☆第三十一話 Gたちの輝ける功績☆
しんしんと雪の舞う惑星スルッスの首都街道を、三人で運送会社まで歩いて到着。
「こちらですぅ…」
「近かったですね」
「歩いて十分程でしたわ」
惑星間通信が確立している現代でも、コンテナ単位で荷物の発送や受け取りは、直接面会が基本である。
クルクル・レータ社の惑星スルッス支部の一室で、セカンド・タカラブネ号関連のコンテナ担当を受け持っている中年男性へ、氷見捜査官ならぬ氷見支社長が、用件を伝えた。
「ぉやっ、これはこれはヒミ支社長っ! わざわざご足労っ! お疲れ様ですっ!」
「ぉ疲れ様ですぅ…。本日到着のぉ…コンテナですがぁ…」
やたら元気で血行が良くて恰幅の良い男性の勢い余る挨拶に、細身で色白で長い黒髪美人が、握手を交わしながら弱々しく応えている。
「ぁあはいはいっ! コンテナですよねぇっ! さっき港から下ろして来たばかりのっ、下ろしたてホォヤっホヤっ、ですよっ! ワッハッハっ!」
太古の地球の日本より派生したと言われている、これが親父ギャグなのかな?
とか、マコトもユキも、キョトンとしたり。
そんな、中性的な美王子様と純真無垢なお姫様の如き美顔の輝く二人の少女に、支社長さんが笑顔で気が付く。
「っんんんっ? っおやおやおやぁっ! こぉれはまたぁっ、なんともお美しい御嬢様方ではぁっ、ありませんかぁっ!」
それぞれにタイプの違う美しい女性が三人もやって来て、支社長はニッコニコの笑顔で握手を求めてくる。
「どうも。レッド・ハコブネ地球本社の、マーです」
「初めまして♪ 同じく ユーと申します」
「おっほぉおおっ、こぉりゃあっ、ご丁寧にどうもぉっ! お初にお目にかかりますぅっ! ワタクシっ、株式会社クルクル・レータ運輸スルッス支社の支社長っ、タッツ・プリンと申しますですはいいっ!」
マコトたちよりも頭一つ分以上も背が高いタッツ氏は、横幅だったら二人を足してもまだ余裕がある程の、恰幅っぷり。
脂肪が乗ってムチムチな掌は大きくて、握手をすると、マコトとユキの繊細な掌が、柔らかくスッポリと包まれていた。
「うんむっ、いや~っ! こぉんなにお若くてお美しい女性たちがっ、地球本部からの使者だとかぁっ! ぅ羨ましい限りですなああっ! アッハッハっ!」
クルクル・レータ社本部からの使者は、年上の男性ばかりですわ。
とか、タッツ支社長は盛大に笑った。
ソファへ腰掛けてお茶を戴きながら、仕事の話が進む。
「ではではっ、早速コンテナを乗せたトラックでっ、ヒミ社長の会社までっ、お送りさせて戴きますわあっ! ワッハッハっ!」
「それではぁ…宜しくぅ…お願いいたしますぅ…♪」
(濁流と清流みたいだね)
(ぷふ…っ!)
意気投合なのに色々と相反する感じな、社長と支社長だった。
運送部社員さんの運転する「歯車トラック」で、三人はレッド・ハコブネ社スルッス支部の事務所へと到着。
この冬惑星は積雪対策として、大型のビークルはエレカ・システムではなく、車道に刻まれた複数の溝に、歯車のようなタイヤを噛ませて走るという、珍しい車種だ。
「こ、これが一番、単純に、スリップ事故を、防げるんですよ…っ!」
と、若い男性運転手が頬を染めて緊張をしながら、話してくれる。
氷見支社長が取り仕切る会社は、商社の支社という事もあり、街の中の小さなビルの一角に、開設されていた。
「この地下駐車場へぇ…コンテナをぉ…下ろしてくださいぃ…」
「はい」
運転手が、会社の貨物スペースへトラックを横付けすると、コンテナに畳まれていた脚部が可動し、自分で歩いて所定の場所で、おすわりをする。
脚の爪を窪みへガッチリと噛ませるあたりも、こういった積雪地域用の仕様なのだとか。
「それでは…えぇと、失礼しまーす♪」
運送会社を出発した時は、マコトとユキの美貌にドキドキして事故の心配さえされていた若い男性運転手は、緊張しながらも、名残惜しそうに帰社をした。
三人だけとなった地下駐車場で、氷見社長がコンテナへ指示を出し、一階の支社事務所へと、移動をさせる。
「それではぁ…ワタシたちもぉ…」
「はい」
コンテナの後へ続いて、一階のオフィスへと上がった。
事務所で、氷見捜査官が温かいお茶を淹れてくれて、目の前の大型コンテナを、開封させる。
「そ、それではぁ…ォォオオープンんん…っ!」
側面の超硬質シャッターが巻き上げられると、中身として、食品サンプルが適度に詰め込まれていた。
「えぇと…あ、ありましたわ♪」
「ほ、ほほぉぉお…っ!」
氷見捜査官が緊張をしているのは、ユキが製作をした「限りなく本物に似せて造られたG形ドローン」との対面を、今や遅しと待ち侘びているからである。
コンテナの内壁へ特殊磁着をしていたドローン用のマザーコンテナを、ユキが外して持ち出して、見せる。
「氷見捜査官♪ これが、可愛いドローンちゃんたちの、お家ですわ♪」
