☆第三十四話 スペース・ネイキッド☆


 悪党たちからの、イヤな意味で銀河一の人気者である美少女捜査官ユニット、ホワイトフロールがヌードで操縦をしている脱出ポッドの、燃料が切れた。

『ほらほらほらあぁっ、早く逃げねぇとぅおぉっ、全裸のままっ、とっ捕えちまうぜええっ!』

『今夜はデスヘイル・シスターズでぇっ、徹底的な徹夜だぁっ!』

 テロリストたちの船が、欲望すらエネルギーとしたかのように、加速を駆けて接近をしてくる。

 逃避行をするマコトとユキは、もう追いすがる略奪者たちからは、距離を開ける事も逃げる方向転換をするも出来ない状態だ。

 それでも、パートナーを信頼し合う二人には、強い焦燥も混乱も無い。

「ユキ、時間は?」

「テロリストたちに追い着かれるまで、五分弱ですわ!」

「その前に 来るんだ」

「はい♪ あと 一分十二秒ですわ」

「じゃあ、そこから だね」

「はい♪」

 状況的に、心底ばかりからの笑顔ではないと、二人も自覚はしている。

 それでも、マコはイヤリング弄るユキの言葉を信じて疑わないし、ユキもマコトから伝わる意志の強さを、微塵も疑ってなどいなかった。

『もうすぐぅっ、追い着いちゃうぜえぇっ!』

『あのギンガ・ビッチーズを捉えて好き勝手して屈服させたとなりゃあっ、オレたちゃあ銀河でも一目置かれる――』

「マコト、到着ですわ♪」

「こっちも 準備OK!」

 脱出ポッドのセンサーには捉えられない超遠距離でも、ユキ自作のイヤリングからの電波は、対称機器とは確実に交信が出来ている。

 追いすがるテロリスト船群と逃走ポッドの遙か先に、小さく輝かしい光が見えた。

『…ん?』

『ボス、前方から、超高速航行体が接近してきますっ!』

 小さな光を確認したと思ったら、ごま粒のような黒い物体が視認出来て、レーダーが四角い箱形な航行コンテナ船だと認識をした、そのタイミングで。

『うわぁっ、何か突っ込んで来ますぅっ!』

『っどこのバカ――っそぉかぁっ、あの二人を助けに来ゃあがったんだなぁっ! 構わねぇっ、撃ち壊せぇっ!』

 テロリストたちの船が、脱出ポッドの先から飛んでくる黒い船を、集中攻撃。

 ポッドの操縦席に座るマコトとユキの艶々ヌードも、後方から前方へと近距離をすり抜けてゆく色とりどりなビーム光で、艶めかしく照らされたり。

「テロリストたちの射撃が 正確でありますように…っ!」

 無数のビーム光の一発が掠っただけでも、脱出ポッドの内部は絶体絶命である。

 マコト史上初めて、犯罪者の射撃能力に祈りを捧げてしまった。

 ――ドコドコッバシュンンッ!

 四角い中型コンテナ船は的として十分だったらしく、テロリストの船たちの攻撃は幸運にもポッドを掠める事なく、半数近くのビームが目的へと命中。

 ――ッッドッゴオオオオオンンッ!

 眩い光球と化したコンテナ船は、轟音と共に、宇宙の塵と化した。

『ッグゥウッグヘッグヘッグヘエエエッ! どぅだブラック・デス・オンナーズさんよおおおぉっ! お前らを助けに来たお仲間はぁっ、ご覧の通りの藻屑だあぁっ!』

『それじゃあ諦めてぇっ、オレたちとお楽しみぃっ!』

 勝利を確信して馬鹿笑いをするテロリストたちに、マコトとユキが言い返す。

「ボクたちは」

「ホワイト・フロールですわ!」

 眩い爆光の中から、白銀の白鳥が超高速で姿を現し、ポッドの近くを掠めて横切り、テロリストの船群へ向かってその翼を泳がせた。

『っげえぇっ!』

『ぁあっ、あの船ぇっ!』

 犯罪者たちにとっては、親の顔よりも見た恐怖の美形航宙船「ホワイト・フロール号」が、怯えたテロリストたちへ美しい船体を見せ付けるように急旋回をして、微細で光るチャフを散布。

 そのまま速度を落とす事なく反転をして、流れるポッドへと寄り添って来る。

「タイミング バッチリですわ♪」

「うん」

 二人が脱出ポッドを使用したタイミングで、ユキは豪華客船の航路を先行している専用航宙船へと、イヤリングから緊急シグナルを発信していた。

 主からの信号を受けた白鳥は、偽装コンテナのまま急旋回と急発進をして、発信源へ向かって急行し、外装を縦として攻撃を無効化してチャフを巻いて、ビーム攻撃を一時的に無効化。

