☆第二十九話 雪女捜査官☆

  観客たちやモニター視聴者たちに囲まれながらヌードで三百メートル走という、人生初であり二度と体験しないような恥ずかしい競技を終えた、マコトとユキ。

「四着と五着…結果だけなら 少し悔しいね」

 午前の班の仕事を終えた二人は、コンパニオンたち専用の浴場で、タップリの湯に裸身を泳がせていた。

「私は とても楽しめましたわ♪」

「…ぅ」

 全裸で徒競走という珍妙なイベントだけど、ユキとしては楽しかったのだと、マコトも想像出来てしまえる。

 しかも、かつて高い崖からの強制放尿という、強すぎる恥辱と圧倒的な開放感を教えられた身体と意識には、僅かな高揚感があった事も、否定できないマコトだ。

「まあ おかしな失敗をして、不要な疑念を持たれてしまうよりは…ずっと良かったけれどさ」

 あのレディー・ホースから数日が過ぎていて、担当さんズの言うところでは、イベントは大成功だったらしい。

『『皆さんのおかげで、レディー・ホースは 規模を拡大する事が決定されました!』』

 とか、報告も貰ったりしている。

「あのレースの後、イベントの開催も、出場されるコンパニオンの方々も、数倍に増強されておりますものね♪」

 一度のレースでの出走コンパニオンは十七人へと増強されて、レースの開催も一日一レースとされていた。

 富豪たちは、賭けを楽しみながら美しく愛らしい女性たちの躍動的なヌードを観賞出来て、出走するコンパニオンたちも上位は賞金が得られる。

「お互いにウィンウィン なのは良いけれど」

 マコトとユキも、あれから何度か出走をさせられ、その度に多くの富豪たちへヌードを晒して全身を隈無く観賞されて、恥ずかしい思いをさせられ続けている。

「全力で走るマコトは、とても美しく神々しく 私には感じられますわ♪」

「まあ、ユキがそうなら…。でも、男性たちが一番観賞したいのは、ユキみたいに裸も可愛い女性だよ。きっと」

 パートナーがナチュラルに褒めると、ユキの頬から白いウサ耳の肌までもが、上気に染まる。

 出走コンパニオンの人気とも言える、いわゆるオッズは、割と二人で一位二位を競っていて、ユキが一位という事が多い。

「私でしたら、幾度でも マコトにしか票を入れませんのに♡」

 そう呟きながら、隣で伸びをする美しいマコトを、チラと観た。


 いつも通り、午前の班では富豪たちの朝食時に受け持ったテーブルの給仕をトップレスで務め、翌日の午後の班では女体盛りの変化形であるクラッカー・ディッシュでの全裸サービスを努める。

 毎日のシャワーで、船内捜査を続けているネズミ形ドロイドたちから情報を集めて、ユキが精査。

「あ、そうだ。ユキ、ネズミたちに、ちょっと集めておいて欲しい情報が あるのだけれど」

「はい」

 密輸品を隠せそうな船体構造に関するデータ取りではなく、密輸品そのものに関わるデータだ。

「なるほどですわ♪ では、そちらのデータも ねずみちゃんたちに、収拾をさせましょう」

 ユキは、一度集まったネズミたちから、二体ほど別の命令を掻き込んで、また情報収拾へと放つ。

「ユキが作った ゴ…G形ドロイドたちがヒットをすれば、絶対に必要なデータでしょ?」

「はい♪ 密輸品が コンテナ倉庫の中だという可能性は、もはやとても大きいですものね♪」

 後はこれまで通り、G形ドローンを回収出来る次の惑星のステーションまで、二人はヌード・コンパニオンを努めるしかなかった。


 最初の停泊惑星ピーリンカのステーションを出港してから、二週間ほどが過ぎて、次の観光惑星「スルッス」のステーション衛星が、近づいてくる。

「惑星スルッスって、太陽系の中でも 太陽から距離がある移民惑星だよね?」

「その通りですわ。穏やかな気候と深い雪景色の冬惑星で、観光産業としても 野外での雪国体験と、ドーム内での常夏リゾートがメインのようですわ♪」

 一年中ずっと雪に覆われた惑星なので、スキーやスノボやスノー・ジェットやスノー・ダイビングなどの雪遊びが盛んであり、それでも大きなドームを造って常夏の気温設定をして、深い雪山を背景に水泳を楽しんだりも出来る豪雪惑星だ。

「ステーションでの停泊は四日。ユキ、どう?」

 その日数の間に、ネズミやG形の情報を、精査出来るかどうか。

「お任せですわ♪ ネズミちゃんたちからの情報は、既に整理しておりますもの♪」

「さすがだね ユキ」

 今回の寄港でも、マコトとユキは当然、休暇組である。

 ドローンたちが集めた情報で、このセカンド・タカラブネ号に密輸品が積まれていると確証を得られれば、後は惑星警察へ通報をして、この船に捜査隊が強制乗船をして証拠の取り押さえをして、事件は解決。

