第42話 レナの特訓

「ユウ~おはよ~」

「……おはよう」


 目が覚めると、左右をニーナとレナに挟まれていた。どおりで寝苦しかった理由だ。

 二人を押しのけて顔を洗いに行く。今日はニーナとレナのレベル上げにつき合うのと、俺のランクアップのために採集と討伐クエストを受ける。

 昨日のゴブリンキングとの戦いで、俺のレベルは25、ニーナは24、レナは17に上がっていた。

 そのことを伝えると、ニーナが焦りだした。

 悔しがると思ったんだが、ユウに置いてかれる~と、自分からレベル上げに協力して欲しいと言ってきた。


「おいし~♪」


 今日の朝食は魚介類を煮込んだスープに、焼き上げたばかりのパンだ。魚介類のスープは透き通っているが出汁がしっかり出ており、食事が進む。パンにバターを乗せるとトロリと溶けて、噛むとサクッという食感が堪らなかった。


「……ユウ、昨日の約束」

「わかってる。その前におっちゃんのところに行くから」


 急かすレナを落ち着かせ、朝食を済ませる。

 鍛冶屋のおっちゃんの所に行くと、珍しく店の奥ではなく入口に立っていた。


「おっちゃん、店の奥じゃなくて外にいるなんて珍しいな」

「おう、おはようさん」


 おっちゃんは挨拶すると、腰に手を当て反り返っていた。ラジオ体操みたいな動きをしていた。


「たまにはこうやって運動しないと鈍るからなっ!」


 そう言いながら豪快に笑う。おっちゃんに、ニーナの短剣とレナのマントでお勧めがないかを聞く。

 ニーナの鋼鉄のダガーは、昨日の戦いで刃が欠けてしまった。魔力で覆うことにより切れ味と摩耗を防いでいたが、永遠とはいかずにとうとう限界を迎えてしまった。レナのマントも同様に、ゴブリンたちの攻撃で切り裂かれてしまった。

 おっちゃんに事情を説明すると――


「丁度、良いのがあるぞ」


 そう言うと、おっちゃんは店の奥へ走って行った。


「ゼェゼェ……これを……見てくれ」


ソードブレイカー(5級):切れ味上昇

黒曜鉄のダガー(5級):なし

シュテッカーのマント(5級):火耐性


「まずこの『ソードブレイカー』だが、迷宮産だ。冒険者が迷宮で手に入れたそうなんだが、ボロボロで使い物にならないと売りに来たんだ。なんで俺なんかの店に売りに来たって? そりゃ、どこも買い取らなかったからだ。

 だがよ鍛え直せばまだまだ使えると睨んだんだが、予想以上に良い出来に仕上がったぜ! しかも『切れ味上昇』のスキル付きだ。

 次に『黒曜鉄のダガー』、こいつはユウの大剣と同じ黒曜鉄で出来てんだが、前にも言ったかもしれんがとにかく頑丈だ。

 『シュテッカーのマント』は、火の森に生息しているファイアーラットの毛皮に、鋼鉄蜘蛛の糸で編み込んでいる。こいつも頑丈だ。何より『火耐性』のスキルが付いている」

「んじゃ、それ全部買う」

「おおう……値段も聞かずに全部買うのか」

「物は良い物だし、おっちゃんのオススメだからな」


 おっちゃんはそうかそうかと、嬉しそうにしながら金を受け取る。

 『ソードブレイカー』は格安で仕入れたそうで、本来なら金貨20枚はするところを金貨15枚で、『黒曜鉄のダガー』は金貨7枚、『シュテッカーのマント』は金貨5枚と銀貨7枚。合計で277万マドカで売ってくれた。

