些些来
囀
些些来 1
「ひどーい!! 何でそんな事を言うの!」
人気のない公園。
静かな雰囲気を切り裂くような声が響き渡る。
同じクラスの友美ちゃんが僕を叱りつける声だ。友美ちゃんの眉がピンっと吊り上がってまるで鬼みたいだ。
「夏菜子ちゃん泣いちゃったんだけど!!」
キンキンと高い声が耳の鼓膜に入り、僕は耳を塞いだ。友美ちゃんはまた怒る。そんな彼女を無視し、僕はチラリと隣を盗み見る。
友美ちゃんの隣には啜り泣く子、夏菜子ちゃんが居る。
垂れそうな鼻水を啜りながら、溢れる涙を拭っていた。僕はその様子を見て呆れ気味の反応をする。
あーあ。
つまんないのー。
「ちょっと、夏菜子ちゃんに謝って!!」
「何だよ。ちょっとだけ、揶揄ってやっただけじゃん」
「だからって嘘つく事ないじゃん! 夏菜子ちゃん、とっても楽しみにしてたんだよ」
友美ちゃんはそう言うと、途端に夏菜子ちゃんの泣き声も大きくなる。
それは、僕がとある一つの嘘を吐いたことから始まった。
夏菜子ちゃんは宝石やパワーストーンとか、まぁ変な物を集めるのが好き。
だから、公園の砂場にはとっても綺麗で不思議なものがあるんだって教えた。
そんなの嘘って分かるでしょと僕は思って居たんだけど、夏菜子ちゃんはまんまと騙されたんだ。
勿論、砂場には何もないし、その代わりに、ゴキブリとか蜘蛛とかの玩具を詰めて入れた。
それを見つけた夏菜子ちゃんが大泣きしちゃったんだよ。
そして、今に至るってわけ。
「嘘吐いたらささくれが出来ちゃうよ!」
「そんなの嘘に決まってるよ」
「本当だよ! だってお母さんが言ってたんだもん」
「じゃあその証拠を見せてよ」
僕が強気に押し出すと、友美ちゃんは「うっ」と口を閉じ、黙り込んだ。夏菜子ちゃんは友美ちゃんの肩を叩く。
「もう帰ろう? 友美ちゃん、ありがとうね」
「でも……」
「私はもう大丈夫だよ。友美ちゃんが怒ってくれて嬉しかったから」
夏菜子ちゃんは僕をじいっと見つめる。悲しげに見つめるので、僕は逸らす。悔しげな表情をする友美ちゃんは、僕を一度、睨みつけた後、夏菜子ちゃんに促され公園を去っていった。
◇
「まあくん。また嘘吐いたの?」
「むっちゃん」
聞き慣れた声がして振り返る。そこには、隣の席のむっちゃんが公園の入り口から不思議そうに見つめていた。
僕は、その辺に放り投げたランドセルを背負い、むっちゃんの所へ走った。
そして、途中までむっちゃんと一緒に帰ることになった。
「騙される方が悪いんだよ。全く……。大人はもっと大きな嘘を吐くんだから」
サンタクロースは親である。
赤ちゃんはコウノドリが運んでくる訳じゃない。
着ぐるみの中には人がいる。
夢はいつだってすぐ壊されるんだから。
「嘘吐いたらささくれが出来るなら、大人はとっくに指先が血まみれになってるだろ」
「確かに。そうだね」
「でしょ?」
「うん。でも、何でまあくんは嘘を吐くの?」
「見ていて面白いから」
下らないことで、どうこう騒ぐ神経がよく分からない。でも、それが面白くて可笑しいんだ。
だから、やめられない。
そんな事を思っていると、むっちゃんはふふふを笑った。
「まあくんは、悪戯好きなんだね」
「そう言うむっちゃんは?」
「私? 私もだよ」
むっちゃんは突然、歩くのをやめて向こう側へと指を差す。
「向こう側にお寺があるでしょう? その後ろに森に続く道があるんだけど、そこに小さな祠があるんだって。その祠を開けると、とっても怖い目に遭うらしいよ」
「へーそうなんだ」
僕は適当に頷く。
「怖いことって例えば?」
「悪い事をする人を虐めるお化けがいるんだって。ふふ、まあくんは悪い人だから大変だね」
「どうして?」
「だって、さっき友美ちゃんたちに嘘を吐いたでしょ? 嘘吐きは良くないって言うじゃん」
むっちゃんの言い分に僕はフッと吐き出す。
「あんなの、悪いの範囲に入る訳ないよ」
「そうなの? まぁ、なら良いんだけど」
「嘘って大体、どうでも良いことじゃん? だから、そんなんでいちいち気にしてたらどうしようもないよ」
「まぁ、そうだよね。……でも、行ってみる価値はあるんじゃない?」
「と言うと?」僕は聞き返す。
「私、そのお化け見たことあるよ」
むっちゃんも嘘を吐くんだなー。
「ねぇねぇ、騙されたと思って行って見てよ」
「えぇ?」
「きっと、騙されたってなるから」
「意味分からないんだけど」
「どうせ、暇でしょう? ちょっとした
「……」
しょうがないな。
僕はむっちゃんのお願いに渋々頷いた。
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