☆第三十三話 お届け先も現る☆
マコトたちが、船内の船首スペースへ到着をした直後、ドローン格納庫からの発射音を聞き取った。
「ユキ!」
呼ばれた瞬間には、ユキはパートナーの求める情報を、的確に伝える。
「はい! ネズミちゃんたちが、タルカリン船長と一致する人物の逃走する足音を、確認しておりますわ!」
現場に於いて、ユキはマコトの指示を最優先するのだ。
容疑者の船外逃亡を確信したマコトは、ユキに指示をしながら、向かって右側の脱出ポッドへと、共に走る。
「第二番を使おう!」
「承知致しましたわ!」
ユキのパネル操作で、第二番の脱出ポッドをアンロックする間に、マコトが突撃捜査艦へと、イヤリングの極短波無線で連絡をした。
「突撃捜査艦へ! こちらは潜入捜査中のホワイト・フロールです! 現在 重要参考人である該当船舶の艦船長である、マカリン・ユカリン・タルカリン氏が、デブリ探索用ドローンによって船外へ逃走! 船首・第二番ポッドを使用し、追跡を開始いたします!」
突撃捜査艦は、セカンド・タカラブネ号ヘの接岸中で停船をしているので、マコトたちが追いかけた方が早い。
『こちら、突撃捜査艦艦長、グロッコリ少佐。了解しました。発進どうぞ! 御武運を!』
端的な返答で応援を得たタイミングで、ユキがポッドのシステムを起動させた。
「マコト!」
「うん!」
ヌードのままポッドへと乗り込んで、簡易式な操縦席へお尻を下ろすと、ほんの一秒ほどで、ポッドが緊急射出にて発進。
――っボシュっ!
低い炸裂音と弱い振動で、脱出ポッドは、本来以上の高速発進をした。
「ドローンの速度ですもの! 脱出ポッドで、十分に追い着けますわ!」
デブリ探索用ドローンは搭乗者でも可能であるが、本来の操縦は、船のブリッジから行われる。
使用目的も安全確認用なので、射出方向も速度もさほど早くは無いうえ、内部に設置されている操縦システムも、あくまで万が一の場合、母船への帰還を主目的としたものだ。
「お船から真っ直ぐで。誤差は…はい、見付けましたわ♪」
レーダーの端で光点を捉えたと思ったら、正面モニターにも、ドローンのロケット噴射が確認できる。
「さすが ユキだよね♪」
「うふふ…♡」
素で賞賛するパートナーの温かい言葉に、ユキの頬が喜びで上気する。
マコトは、ポッドの救援信号用通信をオープンにして、ドローンの船長へと、投降を呼びかけた。
『そこのドローン、停止しなさい。マカリン・ユカリン・タルカリン船長、火器密輸の容疑と 逃走による公務執行妨害の罪により、身柄を拘束します。尚、あなたには黙秘権があり――』
捜査官として、容疑者確保に必要な文言を今回は忘れずに伝えていると、合間合間に低い男性の声で『うわっ!』とか『くっそぉっ!』とか、オープンな通信なので伝わって来たり。
マコトとユキは、頷き合う。
「あの中で確定だね」
「ですわ」
警告をしても、投降どころか停船もしないので、二人は実力行使に出る事とした。
「アンカーのレバーは これだよね」
「はい。ちょっと旧型な RNC‐九六五式ですわ♪」
こんな機器にもメカヲタ知識を披露する暇があるくらい、二人にとって、ドローンの確保は容易である。
脱出ポッドには、救助された際などにポッドを救助船へ固定する為の、マグネット・アンカーの機能を持ったロボット・アームが二本、装備されている。
ユキがポッドを操縦して、マコトが右アームでドローンをキャッチし、左アームでドローンのロケット噴射部も叩いて不発化し、そのまま突撃捜査艦へと連行をする作戦だ。
「ポッドの燃料は、突撃捜査艦へ送り届ける位には 十分ですわ」
言い換えれば、それ以上の余裕は無いらしい。
「うん。それじゃ」
マコトたちの作戦を読んだ逃走船長がドローンを操縦して距離を開けるよりも、ユキの操作するポッド接近の方が、比較にならないくらいに正確だ。
「おとなしくしなさい!」
マコトの操る右アームが、ドローンのロック部分をガッチリと掴む。
と思われた瞬間。
「回避しますわっ!」
ユキの本気声と同時に、ポッドの軌道が大きく旋回をして、ドローンから離れてしまう。
「何が来たのっ?」
危険を確認したから緊急回避をしたと、マコトは聞かずとも解るので、言葉通りにモニターを確認したら宇宙しか見えなかったので、レーダーを確認すると。
「! 船影十っ? わっ!」
視認をしたタイミングで、つい今までポッドが飛んでいた空間を、眩しい熱光線が通り過ぎた。
「未確認の不審船より、砲撃を確認! マコト!」
「うん! 惑星警察の、正式装備の光じゃない! つまり」
二人で発砲船の正体に思い当たると、オープンな通信から、勝手に解答が聞こえて来る。
『ぉおおっ、助けに来てくれたかっ! ウッスー照会っ、オレだっ! セカンド・タカラブネの船長っ、マカリン・ユカリ――』
『っこの間抜けがぁっ!』
密輸確信犯な船長が、密輸品の届け先であるテロ組織を救援だと喜んだと同時に、無駄に正体を明かされてしまったテロ組織が激怒。
