第23話 井の中の蛙①
コレットからジョブの特徴、スキルの一覧並びに周辺の魔物情報・迷宮の情報が載っている書物を購入する。
「ユウさんは、とてもルーキーとは思えないですね。あと、その本には全てのスキルや迷宮の情報が載っているわけではないので、注意してくださいね」
本に目を通していると、コレットが感心したように話しかけてくる。
「そうですか? むしろルーキーだからこそ情報を集めないと、簡単に死にそうですが」
「とんでもありません! ルーキーの皆さんは自身の力を過信して、すぐに手に入る情報すら集めずに突っ込んでいきますよ! その結果、痛い目に遭うかたがほとんどです」
雑談をしながら、道中狩ってきた魔物の素材を売り払う。
ニーナたちの転職部屋には別の受付嬢が行っている。
「ランク2の魔物の素材も沢山ありますね。冒険者カードをお借りしてもよろしいでしょうか?」
俺が冒険者カードを渡すのに渋っていると、コレットから他人では冒険者カードから情報を読み取ることはできませんので、ご安心くださいと言われる。
ここで揉めても仕方ないので冒険者カードを渡す。
「クエストだけではなく魔物の素材を売却した際にも、冒険者カードにポイントが貯まるんですよ」
そう言いながら冒険者カードを操作しているが、本当に大丈夫か不安になってくる。
「ユウさん、冒険者カードをお返しします。今からFランク冒険者ですね!」
「えっ? 今の素材売却だけでGランクからFランクになったんですか?」
「魔物のランク・素材の量からして、十分にFランク以上の実力はありますよ!」
(本当ならEランクでもおかしくないくらいですが……)
魔物の素材売却で金貨3枚、半銀貨8枚になった。
「コレットさん、私みたいな子供相手でも敬意を持って接していただき、ありがとうございます」
ユウは素直にお礼の言葉を述べた。思えばこの世界に来てまともに、接してくれたのはコレットが初めてであった。
「と、とんでもありません! ギルド職員が冒険者の皆様に敬意を持って接するのは、当然です。今後もお困りのことがあれば、私の所にいつでも来てください」
金を受け取り、これでレナにアイテムポーチを返せる。このあとはアイテムポーチ、装備の購入や宿屋をどこにするかと考えていると、声をかけられる。
「よっ!」
「なんだ。さっきのお人好しのおっさんか……」
「おまっ! 俺はまだ28歳だぞ! それにしても話しかたが違わないか?」
「こっちが地なんだよ。
もう猫被る必要は、なくなったからな」
冒険者ギルド内にも『解析』を使える冒険者はいるはずなので、ギルド側だけでなく冒険者たちにも、俺のステータスの一部はバレているだろう。
「俺はそっちのほうが話しやすくていいがね。それよりさっきは悪かったな」
「あんたが、この周辺の魔物とルーキーが釣り合っているか試してただけだろう。気にする必要はない」
ラリットから、最近ルーキー狩りと思わしき冒険者狩りが多発しているので、気をつけるようにとアドバイスをもらった。
ランクを聞くと、ラリットでDランクの上位で、もう少しすればCランクになれるそうだ。Cランク以上は化物ばかりなのか? ラリットは本当にお人好しみたいだが、借りは返さなくては気分が悪いのでいずれ。
「お前がルーキーのユウって奴か?」
ラリットと話していると、後ろから声をかけられ振り返る。そこには2メートルは超える酒臭い男がいた。でかいだけでなく筋肉も凄まじく、巨人族じゃないのかと思うくらいだ。
それよりステータスを見て固まる。ラリットもステータスが高かったが、このおっさんは次元が違った。
名前 :ジョゼフ・ヨルム
種族 :人間
ジョブ:戦士・騎士・聖騎士・暗黒騎士
LV :61
HP :4132
MP :876
力 :931
敏捷 :756
体力 :1021
知力 :98
魔力 :102
運 :100
パッシブスキル
歴戦の勘
剣術LV8
槍術LV11
弓術LV6
豪腕LV4
HP回復速度上昇LV3
闇の加護
光の加護
二刀流LV5
アクティブスキル
剣技LV7
槍技LV11
弓技LV5
闘技LV4
神聖魔法LV3
暗黒魔法LV1
聖剣技LV3
暗黒剣LV1
固有スキル
悪運
戦士の才能LV5
装備
武器:岩石竜の大剣(3級):攻撃力激化・損傷減少
防具:ミスリルアーマー(4級):魔法耐性強化
ミスリルガントレット(4級):魔法耐性強化・装備重量半減
火竜のブーツ(3級):火耐性強化
