第15話 山間の洞窟③

「ついてるぜ!」


 1人、山間の洞窟までの道程で、サーマット・ポは興奮を隠せず声に出す。

 この男はハーゲの取り巻き、最後の一人である。ハーゲたちが行方を眩ませ、かといって単独ソロで山間の洞窟に行けるほどの実力はなかったのだが、山の異変に村人からの調査依頼が冒険者ギルドに入ったのだ。

 レッセル村の冒険者で依頼を受けられるのは、現在2名だけである。

 1人がニーナ、そして最後の1人がサーマットであった。

 本来であれば断っていたが、今までハーゲたちとクエスト受注をこなしていたので、ソロの現在は収入が激減しており、生活のために冒険者ギルドからの依頼を受注したのである。


「おっ、ここにも魔玉とホブゴブリンの死体が放置されてるぜ!」


 興奮しながらホブゴブリンの耳を剥ぎ取る。この死体ですでに17体目だった。


「あそこにもあるじゃねぇかっ。やっと俺にもツキ回ってきたぜ! ……ははっ……おかしい……だろ……?」


 さすがにこの光景が異常なことに、サーマットも気づき始めた。

 山間の洞窟に近づけば近づくほど、死体が増えている。他の冒険者なら魔玉や素材を放置したりはしないであろう。また魔物同士の争いなら、死体が手つかずなのもおかしい。

 サーマットの頭の中では危険信号が鳴り響いていたが、魔玉・素材の回収と好奇心が打ち消していた。そのままサーマットは山間の洞窟へと進んで行く。




 山間の洞窟では、さらにありえない光景が広がっていた。1F~地下2Fまでの、全ての魔物が消えていたのだ。実際には死体だけが残っており、虐殺行為は全ての部屋でしらみつぶしに行われており、魔物の虐殺が目的のようだった。


 シュパッ!!


 まるで紙でも切るように軽い音が鳴り響き、オークソルジャーの分厚い首が斬り裂かれた。


「どけ! お前らに用はな……ぃ…………白魔法を……よこせっ!!」


 強奪の多用による頭痛を意に介さず、ユウが叫ぶ。

 ユウを囲んでいた魔物たちは、その異様な雰囲気に怯え後退していく。

 ユウは山間の洞窟に入ってから、魔物を地下で追い込むような形で倒し、戦わずに逃げ出した魔物はどんどん下へ・・逃げていった。

 ニーナの訓練のため、最近はユウ自身は狩りをあまりしていなかったが、今日だけで数百の魔物を倒していた。

 常時『異界の魔眼』を使用し『強奪』でスキルを奪いながらである。その結果、異界の魔眼・強奪のスキルレベルが上がりその他のスキル・ステータス・レベルも急激に上昇し、現在のステータスは――



名前 :ユウ・サトウ

種族 :人間

ジョブ:なし

LV :17

HP :136

MP :216

力  :51

敏捷 :49

体力 :47

知力 :61

魔力 :46

運  :1


パッシブスキル

剣術LV5

腕力上昇LV5

索敵LV5

短剣術LV2


アクティブスキル

剣技LV3

闘技LV3

白魔法LV3

黒魔法LV2

鍛冶屋LV2

錬金術LV2

盗むLV1

隠密LV1

鑑定LV1

短剣技LV2


固有スキル

異界の魔眼LV3

強奪LV2




 地下3F最奥の部屋には、普段なら考えられない数の魔物がいた。オーガ(亜種)が従えるゴブリン、ゴブリンソルジャー、ゴブリンナイト、ホブゴブリン、ゴブリンプリースト、ゴブリンメイジだけではなく。コボルト、コボルトシャーマン、オーク、オークソルジャー、ウォーバット、クレイジーウルフなどである。

 普段であれば敵対しており、目が合った瞬間に殺し合うような魔物たちが、今は目の前の脅威に争うよりも共闘に近い形で陣取っていた。


「逃がさない……時間が…………」


 部屋の唯一の入口にはユウが立っていた。その姿は全身に魔物の返り血を浴び真っ赤である。レザーアーマーもボロボロの状態だが、ユウ自身に傷は一つもなかった。

 ユウの周りにはファイアーボールが、十数個浮いた状態で維持されていたが、ファイアーボールが1つ1つ引っつき合い大きくなっていく。全てのファイアーボールが合体し、巨大なファイアーボールが完成する。ユウは入口の地面にそのファイアーボールを叩きつけると、火の柱となって入口が炎で塞がれた。