 それにしても、最近は収入が増えたとはいえ金銭感覚がおかしくなってきた。


「ユウ、刃が欠けたのは鋼鉄のダガーだけだよ?」

「……自分の装備くらい、自分で払う」

「いいんだよ。臨時収入があったからな」


 臨時収入とは、昨日のゴブリンキングの報酬だ。

 レナは報酬を受け取ると、全てこちらに渡してきた。自分は何も出来なかったのと助けてもらった礼だそうだが、別に気にするなと伝えても頑なに拒否したので、そのまま受け取った。

 その際レナからある提案があったので了承している。 


 おっちゃんの店で買い物を済ませたあとは、冒険者ギルドでクエストを受けに行く。

 今回受けるクエストは、大森林での採集と討伐クエストだ。

 コレットさんのいる受付に向かうと、あちらもこっちに気づいたようで笑顔で手を振りながら挨拶してくる。周りの冒険者、主に男連中からの視線が痛い。

 

「皆さん、おはようございます! 昨日はお疲れ様でした」

「おはようございます。今日は大森林で受けれる採集と討伐系のクエストを紹介してくれませんか」

「そうですね。採集クエストは基本的な薬草・魔力草からポッコの花・ムーン草などがオススメです。討伐クエストはビッグボーやブラックウルフが農作物に被害が出るので、常に依頼がありますよ♪

 あとは大森林の奥のほうへ潜るとシルバーウルフや鋼鉄蜘蛛など、素材の需要が高い魔物が生息していますが、魔物のランクが4以上と危険なクエストになります!」


 コレットさんにいくつかクエストを見繕ってもらい受注する。

 気をつけて下さいねと心配してくれるが、周りの冒険者たちからの視線がさらに強くなる。

 コレットさんは誰にでも明るく優しいので、冒険者たちから人気あるのでこういった事態になる。


 大森林に入るとレナは早速・・『結界』を展開する。

 昨日の戦いでなんのかんの言って、自分の実力不足を理解したようで、俺がしている常時『闘技』を展開してのMP増量を真似している。


「……ふふ、どう?」


 レナがドヤ顔でこちらを見てくる。

 結界を一部ではなく球状に展開し、どこから攻撃されても大丈夫なようにしているようだがまだまだ甘い。


「結界にムラがある。魔力の厚いところもあれば薄いところもある。

 Dランク以上の冒険者なら、すぐに見抜いて薄い場所から破られるな」

「……むぅ、球状に常時結界を展開するのは大変」

「だからこそMPも増える」


 俺は俺で『闘技』と『天網恢恢』を展開している。

 まず『闘技』は身体に流れるように……流動? という技術らしい。流動で纏っていたが、慣れてきたので身体の内側で血液をイメージして、闘技を使用する。かなり難しいができないことはない。

 これで前衛職と戦うことがあれば、『闘技』が使えないと勝手に勘違いするバカがいるに違いない。

 MPに関しても日々増えている。常時『闘技』や『天網恢恢』を展開しているのと成長期だからか、レベルアップしていなくてもMPや身体能力が上がっていく。


「あっ、ビッグボーだ!」


 ニーナが『索敵』スキルでビッグボーの接近に気づいたようだ。

 もちろん俺も気づいていたが、今回はニーナとレナの育成がメインだから、俺は基本補助しかしない。


「ごめ~んね」


 いつものふざけたかけ声を言うと、一瞬でビッグボーの目前に移動していた。


「はっ!?」


 ビッグボーまで距離にして10メートルはあったはずだが、ニーナの始動がほとんど見えなかった。

 ビッグボーもいきなり目の前にニーナが現れて、パニックになっていた。

 その隙を逃さず、ニーナは首を切り落とす。武器が強くなりさらに魔力で覆っているので切れ味が凄まじい。首周り70センチはあるビッグボーの首を一撃で切り落とすなんて、中々出来ることではない。


