と共に、レナの結界が壊れる。
助けに行こうとするが、レナの表情に焦りはなかった。
レナの顔目掛けて魔猿が爪を振り下ろすが、顔の手前10センチほどで不可視の壁に弾かれる。
「結界を多重で展開しているのか……」
「……天才」
レナがドヤ顔でこちらを見ているが、顔が青くなっている。
多重結界に攻撃魔法を放つなどで、かなり負担がかかっているようだ。
残りの魔猿は俺とニーナが屠る。魔猿の皮を急いで剥いでいく。
「早っ!?」
隣で魔猿の皮を剥いでいたニーナが驚いている。
ニーナやレナが魔物を倒し、剥ぎ取りは俺がしていたので『剥ぎ取り』のレベルがいつの間にかレベル2に上がっているせいだろう。
魔猿の剥ぎ取りが終わり、レナにマナポーションを渡す。
複数の魔猿相手でも問題なかったので、このまま10Fに進んでも問題はないだろう。
その後も魔物を倒しながら進み、ボスの部屋へ転移する水晶の間まであとわずかという所で、さっきの3人組が一気に距離を詰めて来た。
「あっ」
ニーナも『索敵』で気づいたようだ。
部屋の入口を黒魔法第2位階『ファイアーウォール』で塞ぐ。ついでにアースウォールも使用する。
「レナ、急ぐぞ」
俺とニーナの反応で、レナも状況を把握したのか走り出す。
「ゼペ、あいつら気づいたみたいだぞ!」
「あちらの『索敵』レベルは?」
「少年は隙がなかったので確認できなかったな。後衛の少女も常時結界を展開していてわからずだ。斥候職の少女はレベル25で『索敵』はレベル3だ」
ゼペはセーヤからの情報に嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ルーキーなのに優秀なんだね」
一気に距離を詰に行ったゼペたちだったが、部屋の入口がファイアーウォールで防がれていた。
「小賢しい真似を。水の精霊よ我が願いに応え、我が前の敵を飲み込め! 『マッディー・ストリーム』」
セーヤの精霊魔法第2位階『マッディー・ストリーム』によって発現した濁流が、ファイアーウォールの炎を見る見る消し去っていく。
「チッ……」
ボルが舌打ちをする。ファイアーウォールの先には、アースウォールで壁ができていたからだ。
「糞ガキがっ! 斧技『剛斧』」
ボルが斧技レベル2の『剛斧』を発動する。ボルの膂力も相まって、凄まじい破壊の力がアースウォールを粉々に砕く。
「ふふ……ふはははっ、本当に優秀なルーキーだ」
ゼペが興奮して嗤う。ボルとセーヤがゼペを見ると、ゼペの下腹部が盛り上がっている。
「少年の前で仲間の少女たちを陵辱したらどんな顔をするのかな。楽しみだな……ふふ」
「儂はあのガキの四肢を切り裂きたいな」
「後衛の少女は私が貰いますからね」
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