第46話 ルーキー狩り③

 今日はゴルゴの迷宮地下11F以降を攻略していく。

 事前に入手している情報では、地下11Fからはハイコボルト系が出現する。その中でもハイコボルトプリーストは、白魔法だけでなく付与魔法を使って周りの魔物を強化するいやらしい魔物だが、今回の目的はこのハイコボルトプリーストから、付与魔法を奪い俺の付与魔法をLV4にする。付与魔法がLV4になれば『エナジーアブソープシュン』と『マジックアブソープシュン』が使えるようになる。

 ランク4の魔玉はすでに用意しているので、すぐにニーナのダガーにスキルを付与することができるからだ。


「昨日の人たち、いないよね~?」

「あいつら、しつこそうだったし油断するなよ」

「……迷宮内の争いはほとんど表に出ることはない。死体は全て魔物が食べるから」


 ギルドで仕入れた情報によると、最近ルーキーが迷宮に入ったまま帰って来ないことが多いそうだ。元々、田舎で自惚れていたルーキーが大した情報・準備もせずに死ぬことは珍しいことではないが、1人も帰ってこないとなると異常だ。さすがに準備をしないと言っても転移石くらいは準備して迷宮に挑む、全滅の危機になれば転移石で離脱し助けを求めるぐらいはする。

 そこでルーキー狩りの噂が出始める。

 昔からベテランがルーキーに洗礼という名の嫌がらせや、イジメをすることはよくあることだが、誰1人生きて帰ってこないことから、今回の奴らは明らかに殺しを目的としている。

 昨日の3人組が噂のルーキー狩りなら十分ありえる話だった。


 地下9Fの水晶の間で、先ほど倒した魔猿を死霊魔法でアンデッドにし操作する。

 地下10Fは予想通り新しいボスはいないようで、地下11Fへ転移する。周辺を探索させ誰もいないのを確認後、俺たちも転移する。


「地下11Fからはハイコボルト系がパーティーを組んで現れるから、ハイコボルトウィザードを優先に倒してくれ。ハイコボルトプリーストは俺が倒していく」

「ほ~い」

「……ようやく新しく覚えた雷魔法の出番」


 通路を進むとすぐにハイコボルトのパーティーと遭遇する。

 ハイコボルトファイター、ハイコボルト、ハイコボルトウィザード、ハイコボルトプリーストの4匹だ。


「ごめ~んね」


 ニーナが一瞬でハイコボルトウィザードの懐まで移動すると、首を斬り裂いていた。

 あまりの速さに驚きつつ、このままではプリーストまで倒されかねないので急いで向かう。


「ギャンッ!!」


 レナの黒魔法第1位階『サンダー』が、ハイコボルトファイターとハイコボルトに直撃する。

 死んではいないが感電して動けないようだ。俺はその隙にハイコボルトプリーストから付与魔法を奪い、ハイコボルトプリーストを真っ二つにする。 

 付与魔法を奪った際に、ハイコボルトプリーストが使える付与魔法の情報が頭に流れ込んでくる。ほとんどはすでに覚えていたが、詠唱速度が上がる付与魔法があったのですぐにレナにかけておく。


