☆エピローグ それぞれの明日に☆
数日後。
地球本星の本部とへ帰還をして、二人は帰路の合間で完成させていた報告書を、クロスマン主任へと届け出ていた。
いつもの露出過多な正式スーツに身を包み、綺麗な直立姿勢で、しかしいつものような緊張も無し。
「事件の経過は、サルト艦長からも 報告を受けているよ。二人とも、ご苦労様だったね」
「「有り難う御座います」ですわ♪」
主任の前に立っても、ミスもなくお説教をされないという貴重な体験に、二人は上機嫌で正直な美しい笑顔。
報告書へ目を通す前に、今回の事件から後の状況を、二人へと話してくれた。
「キミたちも既に聞いているかも知れないが…今回の密輸の一件で ギャラクティック・エスポワール・クルーズ本社には 強制捜査が入ったよ。事件の真相解明は これからだが…現在の捜査段階では、密輸に関わっていた職員は、極めて一部だという見解だね」
「…という事は」
マコトとユキは、お互いの美顔を見合わせて、推察をする。
「セカンド・タカラブネ号の船長や、船内で抵抗をした乗組員たちだけが、密輸に関わっていたメンバー…という事なのでしょうか?」
そうだったら、この件に関する密輸は撲滅出来た、という話になる。
「いや。もう一隻 密輸に関わっていた船があったようだよ。もっともそちらは、地球本星から出港をする前に 強制捜査で取り押さえる事に成功したのだがね。それはつい 二日前の事であり、つまりその功労者は…潜入捜査をしたキミたちだよ」
「まぁ…♪」
「そうなのですか…♪」
自分たちの捜査の結果、新たな密輸を未然に防げた。
捜査官として、これほど嬉しい事実はない。
「ユキ、頑張った甲斐があったね」
「はい♪」
なにより、素性を隠しているとはいえ、不特定多数の男性たちへ全裸を晒す恥ずかしいコンパニオン業務を勤めたのである。
マコトもユキも、心の底からの明るく美しい笑顔で、小さな掌同士をパンっと合わせた。
「今回のキミたちの手柄に対し、三日間の特別休暇を許可するよ。報告書にも記載をされているであろう、コンパニオン業務に関する様々な収益も、キミたちの取得分とする」
「よ、良ろしいのでしょうか…?」
「うむ」
裸で稼いだ収入だけど公僕としての職務でもあり、国庫へ上納の後に三割支給などの常識的な塩辛い対応ではなく、全額獲得。
「クロスマン主任っ、本当に 感謝を致します♪」
「あ、有り難う御座います」
特にユキが喜んでいるのは、稼いだ理由によるものではなく、単に多くの電子パーツやファッションを購入出来るからだ。
その点ではマコトも、珍しい食材や地球では銀河通販でも手に入りにくいお菓子などと一緒に、生産終了に伴い高価となった火薬式のアンティーク・ガンを手に入れたいとか、妄想していたり。
そんな部下たちのフワフワした頭の中も、上司であるクロスマン主任は、見抜いていそうな優しい眼差しだ。
「では、本日は直帰して、明日より三日間の休暇を楽しんでくれたまえ。以上だ」
「「はいっ♪」」
二人は、明るく清んだ元気溢れる敬礼を捧げた。
寮へと帰宅をするその脚で、二人はエア・エレカに乗って、アイコ捜査官の入院している病院へと向かう。
「失礼致します」
扉が開かれると、ベッドの上で、アイコ潜入捜査官が座って迎えてくれた。
「お帰りなさぁい♪ 任務、ご苦労様でした~♪」
「「ただいま帰還いたしました」」
明るい笑顔で労ってくれた先輩捜査官へ、お見舞いを兼ねたお土産も手渡す。
「あら、ありがと~♪ 私の大好物な、ピーリンカ干し柿モナカだわ~♡ よく知ってたわね~♪」
同じ部署の先輩捜査官から聞いていたので、地球までの帰りにコッソリと寄って、買ってきたのだ。
「お怪我の具合は いかがですか?」
招かれたシートへお尻を下ろしながら尋ねると、アイコ捜査官はお土産のお菓子をマコトたちと分けながら、答えてくれた。
「来週あたり? 退院出来そうなのよ~♪ 昨日の検査でも、特に問題は無かったようでね~♪」
「それは、安心をいたしました♪」
お土産のピーリンカ干し柿モナカは、ユキもマコトも初めて食べたけれど、本当に干し柿をゼリーとモナカで挟んだという、シンプルだけど味わい深い一品。
「まぁねぇ~♪ て言ってもね~、お酒に酔って 階段を転げ落ちただけだからねぇ~♪ いつもの事よ~♪」
とか本人は笑っているけれど、いつも酔っ払って階段から転落をしているらしい。
「二人もね~、飲酒OKな大人になったら、お酒には気をつけないとね~♪ 太古の昔から、言うでしょ~。お酒は飲んでも抱かれるなーって♪」
「はい♪ 気をつけます♪」
「あれ。その諺って、元々は『お酒は飲んでも呑まれるなかれ』でしたっけ?」