「えへへ~、このダガーすごい切れ味だよ~」


 新しい武器にご満悦のようだ。

 レナは『結界』を常時展開するのが精一杯のようで汗だくだ。

 ニーナのステータスを確認する。


名前 :ニーナ・レバ

種族 :人間

ジョブ:シーフ・暗殺者

LV :24

HP :305

MP :180

力  :141

敏捷 :253

体力 :114

知力 :73

魔力 :53

運  :22


パッシブスキル

索敵LV2

罠発見LV2

短剣術LV3

忍び足LV3

短剣二刀流LV2 ↑1UP

暗殺術LV2 ↑1UP


アクティブスキル

盗むLV1

潜伏LV3

罠解除LV2

隠密LV3

闘技LV2

短剣技LV3

暗殺技LV1

開錠LV2 ↑1UP


固有スキル



装備

武器:ソードブレイカー(5級):切れ味上昇 黒曜鉄のダガー(5級):なし

防具:鋼鉄の鉢金(6級):麻痺耐性

  :硬革のジャケット(6級):防御力上昇

  :硬革のガントレット(6級):敏捷上昇・HP上昇・毒耐性

  :硬革のブーツ(6級):敏捷上昇・筋力上昇・防御力上昇

装飾:普通のピアス(6級):HP回復速度上昇・毒耐性



『短剣二刀流』『暗殺術』『開錠』がレベル2に上がっていた。装備も硬革のガントレット・ブーツにそれぞれスキルを付与した。

 気になったのが、固有スキルの欄が普通ならなしと表示されるはずなのに、なしではなく空白となっていた。

 固有スキルも後天的に覚えることがあるそうなので、その前兆なのかもしれない。予想だが先程の移動に関するスキルだと思っている。


 ちなみにレナのステータスは。



名前 :レナ・フォーマ

種族 :人間

ジョブ:魔術師

LV :17

HP :86

MP :314

力  :15

敏捷 :19

体力 :21

知力 :103

魔力 :116

運  :16


パッシブスキル

詠唱速度上昇LV3 ↑2UP

MP回復速度上昇LV1 NEW!


アクティブスキル

白魔法LV3 ↑1UP

黒魔法LV3 ↑1UP

結界LV2 ↑1UP


固有スキル

なし


装備

武器:魔術師の杖(5級):魔法効果UP

防具:三角帽子(6級):HP回復速度上昇

  :魔術師のローブ(5級):魔法耐性上昇

  :シュテッカーのマント(5級):火耐性

  :オーガの靴(5級):魔法耐性・毒耐性・麻痺耐性

装飾:ユグのアミュレット(5級):防御力上昇

  :生命の指輪(5級):HP50増幅・HP上昇・MP上昇


 レナもレベルが以前に比べて格段に上がっているが、相変わらず力・体力がない。

 ただ、レナの14歳という年齢で白魔法と黒魔法のレベルが3というのは、かなり優秀らしい。

 オーガの靴と生命の指輪には実験も兼ねて、昨日スキル付与をしてみた。

 無事成功し、元からスキルが付与されている装備には、問題なくスキルを追加することができるみたいだ。


「……ユウ、マナ……ポーションを」


 レナが青い顔をしてマナポーションを要求してくる。


「わかった」


 これがレナとの約束だ。ゴブリンキング討伐の報酬を貰う代わりに、レナにマナポーションを提供する。

 レナは好きなだけMPを使い増やすことが出来る。

 俺は錬金術でマナポーションを創ることで、錬金術のレベル上げもできるので一石二鳥だ。材料も大森林で集めることができる。さっきから薬草を始め、魔力草・ムーン草・ポッコの花を採集している。