「そうなったら 一番良いけれど」

 万が一にも荒事へと発展したとしても、二人のするベキは銃撃戦の中へ身を躍らせる事ではなく、コンパニオンたちの安全を確保する事だろう。

 ユキの捜査能力と、惑星警察隊の逮捕劇。

 マコトの誇るは、銀河一の射撃能力。

(今回は、ボクの出番は 無いかもね)

 とか、ちょっとホっとするマコトだった。


「では、出掛けて参ります」

「ごゆっくりツノ~♪」

 レディー・ホースではマコトとユキに賭けて、それなりの金額を得ているツインホたちが、笑顔で手を振って見送ってくれる。

 三人とも、今回も助っ人組として頑張るという。

「お姉さま方、頑張るよね」

「はい。私たちも、見習うべき姿勢ですわ」

 今回の停泊は、惑星スルッス時間で四日あり、それだけマコトたちにも、情報精査に余裕があった。

 半数以上のコンパニオンたちと共に豪華客船を降りて、気温の低めなステーション内で向かうは、やはり偽装をされた白鳥の許。

「見えましたわ♪ 私の白鳥ちゃん♡」

「捜査官の人も いるよ」

 接岸ゲートの前には、サラサラ黒髪も長い、女性の現地捜査官が待っていた。

「ご苦労様です。初めまして」

 いつもの挨拶を捧げると、黒髪捜査官が、挨拶を返してくれる。

「ご苦労様ですぅ…。初めましてぇ…。私ぃ…、惑星スルッスの現地捜査官ん…氷見フロート(ひみ ふろーと)と申しますぅ…」

 名前に漢字が残っている家系は、地球本星よりも移民先の惑星の方が多く、氷見捜査官もそういった家系の一人なのだろう。

 氷見捜査官は、平均的な身長にスレンダーな全身ラインで、烏の濡れ羽色な長髪が美しく揺れている。

 面立ちも優しく鋭角的で、肌はマコトたちよりも白く、まさしく透き通る様な肌とはこの肌だと、確信をさせた。

 しかし二人が驚いたのは、女性捜査官の美貌よりも、その服装である。

 冬の遊びが観光資源な極寒惑星の捜査官なのに、上着は白い半袖のみで、コートを持参している様子は無しだ。

 スカートはタイトで膝丈だけど、足下はハイヒールだったり。

「えぇと…お寒くは ありませんですか?」

 ファッションに明るいユキも、丸ごと冬惑星での半袖という服装への興味と同時に、流石に心配になったようだ。

「はいぃ…もし惑星へ、降りられるのでしたらぁ…ぉ二人はぁ…コートを御用意された方がぁ…宜しいですねぇ…ふふふぅ…♪」

 話し方も笑顔も、なんだか旧世紀の日本の「オバケ」を想像指せる繊細さな氷見捜査官は、その容姿も相まって、やはり日本の超有名オバケ「インフィニット・スノー・レディー(雪女)」を彷彿とさせた。

「まずはぁ…専用航宙船をぉ…ご確認ん…されますかぁ…?」

「あぁ、はい」

「ゼヒに♪」

 冬惑星と氷見捜査官の服装との関係性は一旦置いておいて、ユキとマコトは、偽装された専用航宙船へのゲートを通って、白鳥と再会を果たす。

「白鳥ちゃ~ん♪ 寂しかったですね~♪」

 嘴へ抱き付いて頬をスリスリさせて、愛機成分を補充するユキ。

「ユキ、必要な物 取りに行くよ」

「は~い♪」

 二人で白鳥へ乗り込んで、ユキの工作室から、分析や本部への情報送付に必要な機材を持ち出して下船。

「それでは白鳥ちゃん、また次のステーションで お会いしましょうね。それまで…どうかお元気で…」

 白金の白鳥と涙で別れのメカヲタクだ。

 これから二人は、氷見捜査官の協力の下、惑星ピーリンカにて貨物室へ潜り込ませたG形捜査ドローンたちのいるコンテナを受領する為に、雪の惑星上へと降りるのである。

「氷見捜査官、一つ、お尋ねして 宜しいですか?」

「はいぃ…」

「氷見捜査官の服装を拝見するに、惑星上のドームへ直接降りるシャトルが あるのでしょうか?」

 惑星スルッスは、宇宙のどこから見ても、全面が海と氷の惑星である。

 ステーションから生活ドームへの直行シャトルは、安全性の観点からも、ほぼ存在していない運行コースではあるのだ。

「いぃえぇ…。シャトル便はぁ…惑星上のシャトルバス停へとぉ…普通に停車ぁ…いたしますぅ…」

「そ、それでは、氷見捜査官の その服装では…」

 ユキも慌てる。

「ああぁ…私はぁ…この惑星出身ですのでぇ…♪」

 惑星スルッス出身者にとって、これから降りる地域の気温など、寒さどころか涼しさにも、ほとんど感じられないらしい。

「これから降りる地域はぁ、夏ですからぁ…♪ 気温二度なんてぇ…半袖で快適な陽気ですよぉ♪」

 出身者自慢の時は、イントネーションが楽しそうだ。


                    ~第二十九話 終わり~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る