ささくれの断末魔
無雲律人
前編
「じゃ、今日も残業で遅くなるから」
そう、あなたは毎日お決まりのセリフで会社へ行く。
『残業が』『接待が』『付き合いが』
……もう聞き飽きたわよ、その常套句には。
「さてと、洗い物して
あなたがうちを留守にしている間、私は三歳の拓のワンオペ育児。ねぇ、知ってる? 最近の拓はイヤイヤ期で何にでも反抗するのよ。
「いたっ!」
指にささくれが出来ている。最近は育児に忙しくてハンドクリームを塗っている暇も無い。
私はふとリビングに飾ってあるお宮参りの写真を見る。
「あの頃は、祐司さんも帰りが早くて、家に寄りつかなくなる日が来るだなんて思わなかった……」
心のささくれがけば立ってくる。
知ってるのよ、私。残業も接待も付き合いの飲み会も嘘。全部あの女と会っているんでしょう? あなたは私に十分な生活費はくれるけど、愛してはくれないのね。
「拓! 幼稚園に行くよ!」
「やーやー」
拓が幼稚園に行く事を渋る。ここの所毎日これだ。
「やーじゃなくて行くのよ!」
拓の腕を強引に引っ張る。
「いやー! わぁぁぁぁん!!」
拓が大声を張り上げて泣く。
「泣かないで! 泣きたいのはこっちの方よ!」
泣いている拓を抱き上げて無理矢理自転車に乗せる。
「やーやー! やなの!! うわぁぁぁん!!」
拓が自転車の上で暴れ出す。
「危ないでしょ! 落ちるわ……えっ!?」
声を掛けたその瞬間だった。
拓が自転車のベビーシートから頭を下にして落下した。
「きゃぁぁぁ!! 拓……!」
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