 ただ漠然と採集するのではなく、質の良い物だけを採集している。もちろん、次も採集出来るように全てを取るようなことはしない。


「……けふっ。結界にも慣れてきた」


 レナはマナポーションの飲みすぎでお腹が少し膨らんでいる。

 しかし、さっきの今で慣れてくるわけがない。今も顔に余裕はない。


「ふ~ん、んじゃ次はその状態で魔法でニーナの援護な?」

「……も、問題ない。私は天才」

「自称な」


 そうそう、いつもストーキングしてくるジョゼフだが、今日は隠密系の装備をせずに尾行している。ただし距離は100メートルは離れている。

 たまに風の魔法を放つが、躱すか打ち消されている。


 その後も大森林を進んで行くと、ゴブリンソルジャー・オーク・オークソルジャー・マーダースネークなど様々な魔物が現れるが、ニーナがサクサク倒していく。

 レナも所々で援護の魔法を放つが、結界維持がきついのか数は少ない。


「ここって昨日の場所だよね~」


 昨日ゴブリンキングを倒した場所まで着く。

 周りはクレーターがいくつか出来ている。ゴブリンの死体は動物や魔物たちに食われたのか、ほとんどが骨だけになっていた。

 ただゴブリンキングの死体だけは手つかずのようで、昨日のままの姿だった。

 環境にもよるが死体は数時間後には腐敗が始まるそうだが、ゴブリンキングの死体は見た目はまだ綺麗な状態だったので、実験・・をしてみる。


 まずジョゼフが邪魔なので、土と風の魔法を組み合わせた魔法で目潰しをする。

 遠くでジョゼフが目が~目が~と、某アニメのようなことを叫んでいるが無視する。

 ニーナとレナも興味があるのか、黙って見ている。


 大魔猿から奪った『死霊魔法』でゴブリンキングを蘇らせる。

 ゴブリンキングの眼が赤黒く光、起き上がる。


「ゴ……ご命令ヲ……ごジュジン様……」


 む、俺の死霊魔法のレベルが低いせいか、もしくは死霊魔法で蘇るとなのかわからないが、昨日より言葉に訛りがある。


「お前には記憶はあるのか?」

「アリ……まず……」

「俺のことは覚えているか?」

「覚エデいまズ。ゴ命令を」


 死霊魔法で蘇ると術者に服従なのか? 記憶はあるのに俺に対して敵意を感じない。

 横でニーナが不安そうにこちらを見ている。レナは興味深そうに観察している。


「まあいい」


 俺は近くに転がっていた腕と脚を拾い、ゴブリンキングに投げつける。


「ゴれは?」


 ゴブリンキングの切断部に腕と脚を押し当て、ヒールを使う。

 すると問題なく腕と脚は繋がった。白魔法のヒールはスキル付与の際に回復速度を高めることから、アンデッドには効果はないのかと思っていたが問題なく回復した。白魔法のヒールの認識を改めてなくてはいけない。

 ちなみに神聖魔法の回復魔法だと、アンデッドにダメージを与える。


 ゴブリンキングにその辺に落ちていた鉄の剣を渡す。


「命令を与える。ここら辺の魔物を狩れ、ただし冒険者や人間には見つからないように。用がある際は、こちらから連絡する」

「わガりマ゛した」


 耳無しのゴブリンキングはそう答えると、森の奥へ消えて行った。

 去り際にゴブリンキングのステータスを確認すると




名前 :イ゛ア゛ヴン

種族 :ゴブリンキングゾンビ

ランク:4

LV :26

HP :966

MP :392

力  :371

敏捷 :207

体力 :∞

知力 :16

魔力 :193

運  :22


パッシブスキル

なし


アクティブスキル

なし


固有スキル

なし



 俺がスキルを奪ったので見事にスキル0だった。ステータスに若干変化がある。

 今回知りたかったことは、俺がスキルを奪った相手は二度とスキルが手に入らないのか、それとも再度習得出来るかを知るためだ。

 そのためにゴブリンキングを使って実験をする。

 死霊魔法で蘇らせたアンデッドとは、魔力を通じて情報の共有が出来るので、俺が動かなくても勝手に大森林の情報も集めてくれる。


 遠くではジョゼフの叫び声がまだ続いていたが、ニーナとレナは興味がないみたいでスルーしていた……。

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