第24話 井の中の蛙②

(おいおい、黒魔法が使えるなんて聞いてないぞ……。それにしてもなんて眼をしてやがる)


 ジョゼフは戦争経験者だ。ユウと同じ眼をした者たちを戦場で見たことがある。戦争で両親・兄弟・恋人・友人――大切な者たちを失った連中と同じ眼だ。世界を憎んでいる眼……


 向かってくるファイアーボールが当たるが、ジョゼフはものともせずに立っている。

 再度、ファイアーボールが数個放たれるが、先ほどと同じように躱さず受けようとしたジョゼフだが、その内の1つが形を変える。

 ファイアーボールからフレイムランスへと――フレイムランス、黒魔法第2位階の魔法である。


(ファイアーボールから、フレイムランスに変化しただとっ!?)


 さすがにこれは躱すジョゼフ、この1発から全てのファイアーボールを躱し始めた。


(めんどくせえな。途中でファイアーボールからフレイムランスに変化する魔法なんて、聞いたことねえぞ――って!)


 ユウの方を見ると、周りのファイアーボールを集めだしていた。ジョゼフにファイアーボール、フレイムランスで牽制をしながら次の魔法を創り出しているのだから、ジョゼフが驚くのも無理はない。


(っち……俺の魔法が当たっても、まったく効いてない……。次の魔法を喰らってもその余裕が保てるか試してやる!)


 数十個のファイアーボールは、1つの巨大な火球になる。直径5メートルはある火球を、ユウは次に風の黒魔法で圧縮し始める。

 圧縮された火球は掌でピンポン玉ほどの大きさまでになっていた。


「喰らえっ!!」


 次の瞬間、ユウの掌から魔力が消え去る。


「ガフッ!?」


 ユウの鳩尾に、ジョゼフの剣の柄がめり込んでいる。


「とんでもない小僧だな。こんな場所でそんな強力な魔法を使わせるわけにはいかないからな」

「て、てめぇ……なに……しや……がった!?」


 そこでユウの意識は途絶えた。




「お~い、そっちの小さい嬢ちゃん。こいつら連れていくから、一緒に行こうぜ」 

「……行く」


(変わった発動方法だが、ありゃ爆発系黒魔法第4位階『エクスプロージョン』……ルーキーで第4位階を使いこなす、そんなルーキーがいるか? クハハハ!! おもしれえっ!!)


 ギルド長モーフィスに、面倒な仕事を押しつけられたと思っていたジョゼフだったが、ユウたちに興味を持ち始めていた。




 ユウが目を覚ますと、ニーナとレナが心配そうに覗き込んでいた。ただし――ニーナはユウの横で添い寝、レナは跨って上からだった。


「…………おい、なにしてんだ」

「よかった~。ユウが目を覚まさないから、心配だったよ~」

「……私の回復魔法にかかればこの程度、問題ない」


 しばらくすると、ジョゼフが部屋に入って来る。


「お~、起きたか。さっきは悪かったな、有望なルーキーが来たってんで実力を試してみたんだがよ。予想以上に有望で、ちょっと本気を出しちまったよ」


(嘘つけ! 全然、本気なんか出してなかったくせに……それだけじゃない。

 最後に俺の魔法を消した時に、魔言を唱えていなかった。こいつも魔言なしでスキルを発動できるくせに隠してやがった)


「まあ、俺はお前たちが気に入ったからよ。仲良くしようぜ!」


 そう言ってジョゼフは、ユウの頭をポンポンと撫で、ニーナの胸を揉み、レナの胸は「大きくな~れ」とパンパンした……。


「死ねっ!!」

「キャアアアアッッ!!」

「……殺す」


 ユウから鳩尾にパンチを、ニーナにはビンタを、レナは杖で股間を突いていた。

 何気にレナが1番ひどい。


「グハッ!? なにすんだお前らっ!?」

「「「こっちのセリフだっっ!!!」」」


 ジョゼフは困ったことがあれば言いに来いと言って、部屋を出ていった。ただ、ニーナとレナには無視されていた。ユウは……もちろん、無視した。


「ニーナ」

「ん? ユウどったの~?」

「お前、前にシーカーかトレジャーハンターに成りたいって、言ってたけど転職で出てこなかったのか?」


 2ndジョブを選ぶと言っていたニーナだが、ユウがステータスを確認すると――


名前 :ニーナ・レバ

種族 :人間

ジョブ:シーフ・暗殺者

LV :21

HP :263

MP :153

力  :122

敏捷 :208

体力 :98

知力 :66

魔力 :46

運  :22


パッシブスキル

索敵LV2

罠発見LV2

短剣術LV3

忍び足LV3

短剣二刀流LV1

暗殺術LV1


アクティブスキル

盗むLV1

潜伏LV3

罠解除LV2

隠密LV3

闘技LV2

短剣技LV2


固有スキル

なし



 2ndジョブをつけただけあり、大幅にステータスは上昇していたが、その2ndジョブが『暗殺者』であった。


「ん~、そんなとこ~」


 曖昧な返事だったが、ニーナもショックだったろうからと、それ以上は聞かないことにしたユウだった。


「変なおっさんのせいで予定が狂ったけど、これから買い物に行くぞ」

「は~い」

「……わかった」

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