装飾:アヴァレスのネックレス(3級):魔法耐性激化・即死耐性強化・石化耐性強化
ミラージュの指輪(3級):解析に対して偽って表示する。
「だ……旦那!」
「よ~ラリット、そこの小僧を借りてくぞ」
「おっさん、俺になにか用か?」
「誰がおっさんだ。俺はまだ34歳だ」
「「えっ」」
ラリットと俺の声がハモる。
(おっさんだろうが)
「旦那、こいつは今日冒険者になったばかりのルーキーなんですが、なにかしましたか?」
ラリットが気を使いながら、言葉を選ぶように話している。
周りの冒険者たちも遠巻きにこちらを見ていることから、相当有名なおっさんみたいだ。
「優秀なルーキーがいるって聞いたからよ。どれほどのもんか試してやるよ。
ギルドの裏に修練場があるんだが、都合のいいことに今日は貸切だ」
(面白い、ジョブに就いてどの程度強くなったか試すか)
黙っておっさんについて行く。
「ラリット、わかってると思うがついて来たら殺すぞ?」
ジョゼフは笑顔でそう言い放ったが、眼が笑っておらず。ラリットもその場から動けなかった。
「なんで……旦那がルーキーを連れてくんだ……大変なことにならなきゃいいが」
都市カマーの冒険者ギルドの裏には修練場があり、普段は多くの冒険者がいるのだが、今日は誰もいない。ジョゼフが全員叩き出したからだ。
「よ~し、刃引きの剣を使うが油断したら死ぬからな?」
ジョゼフから刃引きの剣を受け取る。その瞬間、ユウは斬りかかるが片手で受け止められる。
「おぉ……いいねいいね~真面目くんじゃ、面白くない。それにしてもお前、腕力が300……いや400近くはあるんじゃないか?」
ユウは両手で押し込んでいるが、ジョゼフは片手だ。余裕があるのか笑みまで浮かべている。
一旦、距離を取ろうとするユウだが、今度はジョゼフの攻撃が襲いかかる。
「死ぬんじゃねぇぞ? 剣技『乱れ突き』」
一瞬で十数におよぶ突きを叩き込まれるが、ユウはその全てを剣技『2段突き』で防ぐ。これにはジョゼフも驚いたようで動きが止まる。
(おいおい~どうなってんだ。乱れ突きは剣技LV2の技だぞ? それを剣技LV1の2段突きで全て防ぎやがった。しかも2段突きを溜めなしで、連続で繰り出すだと?)
「おっさん、今度はこっちの番だよな?」
ユウの『闘技』が発動する。単純なステータスでは完全に負けている以上、相手が油断しているうちに全力で攻撃することで、勝機を見出そうとした。
「流動だと!? ……さっきの魔言なしでの剣技の発動……上位冒険者が使う流動といい誰に教わった?」
ジョゼフが言っている。『流動』とは、ユウが行っている闘技を放出するのではなく、身体に流れるように纏わせる技術のことである。
「勝手に変な名前をつけるな。これは俺が編み出した技術だ!」
受け応えしながら、剣技『疾風迅雷』を発動する。左右上下から目にも止まらぬ斬撃がジョゼフを襲うが、慌てる様子もなくジョゼフは剣技『閃光』で防ぎ、逆にユウが吹っ飛ばされる。
(剣技もLV3まで使うのか……ルーキーの実力じゃないな。クク……)
最初は遊び半分だったジョゼフだが、どんどんユウに興味を持つにつれ酒も抜けていく。
ニーナはその光景に驚いた。2ndジョブを選んで戻るとユウがいない。最初に絡んできたラリットを見つけたので、ユウを知らないかと聞くと修練場に連れていかれたという。
(連れていかれた? 誰に……まさか!)
修練場に入ると2メートルは超える大男が、ユウを吹っ飛ばしていた。その瞬間、ニーナの頭の中が真っ白になる。
「クリティカルブロー!!」
忍び足・隠密・闘技を同時使用し、ジョゼフの懐に飛び込んだニーナが短剣技を放つ。
「お? 嬢ちゃん、この小僧の知り合いか?」
ジョゼフは剣も使わず躱すが1撃目は囮だ。次の瞬間、本命の左手からの二撃目、短剣技『デッドスタブ』が放たれる。
(この嬢ちゃんも魔言なしかよ!)
剣技『柳』で衝撃をそのまま返す。ニーナは自身の技を受ける形になり。その場で崩れ落ちる。
「……ニーナ!」
レナも戦いに参加したかったが、レベルが違い過ぎて入れずにいた。
「ハッハ、安心しな。嬢ちゃんは気絶しただけだ」
「…………ぞ?」
「小僧、なにか言ったか?」
その瞬間、ユウの周りに数十のファイアーボールが浮かぶ。しかも以前とは比べ物にならない大きさだ。
「殺すぞ?」
濁った眼でジョゼフを捉えると、ユウはゆっくり動き出した。
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