「地下11Fでも問題なさそうだな」

「エヘヘ~。ハイコボルトはね、尻尾が売れるんだよ~」


 ハイコボルトは肉はまずいし皮も需要がないが、尻尾のみ需要があるようだ。


「……雷魔法かっこいい」


 レナは新しく覚えた雷魔法を気に入ったようだ。先ほどから興奮してこちらをチラチラ見てくる。ちなみにレナの雷魔法を見たので、俺も使えるようになった。


 その後も問題なく進んで行く。

 地下11F~19Fまでは基本的にハイコボルト系のみで、たまにオーガが出てくるくらいだ。

 途中で発見した宝箱には罠が設置されていたが、ニーナが解除し銀の鏡を手に入れた。貴族が高く買い取ってくれるそうだ。

 地下19Fまでで付与魔法はすでにLV4まで上がっている。


「行け」


 地下19F水晶の間でアンデッドにしたハイコボルトを先に進ませる。

 どうやらボスがいたようでハイコボルトは倒されてしまった。

 そういえば、アンデッドにしたゴブリンキングをそろそろ呼び戻そう。森の探索と魔物を狩らせていたが、放ったらかしにしていた。


「地下20Fのボスはアイアンゴーレムと、取り巻きにストーンゴーレムが4体だ」


 付与魔法を更新し、水晶に触れて転移する。

 転移すると地下10Fより広い石畳の部屋だった。

 しばらくすると、奥からアイアンゴーレムとストーンゴーレムが現れる。


「ゴーレムは硬いから苦手なんだよね~」


 ダガーのニーナとは相性の悪い相手だ。


「……問題ない」


 レナがそう言うと黒魔法第1位階『アースウォール』を放つ。通常のアースウォールは敵の攻撃を防ぐのに使用するが、レナの放ったアースウォールはアイアンゴーレムの足を巻き込む形で生成されていた。

 俺の魔法を見てから、レナは自分で魔法を改良して使用するようになった。今ではよく魔法の使用方法について話し合う。


 動けないアイアンゴーレムたちにレナが容赦なく魔法を放っていく。アイアンゴーレムにはサンダーを、ストーンゴーレムにはアースランスを次々放つ。

 アイアンゴーレムたちは焦ったようにアースウォールを破壊し、動けるようにはなったが、すでに表面にヒビができてきている。

 ニーナはヒビができている箇所に魔力で生成した糸を巻きつけ、その先をアイアンゴーレムの腕に巻き付ける。

 アイアンゴーレムがニーナを殴りつけようと拳を振り抜く。腕に巻きついた糸が引っ張られ、自身とストーンゴーレムの身体に食い込んでいく。


「……止め」


 レナの周辺に複数のファイアーボールが展開される。

 集中しているのが、レナの額から流れ落ちる汗が物語っている。

 杖の先にファイアーボールが集まっていき、炎は1つの大きな火球となる。さらその火球を風の魔法で覆い圧縮していく。


「おい、お前……」


 圧縮された高エネルギー球をアイアンゴーレムに向かって放つ。

 ニーナはすでに危険を察知して距離を取っている。

 レナが放った魔法は……黒魔法第4位階『エクスプロージョン』、レナの黒魔法はLV3、通常であれば使用することはできないが、俺と同じ方法で複数の魔法を使用することによりエクスプロージョンを使用していた。


 元々、身体中ヒビだらけだったアイアンゴーレムたちは、爆発魔法の衝撃で木っ端微塵に吹っ飛んだ。というか爆風と一緒に飛んできた破片が地味に痛い。ニーナは器用に躱している。レナは結界で防いでいる。

 さすがに迷宮で爆発魔法を使うバカだとは思っていなかったので、アースウォールで防ぐのを忘れていた。


「おい、なにか言うことはあるか?」

「……私に不可能はないっ!」


 スパンッ、とレナの頭を叩いておいた。

 それにしても、数回しか見せていないエクスプロージョンを使いこなすとは、これだからバカは怖い。

 幸いエクスプロージョンの爆発でも部屋に大きな損傷はなかった。

 宝箱からは鋼鉄の大剣と腕輪が入っていた。


鋼鉄の大剣(6級):攻撃時に麻痺

鋼鉄の腕輪(6級):防御力上昇


「どっちもハズレだな」

「残念~」

「ニーナ、さっきからなにしてんだ?」


 さっきからニーナが身体を撫でてくる。いや、身体というより主に尻だ。


「さっきの破片で怪我していないかな~って?」

「お前は心配するときに尻を撫でるのか?」


「い……言いがかりだよ!」


 スパンッ。


 ニーナの頭も叩いておいた。二人共、納得できないような顔でこちらを見ていてイラッとした。

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