底辺

「まあ、元々は中国の話だ。織姫という美しい娘と、彦星という青年の話でな。まあ、よくある恋愛モノ何だが、これがまたひどい話でな」


「ひどい話なのかよ」


「そう。まずは織姫じゃ。お前、織姫と聞いてどんな女性をイメージする?」


「えっ?、キレイな着物を着て優雅なお姫様?」


「そうだろうな。しかしな、機織りっていうのは、貧乏人の内職か奴隷労働ぐらいの、それこそ貧乏人の底辺の仕事だ。苦労して織っても賃金は安い。1メートル織るのに何ヶ月もかかることもある。姫というのは馬鹿にするためにつけているんだよ。悪口だ」


「ひでえな」


「相手の牽牛、彦星の本当の名前だな。そっちはどう思う?」


「けんぎゅう? 彦星。キラキラしていて力強そうだね」


「牽牛とはな、牽は引っ張る、ぎゅうは牛じゃ。牛を引っ張る人という名前だ。仕事も牛飼い。底辺の力仕事だな」


「えっ? 織姫と彦星っていうから、優雅な貴族の話だと思っていたのに」


「底辺の仕事をしている二人の話だよ」


「夢がないな」


「夢がないのはこれからだよ」


 がっかりしている子供に、追い打ちをかける坊主だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る