『サツの船だと怪しんだらぁっ、後ろのメス犬にオレたちの名前を聞かせゃあがってぇっ! 落とし前だぁっ!』
どうやら、突撃捜査艦の登場で様子を伺いに出てきたら、マコトたちの捕り物と出くわしたらしい。
『えっちょっ――ちょっと待てっ――っ!』
焦る船長との通信が切れると、テロ船団から数丈の光線が走り、船長の乗ったドローンが、撃墜をされてしまう。
ジジっと電波が乱れる音がして、ドローンは宇宙の光球と化し、消滅をした。
「テロ組織…っ!」
銀河規格で通信がオープンだったので、二人と船長とテロ船体の通信は、突撃捜査艦でも遠距離受信をしているだろう。
とはいえ、マコトとユキは、どエロいピンチを迎えている。
前方から迫ってくるのは、武装をしたテロリストグループの武装船が、十隻。
後方には突撃捜査艦がいるものの、僅か一隻。
しかも豪華客船の強制捜査中なので、武装も皆無な脱出ポッドが引き返すと、超絶不利な戦闘行為に巻き込んでしまうだけでなく、豪華客船までをも巻き込んでしまう事になる。
「なんてタイミングで…っ!」
ポッドとドローンの通信が銀河公用の波長だったから、会話は突撃捜査艦だけでなく、当然、テロ組織にも傍聴されていた。
このタイミングでこの宙域に現れたという事は、もしかしたらテロ船団は、航路途中で豪華客船へと奇襲をかけて、密輸品と同時に富豪たちの金品も強奪する為に、待ち伏せをしていたのかも知れない。
と、マコトとユキは媚顔を向け合い、お互いの推測を確認し合っていた。
『おいっ、そこの脱出ポッドぉっ!』
暫しのノイズの後、通信画面に、男の顔が映し出される。
『お前らっ、連邦政府のメス犬っころどもだなぁっ! オレら「地球連邦領革命組織・オーガランの牙」を見ぃちまった以上ぉっ、生きて返しやぁはああああっ!?』
イキり散らしていた角と髭の青肌中年テロリストは、脅迫の途中で、モニター越しに驚かされていた。
「…あ!」
「あら…!」
相互通信なので、ポッド内のカメラ映像も相手に自動送信されている。
そこには、中性的な美しい王子様の如き凛々しいネコ耳美少女と、無垢で穏やかなお姫様のような愛らしいウサ耳美少女が、全裸で映し出されていた。
慌てて裸身を隠すものの、テロリストたちからは、男たちの盛大で素直な歓喜と欲望の郡声が、伝わってくる。
『ぅおおおおっ、本当に女あああっ!』
『しかも見ろっ! 揃いも揃ってっ、とびきりの上物美人と来たぁっ!』
『…ぁぁあっ! ぉおいあの二人ぃっ、ブラック・ビューティーズじゃあねぇかよおおっ!』
「「…っ!」」
銀河に轟くセクシー美少女捜査官である二人だから、特に犯罪者たちには、一目と見て解ってしまったのだろう。
『マジかっ! ぅわ本当にっ、ダークネス・ビッチーズの二人だぜぇっ♪』
ただし、いつも通りに名前は悪口関係ばかりだけど。
『おまけに裸でっ、しかも脱出ポッドだぜえぇっ!』
武装船十隻の興奮する男たちに対して、攻撃能力も皆無で空間速度も航行用燃料も僅かな脱出ポッドには、正義のヌードの美少女が二人。
悪党テロリストたちの考えは、容易に想像が付いた。
『『『『あのポッドをっ、とっ捕まえろおおおおおっ!』』』』
男たちの、熱いというかムサ苦しい号令と同時に、ユキはポッドを急旋回させる。
「ユキ…っ!」
「はいっ!」
突撃しても勝ち目は無いし、さりとて、戻って豪華客船を巻き込むワケにも、絶対に行かない。
ポッドは北天方向、これまでの進路線に対して垂直上へと、逃走を開始した。
しかし逃げる脱出ポッドなど、改造された武装船団の性能からすれば、逃げる子供を追う狼の如しである。
『おぅおおぅおうぅっ! 裸の女ハンティングだぜええぇっ!』
興奮してイキるテロリスト船が、逃げる二人を楽しんで追いつめるように、ジリジリと加速をしながら追いかけてきた。
「マコト、案の定、追いかけてきましたわ!」
「もう裸を見られてしまったのだから、そうして貰わないと!」
燃料の残りも僅かなポッドは、味方も居らず隠れるデブリもない真空の宇宙空間へと、ひたすらに逃走を続ける。
テロリストたちの淫欲な船が追いすがってくる以上、どれ程の燃料を消費してしまおうとも、加速を緩めるワケには行かない。
それでも二人は、とにかくテロリスト船団を豪華客船から引き離す方向へと、少ない燃料を全速消費しながら、舵を切っていたのだ。
『グフェフェフェフェッ! お前らのポッドの燃料ぉ~、そろそろ欠だぜえぇ~?』
『おらおらぁっ、尻のノズルが明滅してやがるぞおぉっ♪』
『このまま捕まえてぇ、二人とも俺らと楽しもぅぜええぇっ♪ ゲッヘヘヘッ!』
燃料標示がレッドになって、ロケット噴射が点滅をしてすぐに止まり、もう加速は出来ない。
『そぉらぁ、お前ら二人はぁっ、もぉ俺たちのオモチャだぜえええっ♪』
色々な意味で絶対の危機に、しかし二人の瞳は、使命感に燃えていた。
~第三十三話 終わり~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます