第41話 先を越される
都市カマーの冒険者ギルドに着くと、打ち合わせどおりにレナとムーガはコレットさんがいる受付へ向かう。
「クエスト報告をしたいんだが」
「はい。え~と、ムーガさんのパーティーが受けていたクエストは、ゴブリンジェネラルの討伐ですね。
その様子だと無事討伐できたみたいですね♪ レナさんも初めて違うパーティーとクエストを受けて、良い経験になったんじゃないですか?」
「……違う意味で良い経験にはなった」
頭にクエスチョンマークを浮かべるコレットだったが、ムーガが出した討伐証明の部位を確認すると表情が固まる。
「ゴゴ、ゴブリン……キングの耳!? まさか報告のあったゴブリンジェネラルが、ランクアップをしていたんですか?」
「そのまさかだ。確か対象の魔物がランクアップされていても、報酬は貰える規定だったはずだよな?」
「もちろんですっ! ですがゴブリンキングとなると……ギルド長に報告するので、少々お時間を下さい」
そう言うと、コレットさんは返事も聞かずに行ってしまった。
周りの冒険者がざわついている。ゴブリンキングという言葉に反応しているようだ。
本来であればEランクの冒険者が倒せるような魔物ではなく、危険度から報酬もランク4の中でも別格で、ランク6の地竜と同じくらいの報酬だとラリットが言っていた。
しばらくするとコレットさんが戻って来る。ギルド長室で詳しい話を聞きたいそうだ。
「ユウさんたちは来ないんですか?」
俺とニーナ、それにラリットが来ないのに、コレットさんが不思議がっていたが、今回俺たちはレナを迎えに行っただけで、ゴブリンキングの討伐には参加していないことを伝えると、訝しい表情をしていたがレナたちを連れて行った。
5分ほどするとコレットさんが戻って来た。
「戻って来ていいんですか?」
「私は連れて来いと言われただけなので、仕事は果たしています。問題はありません。たぶん……」
コレットさんの語尾がどんどん弱くなっていくのが、気になるが用件を伝えるか。
「コレットさん、ギルドでは冒険者向けに家も斡旋していると聞いたんですが」
「確かにランクの高い冒険者の皆さんは稼ぎもそれに見合うだけあるので、一般市民が住む家ではなく、比較的大きな家を紹介させて頂いています。ですがユウさんは、まだEランクですよね?」
まあEランクの冒険者が家を購入もしくは借りると言えば、鼻で笑われるか冗談と思われるだろうが、普通の冒険者と違って俺は消耗品による費用が発生しない。
ポーション・毒消し・マナポーションと全て自作出来るので、クエストや素材売却がまるまる利益になる。
宿屋に泊まり続けるよりも、家を購入・借りた方がよっぽどいい。幸い、ばあちゃんのおかげで、一通りの料理は作ることができるので、家事は問題ない。
「頭金で500万マドカは用意できるので、いくつか探して頂けますか。
条件は郊外は問わずで、広ければ広いほどいいです」
俺の用意出来る金額に、コレットさんから一瞬笑顔が消えたが、すぐに笑顔に戻る。
「わかりました。こちらでいくつか用意させて頂きます」
「わ~い、
「え? お前も一緒に住む気なのか?」
「え? それ以外の選択があるの~?」
ニーナが「当然でしょ」みたいな顔で、こちらを見てくる。
俺とニーナはお金を一緒に管理している。この機会に分けようとしたが、意味が無くなってしまった。
ギルド長室に通されたレナたちは、ゴブリンキング討伐の経緯を説明していた。
「ではゴブリンジェネラル討伐クエストを受けて、大森林に入ったらクエスト対象のゴブリンジェネラルはランクアップし、ゴブリンキングになっていたと言うんじゃな?」
「……さっきから何度もそう言っている」
「4人パーティーで討伐に行き2人は逃げたと言うが、そいつらはどうなったんだ?」
「それも何回も説明したじゃないか! 逃げた2人の行方は、ゴブリンキングと戦っていた俺たちが知るわけないだろうが」