「ぉぉぉおおおおおぁ…っ! この、歴史の長いぃ…伝統的なぁ…捕獲機にも似たマザーコンテナのぉ…なんとぉ…美しいスタイルぅ…なのでしょおおおぉ…♪」
頬を上気させて涙ぐむ、人生に於いてGそのものを直接に見た経験の無い女性捜査官の、心からの賞賛に、ユキも感動をした。
「おっ、おわかりになりますか…っ! やっぱり、G形ちゃんたちのお家ともなりますれば、この形状以上に完成をされたスタイルなど、銀河広しといえど、存在してなどおりませんですものっ!」
ほんの一週間ほどの短期間で、これ程までに、しかも二度もヲタ興奮をするユキを観賞出来るチャンスとか、そうそう無いだろうな。
とか、マコトは思った。
「それではっ! まずは起動 ですわ♪」
イヤリングでスイッチを入れると、マザーコンテナのライトが緑色に発光をして、ドローンが目覚める。
カサカサカサ…と、オリジナルの目撃体験を一度でもしている者ならば背筋がゾっとする軽い音が、静かに響く。
「こ、この音はあぁ…っ!」
「はい♪ 本物と同じステップを 再現しておりますわ♪」
あの戦慄の逃げ足をステップと表しているのは、再現に誇りを持っている技術者魂かもしれない。
音だけで軽く身震いをしているマコトに比して、氷見捜査官は白い頬を赤く上気し、オニキスのような黒い瞳もランランと輝いていた。
「それでは♪ G形ちゃんたち、出ておいでなさい♪」
再びイヤリングを操作すると、コンテナ左右に計十二ある小さな扉が順番に開いて、艶黒きG形ドローンたちが、ワサワサと湧いて出くる。
「うぅぐ…っ!」
ユキが造ったドローンだと解っていても、あまりにリアルな姿形と動きの群体に、マコトはまた背筋が震えたり。
「ひぃぃいいい…っ、わはあああぁぁ…っ♪」
ワクワクが押さえられなかった氷見捜査官は、どこか本能で覚えているらしい恐怖に一瞬だけ身を震わせながらも、次の瞬間には満面の笑顔を魅せていた。
「まあぁ…これがぁ…あの伝説のぉ…Gのお姿ぁ…♪」
メカである事は承知している冬半袖女子だけど、群体による動きの気持ち悪さに感動をして、興奮の鼻息である。
現地捜査官の評価が嬉しいメカヲタクのユキは、掌を差し出して群れの中の一体を掌上へ導くと、捜査官の目の前まで捧げ見せた。
「はいぃっ! 限りなく忠実な再現を 目指しまして御座います♪ ご覧下さい、この油のような表面の艶と羽表面に刻まれたる微細な縦溝と、そしてヌメりと黒い質感を♪ 揺れる長い触覚も、根元での動きを計算で再現しておりまして、食物を必要としない小さなお口も、しかし本物同様に開閉をいたしておりますわ♪ そしてこの 縦に潰れた楕円形の腹部の蛇腹的な形状と、脚部の微細な剛毛具合に至るまで――」
「ふんっ…ふんん…っ!」
ヲタク二人の興奮談義が終わるまで、聞くに堪えない本物Gの説明を聞かされ続けたマコト。
「マコト、ご覧になって下さいな♪」
二時間ほどのヲタク談義が終わって、二人は事務所の一室を借りてG形ドローンたちの収拾した情報を集めて分析し、ネズミドローンたちが集めていた客船のデータと称号をして、三日目には密輸の証拠を発見、確信ができた。
コンピューターの画面を見ると、貨物ブロックの奥に目立たないカラーのコンテナが五つほど固定されていて、届け先は「ウッスー照会」となっている。
「なるほど。船から吸い取った顧客のデータと 公開されている惑星企業データを照らし合わせると、ウッスー商会の住所は存在していないんだ。それで 文房具と申請された、このコンテナの中身が…」
「これですわ」
映像を切り替えると、G形ドローンたちがコンテナのロック・コードをみんなで解読して侵入をし、つぶさに映した内部映像には、大型の重火器やエネルギーパックが満載だった。
「重火器そのものも、地球本星では過剰殺傷能力ゆえに製造禁止と指定をされた、曰く付きの一品だよね」
銀河一の射撃能力を誇るマコトは、数多な火器の種類も自然と頭に入っている、一種のガンヲタというか、火器ヲタである。
違法火器の配送先は、船のデータによると、次の次の停泊ステーション。
「貨物の中身に関しては、船長は絶対に目視でチェックをする事が 鉄則だから」
「はい。セカンド・タカラブネ号の艦長も当然、共犯者ですわ。万が一に知らなかったと仰っても、逆に職務怠慢で艦長権限等 全てを剥奪。というレベルですわ」
「じゃ 始めようか」
氷見捜査官が、お茶や夜食を用意してくれる一室で、二人は地球本星の本部宛の報告書を、作成する。
「とにかく、突撃捜査隊が乗り込んで来る日までは ボクたちが船内を注視して、みんなの安全を確保しないとね」
報告データが完成をして本部へ送信した頃には、出港当日の早朝となっていた。
~第三十一話 終わり~
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