 発動方法は違うが、これは黒魔法第2位階の魔法ファイアーウォールであった。


「オオオガガガガガガアアアアアァァ!!!」


 オーガ(亜種)が吠えると同時に、周りの魔物が一斉にユウ目がけて襲いかかってきた。

 ユウは再度ファイアボールを発動し、周りに纏わせて魔物の群れ目がけて突っ込んで行く。

 コボルトシャーマンやゴブリンプリーストは、動揺していた。傷ついた仲間を回復させようにも、一撃・・で仲間が倒されていくからだ。

 敵は恐るべき剣の腕を持っていた。

 距離が空いた瞬間に、ゴブリンメイジたちがファイアーボールを放つが、ユウが纏っているファイアーボールが相殺するばかりか、そのあとに複数のファイアーボールを叩き込まれて、返り討ちに遭うのだからたまったものじゃない。

 迂闊に魔法を放つことのできなくなった魔物たちに、ユウが『強奪』を発動しようと迫るが、オーガ(亜種)がその間に立ち塞がる。


「邪魔だっ!!!」


 ユウが振るった剣撃は、オーガ(亜種)の腕に3分の1ほどめり込んで止まる。


(こいつ、硬い上に闘技を使いやがる)


 ロングソードを引き抜こうとしたその瞬間を、オーガ(亜種)は見逃さず、こんぼうを横薙ぎに振るう。

 グシャッ、と鈍い音がなる。咄嗟にユウは両腕で防いだが、もとからの膂力が違い過ぎたので、10数メートル吹っ飛んでいく。

 倒れているユウに、魔物たちが止めを刺そうと迫ってくるが、ユウのファイアーボールで倒されていく。

 その光景を部屋の入口から観ていたサーマットは、息をするのも忘れるほど見入っていた。


(あのガキは、レッセル村の忌み子じゃねぇかっ。信じられねぇ強さだ。すげぇ! すげぇっ!!)


 純粋にユウの強さに惹かれて、興奮しっぱなしのサーマット。サーマットがここまで無事に来れたのは、地下3Fまでの全ての魔物がいなかったので、サーマットでも最奥の部屋まで来ることができた。

 いざ部屋に入ろうとしたところ、火の壁が入口を塞いでおり、隙間からなんとか中を覗くと、数十の魔物と人間の子供が戦っていたのである。


 ユウはグシャグシャに折れた両腕にヒールをかけながら、ファイアーボールの数を増やしていく。

 『異界の魔眼』のレベルが上がり、相手の弱点も見えるようになっていた。


(オーガ亜種は氷属性の攻撃に弱いか。残念ながら弱点をつこうにも、手段を持っていなかった)


 ファイアーボールを掻い潜ってくるゴブリンナイト、ゴブリンソルジャーから『強奪』で剣術スキルを奪う。途端に剣の速度が遅くなり余裕を持って躱し、ファイアーボールを放つ。

 再度、オーガ(亜種)に向かって走って行き、こんぼうを避け左手に食い込んでいるロングソードを取り返す。


「オオオオオオオッ!!」


 オーガがスキル『咆哮』を放つ。周りの魔物が萎縮し動きが止まった。

 ユウは耐えて、ロングソードを振り下ろす。オーガ(亜種)が先ほどと同じように腕で受け、今度は頭を潰そうとする。その顔はニヤリと哂っていたが、今回は先ほどと違う点があった。

 ユウはオーガ(亜種)の『闘技』『身体能力向上』を強奪しており、ロングソードはオーガ(亜種)の腕で止まることはなく、振り切られてオーガ(亜種)の腕が宙に舞っていた。

 自分の腕が斬り裂かれたことに、信じられないといった表情のオーガ(亜種)の顔に剣を振り下ろし、呆気なくオーガ(亜種)は死んだ。


 オーガ(亜種)が死んだ瞬間に、この戦いの決着はついていた。あとの魔物たちに待っていたのは、一方的な蹂躙であった。魔物たちは1匹残らず、スキルを奪われたあとに殺された。

 この出来事で、レッセル村ではしばらくの間、魔物たちによる被害が激減するのであった。

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