モーフィスはレナたちの説明に全く納得していなかった。
そもそもゴブリンキングは個体差はあれど、武器系統のスキルレベルは最低でも5以上ある。さらに固有スキル『眷属従属』。Eランクの冒険者が4人から10人になったところで敵わない魔物だった。
今回の件には、ユウという冒険者が絡んでいるのは間違いないと睨んでいる。しかし無理やり連れて来ても、素直に話すわけがない。
「ゴブリンキングは、固有スキル『眷属従属』は使わなかったんじゃな?」
「いや、死ぬ直前に使ったと思うぜ。最初から使われていたら、俺たちはここにいないだろ?」
この質問も事前にされると思っていたので、返答を用意していた。
「舐めるなよ若造……?」
モーフィスに睨まれたムーガは、あまりの眼光に身体が固まる。
横にいるレナはいつもどおりの無表情だ。まるで自分は関係ないとでも言わんばかりだ。
「そっちの小娘もだ」
ムーガにしたように、プレッシャーをレナに向けて放つ。
「……報告は終わった。さっさと報酬を払ってほしい。帰りたい……じじいめんどくさい」
「ぐぬぬ……最後のじじいめんどくさいは、言う必要はないじゃろうがっ!」
怯む所か思わぬ罵声を浴びせられ、モーフィスの心はちょっと傷ついた。
「やっと戻ってきたか。随分時間がかかったんだな?」
「……じじいが欲情して大変だった」
「「!?」」
「ち、違うぞ! ゴブリンキングのことで尋問されてたんだ」
「そら簡単には信じないか……」
「それより報酬は金貨100枚。本当に半分の50枚も貰っていいのか?」
「いいも悪いも、お前たちが討伐したんだから……ってレナはなにをニヤついてんだ。気持ち悪い奴だな」
そう、戻ってきたときからレナはニヤニヤしていたのだ。
「レナ、お腹でも痛いの~?」
お前は腹が痛いとニヤつくのか?
「……くふっ。私はDランクになった」
「は? ふざけんなっ。この前Eランクになったばかりだろうが」
こんなちびっ子に俺が抜かれただと!?
ムーガも申し訳なさそうにこちらを見ている。まさか……。
「俺もDランクに上がったんだよ。
なんでもゴブリンキングは特別な魔物なんで、ランク4の魔物の中でも報酬は法外だし、ギルドポイントも文字どおり桁外れだそうだ」
「ハッハッハ、先を越されちまったな? 俺もうかうかしてられないな」
ラリットは現在DランクでもうすぐCランクらしい。大人らしい対応で、レナとムーガを祝福している。お人好し過ぎる。
「ふ、ふ~ん、全然悔しくないけどな」
「あはは~。ユウ、顔に悔しいって書いてあるよ~」
「うるさいっ!」
レナたちがギルド長室から出ていくと、奥の部屋からジョゼフが出てくる。
「ふんっ、では詳細を報告してもらおうか!」
さっきの件で、モーフィスはまだ怒りが収まらないようだ。
ジョゼフは机の上に外套・マント・腕輪・指輪・ペンダントを置いていく。
それらは全てが隠蔽スキルが付与されていたり、探査スキル・魔法を妨害するスキルが付与されているアイテムだった。
「なんじゃこれは?」
「詳細を聞きたければ、このアイテムを全て買ってもらおうか」
「な、なにを言っているんじゃ?」
「全部で金貨300枚だ。ユウを追跡するのにこれだけのアイテムが必要だった」
実際には全てユウにバレていた。
これらのアイテムは全くの無駄だったが、そこは内緒にしていた。
モーフィスの頭には、ハッキリと青筋が浮かび上がっているのが見て取れる。
「ふざけるなっ!!」
3Fギルド長室から1F受付カウンターまでモーフィスの怒声が届いていた。怒鳴られたジョゼフは然して気にせず、勝手にモーフィスの酒を飲み始めている。隣でモーフィスはなにやら怒鳴り続けているが、ジョゼフの頭の中ではどうやってユウを鍛えるかで一杯だった。
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