中編

 拓は救急車で病院に運ばれた。病院から警察に連絡が行ったらしく、簡易的な取り調べがなされた。


「だから、自転車の上で子供が暴れて誤って落下したんです」


 男の警察官は私を冷たい目で見る。


「まぁ……他に痣らしい痣も無かったですしね、今回は厳重注意にしておきますが、次は児相にも連絡するかもしれませんからね」


 男の警察官の隣に座っていた女性の警察官が口を開く。


「お母さんね、心が苦しくなった時は、行政も頼って下さいね。あなたの力になってくれる機関は必ずありますから。あなたは独りじゃないんですよ」


 何が私の力になってくれる、よ。それなら、あの女から祐司さんを取り返してよ。私の元に彼を返してよ。


 心のささくれが、メリメリと音を立てて血を流していく。


***


「娘が御迷惑をお掛けしました」


 警察署に来た身元引受人は、私の母だった。母は幸い軽傷で済んだ拓を連れていた。


「こんな時にも、祐司さんったら来てくれないのねぇ」


 一応、警察は祐司さんにも連絡したらしい。けど、彼の返答は「仕事が忙しいので」というものだった。


 私よりあの女との密会を優先させるっていうの? 拓が怪我をしたのに? 許せない……許せない……。


 心のささくれが悲鳴をあげている。

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