 そして、主たちの乗る脱出ポッドとのランデブーへ、入っていた。

 星々を映す白銀の白鳥が速度を落とし、その頭頂部を船間距離五十メートルで安定をさせて、脱出ポッドと併走飛行をする。

 ポッドから透明なチューブが伸びて、白鳥の頭部ハッチと接続をされた。

「乗船チューブ、接続完了」

 二人の意図は、流石にテロリストたちへも、バレバレである。

『あのっ、ガキアマどもぉっ! もう構わねぇっ! 宇宙の塵に変えてやれぇっ!』

『『『ぅおおおおっ!』』』

 ホワイトフロールの恐怖体験を伝え聞いているテロリストたちが、白鳥もポッドも構わずに、ビーム攻撃を乱射してくる。

 ポッドの搭乗口へと裸身を乗り出したマコトとユキは、後方でチャフによってビームが拡散されている、花火のような光を確認。

「あの様子だと、チャフこの効果は あと五秒くらいかな」

「マコト、お任せをいたしますわ」

 白鳥へと乗り移るには、この透明チューブの中を進むしかない。

 しかしもうすぐ、バラ撒いたチャフもビームで消滅し、後は撃たれるまま。

 それでも乗り移るしか生きる道はなく、解っていても少し怯えるユキは、全てをマコトの言うままと決意。

「うん。大丈夫だから」

「はぃ…♡」

 ビーム光で照らされる、中性的で美しく凛々しいマコトの美顔で告げられると、純色とりどりな輝きを受ける、真無垢なお姫様みたいなユキの愛顔が、上気で染まる。

 白い裸身のマコトとユキは、狭いチューブ内を素早く飛び抜けるよう、抱き合いながらポッドを蹴って、飛び出した。

『――っ!? ぉぉおおおっ?』

『見ろ見ろぉっ! デス・メスメタルズのヌードショーだぁっ!』

 漆黒の真空の中を、星明かりで照らされる白い艶裸身で抱き合う美少女二人が、優しく回転をしながら飛翔している。

 黒いネコ尻尾や白いウサ尻尾もフワフワ揺れて、美顔同士がキスをするかのように接近をして抱き合う艶姿は、互いの巨乳同士を柔らかく重ねて変形も魅せていた。

 大きな裸尻から続くムチムチな腿も重なり合い、細い膝や更に細い足首も、まるで恋人同士のように絡み合っている。

 全ては、狭い乗船チューブを最も素早く通り抜ける為の姿勢なのだけれど、チューブが透明だから、魅惑的なその姿はテロリストたち皆に観賞をされていた。

「ユキ、到着」

「はい♪」

 二人の裸体が、白鳥型の大きな障害物の中へと消えた瞬間、テロリストたちは、美裸身天国から意識が帰還。

『――ハっ!』

『ぅぉおお前らっ、なにしてやがるぅっ! とっととあの二人を消滅させろぉっ!』

『ハっ、ハイイっ!』

 ボスだって見てたクセに。

 という言葉を飲み込んだテロリストたちから、再びのビーム攻撃が再開をされた。

 裸のままコックピット・シートへお尻を下ろした二人は、瞬間的に、自分のすべきシステムチェックを完了させる。

「マコト!」

「OK!」

 中距離ビームが到達する直前に、移船チューブを脱着し、煌めく白鳥が急加速をして全弾回避。

 ただ流されるだけとなっていた無人の脱出ポッドをビームが掠めて、内部をショートさせてから爆散をした。

『ぅおのれ小娘がぁっ! 手前ぇら当てろおぉっ!』

「なるものですか」

 怒れるボスの発破で連射されるビームの雨を、白鳥は優雅に隙無くかわして飛翔をしつつ、武装船団へと接近をしてゆく。

 銀河一のビークル・マスターと謳われるユキにとっては、違法武装船十隻による攻撃など、掠らせもしない。

 コックピット内で、マコトが通信マイクを手にした。

「コホん…こちらは地球連邦警察所属、特殊捜査官『ホワイトフロール』です。違法改造船団へ警告。地球本星対外安全保護法に則り、貴船たちは違法改造と認識されます――」

 裸まで見られてホワイトフールだと知られている今更でも、捜査ユニット・ネームから名乗って警告を発信したのは、これも捜査と捕獲の決まり事だからである。

 もし怠ったと知られたら、また上司であるクロスマン主任からの、美しくも真顔で無言の恐ろしい圧が加えられるから、マコトもユキも、絶対に忘れるワケには行かなかった。

『ぅるせぇこのガキどもがああっ!』

『とっ捕まえてぇっ、わからせてやるぜえぇっ!』

 悪党たちは、あくまで年若い裸の美少女たちに屈する事が受け入れられず、むしろ根拠なく恫喝をしてくる始末。

「通信記録OK。わかっていたけれど 無駄だったね」

「はい。ですが、いつも同じ ですもの。致し方ありませんわ」

「そういう事だね」

 致し方ないとは、実力行使も仕方なし、という意味だ。

 マイクを戻したマコトが、コンソールに突き出す攻撃機器用のグリップを、グっと強く握る。

「地球標準時 ○九時二六分。正当防衛による迎撃行動を開始します」

 テロリストたちと距離を開ける事なく、高速飛行で周囲を旋回しながらビーム回避に努めていた白銀の専用シップが、船団の背後から急速に接近飛行を開始した。

『来るぞぉっ!』

『ん舐めんなぁっ!』

 撃ち放たれる無数のビーム弾を当たり前のように避けながら、輝く白鳥が犯罪船団へ迫る。


                    ~第三十四話 終わり~

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