「その説と共に『お酒は呑んでも脱がされるな』説が よく囁かれている…のでしたでしょうか?」
「あぁ~、そういえば…『お酒はNONでも気持ちで酔える』じゃなかったっけ~?」
どうでも良い会話が出来る幸せを、捜査官女子たちは満喫していた。
「もしもし、ツインホお姉さまですか?」
『マコちゃんユキちゃん~♪ お久しぶりツノ~♪』
「リュグお姉さまもソフティお姉さまも、ご機嫌麗しく♪」
捜査本部のあるネクスト・アトランティスの市街地区画にあるファストフード店で、モニター通話をするマコトとユキは、コンパニオン業務でお世話になったお姉さま方と、半月ぶりくらいで話が出来ていた。
「あれから、如何ですか?」
密輸事件を題材とした映画の製作が発表され、その主人公として、お姉さま方三人が抜擢されたと、マコトたちも芸能の話題で聞いている。
『うふふ~♪ もうね~、毎日毎日~、インタビュ~で大変ツノよ~♪』
『かちり。ワタシモ、田舎ノ友達ガ 喜ンデクレテルワ♪』
『ギョギョっ♪ それと同時にですねっ、今は映画でのアクションの為のですねっ、アクションレッスンも、大忙しですよっ♪』
映画は、女優を目指す三人の女性が、コンパニオンとして働く豪華客船での密輸を知って、悪を許さんと立ち上がる爽快アクション映画へと、脚色されるらしい。
今はまだ、潜入捜査や潜入捜査官の事を公にするワケにも行かないので、脚本製作には密かに地球連邦政府直属の芸能エージェント会社が絡んでいる。
と、クロスマン主任から聞かされていたマコトとユキ。
『でもでも~、あたしたちは 良いけれどツノ~』
『かち。まこチャンゆきチャンハ、映画ニ出ナクテ、本当ニ良カッタノ?』
『ギョギョっ! お二人も、折角の大チャンスでしたのにっ!』
コンパニオン・アクションの映画であり、三人と同室になったマコトとユキも、脚本的には必要なキャラクターだ。
そして潜入捜査の際に、モデル事務所所属と偽の履歴書で雇われたので、三人は同じ世界を目指す後輩二人を、とても心配してくれていた。
とはいえやはり、二人の正体を明かすワケにも行かない。
「はい。私たちは『コンパニオンとかっ、肌を露わにするアルバイトとはっ、何事かぁーっ!』と、父に叱られてしまいましたので…』
なので、映画どころか、現在は親の監視下にある。
という、これも芸能エージェント部門が創作をした設定を、心苦しく想いながら伝えていた。
『あらあら~、大変ツノねぇ~』
「ですのでボクたちは、ボクたちの分まで大活躍をするお姉さま方の映画の完成を、心待ちにしています」
ちなみに、二人のキャラクターは「クルーズ会社が内部調査の為に密かに雇った密偵」という設定となり、主役の三人と対比になるよう、妹系美少女の新人女優さんが、オーディションで起用されるとか。
『かちり。ソノおーでぃしょんニモ、ワタシタチガ 審査員トシテ参加スルノヨ』
「なるほど。オーディションも宣伝の一環 なのですね」
『ギョギョっ! マコちゃんとユキちゃんに似てる女の子を、選んであげるつもりですよ!』
「ありがとうございます、お姉さま♪」
どのような女優さんが合格をするかは解らないけれど、そのあたりもエージェントの人たちが、上手く処理をしてくれるだろう。
「それじゃあ、頑張って下さい」
「応援をさせて戴きます♪」
『『かちり。『それじゃあ~♪』ツノ~♪』』
通信を終えた三人の笑顔は、自信と希望でキラキラと輝いていた。
「良かったよね。お姉さま方」
「はい♪ 事件解決だけではなく、夢を掴まれた方々の笑顔は 私たちにとって何よりの報酬ですわ♪」
「うん。恥ずかしい裸で頑張った甲斐があったよ」
「うふふ♪」
三日間の有給を、どのように過ごすか。
「それではマコト、まずは パンフレット集めですわ♪」
「今から? 部屋で情報をチャックした方が 早いよ?」
情報端末で探せばすぐだし、そういった作業はユキの独断場である。
それでもユキは、太古より脈々と受け継がれ続けている、紙による旅行案内パンフレットが、好きなのだ。
「良いのですわ♪ マコト、早く♪」
「うん」
ユキの笑顔が心の底から楽しそうで、マコトも嬉しくなる。
とうせなら、二人での短期銀河クルーズ旅行も良いけれど。
(今度は裸じゃない旅行が良いな)
と思ったマコトだけど。
(でも、ユキだとヌーディスト・ビーチとか 普通に選びかねないかな)
とも思ったけれど、それでも良いか、とも思った。
~エピローグ 終わり~
SF ねこうさ ゆりボイン 7 八乃前 陣 @lacoon
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