第40話 ゴブリンキング④

 ゴブリンキングの固有スキル『眷属従属LV2』で強制的に従わされていたゴブリンたちは、ゴブリンキングが死んだことにより自由となる。そのまま襲いかかってくる者や、逃げる者、この状況に混乱している者など、様々な反応を示す。


 現状の把握をするために『天網恢恢』を展開する。このスキルは俺を中心に魔力の糸を蜘蛛の巣のように広げる。今のMPだと地面に這わせるのが精一杯だが、いずれは円ではなく球で展開出来るようになるだろう。

 ちなみにレナを探すのに森の中では円ではなく、扇形に展開していた。


 1匹のゴブリンナイトが襲いかかって来たので、早速スキルを奪ってみる。奪うと同時に胴体を真っ二つに斬り裂く。奪ったスキルは『剣技LV2』と『闘技LV1』強奪のレベルが上がったためか、以前より頭痛がマシになっていた。それよりもスキルを奪った際に、ゴブリンナイトが使える『剣技』の記憶も流れ込んできた。


(使いこなす必要はあるがこれは使えるな)


 仮に『精霊魔法LV4』のスキルを持っている奴からスキルを奪えば、スキルだけでなくそいつが使える精霊魔法まで同時に奪うことができるようになったわけか。


 血の匂いに惹きつけられて来たのか、オークソルジャー、ビッグボー、ポイズングリズリーまで集まって来た。


 ポイズングリズリーが、丸太のような右腕を振り下ろしてくる。

 このポイズングリズリーは、迷宮にいた奴よりさらに力が高く378もある。一般的な前衛職の力は、レベル20~25で200~250もあればいいほうだ。

 今のユウの力は210と高いとは言えない数値だが、そこにパッシブスキルの『腕力強化』と『身体能力強化』、そしてアクティブスキルの『闘技』が加わる。全てを加味すると900を超えてくる。


 ポイズングリズリーの攻撃を左腕で簡単に受け止めると、右腕に『魔拳』で火の魔法を込めた一撃を放つ。

 『魔拳』により火力が加わった一撃は、ポイズングリズリーの腹を貫通し、一撃で絶命させていた。穴の空いた腹は炭化しており、込められた火の魔法の威力が伺えた。


「キリがないな……」


 『天網恢恢』で引っ掛かった魔物の数は300~400匹ほど、ついでにジョゼフが樹の影に隠れているのもわかっていたのでエクスプロージョンを打ち込むが、ジョゼフは修練場でみせた技でエクスプロージョンを消し去った。


「っち……ムカツク野郎だ」


 魔物たちを殺しながらニーナたちと合流する。4人とも大きな怪我はなく、ゴブリンたちも攻め倦ねているようだった。


「ユウ~」


 ニーナが抱き着いてくる。大きな胸のせいで息ができない。

 引き剥がすと、レナが背後から抱き着いてくる。しかも匂いを嗅いでくる。


「……この芳醇な匂い、良い」


 意味がわからない。レナにはチョップをお見舞いするが、それでも諦めずにしがみついてくる。どんだけ匂いフェチなんだ。ムーガは冷めた目でこちらを見ている。


「お前たちはなにをやってるんだ」


 ラリットもどこか冷めた目でこちらを見ている。俺だって好きでこんな目に遭っているんじゃない。


「と、とにかく、一気に片づけるから」 


 集まっているゴブリンやその他の魔物も大したスキルは持っていないので、スキルを奪いつつ倒していては時間がいくらあっても足りないので、一気に倒していく。

 エクスプロージョンを最初と同じように四方八方に放ちつつ、掻い潜って来た魔物だけ倒していく。最初と違うのは、ゴブリンキングがいないので統率されておらず、危険を察知したゴブリンたちは我先に逃げ出して行く。


「ふぅ~、俺の運も尽きたと思ったがまだまだ大丈夫みたいだな」

「あんたたちのおかげで助かったよ」


 ゴブリンたちも逃げ出し、辺りはいくつもクレーターができている。ゴブリンキングの死体から魔玉と耳を切り取る。やはり名前付きからは完全な魔玉が取れるようで、切り取った魔玉は綺麗な球体だった。魔玉をラリットに投げ渡す。


「おい、いいのか?」

「今まで世話になった分と今回の分だ」


 ラリットは報酬としては多すぎると受け取りに難色を示したが、受け取らなければ捨てていくと無理やり押しつけると、渋々受け取った。

 そしてゴブリンキングの耳をムーガに渡す。


「え!? こ……これ……は……」

「ゴブリンジェネラルのクエストを、受けていたそうだが対象のゴブリンジェネラルがゴブリンキングにランクアップしてても、報酬は受け取れるだろ?」

「でも……俺には受け取る資格が…………ない……」

「勘違いするな。報酬はレナとお前で二等分するんだ。ついでにお前の仲間はその際に逃げたと言うんだな。こっちも今回の件で、お前のクランと揉めても面倒だからな」


(まあ、あの二人は十中八九、死んでるだろうがな)


「おっさん、いるんだろ? 出てこいよ」


 俺の視線に先にある樹の影からジョゼフが現れる。その表情は騙されたような納得いかないといった表情だった。


「くそ~あのドワーフめ……っ! なにがどんな探知スキルがあろうと見つからないマントだ……金貨30枚も取りやがって……ん? お前……俺がいるの気づいてたんだよな? さっきのエクスプロージョンは、偶然俺のほうに飛んできたんじゃなくてわざとか? わざとなんだな? ふざけんな! 俺じゃなかったら死ぬとこだぞっ!」


 ジョゼフがぎゃ~ぎゃ~騒いでいるが、気にせず一気に間合いを詰めて斬りかかる。高い金属音が鳴り響く。


「お前また腕を上げてねぇか? まだまだ俺の方が上だけどなっ!」

「おっさん、両腕で受け止めてどうした? 前は片手で余裕だったのにな?」


 ジョゼフの剣術レベルは8、俺の剣術レベルは7だ。そこまで差はないと思ったが、剣術のレベルが上がって自分とジョゼフの腕の差が改めてわかる。両腕でこそ受け止めているが、ジョゼフにはまだまだ余裕があることが。


「ば~か! ば~か!!」


 ジョゼフは子供のように、悪態を吐きながら去って行った。その際にニーナとレナの尻を触って、投げナイフや魔法を打ち込まれているが、全て躱していた。


「よし、帰るか」


 全員に回復魔法をかけて帰ろうとすると、レナがなにか言いたげにこちらを見てくる。


「何だよ?」


「……疲れたからおんぶして」


 俺は全員・・に回復魔法をかけた。こいつはなにを言っている。

 嫌だと言ってもどうせ強引に乗ってくるのは予想できるので、今回はレナの我侭を聞いておんぶすると、後ろでレナがクンクンしてきて非常に不愉快だった。

 ニーナは横で「いいな~いいな~」としきりに言ってくる。


 レナが耳元に顔を寄せてくる。まさか耳の匂いでも嗅いでくるのかと警戒していると、周りには聞こえないくらい小さな声で――


「……ありがとう」


 ――と囁いてきた。

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